究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第32話 アットホームな職場です

 マスマテラ・マルケニスの屋敷にて神樹を倒すと決心してから、早一ヶ月。その間に色々な事があった。
 まず俺達が陥ったのが食料難だった。大場の残していた食料は半日で尽き、早々に狩りを余儀なくされたのだった。そんな俺達の前に現れたのは、エルフやドワーフ、そして獣人族達。

 この森に集落を持つ者達だ。手には大量の食料や、金品を抱えていた。話を聞いてみると、どうやら森の支配者たる大場愛はじめ、その配下の魔物達を倒してくれたことに感謝しているらしい。
 エルフやドワーフは亜人だろと思ったのだが、この世界では魔人という扱いを受けてきたらしい。何故ならば、彼等は神樹の影響を受けるからだ。

 だからこそ、俺は『神樹を倒す』という思いを話してみた。始めは驚いていたのだが、もし出来るのなら協力するといわれた。元々、エルフやドワーフ、そして獣人族達はコンボイの知り合いという事もあって話はスムーズに進んでいった。

 彼等には神樹を倒した後、人間と対等に渡り合うだけの《力》が必要だった。無論、どちらかが滅びるまで戦うのではない。対等に暮らすため、力が必要なのだ。こうして、西の森の連合《ジオサイド》が誕生した。

 当面は《勢力》としての力を強め、イデアを経由してミスラ様の下に付く。そうすればガルム達の勢力も圧倒できる算段だ。後はミスラ様に、新しい法を敷いてもらえばいい。


***


 かつて異世界召喚者達が造り、そして滅びた土地アルカディアに、新しい街を作る事になった。孫リラの知識、そしてドワーフの工業力。その二つが合わさり最強に見える。大場すら知りえなかった森の資源を知るエルフのお陰で、資材には困らない。

 力仕事なら獣人族の出番だ。

 さらに、噂を聞きつけた亜人やモンスター達も、仲間に入れて欲しいと集まってくる。勢力がぐんぐんと拡大していくと、問題になってくるのは責任者だった。

 俺はてっきりそういうのはコンボイが引き受けてくれるものかと思って、会議中も鼻糞をほじくって暇を潰していた。だが、どうやら皆俺に上に立って欲しいらしい。いざと言うとき切捨てやすいからだろうか。そんな考えが頭を過ぎるが。

「皆、嬉しいんじゃろうよ。お前の様な強い人間(元じゃが)が、虐げられてきた自分達の為に立ってくれたのじゃから」

 いや、お前等の為じゃないんだが……そんな事が言える空気じゃなかった。

「ああそうだ、トップだったら王女のイデアが」

「すぞらがトップになれば安心だ。すぞらの物は私の物。私のものはミスラ姉の物。何も問題は無いな」

 小さな女ジャイアンの問題だらけな発現。だが……俺は孫リラからこの世界の魔人についての話を聞いている。
 人間以外は全て下等な生き物。人間から遠く離れたモンスターは狩られ、殺され、根絶やしにされる。
人間に近いエルフやドワーフ、その他亜人は奴隷や商売の道具、性玩具扱いだったという。尊厳を踏みにじられてきた。そんな彼等の境遇に。比べるまでも無いけれど。自分の過去を重ねてしまわなくもなかった。


***



「うん、美味しい」

 マスマテラ・マルケニス邸の二階テラスの白いチェアーに腰掛けながら、俺はコーヒーを啜る。ミルクや砂糖は無いけれど、ブラックでも普通に美味しかった。コクがあって、尚且つ口がべたつかない。

「これはどこの原産だい?」

 横に居る黒いスーツの女性に話しかける。女性は何のリアクションも見せず、さながら用意してあった原稿を読み上げるかのように淡々と告げた。

「この森です」

「へぇ、この森ではコーヒーの栽培をしているのかい?」

 知らなかったな。もし人間と対等に商売が出来るようになった暁には、かなりの主力商品となるのではないだろうか。

「いえ、してないですね」

「……? どういうことだ?」

「ブラッドツリーという魔獣を殺すと、その様な液体を出すのです。それをカップに注げば、ほら」

「おええええええええええええええええ」

 口に含んでいたものを吐き出す。

「なんてもん呑ませやがる。ただの血じゃねーか」

「ええ。なので、正直疑っておりました。竜帝様は正気か? と」

「知らなかったからなっ。魔物の血だって」

 目の前の女性はようやく、押し殺すようにクククと笑う。コイツ、俺をイジッて遊んでやがるな。ちなみ竜帝というのは、俺の呼び名ね。

 この女性。切れ長な瞳と真っ黒な長い髪を後ろでくくり、漆黒のスーツに身を包んだ超エリートビジネス風の女性は、名をサミュという。種族はハーフデーモン。

 実はジオサイド設立にあたり、俺はヘルズゲートに封印されていた魔物を6体解放した。ミュートランスとの戦いではスルーしてしまった第五階層に封印されていた奴等だ。

 時の水は元々ルミナスドラゴンの体から生まれたものなので、その力を受け継いだ俺は、その効力を打ち消す事が出来たのだ。そして、復活した6体と交渉し、なんとか味方に引き込む事が出来た。

 その内の一人がこのサミュ。彼女はお金が大好きらしく、経済活動を行えるのならば陣営はどちらでも構わないとのこと。だから、こうして森のあちこちを回り、面白いものを見つけては俺に見せにくるという行動を繰り返している。彼女の活躍は、どうやらずっと先になりそうだった。

「おや、この道具は?」

 サミュの眼鏡の奥の鋭い眼光が、テーブルに置かれていた道具を捕らえる。それは、一昔前のガラケーと呼ばれるものだった。
 だが、中身は違う。俺はそれを手に取る。

「これはケータイって言ってね。この屋敷に10個くらい残っていたんだよ。大場が作ったマジックアイテムだろうね」

 このケータイもどきには番号が振られており、その番号を押せば、その番号の子機と会話できるという非常にシンプルなもの。番号は20種くらいあったから、大場が部下に持たせていたのだろう。キラーパンダやカッパーロードなんかも、実は持っていた可能性がある。

「ほほう。面白いですね。何故これを私に渡さないのか」

「渡そうと思っていたさ。だけどホラ、見つけたのは二日前だから」

「では早速私にも一台……ん? 何やらケータイが発光していますが?」

「ああ、着信だ。えっと、もしもし?」

 俺は手だけで「失礼」と言って、ケータイを耳に当てる。

『あー竜帝さん?』

 スピーカーから気安い声が聞こえてくる。

「なんだ、絶佳か」

 絶佳。復活した6体のモンスターの内の一体で、種族は九尾の狐。復活した6体の中でも最強レベルの魔力を持つ大妖怪だ。

『森の入り口で冒険者を発見しましたー。いかがなさいますか?』

 甘ったるい、余所行きの声。しかし、冒険者か。俺達はとうとう縁がなかったが、この世界にも当然冒険者ギルドが存在する。実力は低いが、結構な数がこの森に出入りし、薬草の採取や狩りを行っているのだ。俺が今まで出会わなかったのは、比較的森の奥の方で活動していたからだろう。

「装備や金品だけ奪って、後は追い返しちゃってよ」

『嫌ですわ。そんな強盗みたいな真似、テンション上がっちゃうじゃないですかー』

 上がるのかよ。だが、嬉しそうなので良いのだろう。

『オラさっさと脱げや人間共がああああ――ピッ』

 チラッと本性が聞こえつつ、俺はガラケーの電源を切る。まるで聞いてはいけないものを聞いたような気がして、居たたまれなくてサミュのほうを見た。サミュは何か意見を求められたのかと思ったのか、眼鏡をクイッとさせて答えた。

「淫乱糞狐は今日も生きがいいですね」

「同僚の呼び方えげつねーな」

 アットホームな職場だなぁ。


***


「竜帝さーん。見てください見てください! ドラゴンキラーですよドラゴンキラー! どうですかどうですか?」

 数時間後、冒険者から奪ったと思われる剣を振り回しなら、九尾の狐絶佳が返ってきた。不完全な《人化》により、尻尾は隠れていても、狐耳は出っ放し。薄き緑色の和風着物に身を包んだ美女だった。

「俺は《対竜属性無効》を持っているからね。そんな武器じゃ死なないよ。だからちくちくするの止めて」

「えーつまらないですー」

 ぷくーっと膨れる絶佳。その仕草は大変可愛らしいのだけど、俺を殺せないことへの不満なので笑えない。

「全く、俺としてはみんなと仲良くやりたいんだけどね。どうしてこう嫌われてしまうのか。ボッチだからかな」

「「いや、冗談きついです」」

 絶佳と、まだ居たサミュが口を揃えて言った。そう、実は俺、六柱と呼ばれる復活させたモンスター達、6体中5体から嫌われているんだよね。

「当然ですー。復活させて早々『突然だけど死んでもらうぜ』って、私達全員皆殺しにされたんですから。絶対に許しませんから」

 そう。俺は6体を復活させ、そして速攻で殺害した。舐められないようにというのが本音だ。何事も最初が肝心だからね。

「はは、アレは俺なりの照れ隠しだよ」

「照れ隠しで殺されたらたまらないのですが」

 ぼそりと言うサミュ。最もだ。

「はは。まぁ照れ隠しは冗談だとしても、やっぱり確認しておきたかったんだよ、君たちの実力をさ」

「私達の実力……ですか?」

「そう。まぁ合格だよ。すぐに殺せる程度の強者で安心だった。もし勝てない敵だったなら、どうしようもなかったからね」

「「……ッ」」

 一瞬顔を怒りに染める二人。だが、それは本当に一瞬だ。一瞬で、元の穏やかな顔に戻す。

「ねぇねぇ竜帝さぁん。そろそろ私達を生き返らせたスキルの正体、教えてくれてもいいんじゃないですか~?」

 ねっとりと甘えた声の絶佳。こいつは恨みが篭ってるぜ。だが、こいつ等はいつ敵に回ってもおかしくない奴等だ。そんな奴等に手の内を明かしすぎるのは良くない。

「はは、だったら俺と勝負するかい? いいよ。今なら漫画のキャラみたいに、勝負中にぺらぺら解説を始めるかもしれないぜ?」

「……ふふ、遠慮しときますー。嫌ですわ竜帝さんたら。マジにならないでくださいよ。私達全員、貴方様の部下ですから」

「ええ。貴方が強い内は……貴方に従います」

「はは、嬉しいぜ。これからもよろしく」

 普通の顔を取り繕っているのだろうが、二人共まだまだ未熟だ。恐らく、封印される前は自分と並ぶ強者など居なかったのだろう。
 誰かの顔色を気にすることもなく、クラスで息を潜めたこともなく、トイレに誰がいるかを気にすることもなく、廊下の隅を歩くこともなく。
 そんな風に誰かに従うこともなく生きてきたツワモノなのだろう。そんな奴等の上に立とうというのだ。こうでいい。

 姫川にクラスメイトと認められ舞い上がり、その調子でイデアやコンボイ、孫リラといった気の置けない仲間が出来た俺ではあったが。根本は何も変わらない。味方すら敵と思って立ち回る。それくらいの緊張感でいい。

「おや、アレは……」

 そろそろ日が沈んできたし、屋敷の中に撤収しようかという時だった。

 突如、吐き気にも似た、寒気の様なものが全身を駆け抜けた。そして、何気なく見た東の空。

 薄暗くなった空の中を飛んでくる飛翔体。まるでミサイルの様なそれは、まっすぐこの屋敷目掛けて飛んできているように見える。ミサイルだとしても何かの攻撃だとしても、あんな物が落ちたらこの屋敷がひとたまりも無い。

「絶佳、出番だ。この屋敷を守る為の結界を頼む」

 絶佳は結界術の名手。きっと素晴らしい防御を見せてくれるだろう。

「かしこまりましたー。それでは……九尾流究極奥義――《絶佳繚乱・完結次元・究極燐火防御陣》」

 絶佳の周りに幾重にも重なる魔法陣。さらに、粉雪の様に舞う青白い火の粉が幻想的で……って。

「お、おい。その結界、お前しか守ってなくないか?」

「当然ですー。竜帝様はお強いですから、ご自分でなんとかしてみては?」

 ちっ、この女。どうやらさっき煽りまくったのは失敗だったようだな。俺は《竜化》を解除。時空帝竜の姿となる。そして《光子翼(フォトンウィング)》を発動。
 魔力を擬似的な翼とし、飛翔することが出来るようになるスキルだ。放射状の赤黒い魔力の翼が顕現したのを確認し、飛び上がる。そのまま真っ直ぐに飛翔体を目指す。

竜装甲・極ヴァリアントメイル》によって、体を覆う漆黒の鎧に魔力を通し、防御力を上昇させる。さらに魔力を手に回し、飛翔体を受け止める。

「ぐっ、このおおおおおおおおおお!!」

 熱で手が焼ききれそうだった。だが、硬いと思われたその飛翔体は、俺が受け止めた瞬間、まるでゲルの様に俺の体を覆いつくし。そして俺を巻き込みながら爆散した。



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