君の嘘は僕を救う
5
  揺れが収まったのは、揺れ始めてから数分後のことだった。
  かなり大きな地震だ。
  僕がまだ8歳だった頃に経験した、あの自身よりも、はるかに大きい。
  あの時の、自分にのしかかったタンスの重みが…家族を失った時の苦しみが…蘇る。
「司…?」
  咲凜は不安げに僕に声をかけた。
「手…震えてるけど…大丈夫…?」
  彼女の言葉にハッとなり、手を離した。
「ご、ごめん…」
  僕が謝ると、彼女は穏やかな顔で首をゆっくりと横に振った。
「君が手を握ってくれたから、安心できたよ」
  二人でゆっくりと立ち上がる。
  彼女は一度、ふらついたが「ずっとしゃがんでたせいだね」とクスクスと笑ってごまかしていた。
  そう。ごまかしていた。
  彼女は、日に日に弱っていっている気がする。
  本人の口からは言っていないが、見れば一目でわかった。
  間も無く、津波警報のサイレンが鳴った。
  あの時とは違う、地域によって違う、サイレンの音。
  あぁ。まただ。
  またこの感覚。
「津波がここに到達するまであと1時間…だって。司、どうする?」
「とにかく高台に逃げよう」
  そこまで言った時、僕はふとある事を思い出した。
「美乃梨…。美乃梨は…大丈夫かな」
  電話は、おそらく回線がパンクしていて繋がらないだろう。一応メールを送っておいたが、返事がない。
「…あのね、司ーーー」
「危ない!避けろ!!!」
  僕と彼女への言葉だった。ハッとなった僕たちは、遠くにいる大勢が指差す所を見る。
「……ぁ……!」
  それは、信じられない光景だった。
  建築中だったビルが、こちらに向かって傾いてきている。
  ギギギと鈍い音を立てながら、ゆっくりと倒れてきていた。
  間に合わない…。
  僕はすぐに理解した。
  あのサイズの建物が倒れてきたら、今から走っても間に合わないのだ。
「司。私の手を握って」
  なにかを悟ったように、彼女は言った。
「な、なにを言って…」
「早く!握って!」
  彼女の勢いに押され、言われた通りにする。
  前からはビルが先ほどよりスピードを上げて倒れてきていた。
  目の前までビルが来た。
  もう当たる。
  死を覚悟する。
  目を瞑り、頭に衝撃が走るのを待つ。
……………
………………………
………………………………
  いつまで経っても、僕が死ぬことはなかった。
「……ぇ……」
  ゆっくりと目を開けると、見覚えの全くない場所が、辺り一面に広がっていた。
  沢山のビル。近未来的な見た目をした車。
  咲凜がつけていた「モノ」と見た目が似ている時計をつけた人々が僕の横を通り過ぎていく。
「………よかった。間に合って」
  僕の隣から、咲凜の声がした。
「咲凜……?ここはどこなの…?」
  ついにこの時が来た。と言わんばかりの表情で、彼女は鼻をすんと鳴らした。
「司は…さ。私が未来からやって来たって言ったら、信じる?」
  …どういうことなのだろうか。
「それは、どういう…」
「そのままの意味だよ。ここはね、司君。君が住んでいる世界の16年後の世界。私からしたら、ここは8年前の世界になるんだけどね」
  突然、彼女は僕のことを「司君」と呼んだ。
「じ、じゃあ、君は…もしかして、未来から来たってこと?」
「そ。そういうこと」
  軽い口調で言うので、余計信じられなかった。
  でも、もし彼女が言うことが本当なら、納得のいく点がいくつもある。
『司…ね。私は咲凜(えみり)。よろしくね』
『咲凜…?変わった名前だね』
『…この時代ではね』
『え…?』
『連絡先、交換しとこうよ』
『え!すごい!それ、6!?古い!』
『まぁ、確かに、今は7が出てるしね…』
『いや、そうじゃなくて!だって』
『…やっぱり、何でもない』
『あ!あれすごい!』
『あぁ、ジェットコースターか』
『…じぇっとこーすたー…って言う名前なの?』
『…え?』
  彼女のおかしな言動達の謎が「未来から来た」と言う1つの事実で解ける。
  彼女の言うことを、信じるしかなかった。
「………咲凜。ちょっと待って」
  僕は、前に意識を向ける。
「どうかしたの?」
  公園がある。でも、今とは少し雰囲気が違う。
  16年後の未来の公園。という感じだ。
  遊具も見たことない形をしたものがある。
  でも、「たかが16年」と言っているかのように、僕が住んでいる世界の公園にもどこか似ていた。
  そこから、ゆっくりと、ゆっくりと道路に向かってボールが転がっていく。
  嫌な予感がする。
「…咲凜、ここで待ってて」
  地面を蹴り、走り出す。僕の名前を呼ぶ咲凜の声が聞こえたが、構わずに走り続けた。
  あと少しでボールに辿りつこうとしたところで。
  ………小さな女の子が、ボールを追いかけて道路に飛び出した。
  そこには車が猛スピードで走って来ている。
  当たったら、ひとたまりもないだろう。
「危ない!」
「………っ!?」
  女の子に飛びつき、反対側の道路に二人で……。
  飛んだ。
  車はクラクションを鳴らしながら僕の後ろを過ぎ去っていった。
「ふぅ……大丈夫?怪我はない?」
「…うん。だいじょうぶ」
「司ー!」
  遅れて着いた咲凜は、心配そうに僕を見た。
「え、その子って……」
  などと、呟きながら。
  そして、彼女は目を瞑り、ふふっと小さく笑った。
「…なるほど」
  彼女は小さく声を漏らした。
  かなり大きな地震だ。
  僕がまだ8歳だった頃に経験した、あの自身よりも、はるかに大きい。
  あの時の、自分にのしかかったタンスの重みが…家族を失った時の苦しみが…蘇る。
「司…?」
  咲凜は不安げに僕に声をかけた。
「手…震えてるけど…大丈夫…?」
  彼女の言葉にハッとなり、手を離した。
「ご、ごめん…」
  僕が謝ると、彼女は穏やかな顔で首をゆっくりと横に振った。
「君が手を握ってくれたから、安心できたよ」
  二人でゆっくりと立ち上がる。
  彼女は一度、ふらついたが「ずっとしゃがんでたせいだね」とクスクスと笑ってごまかしていた。
  そう。ごまかしていた。
  彼女は、日に日に弱っていっている気がする。
  本人の口からは言っていないが、見れば一目でわかった。
  間も無く、津波警報のサイレンが鳴った。
  あの時とは違う、地域によって違う、サイレンの音。
  あぁ。まただ。
  またこの感覚。
「津波がここに到達するまであと1時間…だって。司、どうする?」
「とにかく高台に逃げよう」
  そこまで言った時、僕はふとある事を思い出した。
「美乃梨…。美乃梨は…大丈夫かな」
  電話は、おそらく回線がパンクしていて繋がらないだろう。一応メールを送っておいたが、返事がない。
「…あのね、司ーーー」
「危ない!避けろ!!!」
  僕と彼女への言葉だった。ハッとなった僕たちは、遠くにいる大勢が指差す所を見る。
「……ぁ……!」
  それは、信じられない光景だった。
  建築中だったビルが、こちらに向かって傾いてきている。
  ギギギと鈍い音を立てながら、ゆっくりと倒れてきていた。
  間に合わない…。
  僕はすぐに理解した。
  あのサイズの建物が倒れてきたら、今から走っても間に合わないのだ。
「司。私の手を握って」
  なにかを悟ったように、彼女は言った。
「な、なにを言って…」
「早く!握って!」
  彼女の勢いに押され、言われた通りにする。
  前からはビルが先ほどよりスピードを上げて倒れてきていた。
  目の前までビルが来た。
  もう当たる。
  死を覚悟する。
  目を瞑り、頭に衝撃が走るのを待つ。
……………
………………………
………………………………
  いつまで経っても、僕が死ぬことはなかった。
「……ぇ……」
  ゆっくりと目を開けると、見覚えの全くない場所が、辺り一面に広がっていた。
  沢山のビル。近未来的な見た目をした車。
  咲凜がつけていた「モノ」と見た目が似ている時計をつけた人々が僕の横を通り過ぎていく。
「………よかった。間に合って」
  僕の隣から、咲凜の声がした。
「咲凜……?ここはどこなの…?」
  ついにこの時が来た。と言わんばかりの表情で、彼女は鼻をすんと鳴らした。
「司は…さ。私が未来からやって来たって言ったら、信じる?」
  …どういうことなのだろうか。
「それは、どういう…」
「そのままの意味だよ。ここはね、司君。君が住んでいる世界の16年後の世界。私からしたら、ここは8年前の世界になるんだけどね」
  突然、彼女は僕のことを「司君」と呼んだ。
「じ、じゃあ、君は…もしかして、未来から来たってこと?」
「そ。そういうこと」
  軽い口調で言うので、余計信じられなかった。
  でも、もし彼女が言うことが本当なら、納得のいく点がいくつもある。
『司…ね。私は咲凜(えみり)。よろしくね』
『咲凜…?変わった名前だね』
『…この時代ではね』
『え…?』
『連絡先、交換しとこうよ』
『え!すごい!それ、6!?古い!』
『まぁ、確かに、今は7が出てるしね…』
『いや、そうじゃなくて!だって』
『…やっぱり、何でもない』
『あ!あれすごい!』
『あぁ、ジェットコースターか』
『…じぇっとこーすたー…って言う名前なの?』
『…え?』
  彼女のおかしな言動達の謎が「未来から来た」と言う1つの事実で解ける。
  彼女の言うことを、信じるしかなかった。
「………咲凜。ちょっと待って」
  僕は、前に意識を向ける。
「どうかしたの?」
  公園がある。でも、今とは少し雰囲気が違う。
  16年後の未来の公園。という感じだ。
  遊具も見たことない形をしたものがある。
  でも、「たかが16年」と言っているかのように、僕が住んでいる世界の公園にもどこか似ていた。
  そこから、ゆっくりと、ゆっくりと道路に向かってボールが転がっていく。
  嫌な予感がする。
「…咲凜、ここで待ってて」
  地面を蹴り、走り出す。僕の名前を呼ぶ咲凜の声が聞こえたが、構わずに走り続けた。
  あと少しでボールに辿りつこうとしたところで。
  ………小さな女の子が、ボールを追いかけて道路に飛び出した。
  そこには車が猛スピードで走って来ている。
  当たったら、ひとたまりもないだろう。
「危ない!」
「………っ!?」
  女の子に飛びつき、反対側の道路に二人で……。
  飛んだ。
  車はクラクションを鳴らしながら僕の後ろを過ぎ去っていった。
「ふぅ……大丈夫?怪我はない?」
「…うん。だいじょうぶ」
「司ー!」
  遅れて着いた咲凜は、心配そうに僕を見た。
「え、その子って……」
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