チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

第十六話 説明準備


 ギルドはうまく回っているが、うまく回り始めているから、新しい問題が出始めている。子供やメンバーが狙われ始めている。
 ナッセの話し方から、理解したことだ。

 ナッセが目配せをする。

「そうか、それで、監視しているのだな?」

 そこまでヒントを貰えれば、さすがに判るだろう。
 それに、”監視”対象は、中に居る者たちではないだろう。ミルが、ギルドのメンバーと話をして、問題が無いと判明したら、監視している視線が弱まった。

「気が付きましたか?」

「入口やギルドに近づく者たちを監視しているのだな?」

 テーブルの上に置かれている飲み物に手を伸ばす。
 少しだけ冷めているが、コーヒーのような味わいだ。誰かが・・・。サリーカあたりが持ってきたのか?

「そうです」

「解りやすすぎないか?”監視しています”と言っているような感じだぞ?」

 ミルが解るだけじゃなくて、ミアも何かを感じていたからな。
 ミアを見ると、ミルと俺とナッセの顔を順番に見て何かを考えている。

「現状では、他に方法がないので・・・」

 方法がない?
 そうか、ギルドには貴族の息がかかった者だけではなく、ナッセの・・・。タシアナの妹や弟も居るのだったな。それだと、攻勢に出られないのだろう。人質に取られることも考えられるし、もっと言えば見せしめに殺されてしまってもおかしくない。

「そうか、孤児たちも、ここに来ているのだったな。全員、無事なのか?」

「おかげ様で、大丈夫です。外に出るときには、誰かが一緒に行くようにしていますが・・・」

 無事ならよかった。
 でも、合流させないで、孤児は孤児として園に居たら、それは、それで、また問題になっていたのだろう。

「そうだな。このままでは”ジリ貧”だな」

「はい。皆と話し合っては居るのですが・・・。相手の方が、組織が大きいので・・・」

 結論は出ないだろう。
 孤児たちは、増えることはあるだろうが、現状では減っていく未来は見えない。ナッセが受け入れを拒否すればいいのだろうけど、それは考えられない事象だ。
 ナッセが、”相手”と表現しているが、明確な”敵”として認識をしているのだろう。
 まだ成人の儀であるパシリカを受けたばかりの立花たちが組織の中心だとは考えにくいが、ナッセの後ろに、ローザスやハーコムレイの姿が見えている状態では、宰相派閥の奴らがギルドを注視するのは避けられない。どんな組織なのか、測りかねている所があるだろうが、立花たちが台頭したら、風向きが変わるのだろう。

「組織?あぁ宰相派と神殿の大半が向こう側か?」

「そうです。宰相派閥の分断工作はしているのですが、効果が出るか・・・」

「下手につついて、団結されたら、意味がないからな」

 ナッセが頷いて、自分のカップを持ち上げて、コーヒーもどきを喉に流し込む。

「そうか・・・」

 俺が話を続けようとしたら、ミルが立ち上がって、俺の話を遮る。

「あっリン!僕、皆に挨拶してくる。ね。ミアも紹介してくる」

 ミアを見ると、少しだけ眠そうにしている。話が面白くないのか?それとも、安心して眠くなってしまったのか?

「そうだな。ナッセ。いいよな?」

「はい。皆が揃っていると思います。本日は、もう少ししたら、ハーコムレイ殿が、状況確認にいらっしゃると思います」

「ハーコムレイが来るのか・・・。丁度いいな」

「え?」

「なんでもない。ミル。俺やマヤのことを含めて、簡単に話してほしい」

 ミルが俺を見つめる。
 意味が解ったのだろう、ミルが納得して頷いてくれる。

「わかった。ミア。レオ。行くよ」

 話に加わっていなかった、ミルがミアとレオを連れて部屋から出ていく、礼儀としてなのか、ナッセ・ブラウンに深々と頭を下げてから扉を閉めた。

「さて、リン君。何か、提案があるのだろう?」

「え?」

「ハハハ。君は、うまく表情を隠していたけど、ミトナルさんは、ダメだね。必死に隠しているのが表情から読み取れてしまっているよ」

「・・・。そうですか・・・」

 ナッセ・ブラウンが、しっかりと俺の方を向いてくれる。

「まず、お聞きしたいのですが、”マガラ渓谷”は、この国や貴族に取って何か意味がある場所なのですか?」

「マガラ渓谷?あの?渓谷?」

「”あの”が、何を指すのか解りませんが、アゾレムの領地と王家直轄領の間にある渓谷で、アロイとメロナで経由していく渓谷です」

「あぁ当初は、共和国との国境になっていた渓谷だな。何代か前に、王国が奪った形になる」

「渓谷の調査は、行われなかったのか?」

「行われたが、何も見つけられなかった。はずだ。そのあとで、アゾレムや宰相派閥の下級貴族に領地として分割された」

「そうですか、何も見つけられなかったのですね?」

「あぁだから、アゾレムに与えられて、マガラ渓谷の関所で維持費を徴収している。それが、そのまま宰相派閥に流れている」

「わかった。ナッセは、俺とマヤがマガラ渓谷に落された話は聞いたか?」

「聞いた。未遂だったのか?」

「いや、実際に落された」

「え?しかし・・・。マガラ渓谷は、岩を落しても、攻撃魔法を放っても、すべてが飲み込まれる位に深い。落ちたら、助からない。運よく途中の岩に引っかかっても、渓谷内部には飛行型の魔物や上位種が居ると言われている。助かる可能性は皆無だ。と、思われている。実際に、落ちて生還した者は1%未満だろう」

「そうだな。でも、俺は助かった。マヤも、助かったと言える」

「?」

「ナッセの認識は、王国の認識なのか?教会や、王家には、何か違った話が伝わっていないのか?」

「聞いたことがないので、ないと言いたいが、確実を求めるのなら・・・」

「そうだな。ハーコムレイやローザスや教会からの人間にも話を聞きたい」

 ナッセは、少しだけ考えてから承諾の意思を伝えてきた。

「よかった。それじゃ、歴史的な話は、その時に聞くとして・・・」

「ん?」

「ナッセ。ギルドの本部を、マガラ渓谷の深部にある、マガラ神殿に移さないか?」

「はっ?」

 おっ。
 その顔は初めてだな。呆れているとも違う、”何を言っているのか理解ができない”とい感じの表情だろうか?

「リン君?もう少し、もう少しでいいから、理解ができる話をして欲しい」

「・・・。うーん。実際に、見てもらうのが早いとは思うけど・・・。そうだな。発見の経緯は、皆が集まってからにしたい」

 説明の手間を考えると、まずは、ミルがイリメリたちに情報を伝えて、そこから神殿の話に持っていくのがベストだろう。ハーコムレイたちに説明する前に、イリメリたちに説明をしておかないと、質問責めになって面倒に思えてしまう。

 問題は、ミルがしっかりと説明ができるか?だけど、もう心配してもしょうがない。うまく説明ができると思いたい。

「わかった」

「マガラ渓谷には、旧時代の神殿が眠っていた」

「旧時代というと、古代文明?え?」

「それは、わからない。しかし、神殿が眠っていたのは、俺が生きて帰ってきたことで納得して欲しい」

「わかった。ひとまず、横に置いておこう」

 ナッセは、考えるのを放棄したように見える。
 実際に、神殿に来てもらわなければ、理解ができないだろう。

「ありがとう。混乱を招いて悪いが・・・。いい説明が思い浮かばない。そして、そのマガラ神殿は、今、俺とマヤが支配?している。管理者として、俺の名前が刻まれている」

「支配?」

「なんと言えばいいのか・・・。俺とマヤが、神殿の管理者だな」

「ん?それは、ギルドがこの建物をギルドの所有だというのと違うのか?」

 当然の質問だけど、ギルドが所有している建物とかと、根本が違う。
 説明が難しい。イリメリは無理でも、フェムやサリーカなら、”ダンジョンを支配した”で話が通りそうだ。二人から、皆に説明してもらったほうが楽かもしれない。

 こういう時に、茂手木が居れば・・・。奴に丸投げして追われそうなのだけどな。

 そういえば、女子の中でゲームとか誰がやるのだろう?


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