究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第44話 今はボクと遊んでいるんだろ?

 この世界には神樹という巨大な木が存在する。神が植えた木であり、その木が待もつ聖なる気は人間以外の魔力に対して悪影響を及ぼす。
 人間以外とは、すなわち亜人族、魔族、そして魔獣だ。そして、魔力の量が多い者程、より強く神樹の影響を受ける。
 この中で、得に影響を受けるのは魔獣と魔族。この者達の一部は《人化》という、魔力を大きく下げ姿も人間に近づけるというスキルを使う事で乗り切った。
 だが、当然ながら全てのモンスター達が《人化》を扱えるようになった訳ではない。そういった奴等は、新天地を求め、空間を歪め、地下へと移っていった。
 それがダンジョン。宝を守る為でもない、何かを待ち受ける為でもない。ただ神樹から逃げたかった者達が作った新しい世界。逃避のフロンティア。それがダンジョンなのだ。


***

 姫川を始め、クラスメイト達に先行する形で夜の内にダンジョンに潜った俺とランページ。魔力数値5000~10000程度の敵を倒しながら、奥へと進む。

 たった今、雪原の地下10階層の敵、光の巨人ウルトラジャイアントを倒したところだ。ただ、俺にもランページにも、死体を素材へと分解する解体スキルも解体技術も無い。
 なので、このダンジョンでは敵を倒す→死体を放置して次へ→死体は後から来たレティスが解体、素材にしてテレポートで屋敷に持ち帰る。を繰り返している。

 そして、倒したモンスターの代わりを用意する。そう、姫川達が戦う為のモンスターだ。
 しもべモンスターを召喚する為の魔法《眷属召喚》と、自分の得た形態を記憶しておくスキル《混竜遺伝子(ゲノムヘリター)》のコンボで、以前の俺を召喚している。

 融合したモンスターの情報は全て記録されているのだ。例えば地下1階層には初期のペンギン形態を20体召喚して置いておいた。その次は骨竜を。
 スキルと魔力数値は大体再現できたので満足だ。だが、再現できないものもある。当たり前だが俺の人格はコピーされていない。召喚されたモンスターは簡単な命令に従うだけで、知能は動物並みだ。

 とりあえず『レティスを攻撃するな、無視しろ』という命令だけを与えている。そうすれば、レティスは安心して素材を解体をする事が出来るというわけだ。

「しかし、本当に面白い能力だよね。かつての自分を召喚するなんて」
「あまり使える能力だとは思ってなかったんだよ。まさか、こんな場所で使う事になるとはな」

 姫川のスキルは強い敵と戦えば戦う程強くなる。敵が強ければ強いほど、その成長速度は上がっていくと聞いた事がある。ならば、こちらが強敵を用意してやれば? 
 やがて俺を超えるレベルに強くなる。そして、姫川には俺よりも強くあって欲しい。そう思うのだ。
姫川が強くなれば、俺の助けなんて無くても、自分を含めたクラスメイト全員を解放する事が出来るかもしれない。そんな可能性も、あるだろうから。

 さて、次はどんなモンスターを召喚しようか。

 さっきの9階層では鳥人を100人召喚しておいたのだったか。そして今は10階層。丁度区切りの良い数字だ。ならば。

「――《眷属召喚》!」

 広い雪原に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。そして、その中から5メートル大の大きさの化け物が現れる。大きな四速歩行の獣の骨、その頭部からは人型のスケルトンの上半身がくっついている。下半身の獣の背からは様々なモンスターのパーツが生えており、どれも攻撃態勢を取っている。言うなれば不細工なキメラ。そうとしか言いようの無い程に無秩序な見た目。

 俺が世界最終の魔竜を融合する直前の姿。それが召喚された。戦闘能力は高くは無いが、様々なスキルが使えるから、程よい対戦相手になるだろう。

 コイツを倒した後、姫川がどのような強さを手に入れているのか……楽しみだ。姫川が俺より弱いという状況は……なんとなく気に食わない俺が居る。早く強くなってくれよ。

「ジーッ」
「ん? なんだランページ。俺の顔に何かついているか?」
「いーや」

 俺から顔を逸らし、距離をとるランページ。少し不機嫌そうだった。なんなんだ、感じが悪いぞ。

「もしかして怒っている?」
「怒っては無いけど。ちょっと不機嫌かな」

 一体何故だろう。怖いなおい。

「えーだってさ。ボクは素空と二人でダンジョン探検だってたのしみにしてたのにさー。素空ってば他の女の事ばかり考えているんだもん」
「他の女って……姫川の事か?」
「そうそう。そのなんとかって奴。気に入らないんだよねー」

 未だ俺と目をあわさないまま、ランページは続けた。

「ボクはてっきり、素空はイデアの事が好きなんだと思ってたけど。どうやら違ったみたいだね」
「その好きが男女のあれを指しているんだったら、姫川の事は好きじゃないさ」
「えぇ? 嘘付けよ」
「本当だよ。俺ごときが姫川を好きになるなんて、おこがましいにも程があるぜ」

 釣り合わないにも程がある。俺の姫川に対する感情は……なんだろうか。

 さっき、久々に姫川を見た。あの日、城の前で倒れて以来に、美しい彼女の姿を見た。あの時の胸の奥から突き上げてきた衝動は、言葉で表す事は難しい。すぐに駆け寄って、生きていたと言いたかった。もう気に病む必要は無いのだと言いたかった。
 そして、俺にも。君と同じように守りたいものが出来たんだと、言いたかったけれど。

 すぐに静めたと思っていた感情だったが、ランページには見抜かれていたようだ。

「うわぁ。おいおい、どうしたんだよ素空。ボクの親友である君があの女に対してそこまで下に出るのか!?」
「まず姫川に対して《あの女》と呼ぶのを辞めろ」
「あれ、素空怒ってる!? あ、目がマジだ、これマジギレしてるよ。おかしいな。怒っているのはボクのはずだったんだけど」
「怒ってない。ただ、姫川は俺の恩人なんだよ。だから、悪く言われるのは気に入らないっていうだけだ」
「じゃあボクがその子を殺すって言ったら……いや、辞めておこう。そんな事して素空に嫌われたら、ボクは生きていけない」
「助かるよ」

 俺だって親友を殺したくは無い。

「けど、君をそこまで献身的にさせる女には興味ある。一体どれほどのものを貰ったんだよ?」
「全てだよ」
「ふぅん……全て、ね」

 含みのある口調でそう呟いたランページは、転移門の方へと移動した。ちょっとむくれた顔のまま、転移門の前に座り込む。

「何してるのさ素空。ボクは今、親友と険悪な雰囲気になって心が傷ついているんだぜ? 優しく慰めないと! ホラ、ホラ!」
「全く。甘えん坊だなお前は」

 機嫌が悪くなったのはそっちからだったはずだが。だが、しかし。確かに一緒に遊べるとわくわくしていた相手が別の奴の事で頭が一杯……なんてむっとする話だ。
 それに関しては、俺が悪いのだろう。だから、今はランページの甘えに付き合ってやる事にする。

「ホラ! 優しく女子にするみたいに抱っこして!」
「生憎女子を抱っこするような人生は歩んで来なかったもんでね」

 転移門前で座り込んでしまったランページを米俵の様に抱える。その体重は人間と変わらない。もちろん質感も。体温も。匂いも。
 不意に鼻をついた良い香りに少しだけドキッとしながらも、俺はそのまま転移門を目指す。

「むーっ」

 だがランページは「抱き方が違うよ」と言わんばかりに一回スライム化。銀色の液状金属が俺の腕から逃れ、そして俺の体を這うように移動し、腕の位置や角度をぐいぐいと変更していく。

 そして違う体勢で再び人化し、俺の腕に収まった。

「ひゃー! お姫様だっこだーい」
「お前、こんなので喜ぶのか?」
「結構様になってると思うんだよねボク達。どう素空? 今度イデアの前でやってみない?」
「んー、辞めとく」

 なんか揉めそうだ。
 けど、イデアにしてあげたら喜ぶだろうか。いや、イデアなら俺を抱っこしたがるかもしれない。

 そんな事を考えつつ、俺とランページは転移門を潜った。

「むーっ、また他の女の事考えてるー」
「ギクッ。か、考えてないってば」

コメント

  • ノベルバユーザー279325

    未だ主人公の価値観理解できない。ドS?読んているほうが精神的な苦痛がねぇ…

    0
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