色々な物語

ちぃびぃ

其の弐:戦場での出会い

そこにいたのは天使だった。

腰まで届く長い銀髪。

太陽の光が反射しそうなぐらいの白い肌。

そして澄んだ翡翠色の瞳。

その少女の周りには無数の屍があった。だがそれも霞むぐらいその少女が凛々しくもあり、美しくもあった。
しかし運命とは残酷で彼女とは分かり合えない。これは少年と少女の戦いの記録。




とある戦場で少年は何人目を斬ったか分からないぐらいに周りに屍の山を作っていた。

「もうちょい手応えはないのかねぇ」

少年はそう言いつつ歩いた。少し歩いたところで少年は止まった。その目線の先には一人の少女がいた。
少年は戦場だというのに柄にもなくその少女に見蕩れていた。
不意に少女がこちらを見る。

「っ……」

少年はその美しさに硬直した。同時にぞくりと悪寒を感じた。

「……っ!」

少女が殺気を放ちながらこっちに駆けてくる。少年は慌てて剣を構えるがそのときには少女が目の前まで来ていた。
剣と剣が交わる。ギィン!と音を鳴らしてそのまま鍔迫り合いになるかと思いきや不意に少女が一歩後ろに引いた。

「な……」 

少年は不意をつかれバランスを崩し尻もちを着いた。その好機を少女が見逃す訳もなくさらに追い打ちを掛ける。

「はぁぁぁっ!!」

これで終わりだと言わんばかりに連撃を重ねる。だが少年は手首の切り返しだけで全て防いでしまう。

「な、に……」

勝利を確信したはずが全て防がれたため少女に動揺が走った。少年はこれを機に大きく剣を横にないだ。

「はぁっ!」

「ぐっ……」

少女は後ろに後退する。少女は体勢を整え再び剣を構え、少年は立ち上がりしっかりとこちらを見据える。その瞳には闘志が見えた。

(ふ、面白い)

少女は再び駆けた。少年も同じく駆け出す。
剣が再び交わろうとしたとき少年はスピードを落とす。少女は止まることなく少年の横を過ぎようとする。

(これはまずい!)

少女は剣を前に構えていて少年は剣を振るってくる。防御は間に合わない。そう確信した少年は剣を振るう。

「な……!」

ギィン!と剣と剣がかち合う。少女が間に合わせたのだ。さすがの反射神経というしかない。
そしてそのまま斬り合いが始まった。

(速い、鋭い、重い……!)

少女の放つ剣は早く、鋭いだけでなく一撃一撃が重たいという三拍子が揃っていた。そのまま少年が押される形で斬り合いが続く。

(なんなんだこいつは)

押しているはずなのに押しきれない。なぜなら少年が自分の剣を全ていなすのだ。
自分の剣には自信がある少女は焦っていた。すると突然少年が腕を下げた。

(!、勝機)

少女はその好機を見逃す訳もなく全力で振りかぶる。そして少女は見た。少年が笑うところを。ぞくりと嫌な予感がした。
不利な状況からの逆転。これは先程やられた手だ。少年が剣を振るう。その速さは少女よりも速い。
ずがぁんッ!と少女が大きく後ろへ吹き飛んだ。

「ぐぅ……」

少女が呻く。完全には防御できていないがどうにか致命傷だけは避けた。相手は追ってこない。さっきのでだいぶ体力を持っていかれたのだろう。
少女は立ち上がる。致命傷ではないものの立つのやっとだった。しかし少女は最後の力を振り絞り駆ける。

一方少年もさっきの攻撃で力を出し切っていた。だが少年も最後まで力を出し切るために駆けた。

●●●

二人とも斬るのではなく突きを放った。しかし二つの剣は二人を貫く手前で止まった。

「…………」

「…………」

数秒の静寂がその場を支配する。

「……っ!」

少年が突然剣を下ろした。

「今日はもういい。今回は引き分けだ。だが……」

少年はそう言いながら少女を見る。

「次は負けない。必ず勝つ」

少年はそう残し少女のもとから去っていく。




少女は王女だった。だがその肩書きがある一方、もう1つ姫騎士としての役割も持っている。
なぜなら自分の身は自分で守るために。大切なものを失わないために。

「……ふぅ」

少女はベッドに寝転んでいた。お風呂上がりで体全体が少し赤く火照っている。

(あいつはなんだ?強すぎるぞ)

考えるのはあのときの戦い。決まった、と思っていた一撃がことごとくいなされる・・・・・

「調べてみよう」

少女はベッドから離れてあるところに向かった。




「強かったな……」

自分と渡り合える存在なんて1度も会ったことがないため軽くない衝撃を受けた。

(何者だったんだろう?)

「ま、いいや泊まるところ探さないと」

疑問は残るがひとまずは宿を探すのが先だった。

しかし二人はまだ知らない。こんなにも早く会うとは思わなかっただろう。




静かに風が吹いてるなか二人の少年少女はいた。少し遠くからは喧騒と剣戟の音が微かに聞こえる。

少女が地に伏している。

(こんなことはしたくなかった……)

少年が思い出す。それは一時間前のこと。

●●●

「私と勝負しろ!」

「………え?」

突然言われたその言葉に驚きを隠せなかった。

「なんでここが分かったの?」

純粋な疑問を述べる。それに対して少女は

「なに、簡単なことだ。多くの兵が見境なく倒されてると聞いてな。もしかしたらと思ったのだ」

さも当然のように言った。

「そんなことはどうでもいい。はやく私と勝負しろ」

「なんでそんなこと……」

「いいから黙って戦え!」

少女はそう言って剣を振るってきた。

「あぶなっ」

間一髪それを避ける。

「さすがにやるな『幻想の幽鬼』」

「っ、なぜそれを」

「貴様については調べたからな」

少女はそう言い三連撃を放つ。

「くっ……」

それを全て受けきる。少年はすぐに反撃した。しかし普通に受け止められる。

「この前の私と思うなよ……はぁっ!」

少女は剣を大きく振って少年を後退させた。だが少年はすぐに少女のほうへ向かう。

「太陽よ我に加護を!」

少女が叫ぶと剣が光った。

「がはっ」

少年が大きく吹き飛ばされる。

「う、ぐ……」

(なんだ今のは……?)

考えながら立ち上がる。致命傷ではないものの防御もままならないまま攻撃を受けたのでうまく動けない。

「どうしたもう終わりか?」

少女が不敵な笑みを浮かべる。次の攻撃がくる。再び少女の剣が光る。少年は横へ跳躍する。

「なに!?」

紙一重で避けられた。なぜ、と思いながらも三度目を放つ。だがそれもまた紙一重で避けられてしまう。

(見切られたか……?)

「いや、見切ったわけじゃない」

少女の考えを見透かしたように答える少年。

「それではなぜ避けられる?」

少女が問う。

「簡単なことだよ。君の剣は光を放っているね」

「そうだ」

驚きはしない。熟練の者なら見抜くからだ。

「なら、放つ前に避ければいい」

「な……」

これは驚いた。言うのは簡単だが行うにはほぼ不可能といってもいい。光の速さは毎秒約30万キロメートルだ。放てば気付かぬうちに当たっている。

「なにを馬鹿なことを……!」

「俺にはできる」

少年の体がパチパチとスパークしている。

「これは液中プラズマ現象」

液中プラズマとは液中における気泡の内部にプラズマが生成された状態であり、超音波で液中に気泡を発生させ、その気泡に電磁波を照射することで起こる。体液を剣で超音波をだし気泡を発生させ、もう1つの剣・・・・・・で電磁波を出し、体をプラズマ化したのだ。

「避けれたのは君のおかげ」

「私が……?」

プラズマ加速ー電子ビームをプラズマに入射し、プラズマ中の急峻な構造によって生成される電場を用いて加速を引き起こす。

「ここでの電子ビームとは君が放つ光のこと。放つ前に光るからそれで加速できる。だから避けれた。間一髪だけど」

(人間にそんなことが出来るのか?)

「今から本気でいくよ」

少年は剣を捨て背中にあるものを腰に差して抜いた。

「それは……カタナというやつか」

「刀を知っているとはな」

「形が珍しかったのでな」

「そうか……いくぞ」

少年が目の前から消える。

「くっ……」

少女は反射的に横に剣を構えた。ギィンっ!と剣と刀が重なる。

「よく受け止めたな。だが次はどうだ」

少年が再び消える。ギィン、ギィンと2度、3度と打ち合っているが少しずつ押されてきてる。

(これはまずい……!)

「太陽よ!」

あたり一帯が白くなる。光の衝撃波。これには少年も後退せずにはいられなかった。

(次で決めないと。じゃないとやられる!)

「私の本気をみせる!」

少女は剣を両手で持ち胸の前で剣先を上にして構える。剣が徐々に輝きを増している。

(あれは危険だな)

少年の本能が警鐘を鳴らす。

(だが、引く訳にはいかない!)

少年は刀を鞘に戻し目を閉じ、腰を低くして構える。
両者ともその場から動かない。動いたとき勝負が決まる。

少女は剣に全てを込め

少年は神経という神経まで研ぎ澄まし

「・・・・・」

「・・・・・」

一瞬の静寂

「……っ!」

先に動いたのは少女だった。少女が光を極限までに剣に集中させた聖なる一撃。

極彩陽光オーロラプロミネンス!!!!!」

剣から放たれる極大な光の柱。それはさながら太陽の一端のように赤く激しく、オーロラのように美しかった。
普通の人間なら何も出来ずに灰も残らず消されているが相対しているのは規格外の相手。

(掛かった!)

案の定、少年は横に跳びそれを避ける。少女はそれを予測して走っていた。

「!」

少年は目を閉じながらも少女が来ることが分かっていた。少女の剣は先ほどよりも輝きが小さくなっているがその分鋭さが増している。
少年は腰を低くして構える。
少女が剣を振るう。それは今までの速さとは次元が違うまさに光速と呼べるものだった。
少年に剣が迫る。そのとき少年が目を開いた。鞘から刀を抜き、少女の剣と交錯する。キィンと音が鳴り少女の剣が折れる。少年はそのまま身体を回転させ少女に向かって走り抜ける。すれ違いざまに刀を振った。
ザンっと確かな手応えがした。
カウンターを得意とする少年は後の先を取らなければいけなかった。

相手の動きを見抜き

相手の攻撃を読み

相手の隙をつくる

それがプラズマ化した少年が繰り出す一撃の速さで二撃放つカウンターの奥義

瞬刻しゅんこく   [二極にきわめ]」




少年は地に伏した少女を見下ろす。

「大丈夫か」

「……そ、う見え、るか?」

「・・・・・」

沈黙を肯定としたのか少女は話す。

「せめて、せめて一撃はいれたかった、な……」

「他のやつなら避けれない。俺も危なかった」

「慰めは、いらない」

「慰めなんかじゃない。……ていうかもう話すな。傷が悪化するぞ」

「じ、自分の身体はよく知っている」

「…………そうか」

そのまま二人とも黙り込む。

「なあ」

不意に少女が話しかけてくる。

「なんだ。ていうか話すなと……」

「私は貴様が好きだ」

「・・・・・」

「こんな気持ちは、初めてだった。だが戦う、しか、なかった。私は王女、だから皆を、守る義務が、ある」

途切れ途切れに聞こえる少女の声。だが次第に小さくなっていく。

「なあ、きさま、はどうおも、う……」

「……俺だって、俺だって好きだよ!一目見た時から。でも多分無理だ、って感じたんだ」

「そ、うか……」

少女は満足そうに笑顔をつくった。初めて見る笑顔はとても可愛らしかった。

「そろ、、そろげんか、、いみたい、、だ」

「まてよ!まってくれよ!!やっと通じ合ったんだ。もっと傍にいたいんだよ!もっとその笑顔を見せてくれよ!!……こんな、こんな終わり方ってねぇよ」

「さ、最後にそんな素敵な告白が聞こえるとは、な」

「最後とかいうんじゃ……」

ねぇと言おうとしたが言えなかった。なぜなら少女によって口を塞がれたからだ。

「っ……!」

甘く柔らかい少女の唇。少年はその感触を忘れまいともっと深くキスをする。

「……!」

少女は微かに目を開いたが身を任せるように目を閉じた。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅく、ちゅくと何度も何度も二人はキスを続ける。ときには優しく、ときには激しくこのまま永遠にずっと続けばいいと思ったが長くは続かない。
少女が口を離す。

「ありがとう、こんなにも胸がいっぱいなのは初めてだよ。好きになったのが君で良かった」

「……俺も好きになったのが君で良かったよ。こんなにも幸せなんだからな」

「一つ、お願いを聞い、、てくれる、か?」

「……ああ」

「ずっと私の一番でいてくれ」

「そんなの当たり前に……」

「例え、他に好きな人ができてもずっと君の一番がいいんだ。

今ここにいる私は死ぬ。

でも君の心の中で私は生きていける。

君が忘れない限り永遠に。

……約束して、くれるか?」

「あ、当たり前だ!!

なにがあろうと一番は君だ。

目の前にいなくても俺の心で永遠にいなくなることなく、

永遠に、

一番に、

君のことを愛し続けるから。」

「ふふっ、ありがとう」

少女はそう言って少年にキスをした。少し触れるぐらいの優しいキス。それはまるで「私が一番だ」と言っているようだった。

そして少女は息を引き取った。

少年は誓う

「ずっと忘れないから。

    ずっと愛し続けるから。

    ずっと一番だから。」

                                                                                ~Fin~

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