君の嘘は僕を救う
2
  姉の病状が悪化したのは、僕が咲凜と遊園地に行き、帰りに美乃梨と公園で話した翌日のことだった。
  学校が完全下校の時間になり、僕がいつも通り本を読みながら美乃梨を待っていた時、病院から学校へ連絡があったのだ。
『容態が急変したのですぐに駆けつけて欲しい』
  病院からの連絡内容はあらかたそんな感じだった。
  美乃梨に事情を告げて先に帰ろうとすると、頑なに断られ、結局一緒に行くことになってしまった。
  2人で走って病院へ向かう。汗も息切れも、美乃梨は部活疲れも、僕達は気にすることなく必死で走った。もっと早く、1秒でも早く。そんな思いで走り、病院に着いたのは学校を発ってから数十分後のことだった。
  病室に入ってすぐに、姉の顔を見た。
  昨日より痩せている気がする顔。口には酸素マスクが付けられ、ベットの横には心電計。『死』という目に見えない悪魔が姉を蝕んでいるということが改めて伝わったのだった。
「あーあ…お姉さんとお話ししたかったのになぁ」
  姉のベットの横に椅子を置き、腰掛けていた美乃梨は、姉を見ながら突然言った。
  両手を後頭部に当て、足を組み、窓から見える外の景色を眺めながら短くため息を吐くその様子は、昔から変わらないボーイッシュな幼馴染の美乃梨そのものだった。
「呑気だね。お姉ちゃん死にかけてるのに」
「そう言う司だって。もっとあたふたすると思ったけど」
  本当はとても心配なのだ。でも、どこか心の準備をしてしまっている自分がいる。残念ながらそれが現実だ。
  外から吹き付ける風が強く、いまだに意識が戻らない姉の髪の毛を揺らす。
  病室の中は風の音、美乃梨のため息、僕の深呼吸と空気の流れの音のみが聞こえていた。
  誰も話さない。
  長い長い沈黙の時間が過ぎる。
「…ねえ、司。」
  そして、しばらく続いた沈黙の時間を、美乃梨は一言で終わらせた。
「お姉さん、死んじゃうの?」
  あまりに唐突すぎる言葉だったので、僕は言葉を失ってしまう。
「……っ」
  美乃梨も息を呑んだのがわかった。
  その質問に、僕はなんと答えれば一番良い結果に辿り着けるだろうか。そもそも、僕がこう考えている間に答えは伝わってしまっているのでは無いだろうか。
「…………死なないよ」
  そう信じたいから。僕はそう答える。
「絶対に死なないよ。『あの時』だって、お姉ちゃんは助かったんだから。病気でなんて死ぬわけがない」
  自分に言い聞かせるように。そして、現実から目を背けるように。
「…そうだよね。あのお姉さんが亡くなるわけがない。大丈夫だよね」
  今にも泣き出しそうな震えた声で話す美乃梨を見ると、僕の心は得体の知れない強い力によって心を締め付けられた。胸が痛い。心が、とてつもなく痛い。
  結局、僕達が病室にいる間に姉が目を覚ますことはなかった。
  病院を出た頃には、日が暮れ始めていた黄金色の空がすっかり暗闇に変わり、星々が輝いていた。
「また明日、一緒にお見舞いに行かない?」
  美乃梨の突然の提案に驚いたが、僕は黙って頷いた。
「きっと、明日には目を覚ますから大丈夫だよ!」
「………そう…だね。うん…きっとそうだ」
  美乃梨がいなかったら、僕は今頃どうなっていただろうか。
「美乃梨。ありがとう」
「ん?え?えっと…どういたしまして…?」
  それじゃあ、また明日。そう言いかけた時。
「あ、いたいた」
  遠くから、聞き覚えのある声がして。
「司ー!」
  その声は、僕の名前を呼んだのだった。
  声の主は、咲凜だった。
  学校が完全下校の時間になり、僕がいつも通り本を読みながら美乃梨を待っていた時、病院から学校へ連絡があったのだ。
『容態が急変したのですぐに駆けつけて欲しい』
  病院からの連絡内容はあらかたそんな感じだった。
  美乃梨に事情を告げて先に帰ろうとすると、頑なに断られ、結局一緒に行くことになってしまった。
  2人で走って病院へ向かう。汗も息切れも、美乃梨は部活疲れも、僕達は気にすることなく必死で走った。もっと早く、1秒でも早く。そんな思いで走り、病院に着いたのは学校を発ってから数十分後のことだった。
  病室に入ってすぐに、姉の顔を見た。
  昨日より痩せている気がする顔。口には酸素マスクが付けられ、ベットの横には心電計。『死』という目に見えない悪魔が姉を蝕んでいるということが改めて伝わったのだった。
「あーあ…お姉さんとお話ししたかったのになぁ」
  姉のベットの横に椅子を置き、腰掛けていた美乃梨は、姉を見ながら突然言った。
  両手を後頭部に当て、足を組み、窓から見える外の景色を眺めながら短くため息を吐くその様子は、昔から変わらないボーイッシュな幼馴染の美乃梨そのものだった。
「呑気だね。お姉ちゃん死にかけてるのに」
「そう言う司だって。もっとあたふたすると思ったけど」
  本当はとても心配なのだ。でも、どこか心の準備をしてしまっている自分がいる。残念ながらそれが現実だ。
  外から吹き付ける風が強く、いまだに意識が戻らない姉の髪の毛を揺らす。
  病室の中は風の音、美乃梨のため息、僕の深呼吸と空気の流れの音のみが聞こえていた。
  誰も話さない。
  長い長い沈黙の時間が過ぎる。
「…ねえ、司。」
  そして、しばらく続いた沈黙の時間を、美乃梨は一言で終わらせた。
「お姉さん、死んじゃうの?」
  あまりに唐突すぎる言葉だったので、僕は言葉を失ってしまう。
「……っ」
  美乃梨も息を呑んだのがわかった。
  その質問に、僕はなんと答えれば一番良い結果に辿り着けるだろうか。そもそも、僕がこう考えている間に答えは伝わってしまっているのでは無いだろうか。
「…………死なないよ」
  そう信じたいから。僕はそう答える。
「絶対に死なないよ。『あの時』だって、お姉ちゃんは助かったんだから。病気でなんて死ぬわけがない」
  自分に言い聞かせるように。そして、現実から目を背けるように。
「…そうだよね。あのお姉さんが亡くなるわけがない。大丈夫だよね」
  今にも泣き出しそうな震えた声で話す美乃梨を見ると、僕の心は得体の知れない強い力によって心を締め付けられた。胸が痛い。心が、とてつもなく痛い。
  結局、僕達が病室にいる間に姉が目を覚ますことはなかった。
  病院を出た頃には、日が暮れ始めていた黄金色の空がすっかり暗闇に変わり、星々が輝いていた。
「また明日、一緒にお見舞いに行かない?」
  美乃梨の突然の提案に驚いたが、僕は黙って頷いた。
「きっと、明日には目を覚ますから大丈夫だよ!」
「………そう…だね。うん…きっとそうだ」
  美乃梨がいなかったら、僕は今頃どうなっていただろうか。
「美乃梨。ありがとう」
「ん?え?えっと…どういたしまして…?」
  それじゃあ、また明日。そう言いかけた時。
「あ、いたいた」
  遠くから、聞き覚えのある声がして。
「司ー!」
  その声は、僕の名前を呼んだのだった。
  声の主は、咲凜だった。
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