君の嘘は僕を救う
4
  翌日。
  姉が作る朝ごはんの匂いで僕は目が覚めた。
  美乃梨は先に起きていたようで、すでに目が覚めていた僕を起こしに部屋に入ってきた。
「つっかさー!!おっは…」
「起きてる起きてる。おはよ」
「なんだ…起きてたんだ。つまんないな〜」
  起きてなかった場合のことは考えたくなかった。
「じゃ、また夕方ね」
  朝ごはんを食べ終わった美乃梨は一言、僕にそう告げると家を後にした。
  姉には「お邪魔しました」とぺこりと頭を下げた。
  祭りに行く準備をしなければ。
  服装は私服なので、別に何か特別な準備をしなければいけないわけではないが、他にもやらねばならないことが沢山あった。
  準備の途中で昼になり、姉が用意してくれた昼食を食べた。
  咲凜から電話がかかってきたのは、ちょうど昼食を食べ終わった時のことであった。
『司。君に話さなきゃいけないことがあるの』
  電話の切り出し方は、だいたいそんな感じだった。
「ごめん、今祭りに行く準備をしてるんだけど、終わってからで…」
『それはしなくていいの』
  彼女の真剣な声が、僕の言葉に覆いかぶさるように聞こえた。
  思わず、僕は途中で話すのをやめてしまった。
「…なんで…?」
『とにかく、会って話がしたい』
  彼女は最後に「お願い」と一言を添え、黙り込んでしまった。
  おそらく、僕の返事を待っているのだろう。
「……………分かった」
  いつもとは雰囲気の違う彼女の声に、僕はただならぬ事態なのだと判断し、彼女に会うことにしたのだった。
  午後1時15分。公園にある大きな時計は今日もカチンと大きな音を立てて時間を伝えていた。
  話さなければいけないこととは…何なのだろうか。
  いつもの元気が、先ほどの電話にはなかった。緊急事態。そう伝えているような気がした。
「司!」
  後ろから勢いよく手を掴まれ、僕は彼女に振り向いた。
  彼女は息を切らし、今にも倒れそうなくらいにふらついていた。
「咲凜…?顔色悪いけど、具合悪いんじゃ」
「…早く……早くここから離れないと…!」
  僕の言葉を遮って、そう言った。
「えーっと…えーっと…こっち!」
「うわっ!」
  力強く握られていた僕の腕は、さらに力強く引かれた。
  僕は彼女の力に身を任せ、行き先がわからないままその場を後にした。
                                     ◯
  失態だ。
  一番大事なこの日に、私は寝坊した。
  前日の疲れというものもあったが、一番の原因は「ここ」に長く居座りすぎた事だ。
  こうなることは最初から予測はできていたのだが、ここまで苦しいものだとは思わなかった。
  ホテルにある公衆電話から司君に電話をかける。
  レトロな呼び出し音が二回程なった後、彼は電話に出た。
「司君に話さなきゃいけないことがあるの」
  挨拶も、前置きもなく言った。
  私には…いや、私「達」には時間がないから。
『ごめん、今祭りに行く準備をしてるんだけど、終わってからで…』
  そんなものは。
「それはしなくていいの」
  やる必要はない。
  祭りは中止になるからだ。
『…なんで…?』
「とにかく、会って話がしたい」
  今日私は。私が君についていた嘘を明かさなければいけない。
  私の手帳には、今行なっている「司君に電話」というメモ以降に書かれているものはない。
  そう。これからは私の行動次第で運命が変わるのだ。
  午後1時15分。公園に着いて確認した時間。
  あと五分。本当に時間がない。
「司!」
  私に背中を向けていた彼の腕を、強く掴んだ。
  目眩がする。全身に力が入らない。今にも倒れてしまいそうだ。
「咲凜…?顔色悪いけど、具合悪いんじゃ」
  それは、彼も見て分かったらしい。
  でも、そんなことを話している場合ではない。
「…早く……早くここから離れないと…!」
  彼の言葉を遮って、私は言った。
「えーっと…えーっと…こっち!」
「うわっ!」
  彼の腕を強く引っ張り、走り出した。
  あの時とは違って、彼は大きくなっていて。
  もう背中に背負って走ってあげることはできない。
  でも、手を引いてあげれば、一緒に走れる。
  君を救いたい気持ちは今も変わらない。
  だから、必ずやり遂げてみせる。
  腕時計を確認する。
  あと1分30秒。
  長い間走り続け、公園からかなり離れた場所にたどり着いた。
  身体は限界を迎えている。
「はぁ…はぁ…」
  彼も私も激しく息を切らしている。
「司、よく聞いて」
  早く言わなきゃ。
  …そう思った時。
  私の腕時計は、音と振動で時間切れだということを告げた。
「遅かった……っ」
                 2017年6月12日。
                        13時20分。
  今日は、今日からちょうど8年前に起きた大地震の記録を大きく塗り替えるほどの、歴史的な大震災の日だった。
  地面が大きく揺れ、私はあたふたとしてしまう。
  逃れられない恐怖が私の体を石のように固めてしまった。
「……っ!」
  体に力が入らず、その場に尻餅をついてしまう。
  周りの人は悲鳴をあげながらその場にしゃがみこんだり、柱に捕まったりしていた。
「咲凜…!二人で固まるんだ!」
「え…?」
「しゃがんだままでいい。周囲を見回して、建物が崩れてきたり、柱が倒れてきたらこの場を離れよう!」
  私の手を握った彼の手は。
  微かに震えていた。
  姉が作る朝ごはんの匂いで僕は目が覚めた。
  美乃梨は先に起きていたようで、すでに目が覚めていた僕を起こしに部屋に入ってきた。
「つっかさー!!おっは…」
「起きてる起きてる。おはよ」
「なんだ…起きてたんだ。つまんないな〜」
  起きてなかった場合のことは考えたくなかった。
「じゃ、また夕方ね」
  朝ごはんを食べ終わった美乃梨は一言、僕にそう告げると家を後にした。
  姉には「お邪魔しました」とぺこりと頭を下げた。
  祭りに行く準備をしなければ。
  服装は私服なので、別に何か特別な準備をしなければいけないわけではないが、他にもやらねばならないことが沢山あった。
  準備の途中で昼になり、姉が用意してくれた昼食を食べた。
  咲凜から電話がかかってきたのは、ちょうど昼食を食べ終わった時のことであった。
『司。君に話さなきゃいけないことがあるの』
  電話の切り出し方は、だいたいそんな感じだった。
「ごめん、今祭りに行く準備をしてるんだけど、終わってからで…」
『それはしなくていいの』
  彼女の真剣な声が、僕の言葉に覆いかぶさるように聞こえた。
  思わず、僕は途中で話すのをやめてしまった。
「…なんで…?」
『とにかく、会って話がしたい』
  彼女は最後に「お願い」と一言を添え、黙り込んでしまった。
  おそらく、僕の返事を待っているのだろう。
「……………分かった」
  いつもとは雰囲気の違う彼女の声に、僕はただならぬ事態なのだと判断し、彼女に会うことにしたのだった。
  午後1時15分。公園にある大きな時計は今日もカチンと大きな音を立てて時間を伝えていた。
  話さなければいけないこととは…何なのだろうか。
  いつもの元気が、先ほどの電話にはなかった。緊急事態。そう伝えているような気がした。
「司!」
  後ろから勢いよく手を掴まれ、僕は彼女に振り向いた。
  彼女は息を切らし、今にも倒れそうなくらいにふらついていた。
「咲凜…?顔色悪いけど、具合悪いんじゃ」
「…早く……早くここから離れないと…!」
  僕の言葉を遮って、そう言った。
「えーっと…えーっと…こっち!」
「うわっ!」
  力強く握られていた僕の腕は、さらに力強く引かれた。
  僕は彼女の力に身を任せ、行き先がわからないままその場を後にした。
                                     ◯
  失態だ。
  一番大事なこの日に、私は寝坊した。
  前日の疲れというものもあったが、一番の原因は「ここ」に長く居座りすぎた事だ。
  こうなることは最初から予測はできていたのだが、ここまで苦しいものだとは思わなかった。
  ホテルにある公衆電話から司君に電話をかける。
  レトロな呼び出し音が二回程なった後、彼は電話に出た。
「司君に話さなきゃいけないことがあるの」
  挨拶も、前置きもなく言った。
  私には…いや、私「達」には時間がないから。
『ごめん、今祭りに行く準備をしてるんだけど、終わってからで…』
  そんなものは。
「それはしなくていいの」
  やる必要はない。
  祭りは中止になるからだ。
『…なんで…?』
「とにかく、会って話がしたい」
  今日私は。私が君についていた嘘を明かさなければいけない。
  私の手帳には、今行なっている「司君に電話」というメモ以降に書かれているものはない。
  そう。これからは私の行動次第で運命が変わるのだ。
  午後1時15分。公園に着いて確認した時間。
  あと五分。本当に時間がない。
「司!」
  私に背中を向けていた彼の腕を、強く掴んだ。
  目眩がする。全身に力が入らない。今にも倒れてしまいそうだ。
「咲凜…?顔色悪いけど、具合悪いんじゃ」
  それは、彼も見て分かったらしい。
  でも、そんなことを話している場合ではない。
「…早く……早くここから離れないと…!」
  彼の言葉を遮って、私は言った。
「えーっと…えーっと…こっち!」
「うわっ!」
  彼の腕を強く引っ張り、走り出した。
  あの時とは違って、彼は大きくなっていて。
  もう背中に背負って走ってあげることはできない。
  でも、手を引いてあげれば、一緒に走れる。
  君を救いたい気持ちは今も変わらない。
  だから、必ずやり遂げてみせる。
  腕時計を確認する。
  あと1分30秒。
  長い間走り続け、公園からかなり離れた場所にたどり着いた。
  身体は限界を迎えている。
「はぁ…はぁ…」
  彼も私も激しく息を切らしている。
「司、よく聞いて」
  早く言わなきゃ。
  …そう思った時。
  私の腕時計は、音と振動で時間切れだということを告げた。
「遅かった……っ」
                 2017年6月12日。
                        13時20分。
  今日は、今日からちょうど8年前に起きた大地震の記録を大きく塗り替えるほどの、歴史的な大震災の日だった。
  地面が大きく揺れ、私はあたふたとしてしまう。
  逃れられない恐怖が私の体を石のように固めてしまった。
「……っ!」
  体に力が入らず、その場に尻餅をついてしまう。
  周りの人は悲鳴をあげながらその場にしゃがみこんだり、柱に捕まったりしていた。
「咲凜…!二人で固まるんだ!」
「え…?」
「しゃがんだままでいい。周囲を見回して、建物が崩れてきたり、柱が倒れてきたらこの場を離れよう!」
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