Duty
chapter 17 転生 -5
5 9月13日 転生
気絶するように再び眠りについてしまった乙黒を医師に任せ、霧島は病院をあとにした。
その手には乙黒から譲り受けた謎の鍵を握り締めていた。
そのままの足で帰宅方向とは別の方角へと歩みを進める。
空ではごろごろと雷が鳴り始めていた。
「やっぱり……雨が降り出すか」
道行く誰にも聞こえないくらいの声で霧島は呟いた。その声が掠れていることがわかった。
道行く人々とすれ違い、歩みを進めていくと廃れた看板が見えてきた。
乙黒探偵事務所。
乙黒が自分に伝えたいであろうことがこの鍵の先に秘められている。
やや重くなった足取りで霧島は錆びれた外壁を纏う建物の中へと歩いていった。キーっという金属のすれる音を鳴らしてドアが開く。
家主がいないからといって整理されているわけもない、オカルト雑誌やミステリ小説の散らかる床を書き分けて進んでいく。
そして、乙黒からの言伝のものであろう本棚を前にした。
他の本棚、雑貨棚などは散らかっているが、この本棚だけは異常に整頓されている。
3列目の本棚、下から4段目、右から5冊目。
そこには大きな辞典があった。
しかし、取り出して中を開こうとしたとき、そこに鍵穴がついていた。
そこで霧島は、これは辞典ではなく大きな箱であると気付いた。
振ってみると中からカタンコトンと音が聞こえる。何かが入っているようだ。
霧島は乙黒の鍵を取り出し、中を開いた。
真実に繋がる手がかりがそこにあることを信じて。
辞典のような箱の中に入っていたのは、B5サイズの一般で販売されているノートだった。
「なんだ……これは」
霧島は思わず呟いてしまった。
タイトルなどは何も書いていない。
乙黒が普段腰掛けているであろう事務用の椅子に腰を下ろし、霧島はノートの中を開いた。
そして、霧島はその1ページ目に驚愕した。
『霊の憑依と霊媒体質の人間』。
「霊媒体質……?」
* * * * *
『霊の憑依と霊媒体質の人間』
『霊について』
・この世の中に霊は確かに存在しているが、霊は物理的存在を持つことができない。
・あくまで精神体として存在している彼らは普段、そして普通は人間の目で捉えることはできない。
『憑依について』
・ならばどうして存在していると断言することができるか。それは憑依というものがあるからである。
・憑依とは非物理的精神体である霊が物理的肉体である人間に取り憑くことである。
・その間、霊は取り憑いた肉体を借りることができる。
『霊媒体質の人間について』
・一個体で100%の精神プログラムを持った肉体=人間とするならば、一個体で100%未満の精神プログラムを持つ人間も存在する。
・簡単にいえば取り憑かれやすい人間、といってもいいかもしれない。もしくは取り憑くことを許可もしくは却下できる人間も存在する。
・そういった人間を霊媒体質という。
・そして私、乙黒リツカは霊媒体質である。
* * * * *
霧島は唖然としてそこに書かれている内容に目を張っていた。
「そんな……乙黒さん、貴方はいったい何を言っているんだ」
冗談だとは思えなかった。
乙黒が気絶するように眠る瞬間、自らに託したこの鍵が乙黒がふざけた行動だとは思えなかった。
そして、続きのページを捲り進めた。
* * * * *
『霊媒体質について』
・全ての人間が、自身が霊媒体質であることに気付いているとは限らない。気付いている人間も、気付いていない人間もいる。
・主に霊媒体質の人間に現れる症状は、頭痛、貧血、高熱、立ちくらみ、記憶の希薄化、意識の分裂化、意識障害他、などの体調不良である。
* * * * *
「霊媒体質の……症状?」
霧島は何かを思い返していた。
それはクラスメイトに現れた突然の行動。異常とも思える謎の行動。
そして、気絶することも、まるで何もかが乗り移ったのではとすら思える表情。時折意識がなくなるような体調不良。
「神谷君……キミはまさか……」
霧島は主のいない事務所で、小さく呟いた。
そのとき、続きのページにも何かが書いていることに気付いた。
霧島は呆然とする意識を振り払うかのようにページを開いた。
何故だろうか。
そのページは今までのページよりも比較的最近に書かれたような印象を受けた。
乙黒が伝えたかったこと。それは、このことなのではないか。
* * * * *
・私は憑依というものについて言及した。肉体に精神が取り憑くことだ。これは一時的なものであるし、精神体が元の人間の身体を借りているだけに過ぎない。だが。
・元の肉体を持つ人間の精神と、取り憑いた霊体の精神との比率が同じ(1:1)、もしくはそれ以上になってしまったら、どうなるのだろうか。
私にはその経験がない。
あくまでも貸している立場であり、身体を貸しているときの私の記憶・意識も存在している。
しかし、その記憶・意識が存在しなくなるときがくるとしたら。
・それは言うなれば、一度死んでしまった人間(=零体)が、別個体の肉体を征服したことによる――
――死者の『転生』となってしまうのではないか。
* * * * *
「御影充は……『転生』している……? 僕たちのクラス、3年1組の誰かに?」
霧島の頬を一滴の汗が流れた。
気絶するように再び眠りについてしまった乙黒を医師に任せ、霧島は病院をあとにした。
その手には乙黒から譲り受けた謎の鍵を握り締めていた。
そのままの足で帰宅方向とは別の方角へと歩みを進める。
空ではごろごろと雷が鳴り始めていた。
「やっぱり……雨が降り出すか」
道行く誰にも聞こえないくらいの声で霧島は呟いた。その声が掠れていることがわかった。
道行く人々とすれ違い、歩みを進めていくと廃れた看板が見えてきた。
乙黒探偵事務所。
乙黒が自分に伝えたいであろうことがこの鍵の先に秘められている。
やや重くなった足取りで霧島は錆びれた外壁を纏う建物の中へと歩いていった。キーっという金属のすれる音を鳴らしてドアが開く。
家主がいないからといって整理されているわけもない、オカルト雑誌やミステリ小説の散らかる床を書き分けて進んでいく。
そして、乙黒からの言伝のものであろう本棚を前にした。
他の本棚、雑貨棚などは散らかっているが、この本棚だけは異常に整頓されている。
3列目の本棚、下から4段目、右から5冊目。
そこには大きな辞典があった。
しかし、取り出して中を開こうとしたとき、そこに鍵穴がついていた。
そこで霧島は、これは辞典ではなく大きな箱であると気付いた。
振ってみると中からカタンコトンと音が聞こえる。何かが入っているようだ。
霧島は乙黒の鍵を取り出し、中を開いた。
真実に繋がる手がかりがそこにあることを信じて。
辞典のような箱の中に入っていたのは、B5サイズの一般で販売されているノートだった。
「なんだ……これは」
霧島は思わず呟いてしまった。
タイトルなどは何も書いていない。
乙黒が普段腰掛けているであろう事務用の椅子に腰を下ろし、霧島はノートの中を開いた。
そして、霧島はその1ページ目に驚愕した。
『霊の憑依と霊媒体質の人間』。
「霊媒体質……?」
* * * * *
『霊の憑依と霊媒体質の人間』
『霊について』
・この世の中に霊は確かに存在しているが、霊は物理的存在を持つことができない。
・あくまで精神体として存在している彼らは普段、そして普通は人間の目で捉えることはできない。
『憑依について』
・ならばどうして存在していると断言することができるか。それは憑依というものがあるからである。
・憑依とは非物理的精神体である霊が物理的肉体である人間に取り憑くことである。
・その間、霊は取り憑いた肉体を借りることができる。
『霊媒体質の人間について』
・一個体で100%の精神プログラムを持った肉体=人間とするならば、一個体で100%未満の精神プログラムを持つ人間も存在する。
・簡単にいえば取り憑かれやすい人間、といってもいいかもしれない。もしくは取り憑くことを許可もしくは却下できる人間も存在する。
・そういった人間を霊媒体質という。
・そして私、乙黒リツカは霊媒体質である。
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霧島は唖然としてそこに書かれている内容に目を張っていた。
「そんな……乙黒さん、貴方はいったい何を言っているんだ」
冗談だとは思えなかった。
乙黒が気絶するように眠る瞬間、自らに託したこの鍵が乙黒がふざけた行動だとは思えなかった。
そして、続きのページを捲り進めた。
* * * * *
『霊媒体質について』
・全ての人間が、自身が霊媒体質であることに気付いているとは限らない。気付いている人間も、気付いていない人間もいる。
・主に霊媒体質の人間に現れる症状は、頭痛、貧血、高熱、立ちくらみ、記憶の希薄化、意識の分裂化、意識障害他、などの体調不良である。
* * * * *
「霊媒体質の……症状?」
霧島は何かを思い返していた。
それはクラスメイトに現れた突然の行動。異常とも思える謎の行動。
そして、気絶することも、まるで何もかが乗り移ったのではとすら思える表情。時折意識がなくなるような体調不良。
「神谷君……キミはまさか……」
霧島は主のいない事務所で、小さく呟いた。
そのとき、続きのページにも何かが書いていることに気付いた。
霧島は呆然とする意識を振り払うかのようにページを開いた。
何故だろうか。
そのページは今までのページよりも比較的最近に書かれたような印象を受けた。
乙黒が伝えたかったこと。それは、このことなのではないか。
* * * * *
・私は憑依というものについて言及した。肉体に精神が取り憑くことだ。これは一時的なものであるし、精神体が元の人間の身体を借りているだけに過ぎない。だが。
・元の肉体を持つ人間の精神と、取り憑いた霊体の精神との比率が同じ(1:1)、もしくはそれ以上になってしまったら、どうなるのだろうか。
私にはその経験がない。
あくまでも貸している立場であり、身体を貸しているときの私の記憶・意識も存在している。
しかし、その記憶・意識が存在しなくなるときがくるとしたら。
・それは言うなれば、一度死んでしまった人間(=零体)が、別個体の肉体を征服したことによる――
――死者の『転生』となってしまうのではないか。
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「御影充は……『転生』している……? 僕たちのクラス、3年1組の誰かに?」
霧島の頬を一滴の汗が流れた。
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