咲かない花

せつな

勇気

深く呼吸をし、ベルを鳴らす。
「はーい。」と愛らしい聞きなれた声が聞こえる。
しかし、外にいる人物が誰かわかった瞬間逃げるように「…帰って。」とドアを閉めようとする。

以前の自分だったら、諦めて帰ってる。
でも、後輩にあんなかっこいいことされて逃げるなんて、最低だ。

「愛佳、話したいことがあるの。」

愛佳は何かを感じ取ったのか「わかった。」とついて来てくれた。

「ここ、覚えてる?」
「…初めて、舞華と出会った場所。」
「私、ここで男の子たちにいじめられてて、愛佳が助けてくれて、その時からずっと……。」

愛佳に聞こえてしまうにではないかと思うほどドキドキと心臓がうるさい。

逃げ出したい。
だけど…もう逃げないって決めたから。

「愛佳は、私のヒローで好きな人なの。」

もともと大きな目がさらに大きくなり、目が落っこちちゃいそうだ。

「大好きだよ。愛佳。」

笑った顔も、怒った顔も、君の全てが大好きで、愛おしい。

「もう、逃げないって決めたから。愛佳の親友でいるのはすごく心地いい、でもそれと同じぐらい苦しかった。ごめんね。こんなこと言われても気持ち悪いだけっていうのは分かってるの。だけど、もう後悔したくないから。」

愛佳は、戸惑ったように目を泳がせる。

やっぱり、困らせてしまった。
愛佳は優しいから、こんなときでも私を傷つけないように言葉を探してくれている。
そんな愛佳を私は本当に、愛してたよ。

「…ありがとう。」とその場を立ち去ろうとすると、ぎゅっと手を掴まれる。

「ごめん。」

うん。分かってる。

「…真樹くんに舞華先輩は悪くない。俺が勝手に好きになったからって言われて、2人が抱き合ってるの見て、悔しくて悲しくて。」

愛佳の手に力がこもる。
その手は少し震えていた。

「私…見ないようにしてただけで本当は気づいてたの。真樹くんは舞華が好きなんだって。」

舞華はそのことに驚き振り返ろうとしたのを「そのままで聞いて。」と止められる。
舞華が振り返らないことを確認して、またゆっくり話し出す。

「だから…八つ当たりして、酷い事を言ってごめん。」

手が離れたかと思ったら愛佳は舞華の前に来てまっすぐ舞華見る。

こうやってちゃんと向き合ったのは告白の練習したときいらいかもしれない。

「…私、舞華の気持ちには答えられない。」

分かってた答えなのに、真直ぐ言われるとやっぱり、きついな。

「ごめんなさい。それから、ずっと想ってくれてありがとう。」

まだ苦しいけど、でもすごく清々しい。
どうしてもっと早く言わなかったんだろう。

「うん。愛佳、ちゃんと言ってくれてありがとう。」

今度こそ、「バイバイ。」と笑顔で手を振ってお別れをする。
でも、最後のお別れじゃない。
次会うまでのお別れだ。

お互い分かっているから何も言わない。
今は、自分たちの道を歩く。
この痛みが思い出に変わりもう一度会いに行くその時まで…。

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