究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~

神庭圭

第28話 最強のスキル

 時空聖竜ルミナスドラゴン。このモンスターを融合したことで、名実共に俺はドラゴンへと進化した。

 ドラゴン。モンスターの王。

 しかし、その代償として、これまでの冒険で得たほぼ全てのスキルを失った。その事実に関して、多少思うところが無いわけではないけれど。だが、それ以上に強力なスキルを数多く手に入れた。今までランダムにバラバラに得ていたスキルとは違う。

 一つの生命体として、ようやく完成された状態に戻る事が出来たのだ。人間のときよりも遥かに大きく、圧倒的に強い。

「ぐ……ぐぐ……一体何をしたっす。卑怯っす。何故自分の《変身》が使えないっす!?」

 魔竜姿のミュートランスがそんな事を言う。自分も散々俺の事をコピーしまくったくせに。

「《神聖》ってスキルのせいだな。どうやら自分に益の無い下位スキルを不発にさせる効果があるらしい。どうやらお前の自慢の《変身》は、この《神聖》を超えられない下位スキルだったって訳だ」

「神聖……まさか、そうか、アンタ……あの竜を融合したんすか?」

 魔竜の姿のままのミュートランスは、少しずつ後ずさっていく。その距離を詰めるように、俺も一歩前へ。

「く……ああああああああああああ」

 焦ったのか、ミュートランスは魔力を増大させた。恐らく、何か魔法を使おうとしたのだろう。

 だが。

「跪いて」

「ぐあっ……」

 大きな音を立てて、ミュートランスは地面にひれ伏した。いや、ひれ伏したというよりは倒れたというべきか。

「かはっ……今度は!?」

「今使ったのは《竜の王・極》というスキルだよ。これがあれば、ほぼ全ての竜種は俺に逆らえなくなる」

「極……ってことは、上位スキルってことっすか!?」

 上位スキル。以前姫川に聞いた話では、スキルを使いまくっていると、たまにそんな風に変化したりするらしい。精度や燃費が上がるほか、状況によっては通常では効かなかった相手にも効力を及ぼせるようになるらしい。
 まぁ、ミュートランスがこのスキルの餌食になったのは、魔竜の姿をとっているからなのだが。自業自得だろう。

 恐るべきは新しいスキルの制圧力。このスキルさえあれば、少なくとも竜種に負ける事はないだろう。

「ちゃんと歯を食いしばっておいてくれよ」

 そんなひれ伏した状態のミュートランスの頬を、思いっきりぶん殴った。途端、敵の体は宙を浮き、そのまま壁まで飛んでいった。それを目だけで追って、改めて今の自分の強さを自覚する。

「ああ、悪いね。まだ本調子じゃないから、手加減が出来なかったぜ」

「……」

 のっそりと、ミュートランスは体を引き摺るように起き上がる。物凄い反抗的な目でこちらを威嚇するように睨んでいる。ま、今はもう怖くも無いのだが。

「動かない的を一方的に殴るってのは好みじゃなくてね。《竜の王・極》による拘束は解除している。悪いけどもうちょっとウォーミングアップに付き合ってくれよ」

「……力を得た途端にそのデカい態度。気に食わないっす。気に入らないっす。

 所詮そんなモノは他人から奪っただけの付け焼刃っす。借り物の力で、棚から牡丹餅で調子に乗られては困るっす」

「お前が言うなよ」

「ほざけっ! ――《変身》!! ――《変身》!! ――《変身》!! ――《変身》!! ――《変身》!!」

「おいおい。成功率が低い訳じゃなくて、完全に俺をコピー対象に出来ないんだぜ? それとも、それしか能が無いのか? それが出来なくなったら終わりか?」

「お、お前えええええええええええええ!」

 激昂したミュートランスが襲い掛かってくる。存外、キレやすいヤツだ。

「《変身》のスキルは自分の全てっす! 解けぇ! 今すぐそのスキルを解いて自分に変身させるっす!!!」

 敵の腕による攻撃を全て受け止める。俺の今の身長は3メートルくらい。対して敵は10メートルはある巨体だ。
 拳の大きさだけで俺の体と同じだけの大きさ。そんな巨大な拳でもって殴られているのに、俺の体はダメージを受けない。
 ただ体に防御用の魔力を通しているだけなのに。それだけなのに、まるで扇風機にでも当たっているかのよう。
 やがて疲れを見せ始めたミュートランスが少し下がって、肩で息をし始めた。

「はぁはぁ……糞、糞……」

「おいおい。まだ一発だぜ? もっと楽しませてくれよ」

「調子に乗るなっす。自分にはまだ切り札があるっす――」

 突如、大きく息を吸い込んだミュートランス。ああ、なるほど。確かにそっちなら……ひとたまりも無いだろうな。
終末の轟咆ハルマゲドンハウル》。禁じられた必殺技。俺がとうとう使うことすら出来なかったEXスキル。込めた魔力の分だけ拡散し、聞いた者を絶命させる死の咆哮。コイツのご主人様が上で活動中のはずだが。どうやらそれを忘れるくらい頭に血が上っているらしい。さっきの俺と同じだ。いや、違うか。さっきの俺は、そこまだ頭に血が上っても尚、踏みとどまった。いつの間にか出来ていた、大切でかけがえの無いものが。已の所で引き止めてくれたのだ。

 結果大敗した訳だが。悪くはない。後悔は無い。だが。

「悪いが俺にも死なせたくない奴等が出来たんでね。止めさせてもらう」

 俺は空を切るように手刀を振り下ろした。いつか姫川が見せたように、魔力を見えない刃として、敵の首に向かって放ったのだ。

 途端、ミュートランスの首がはじけ飛び、中から赤黒い血があふれ出す。

 当然、喉を潰されては《終末の轟咆ハルマゲドンハウル》は発動できない。なんだ、以外と弱点の多いスキルじゃないか。

 そう思ってしばらくミュートランスを眺めていると、なんと傷口が塞がっていく。

「ゼェ……はぁ、はぁ」

 ああそうか。流血によって回復するスキル《竜血》を使っているのか。

「こうなったら、最後の手段っす。お前の《融合》を使ってやるっす!」

 そう言い放ったミュートランスはきょろきょろと周囲を見回した後、にやりと笑う。

「一体何を……ああ」

 そこに転がっていたのはバラバラになって放置されていたかつての俺の体。魔竜の尾と羽が転がっていた。だが。

「お前ごときに融合が出来るかな」

「舐めるなっす。お前に出来て自分に出来ない事なんてないっす。アレを融合すれば自分にもチャンスが……ッ!? が、が、が」

 俺はそれを邪魔することなく見守った。敵が強くなることに得に抵抗は無かったのだが。ミュートランスは明らかに青ざめた顔で《捕食融合》の発動を中断した。

「お、お前は何者っす?」

「俺は七瀬素空だよ」

「そういうことじゃないっす。なんで、自分と魔物を融合なんてできるっす!?」

 自分自身の肩を抱き、そして涙を流して震えながら、ミュートランスは言った。

「融合のスキルを発動しようとした瞬間、自分の意識が融合対象に塗りつぶされそうになったっす。
自分が自分で無くなる感覚がしたっす……。自分の中の理性が、本能が、直感が、危機感が……強制的に融合を停止したっす。アンタは毎回あんな思いをしてたんすか!? 自分が崩壊して、異物と交じり合うような感覚を……どうして耐えられるんすか!?」

 俺は一度ため息をついた。俺は不敵に簡単だよと呟く。そして、言い放つ。

「他者を。異物を。異形を。変革を。進化を。退化を。混沌を。変化を受け入れることさ」

「ひぃ……」

「そういえば、君のご主人はなんて言っていたっけ? 体は戦闘を行う者にとっての武器……とか、戦いに慣れていない俺とだったら、勝てるとかなんとか?」

「そ……っす」

「今気が付いたんだけれど、俺にとっては戦いは食材の見極めなんだよ。食べるか食べないか。俺にとって有用かどうかをずっと考えているのさ」

「い……命だけは……俺は命は奪うつもりは無かったっす」

「君のコピー能力は凄い便利だと思う。でも君の人格も戦い方も人と成りも声も性格も戦い方も何もかもが気に入らないから殺すよ」

「た、助けて……」

「断る」

「そ、そうだ……大場の秘密を全て話すっす……だから」

「もう遅い」

 俺は新しく得たEXスキルを発動する。それはルミナスドラゴンの必殺技だったスキルが、 《終末の轟咆ハルマゲドンハウル》によって歪められて誕生したスキル。
 最高出力に必要な魔力は100万。もちろん、ここで全力を出す事は出来ない。1%で十分だ。

「じゃあな。――永遠をドミネ・超える竜の星クォ・ヴァディス

 最高出力の内のたった1%。しれでも、体の内から溢れ出るどうしようもないくらい膨大な魔力。赤と黒の螺旋がミュートランスの体を飲み込み、そして破壊する。ミュートランスは、まるで始めから世界に存在しなかったかのように、圧倒的な破壊でもって死んだ。

 ……ようやく、勝利した。だが、油断は出来ない。まだ戦いは終わってはいないのだ。

「さて、随分時間が掛かってしまったけれど、上は大丈夫だろうか」

 足に魔力を込めて跳躍する。

 すぐに戻るからな、耐えていてくれよ。イデア……コンボイ……。

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