チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

第十五話 ナッセ・ブラウン


 ミアと手を繋いで、ギルドに近づく。
 ミルが警戒を強めるが、誰も襲ってくる様子は無い。視線は増えていない。監視は、俺やミルを見ているわけではなさそうだ。

(ギルドを監視している?)

 フェム辺りなら、状況を把握しているのだろう。王都の様子を含めて聞いたほうがいいかもしれない。

「ねぇリン?」

「ん?」

「リンの事を話すの?」

 ミルは、時々・・・。言葉を抜いた・・・。省略した話し方をする。
 俺の何を話すのか?ミルの中では、詳細な説明をしているつもりのようだが、俺からしたら、言葉が足りない。

「俺の何を?」

「ん?あぁゴメン。リンが凛だってこと」

「そうだな。話した方が、神殿の説明とか、移住とか、スムーズに進むよな?」

「うーん。そうだね」

 ミアが、俺とミルの顔を見ている。
 喧嘩はしていない。それが表情から読み取れるのか、”ほっと”した表情をしている。ミアの頭をなでてから、ミルを見る。

「ミル。まずは、相手の状況を確認してから、考えればいい」

「うん。わかった。そうだ。リン。僕が先にギルドに入る。ミアをお願い」

 ミルの申し出は、俺としても嬉しい。
 考える余地が欲しいことや、ミルが顔を出せば、雰囲気がわかるだろう。

 それに、いきなりミアを連れて行くと、いろいろと説明が面倒だ。ミルの説明で納得してくれるとは思えないが、事前情報があれば、足りない部分を説明すればいいだけだ。

「ミア。俺と一緒に待って居よう。ミル。頼む。俺の名前を出してもいい」

「わかった」

 ミルが、ミアを抱きしめる。
 耳元で、何を呟いてから身体を離す。

 ギルドに向かって、走り出す。少しだけ距離が空いてから振り向いて手を大きく振った。

「あるじ」

「どうした?」

 ミアが、下から俺を見上げている。可愛いので、頭を撫でておく。

「ミルお姉ちゃんが、これから、ミルママとリンパパと呼んでと言っていた?あるじは、パパなの?」

 ミルは、諦めていないようだ。
 そもそもの話として、種族が違う。養子だとでも言うつもりなのか?

「ミルに言われたのか?」

 ミアは、可愛く頷いた。

「ミアが、俺のことを”パパ”と呼びたいのなら止めない。好きに呼べばいいよ」

「うん!あるじは、あるじ!」

 どうやら、ミルの試みは、今回もミアには届かなかったようだ。
 ”あるじ”呼びは辞めないようだ。レオの影響が強いように思う。

 それにしても、ミルは何を焦っている?

 おっミルが、ギルドの近くまで移動した。監視している連中は動かない。

 ミルが入口で、誰かと話を始めた。
 問題はないようだ。

 俺を見て、手招きする。
 ミルと話していた子は、ギルドの中に入っていった。

「あるじ!」

「あぁ」

 監視していた視線が俺に集中する。
 近づいた時よりも、視線が和らいでいるように感じる。

「リン!」

「ギルドは?」

「うん。皆、揃っているって。あと、監視しているのは、ミヤナック家の人間みたい」

「ミヤナック家?あぁルナの護衛が目的か?」

「それもあるけど、多分、ルナに変な虫が付かないようにするためだと思うよ」

 ギルドの前で話す必要はないが、ギルドの前まで移動してから、監視の視線が強くなった。ミルやミアではなく、確実に俺だけを見ている。

「気にしてもしょうがないのだな」

「うん」

 ギルドに入ると、そうだよなって感じになっている。改装中なのだろうか?一部はまだ工具が転がっている。自分たちで改装を行っているのか?

 フェムが指示しているのだろう。軽食が提供できるスペースも作られている。ラノベであるような酒場ではなく、どちらかというと、カフェ?かな。

「ミル。さっきの子は」「お待たせしました。ギルド長がお会いになるそうです」

 また知らない子だ。

「リン。行こう」

「あぁ」

 ミアも一緒に連れていく、もちろんレオも一緒だ。

 奥まった場所だと想像していたが、入口から入ってすぐの部屋に案内される。
 案内していた子が、ノックをすると中から声がする。

 部屋に入ると、ナッセ・ブラウンが立ち上がって、俺たちに近づいてきた。

「ようこそ」

「お久しぶりです。ギルドマスターとお呼びした方が?」

「いえいえ。ナッセと呼んでください」

 俺が出した手を、ナッセ・ブラウンはしっかりと握ってから、抱き寄せて、無事を喜んでくれた。それから、ミルとも挨拶をして、ミアとレオを紹介した。

「リン君。君が無事で良かった。完全に、無事とは言えないようだが、何が合ったのか話してくれるか?」

「はい。そのために、来ました。その前に、ギルドの状況を教えてください」

 俺たちの話をする前に、ギルドの状況を聞く必要がある。皆の気配はあるが、それぞれ作業をしているようだ。

「それもそうだな。出資者には、しっかりと説明をしないと・・・」

 ナッセは、ギルドの設立からの流れを説明してくれた。
 フェムとイリメリが中心になって、建物の改修が行われた。アルフレッドとハーコムレイが中心になって、書類を使った工作を進めて、同時にギルドの認可を降ろした。ギルドは、会員制のカフェという形態で開始された。
 すでに、依頼という形で雑務を受け付けている。ラノベ的に言えば、低ランクの依頼だけど、それでも困っている人が居れば手を差し伸べて、金銭を貰っている。勘違いしている人も来るらしいが、”王族であるアルフレッド”が後援していると聞くと、それ以上の妨害は無くなるようだ。

 そして、重要な事として、すでに依頼は”孤児院”たちに振り分け始めている。王都内の雑用なら、孤児でも対応できる。金銭的な収入にも繋がるので、孤児院からは感謝されている。

 すでに、ミヤナック家と関連する貴族家から、自領での運営を打診されている。

「うまく行っているのですね」

 ナッセの机には、大量の書類が置かれている。
 物事がうまく進んでいるのだろう。綺麗に整理されている。

「そうだな。リン君から預かった資金と資料で、一気に進めたのがよかったようだ」

 資金?あぁ魔石か・・・。
 使ってくれたのならいいけど、そういえば神殿でも魔石が大量に確保されている。いやがらせの様に市場に流してもいいかもしれない。

 今までは、品薄だったから値段も高かったけど、安くなれば・・・。魔石を貯めこんでいるのは、貴族だけだという話だ。庶民が困らなければ、別に同でもいい話だ。ミヤナック家や恩義がある貴族には、魔石を出す前に話をすればいいだろう。

「そうですか、それでは困っている事はありませんか?」

「あぁ困っているというよりも・・・」

「どうしました?」

「ギルドの運営が認知されてくると、とある貴族家から横やりが入った」

 ”とある貴族”。貴族と言っていて、文句を言いそうな者は、上位貴族ではないだろう。アゾレム一択だと考えていいだろう。

「あぁ・・・。それで?」

 ギルドを監視していた者たちは、ギルドに入っていく者を監視していたのは、俺たちが感じたとおりだけど、どちらかというと、ギルドを襲撃に来る可能性がある者を警戒していたのだろう。

 ミルも同じ考えのようで、頷いている。
 ミアは、話に飽きたのか、レオの上でウトウトしている。

「突っぱねるのは簡単だから、突っぱねたけど、その後にギルドの立ち上げメンバーを狙ったと思われる襲撃が複数回あった」

「アゾレムですか?」

「・・・」

 ナッセは、何も言わないが、表情が物語っている。
 そりゃぁギルドなんて作ったら、アイツらでもなんとなく想像ができるだろう。それから、貴族のコネを使えば、誰が立ち上げたのか判るだろう。貴族でない者も多い。狙われるのは当然だろう。

「あと、書類を盗もうとする奴らの侵入が何度かあった。彼女たちが居たから撃退できたが、今後の事を考えると・・・。子供たちの誘拐騒ぎも・・・」

 そうだよな。
 楽に、簡単に稼ごうと思ったら、誰かを誘拐して、金銭を要求すればいい。アルフレッドやハーコムレイが後ろに居ると考えれば、書類関係の出所だと考えられてしまうだろう。それだけではなく、報復の相手としては丁度いいと考えるかもしれない。

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