S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜

英雄譚

第50話 『■竜の■伐!?# ■』

 



 ■■■■■■



 ーーー空から地上へと容赦なく叩きつけられる感覚は、今まで何度も味わってきた事がある。幾度も幾度も、数えきれないほど何度もだ。

 そんな自慢話を一人思っている自分がいたが、今回のはそんな生易しい感覚ではなかった。地上へと到達する直前、衝撃を備えるための姿勢を自然にとっている自分がいたが、あの高さから落下したらとてもじゃないが無傷では済まされないのは目にみえている。

 黒竜の胴体によって砕かれた地面、落下の衝撃で吹っ飛んでいく周囲の木々や生物。
 僕もまた黒竜の背中に突き刺さった短剣の柄を離してしていた。無論、想像を遥かに超えるぐらいの勢いで、地面に容赦なく体を叩きつけられてしまった。

 鼻血を撒き散らしながら、地上を転がっていく自身のひ弱な体。骨の髄まで響いていく激痛。内臓が潰れてしまったような感覚。
 重なり合う無数の痛みによって、自然と続いていた呼吸が一瞬だけ機能を失ってしまう。

「がは!?」

 口から飛び散る僅かな血しぶき。
 認識する前にまた背中に激痛が走っていた。それも比べられない程の感覚だ。しかし、同時に体の回転がピタリと止まっていた。地面に横向きで倒れながら、ゆっくりと背後へと目線を移動させるとそこには、巨大で歪な形の岩があった。
 どうやらこの岩に衝突したおかげで体の回転の勢いが完全に殺されたらしい、だが不幸にも背骨を何本かはポッキリと折ってしまった。

「はぁ….…ああ」

 立ち上がるのもやっとの状態だが、めり込んだ岩の部位に手をかけながら苦しみを必死に追い払って立ち上がってみせた。そして今、どのような経路で辿り着いたのかも分からない感情に心が黒く支配されていた。
 目の前で自分のように苦しみもがいている無残な姿の黒竜を凝視しながら思ってしまう。


 ーー下等な生物ごときが……殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる。生き絶えるまで殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。


 明らかに自分ではない何かが、心の隅でそう思いながら僕の意思を無視するようにその欲を実行しようとしている。
 取り憑かれたように虚ろになっていく自身の瞳、胸の皮膚を侵食し黒く変色させた忌々しい黒魔力の拡大していく奇怪な音。

 サイクロプスに向けた憎悪、見下し舐め腐った感情に何処と無く似ている感覚に思考が囚われ始める。嫌な気分ではない、むしろこの瞬間が心なしか一番気持ちが良いような気がした。本来の僕ではないを受け入れる…………いや、そんな事はもうどうでもいいじゃないか。

 薄暗い脳裏の中を隠れるように潜んでいた人影が、邪魔だと言わんばかりの僕の全てを遮るように薄っすらと、誰に向けているのかも分からない笑みを一人浮かべていた。
 この世界にいる僕を否定するかのような、また僕のこれから成そうとしている行動、湧いてくる衝動や感情、感覚や全て拒絶している。

 軽蔑するような瞳。
 いつの間に眼前には、自分にとても似た瓜二つの青年が僕の表情を不思議そうな顔で覗き込んでいた。
 震える口を開け閉めしながら動揺する僕を見下すように、決して動かずに僕をずっと見続ける。

『ーーやっぱり回りくどいんだよねぇ。毎回毎回キミという奴は………』


 瞬間、何が起きたのかは分からない。
 青年の腕がすり抜けるように僕の体の黒い部分である胸を貫き、そしてなにかしら引き抜いた動作だけは確かに自身のこの目でも捉える事ができていた。
 あらゆる神経と五感を失い、また魂のような物体が青年の手の中へと握られるまで………僕は奴の行動の意図が何一つ理解出来なかった。

 そして段々と薄気味悪くなっていく青年の浮かべた笑みを、ただひたすら見届けるしかない無力な自分がいた。

『少しだけだ。なんせ、キミが絶命してしまっては…………誰がこの世界を見届けるのだ?」

 その言葉を最後に青年は僕に背を向ける。
 そして暗闇の先に差しかかり始める白い光へと目を向けながら、僕をこの空間に残して青年は歩き去って行ってしまった。

 ーー途端、走馬灯のように繰り広げられる映像が僕の意識の中へと、急に大量に流れこんできた。

『■王の誕■する世界。私の■言には無か■■はず……』『お前■協■さえすれ■、■は死な■に済んだ……!!  ■■ニー■!』『お前が■ん■いた』


『………お兄ちゃん、やめて、来ないで。お願いだから殺さないで、もう殺さないで』


『■人目の使■』『■■を我が蹂■しよう。それが■の■讐だ』『我■が七大使徒■し■貴方に忠■を誓いましょう。■人王■■ン様、いや■王様』『次なる■王の為の成人の■だ、失望■せるな』『■は■王なんかな■たいとは■った■とはない』『■まれてくる■供にどのような■力が授け■れるのか、楽し■だわ』

 流れていく無数もの長い歴史。
 見たことも遭遇したこともない場面と光景。
 耳の奥に響く数えきれない程の奇怪なノイズ。

 ーーそして最後に、燃える我が家を前に父さんが七大使徒のビリーと会話している映像が流れた。

『代々から語り継がれている歴史は、我々の先祖が都合の良い嘘に塗り替えられた出任せに過ぎないのです。あの方が望んだもの全てが正しい。最初から我々はあの■■の贈り物に頼らなければよかった。それが原因となり、人族に魔力が授けられて以来、世界の理が悪化していってしまったんです』

 その言葉を最後に父さんはなにかを小さく呟き、その後ビリーの手によって首を刎ねられてしまう。ただそれだけ。元々記憶に残っているし、今でも鮮明に覚えている光景だ。のにも関わらず何故いま思いだしたのだろうか?
 愕然とする僕に追い打ちをかけるように、終わったかと思われた走馬灯が見慣れない最後の映像に停止した。


 ーーそれは、龍人族の長であるシオンと精霊樹の管理者である賢者ミアがかつて子供であった姿で、とある丘の上で向き合いながら笑い合っている微笑ましい光景だった。



 ※※※※※※



 ーーーあ、ああ。

 砂埃が舞い、霧のように蔓延した視界。
 目の前、砂埃によって姿を妨げられた巨躯はすぐ側で地を踏んだ。刹那、その動作だけで大きな振動が僕の身を震わせてしまう。

 大きく広げられた翼が強風を引き起こし、周囲を取り巻くように蔓延した砂埃を軽々しくと吹き飛ばす。その唸り声を発する恐ろしい姿が現れた瞬間、僕は後ずさりではなく意外にも前へと一歩踏み出していた。

 不思議と恐怖という感情は湧いてこない。むしろ黒竜の方が眼前で歩んでくる僕に警戒して、一歩後ろに引き下がっていた。
 瞬間、その光景を目にした僕が抱いたのは信じられないものだった。

 ーー優越感。

 この状況を前にして自身を目の当たりにして恐れなかった人間は誰一人として居なかったのだろう、黒竜は意外な事に対して驚きをみせるより……僕という存在に恐怖を覚えていた。

『ーー跪け』

 武器が無いことを承知しながらも僕は黒竜へと自身の腕を横に振るっていた。
 黒竜はその訳の分からない僕の動きに目を細め、炎を口から吐き出そうと空気中の酸素を飲み込む。

「ガァアアアアアアッ!!?」

 だが黒竜は地上を這っていた、攻撃を仕掛けようとしたその瞬間にだ。吠えるように地面に倒れこんだのは覚えている、何かが自分の周りに飛び散ったのも目に見えた。
 だけど黒竜はこの短時間で何が起こったのかを理解できずに、泥を口に含んでいた。

 ーー失った自身の両足を目にするまでは。

 黒竜はすぐ付近に無造作に転がりながら血を浴びた自身の両足を目撃、目を大きく見開きながら身震いする。

 武器や鎧をなに一つ装備していないちっぽけな青年が、腕を横に振るっただけで自身の両足を吹き飛ばしたのだ。いや、むしろアレを青年と呼ぶには程遠いだろうと黒竜は息をするのを止めた。

 瞳までもが黒くなるまで魔力によって侵食された体、発せられる憎悪にまみれた殺意。
 あれはもはや人間ではない、黒竜は確かにそう思ったのだ。

『ーーーーーーー』


 ドォォォォォォォオオオオオオ!!!


 黒い闇をこの身に包み込みながら、弱体化した弱々しい黒竜の元へと距離を詰めながら駆け抜ける。

 ーー必ず殺してやる。

 ただそれだけの決意を胸に秘めながら、肉眼では決して捉えられることが不可能なその狂気に満ちた刃を、僕は全力で振り下ろしてみせた。
 禍々しく黒い狂気で渦巻く僕の最後の攻撃が、空間を歪ませ、黒竜の立派な巨躯に届く。すると容赦なく奴の身を延々と焦がし始め、その命に喰らいついた。

 最後という最後、抵抗さえ試みようとしない愚かな黒竜の脳に様々な記憶がよぎる。

 自分の手によって殺されていく人間、愛した主人に裏切られた時のあの絶望的な瞬間、この世界に姿を現した………ついさっき感じた快楽感。

 悔いを残すこと無く黒竜は、遂にその重々しい瞼を暗闇の中でゆっくり閉じる。

 ーーそして息を吹き返すことなく、黒竜はこの瞬間絶命したのだった。

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コメント

  • ペンギン

    あれ...?やっぱりなんかヤバくね...?

    1
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