究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第43話 三つ首の骸竜

「聖剣起動――集いし栄光の虹ザ・セブンス・グローリア!!」

 収束した七つの光が敵を粉々に打ち砕く。
 合成魔獣スカルギオス。体を構成する骨を分解し、オールレンジ攻撃をしてくる強敵だった。強力な闇の魔法も脅威。
 しかし、その弱点は胸部に晒された生体コアにある。瞬時にそう見破ったジエルさんのお陰で、瞬時に対応することが出来た。
 土魔法部隊が三体のスカルギオスを分断。一体を私が。そしてもう一体をゆとりと蛍が。残る一体をクラスメイト24人とジエルさんが担当した。
 クラスのみんなは24VS1という数で敵のオールレンジ攻撃に対応した。
 蛍達はゆとりの結界で敵を拘束し、無防備になったところで蛍がピンポイントにコアを砕く。
 そして私は必殺技で圧倒させて貰った。

 これで私の魔力は18万にまで上昇。また強くなったようだ。

 そして、みんなも。確実に強くなっている。そう確信できる。七瀬君を失い。白峰さんと綾辻さんは未だに目を覚まさない。大きな犠牲だったけれど。あの事件を。その悲しみを乗り越えて、私達はここまで来たのだ。ここまで、強くなった。

「さぁみんな。素材を回収しておきましょう」

 私が達成感に浸っていると、ゆとりの声が耳に響いてきた。
 見れば、まだ周囲にはスカルギオスの骨がかなりの数散らばっていた。コアを破壊すれば勝てる相手なので仕方ないか。だが、敵の死体が残っていれば素材が回収できる。私の必殺技を受けた固体さえ、黒こげになりながらもまだ形として残っている。それ程の強度を持つ骨だ。きっと素晴らしい武器となって、多くの人を助けるだろう。

「素材を集め終わったら休憩にしましょう……そしたら……え」

 その時だった。

カタカタカタカタカタ。

 散らばっていた骨たちが震え始める。そして、背筋に嫌なモノを感じた。この感覚。まさか。

「何何何!?」
「まだ生きてるとか」
「とにかく離れよう」

 クラスメイト達は自分たちの判断で骨から距離をとった。やがて、衝撃の光景を目にすることになる。

 骨たちが光の粒子となって舞い上がる。やがて空中に集まった粒子は終結し、混ざり合い、一つの姿を形成していく。ジエルさんを除くクラスメイト達全員が、この光景に見覚えがあった。そして、誰もがこの後起こる最悪の事態を思い浮かべる。

「融合……」

 誰かがそう呟いた。融合。私のクラスメイトで、この光景を忘れた者は居なかった。それは異世界に来て初めて見た魔獣らしい魔獣。ケルベロス。それを誕生させた人はもう居ない。けれど。

……まさか再び見る事になるなんて。

「クソっ、黙って見てられるかよ!」

 そう怒鳴り、攻撃を放つのは彩葉君。徐々に大きさを増していく光に向かって風魔法を放つ。それに続いて何人かが魔法を放つ。だが。そんな攻撃ではびくともしない。

 やがて光が取り除かれ、さっきの倍以上。6メートルはあろうかという巨大な三つ首のスカルギオスが姿を現した。


アルティメットスカルギオス 魔力数値270000
 戦闘を行う為に動き続けるアンデッド。動くもの全てが標的である。


 スマートフォンを取り落としそうになる。魔力数値27万。今まで見たことも無いほどの化け物だった。弱点と思われていた生体コアが今回は見当たらない。どこにも、どこにも。つまり、弱点が無いという事か。
 敵の三つの口が同時に開く。凄まじい闇の瘴気。そして生物としての本能が感じる、死の恐怖と確信。必殺技が……来る!?

「あんなの、勝てないよ」
「終わりだ……俺達は終わりだ」
「もう駄目だ」

 駄目だ。みな弱気になっている……。あれは絶対に避けなくてはならない攻撃なのに。

「姫川! あれを使え!」

 そうジエルさんが叫んだ。アレ……を使う。私に出来るだろうか。相手の魔力数値は27万。対して私の魔力は18万。
 私は後ろをちらりと振り返る。クラスメイト達全員が、恐怖で動けなくなっている。中には手を組み、祈りを捧げる者まで……。守りたい。私がみんなを。

 けど、もし失敗したら。

「……っ」

 その時。懐に仕舞っていたお守りが一瞬、震えた気がした。それは彼のスマートフォン。戦場からなんとか回収した、彼の形見。それをガルム王子に渡すこと無く、私は勝手にお守りとして、いつも持ち歩いていた。私のせいで死んでしまった彼の思いを、決して忘れないために。あの時の悲しくて、苦しくて、辛くて。悔しい気持ちを忘れないために。
 そうだ。あの時の彼は……。私達を逃がすために命を捨てたあの人は。あの日誰よりも弱かった、けれど一番強い心を持っていた。

「七瀬君、どうか私に。あの時の貴方の勇気を少しだけ、分けてください」

 私は空に手を掲げる。

「――聖盾召喚陣起動……現れいでよ聖盾イージス!!」

 私の足元に広がる幾何学的な魔法陣にありったけの魔力を込める。やがて、魔法陣の中から光り輝く盾が出現する。それを両手で掴む。この盾は一撃しか防げないけれど。敵の攻撃を引き寄せ、そして守る最強の盾。

「ギュルルルアアアアアアア!!」

 その効力通り、アルティメットスカルギオスの攻撃はこの盾目掛けて放たれる。おぞましさすら感じる闇の魔法攻撃。だが。
 私はそれを真正面から受け止める。もう逃げない。もう二度と、仲間をお前たちにやらせる訳にはいかない!

「はあああああああああああああああ!!」

 私の思いに呼応するように、盾が震える。その時。敵の攻撃を盾が吸い込み始めた。そして、その魔力を光の魔力へと変換し、跳ね返す。

「グルルルルルルルル」

 その反射攻撃は意図した物ではなかったが、敵の三つの頭を全て打ち砕く。
 しかし恐ろしい事に、大きなダメージを与えたはずなのに、未だアルティメットスカルギオスは動きを止めない。
 いや、何やら小型のアンデッドを大量に召喚し、それを融合して復活しようとしているようだった。前よりは弱体化するだろうが……今の聖盾召喚で全ての魔力を使い切ってしまった。
 もう、私に戦う力は……。体の力が抜け、今にも倒れてしまいそうだ。

「ありがとう璃緒……」

 私の体を受け止めたのは親友のゆとりだった。ゆとりは目に涙を溜めている。

「受け取ったよ璃緒。貴方の勇気を。助けてくれてありがとう。後は私達に任せて」
「そうだぜ璃緒。自分ばかりで背負うなよ。なぁみんな! 璃緒がここまで頑張ったんだぜ? 後は私等だけで出来るよな!」

 蛍の煽りに「うぉおおお」と雄叫びを上げるクラスのみんな。

「みんな、璃緒の思いを受け取ったよ。だからきっと勝てる」
「ありがとうゆとり。私、このクラスのみんなが大好きだよ」

 薄れ行く意識の中で、親友に抱かれながら。一つになるクラスメイト達を見た。恐怖の闇を振りまく敵に、立ち向かっていく友たちを見た。

「クラスメイトって訳じゃないが……俺も協力させて貰うぞ」

 と、敵に立ちはだかったのはジエルさんだった。白いレイピアを手に持っている。

「みんな聞け! ヤツはアンデッド。恐らく死を無効にするスキルを持っている。だからこそ、俺は切り札を使う」

 ジエルさんから、聖なる魔力があふれ出してくる。

「素晴らしき友情を見せてもらった。コイツはその礼だ! ――裁きの門ヘブンズゲート!!」

 その細く白いレイピアで空中に円を書く。すると、その円が黄金の金属で出来た穴となった。それは空間に開いた聖なる門。その向こうには、果ての無い虹色が広がっている。

「この門は悪しき者達を永遠に封じる亜空間へと繋がっている。さぁ邪悪なアンデッド共! この門の向こうに消えろ!」

 すると、門が掃除機の様にアンデッド達を吸い込み始めた。

「これは……一体」
「俺のEXスキル、ヘブンズゲートを発動した。邪悪なる存在は問答無用で吸い込み、亜空間の向こうへ葬り去る」

 既に数十は召喚されていた小型アンデッド達が、どんどん門に吸い込まれていく。だが、アルティメットスカルギオスだけは地面に爪を突きたて、必死に耐えていた。

「さすがに耐えるか。ここからは我慢比べだ。さぁみんな! ヤツをこの門に放り込んでくれ!」

 そうジエルさんがクラスのみんなに告げる。勝利が見えた。その希望から、皆は顔を輝かせ、得意の魔法をスカルギオスに向かって放つ。
 

***


 それから数十分の後。私達はアルティメットスカルギオスという強大な敵を打ち倒す事に成功したのだった。

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