漂流先の魔法世界で生き残りサバイバル!

大吉祭り

渾身の防御!

 相手はクリムの兄、俺たちの上の学年で実力も上位なはず。
 どう考えても勝ち目は薄いが、これが勝てる唯一の方法なら覚悟を決めるか!


 「大樹さん……」


 少し離れた場所から、俺たちの対決を見守っているリッシュとフローラ、そしてアスラ。
 多分、今のフローラの声はかなり小さかったはず、なのに不思議と聞こえてきた。


 「……フローラ! とリッシュ。そんな心配そうな顔しないでくれ。俺まで不安になる」


 それを聞いてからリッシュがフッと笑い。


 「そうだなぁ、どうせ死ぬわけじゃない。男同士の戦い、バシッと決めちゃえ」


 本当、この島でいい奴に出会えたなぁ。
 フローラも俺たちのやりとりを聞いて、少し表情が柔らかくなっていた。


 「そろそろいいか? こっちは魔法の準備も終わったが」

 「お待たせしました。こっちも今、最後の覚悟を決めたところ。思いっきりお願いします!」


 先輩は一瞬口元を緩めると、再び目を瞑り詠唱を始める。


 「いくぞ大樹、これが俺のフォイアだ!」


 さすがクリムのお兄さん、魔法もやっぱり火か!
 俺はすぐに腕をクロスさせ、防御の態勢を取る。


 「ほう? そのまま受け止める気なのか。魔法に頼らず」


 先輩が何か話しているが、それに答える余裕はない。
 この後の衝撃に耐えなければならないから。


 「大樹!」 「大樹さん!」


 遠くから二人の声も微かに聞こえる。
 俺は全身に力を込め、その瞬間を待つ!


 ズドンッ!
 衝撃とともに、俺の体は吹き飛ばされた。


 「……ッ! 生きてるのか、俺」


 どうやら吹き飛んだ末、近くの木とぶつかったよう。


 「そうだ、ダメージカウンターは!? もしかしたらゼロになってるかも」


 慌てて確認すると、少し減っているが生きているよう。
 ただ半分以上削られているし、今後かなり厳しそうだ。


 「ほう、俺の魔法を受けて無事のようだ。さっきの二人よりも強いんじゃないか?」


 その声と同時に、煙の中から先輩の姿を確認できた。
 一体どれくらいの魔法だったのか、目を瞑ってたからあまり判断できていない。


 「それなりに本気だったんだが、お前は魔法も使わずに受け切ったか……認めよう、お前の勝ちだ」

 「えっと、いいんですか?」


 俺の問いかけに先輩は黙って頷く。
 すると、近くにいたのか聞き馴染みのある声が。


 「良かったなぁ、大樹! あの爆発でもうダメかと思ったぜ?」

 「大樹さんよく無事で。怪我はありませんか?」

 「大樹くん大丈夫そうだね! 合っていきなりお別れかと思っちゃったよ」


 リッシュにフローラ、アスラの声だ。
 なんかようやく、生き残れた実感が湧いてくる。


 「なんとか無事だ。それより、そんなに凄い爆発だった?」

 「凄いなんてもんじゃないぞ、ただの火の魔法でここまでなんて、初めて見るほどだ」


 リッシュが興奮しながら話すあたり、本当に凄かったんだろう。


 「確かにフォイアは基礎の魔法だ。しかし使い方など、極めようとすれば真価を発揮できる。それも皆に知って欲しかったんだ」


 先輩の話を、全員真剣に聞いていた。


 「それから大樹、さっきも言ったがお前の勝ちだ。素直に負けを認めよう」

 「えっと、これは喜んでいいのか。まだ大会も途中だし」

 「喜ぶかは任せるが、俺の魔法を耐え切った。それも、逃げる事なく自ら受け止めるという勝負を選んで。その時点で、俺としては満足だったぞ?」


 つまり、俺が逃げないかどうかを見ていたわけか。


 「でもエン先輩、そんな面倒なことをどうして大樹に? 単に気になっただけでここまでするもんですか?」

 「リッシュか、君のこともクリムから聞いてる。そう、俺の目的は別にあったのさ」

 「それは?」

 「まぁ、あえてここでは黙っているよ。余計なことを話すとクリムに怒られるからね」


 先輩は笑いながら話すと、俺たちに背を向けて何処かへ向かおうとする。


 「あっ、そうだ大樹くん。手荒なことをしてすまなかった。今後は困ったことがあれば頼ってきて欲しい。他の三人もね」


 そう言い残して去って行った。

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