究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~
第11話 禁断の融合
「襲撃完了の報告が全く来ないと思ったら……まさか全滅してるなんてねぇ」
喋り方がねっとりと女性ぽいが、正真正銘男タイプのモンスターである。その独特のオネェ口調と人間ぽいのに人間ではないシルエットが不気味さを引きたてている。俺と里澄はこっそりとスマホで敵の魔力を測る。
フロストデビル 魔力2500 魔人族
力を解放すれば国一つを一瞬で氷に変えてしまうことも出来る上級魔族。
結果、あの白いモンスターの魔力は2500程度。人間並みの知能がありそうなので、融合は出来ないだろう。俺達では手も足も出ないが、Bファングならば余裕で倒すことが出来る。
「あらぁ、今私の魔力数値を見て安心したぁ?」
バレていたことに驚き一歩引く俺達。だが、里澄はすぐさまBファングを俺達と敵の間に配置する。Bファングも攻撃指令を今か今かと待ちわびていたようで、臨戦態勢で身構える。
「私達魔族は神樹の聖なる気に弱いの。だからこのくらい神樹の近くに来るときは力を封印しているわぁ。私の全力の魔力が2500程度だなんて、考えないほうが良いわよ?」
言っていることを全て理解出来た訳ではない。だが、奴はこれが全力では無いと言った。ならば今のうちに倒すだけだ。
漫画やアニメの様に良い勝負をしながら敵が力を解放していくのを待つ理由は無い。里澄の方に視線を向ける。彼女も目だけで俺の方を見て、軽く頷いた。どうやら、同じ考えのようだ。
脳内でBファングに指令を送ったようだ。Bファングは敵目掛けて、その巨体を向かわせる。
――だが。
「人間なんかに利用されていたなんて、かわいそうな子ねぇ――魔核破壊(コアクラッシュ)」
何が起きたのか理解出来なかった。突如、まるで枝のようだったフロストデビルの体がムキムキに膨れ上がり、一瞬でBファングまでの距離を詰めた。
だが、敵はBファングの首を撫でただけに見えた。もちろん、その首に近寄るまでの手際は見事としか言い様がないのだが、それでも、それは攻撃には見えない。さながら飼い主がペットの首をさする。そのくらいのさり気無い動作だった。
だが、たったそれだけの動作だったというのに、Bファングは7つの口から血を噴出して、まるで割れた風船のように萎んでいく。そして俺の横でも、ドサりと大きな音がした。見ると、里澄が倒れていた。先程まで上気していた顔は青ざめており、代わりに目や鼻から血が流れていた。
「な……え……里澄?」
「あらあら、そっちのお嬢ちゃんが支配していたのねぇ。魔力のパスを通じて、脳にダメージが行っちゃったみたいね~か わ い そ う」
残念そうな声で敵が言う。何がなんだかわからない。だが、フロストデビルは何かをBファングにした。そしてBファングを殺した。そのダメージが、繋がっていたリズムの命を奪ったのだ。怒りと吐き気で裏返りそうになる頭の痛みを抑えながら、俺はするべきことを考える。ちらりと覗いたスマホに表示された敵の魔力数値は10500。単純計算で姫川3人分の戦力だ。
こいつは……こいつは今までの敵とは違う。ちゃんと戦える敵なんだ……俺達と同じかそれ以上に……バトル慣れしているんだ。
「ふぅ……どうやら驚いてくれたみたいね。私達魔族はねぇ、魔獣、モンスターを操る立場なのよ。だから、裏切りを防止するために、魔物を一瞬で無力化するスキルを持っているの。まぁ、私は破壊しか出来ないから『勿体無い』っていつも怒られるんだけどね。さて」
腰に手を当てて解説をしていたフロストデビルだったが、一瞬で俺の側に近づいてきた。
思わず情け無い悲鳴が口から零れそうになったが、辛うじて我慢する。こいつは里澄を殺した……俺がここで逃げる訳には行かない。
「あらぁ、随分と熱い目だわぁ……殺すのは勿体無い。あ、そうだ」
フロストデビルは何かを思い出したかのように顔を邪悪な色に歪める。
「死んだ方が支配者スキルを持っていた。と言うことは、アンタがあの化け物を造り出したのよねぇ……ひょっとして、『融合』を持っている?」
「だったらどうだっていうんだ?」
なんとか声を絞り出した。
「ウフフフフフフウウゥ、正解だわぁ。アンタ、それ相当なレアスキルよぉ~? これはあのオタクも喜んでくれるかしら」
あのオタク? 何のことだと考えた瞬間、フロストデビルは腕を横に一回、縦に二回振った。そして、俺の体は地面に落ちた。
「あ……?」
「私上手でしょう? 切られたの、わからなかったんじゃない?」
嬉しそうにそう答えたフロストデビル。いや……本当に何を言っているんだこいつは……。
だが、そこで俺は気が付いた。気が付いてしまった。俺の四肢が、胴体から切り離されていることに。
「あ、ああ……あががががががががががががが」
脳がそのことを認識した瞬間、まるで津波のように、今まで味わったこともないような喪失感と痛みが押し寄せてきた。
手足をバタつかせて痛みを紛らわしたいのに、その手足が無い。俺は首と腰をみっともなくくねらせながらのた打ち回る。これではまるで打ち上げられた魚だ。
通常ならば即死してもおかしくないダメージだが、魔力によって強化された肉体は、それを許さない。まるで「まだ戦え」と言われているかのように死ねない。
「そのくらいじゃあ死なないわよぉ。それじゃあ、大人しく待っていてね。ちょっとあの城で用事を済ませたら、すーぐに迎えに来るわ~」
そう言って、俺から離れていくフロストデビル。だが、全く危機が去った気はしない。痛みが、痛みが俺の思考を鈍らせる。
目や鼻や口から流れ出ているものが涙なのか鼻水なのか血なのか、それとは全く違う何かなのか、さっぱりわからないのだ。
クソ……このまま……こんなところで。
あの悪魔はそんなんじゃ死なないと言っていたが、冗談じゃない。死ぬ。このままじゃ死ぬ。痛みでは死なないかもしれない。けれど、四肢を切られたんだ。もう何でだって死ぬだろう? 痛みで精神がおかしくなったり、傷口からばい菌が入ったり。
激しい痛みで狂いそうになる中、脳裏に浮かぶのは家族のことでもない。今までのくだらなかった人生でもない。
何故か、悲しむ姫川の顔が浮かんだ。こんな俺のことをクラスの一員だと言ってくれた女の子。容姿も成績も完璧だったけど、どこか抜けていた女の子。あの子が悲しむ顔は……見たくない。
ただ俺が死ぬのはいい。けれどあの子は。あの子だけは、自分のせいだと。自分のせいで死んだのだと、きっと自分を責める。
俺はそんな風に彼女の負担にはなりたくなかった。
――だから俺は。
首を傾ける。本来曲がってはならない方向に曲がった気がしたが、気にしない。もう、多少の痛みくらい苦痛にもなりはしない。
目線の先には哀れにも萎んだザ・セブンスBファング。物言わぬ躯と化したその姿をジッと見据える。ほんの少しの間だったけれど、一緒に戦った仲間だ。
悪いが……死んでも尚、お前の力を貸して貰う。
「――融合」
なんとか、言葉に紡ぐ。
何度も何度も考えていた。もし、自分自身を融合素材とするならば……。俺は最強の力を手に入れることが出来るのではないか。だが、そのリスクの高さも危惧していた。融合の後……俺は俺でいられるのだろうか?
けれど、もうそんなことはどうでもいい。ただ、生き残らなければならない。勝ち残らなければならない。生きなくてはならない。その意思だけは、たとえ俺が俺で無くなってしまったとしても、残り続けるだろう。
Bファングの体は光の粒子となって、俺の体に注ぎ込まれる。途端、内側から腹を押されたような衝撃を受けた。
いや、押されたような……ではなかった。本当に押されている。凄まじい吐き気と体の熱。そして全身を切り刻むかのような痛み。
「がはぁっああ」
目が、鼻が、髪が、心臓が、血管が、皮膚が、全てが波打つ。そして、凄まじい殺意と飢餓が脳内に押し寄せる。これが魔物の本能だとでも言うのか!?
気を抜けば……いや、例えば俺にさっき胸に一本突き立てた信念がなければ、簡単に飲み込まれていただろう。野生の、只の魔物に成り下がっていた。だが、俺は支配してみせる。その殺意と飢餓、生きる為の魔獣の本能すら、支配してみせる。
『真紅眼(クリムゾンアイ)』習得
・魔力数値の測定とスキルの効果を把握できる
ふと脳裏にそんな言葉が聞こえた気がした。真紅眼……赤い目。そうだ、これはBファングのスキルか。融合した奴のスキルを得られるのか。
真紅眼のスキルの説明を理解出来たのは、真紅眼の効果なのか。つまり、スマホが要らない訳だ。おそらくこれは生き残る為のスキル。敵の強さと自分の強さを測り、戦うべきか逃げるべきかを定めるスキルなのだろう。
便利だが……これでは足りない。
痛みが引いていく。融合、いや、もはや吸収といっていいか。Bファングの体が俺の体に馴染んできたのだろうか。まだ体は動かないし、体があるかどうかも解らないくらい熱いのだが。
『熱魔核(フレイムコア)』習得
・魔力を炎に変換するスキル。
これもBファングのスキルだ。そうか、魔物はこうやって火を出していたんだな。スキルというより、これは体の器官なのではとおも思ったが、どうでもいい。ただわかることは、これでは圧倒的に奴を倒すには足りないということだ。
俺は首をぐるぐると回転させ、獲物を探す。生きていようが死んでいようが構わない。とにかく、目に映った全ての魔物に融合を仕掛ける。
やがて、数々の粒子となった魔物達が俺の元に集まってくる。
『月光狂(ムーンライトマッドネス)』習得
・満月の時、魔力量が大きく上昇する
これはシルバーファングのスキルか……残念ながら今日は満月じゃない。はずれだ。
『耐寒』習得
・寒い地域に対応できる。
これは……もしかしてラプターのスキルか。こっちの恐竜は寒さにも強いんだな。はずれだ。
『暗黒核(ダークマターコア)』習得
・魔力を純度の高い高レベルの魔力に変換する。
熱魔核の闇版かな?なんとなくだけど、レアスキルだということが解る。雑魚モンスターの中にもレアスキル持ちの天才がいたのか、それとも、融合は只敵のスキルを得られるだけじゃないのだろうか。
とにかく、戦えるだけのスキルは手に入れた。後は体が完成するのを待つだけだ。
俺は出来るだけ早く、早くするようにと念じた。それが効いたのかどうかは解らないが、体の構成は思いのほか早く完了した。
***
 七瀬素空 魔力数値9800
 所持スキル 『融合(フュージョン)』『真紅眼(クリムゾンアイ)』『熱魔核(フレイムコア)』『月光狂(ムーンライトマッドネス)』『耐寒』『暗黒核(ダークマターコア)』
***
俺は急いで追いついた敵の前に立ちはだかる。
俺の気配に気が付いたフロストデビルは城への歩みを止め、振り返る。そして、首を傾げた。
「アンタ……だあれ?」
「初めまして……お前を喰らう、捕食者のお通りだぜ」
喋り方がねっとりと女性ぽいが、正真正銘男タイプのモンスターである。その独特のオネェ口調と人間ぽいのに人間ではないシルエットが不気味さを引きたてている。俺と里澄はこっそりとスマホで敵の魔力を測る。
フロストデビル 魔力2500 魔人族
力を解放すれば国一つを一瞬で氷に変えてしまうことも出来る上級魔族。
結果、あの白いモンスターの魔力は2500程度。人間並みの知能がありそうなので、融合は出来ないだろう。俺達では手も足も出ないが、Bファングならば余裕で倒すことが出来る。
「あらぁ、今私の魔力数値を見て安心したぁ?」
バレていたことに驚き一歩引く俺達。だが、里澄はすぐさまBファングを俺達と敵の間に配置する。Bファングも攻撃指令を今か今かと待ちわびていたようで、臨戦態勢で身構える。
「私達魔族は神樹の聖なる気に弱いの。だからこのくらい神樹の近くに来るときは力を封印しているわぁ。私の全力の魔力が2500程度だなんて、考えないほうが良いわよ?」
言っていることを全て理解出来た訳ではない。だが、奴はこれが全力では無いと言った。ならば今のうちに倒すだけだ。
漫画やアニメの様に良い勝負をしながら敵が力を解放していくのを待つ理由は無い。里澄の方に視線を向ける。彼女も目だけで俺の方を見て、軽く頷いた。どうやら、同じ考えのようだ。
脳内でBファングに指令を送ったようだ。Bファングは敵目掛けて、その巨体を向かわせる。
――だが。
「人間なんかに利用されていたなんて、かわいそうな子ねぇ――魔核破壊(コアクラッシュ)」
何が起きたのか理解出来なかった。突如、まるで枝のようだったフロストデビルの体がムキムキに膨れ上がり、一瞬でBファングまでの距離を詰めた。
だが、敵はBファングの首を撫でただけに見えた。もちろん、その首に近寄るまでの手際は見事としか言い様がないのだが、それでも、それは攻撃には見えない。さながら飼い主がペットの首をさする。そのくらいのさり気無い動作だった。
だが、たったそれだけの動作だったというのに、Bファングは7つの口から血を噴出して、まるで割れた風船のように萎んでいく。そして俺の横でも、ドサりと大きな音がした。見ると、里澄が倒れていた。先程まで上気していた顔は青ざめており、代わりに目や鼻から血が流れていた。
「な……え……里澄?」
「あらあら、そっちのお嬢ちゃんが支配していたのねぇ。魔力のパスを通じて、脳にダメージが行っちゃったみたいね~か わ い そ う」
残念そうな声で敵が言う。何がなんだかわからない。だが、フロストデビルは何かをBファングにした。そしてBファングを殺した。そのダメージが、繋がっていたリズムの命を奪ったのだ。怒りと吐き気で裏返りそうになる頭の痛みを抑えながら、俺はするべきことを考える。ちらりと覗いたスマホに表示された敵の魔力数値は10500。単純計算で姫川3人分の戦力だ。
こいつは……こいつは今までの敵とは違う。ちゃんと戦える敵なんだ……俺達と同じかそれ以上に……バトル慣れしているんだ。
「ふぅ……どうやら驚いてくれたみたいね。私達魔族はねぇ、魔獣、モンスターを操る立場なのよ。だから、裏切りを防止するために、魔物を一瞬で無力化するスキルを持っているの。まぁ、私は破壊しか出来ないから『勿体無い』っていつも怒られるんだけどね。さて」
腰に手を当てて解説をしていたフロストデビルだったが、一瞬で俺の側に近づいてきた。
思わず情け無い悲鳴が口から零れそうになったが、辛うじて我慢する。こいつは里澄を殺した……俺がここで逃げる訳には行かない。
「あらぁ、随分と熱い目だわぁ……殺すのは勿体無い。あ、そうだ」
フロストデビルは何かを思い出したかのように顔を邪悪な色に歪める。
「死んだ方が支配者スキルを持っていた。と言うことは、アンタがあの化け物を造り出したのよねぇ……ひょっとして、『融合』を持っている?」
「だったらどうだっていうんだ?」
なんとか声を絞り出した。
「ウフフフフフフウウゥ、正解だわぁ。アンタ、それ相当なレアスキルよぉ~? これはあのオタクも喜んでくれるかしら」
あのオタク? 何のことだと考えた瞬間、フロストデビルは腕を横に一回、縦に二回振った。そして、俺の体は地面に落ちた。
「あ……?」
「私上手でしょう? 切られたの、わからなかったんじゃない?」
嬉しそうにそう答えたフロストデビル。いや……本当に何を言っているんだこいつは……。
だが、そこで俺は気が付いた。気が付いてしまった。俺の四肢が、胴体から切り離されていることに。
「あ、ああ……あががががががががががががが」
脳がそのことを認識した瞬間、まるで津波のように、今まで味わったこともないような喪失感と痛みが押し寄せてきた。
手足をバタつかせて痛みを紛らわしたいのに、その手足が無い。俺は首と腰をみっともなくくねらせながらのた打ち回る。これではまるで打ち上げられた魚だ。
通常ならば即死してもおかしくないダメージだが、魔力によって強化された肉体は、それを許さない。まるで「まだ戦え」と言われているかのように死ねない。
「そのくらいじゃあ死なないわよぉ。それじゃあ、大人しく待っていてね。ちょっとあの城で用事を済ませたら、すーぐに迎えに来るわ~」
そう言って、俺から離れていくフロストデビル。だが、全く危機が去った気はしない。痛みが、痛みが俺の思考を鈍らせる。
目や鼻や口から流れ出ているものが涙なのか鼻水なのか血なのか、それとは全く違う何かなのか、さっぱりわからないのだ。
クソ……このまま……こんなところで。
あの悪魔はそんなんじゃ死なないと言っていたが、冗談じゃない。死ぬ。このままじゃ死ぬ。痛みでは死なないかもしれない。けれど、四肢を切られたんだ。もう何でだって死ぬだろう? 痛みで精神がおかしくなったり、傷口からばい菌が入ったり。
激しい痛みで狂いそうになる中、脳裏に浮かぶのは家族のことでもない。今までのくだらなかった人生でもない。
何故か、悲しむ姫川の顔が浮かんだ。こんな俺のことをクラスの一員だと言ってくれた女の子。容姿も成績も完璧だったけど、どこか抜けていた女の子。あの子が悲しむ顔は……見たくない。
ただ俺が死ぬのはいい。けれどあの子は。あの子だけは、自分のせいだと。自分のせいで死んだのだと、きっと自分を責める。
俺はそんな風に彼女の負担にはなりたくなかった。
――だから俺は。
首を傾ける。本来曲がってはならない方向に曲がった気がしたが、気にしない。もう、多少の痛みくらい苦痛にもなりはしない。
目線の先には哀れにも萎んだザ・セブンスBファング。物言わぬ躯と化したその姿をジッと見据える。ほんの少しの間だったけれど、一緒に戦った仲間だ。
悪いが……死んでも尚、お前の力を貸して貰う。
「――融合」
なんとか、言葉に紡ぐ。
何度も何度も考えていた。もし、自分自身を融合素材とするならば……。俺は最強の力を手に入れることが出来るのではないか。だが、そのリスクの高さも危惧していた。融合の後……俺は俺でいられるのだろうか?
けれど、もうそんなことはどうでもいい。ただ、生き残らなければならない。勝ち残らなければならない。生きなくてはならない。その意思だけは、たとえ俺が俺で無くなってしまったとしても、残り続けるだろう。
Bファングの体は光の粒子となって、俺の体に注ぎ込まれる。途端、内側から腹を押されたような衝撃を受けた。
いや、押されたような……ではなかった。本当に押されている。凄まじい吐き気と体の熱。そして全身を切り刻むかのような痛み。
「がはぁっああ」
目が、鼻が、髪が、心臓が、血管が、皮膚が、全てが波打つ。そして、凄まじい殺意と飢餓が脳内に押し寄せる。これが魔物の本能だとでも言うのか!?
気を抜けば……いや、例えば俺にさっき胸に一本突き立てた信念がなければ、簡単に飲み込まれていただろう。野生の、只の魔物に成り下がっていた。だが、俺は支配してみせる。その殺意と飢餓、生きる為の魔獣の本能すら、支配してみせる。
『真紅眼(クリムゾンアイ)』習得
・魔力数値の測定とスキルの効果を把握できる
ふと脳裏にそんな言葉が聞こえた気がした。真紅眼……赤い目。そうだ、これはBファングのスキルか。融合した奴のスキルを得られるのか。
真紅眼のスキルの説明を理解出来たのは、真紅眼の効果なのか。つまり、スマホが要らない訳だ。おそらくこれは生き残る為のスキル。敵の強さと自分の強さを測り、戦うべきか逃げるべきかを定めるスキルなのだろう。
便利だが……これでは足りない。
痛みが引いていく。融合、いや、もはや吸収といっていいか。Bファングの体が俺の体に馴染んできたのだろうか。まだ体は動かないし、体があるかどうかも解らないくらい熱いのだが。
『熱魔核(フレイムコア)』習得
・魔力を炎に変換するスキル。
これもBファングのスキルだ。そうか、魔物はこうやって火を出していたんだな。スキルというより、これは体の器官なのではとおも思ったが、どうでもいい。ただわかることは、これでは圧倒的に奴を倒すには足りないということだ。
俺は首をぐるぐると回転させ、獲物を探す。生きていようが死んでいようが構わない。とにかく、目に映った全ての魔物に融合を仕掛ける。
やがて、数々の粒子となった魔物達が俺の元に集まってくる。
『月光狂(ムーンライトマッドネス)』習得
・満月の時、魔力量が大きく上昇する
これはシルバーファングのスキルか……残念ながら今日は満月じゃない。はずれだ。
『耐寒』習得
・寒い地域に対応できる。
これは……もしかしてラプターのスキルか。こっちの恐竜は寒さにも強いんだな。はずれだ。
『暗黒核(ダークマターコア)』習得
・魔力を純度の高い高レベルの魔力に変換する。
熱魔核の闇版かな?なんとなくだけど、レアスキルだということが解る。雑魚モンスターの中にもレアスキル持ちの天才がいたのか、それとも、融合は只敵のスキルを得られるだけじゃないのだろうか。
とにかく、戦えるだけのスキルは手に入れた。後は体が完成するのを待つだけだ。
俺は出来るだけ早く、早くするようにと念じた。それが効いたのかどうかは解らないが、体の構成は思いのほか早く完了した。
***
 七瀬素空 魔力数値9800
 所持スキル 『融合(フュージョン)』『真紅眼(クリムゾンアイ)』『熱魔核(フレイムコア)』『月光狂(ムーンライトマッドネス)』『耐寒』『暗黒核(ダークマターコア)』
***
俺は急いで追いついた敵の前に立ちはだかる。
俺の気配に気が付いたフロストデビルは城への歩みを止め、振り返る。そして、首を傾げた。
「アンタ……だあれ?」
「初めまして……お前を喰らう、捕食者のお通りだぜ」
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