S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜

英雄譚

第46話 『魔力を吸収する短剣』

 

 武器屋のおつかいで、剣の製造に必要な素材を取りに行かされていた。
 まあ、原料は自分に任せてくれと最初から宣言したのは僕だし断る理由はない。

 さて、目的の鉱石は『エルドラの森』の中にある洞窟に潜んでいるとの情報だ。
 ちなみに森の名前を『エルドラ』にした理由が、エルフ領と龍人領の間を分断している森だから……だそうだ。

 エルフとドラゴン、かけて『エルドラ』らしい。
 驚いた……!  そういうことなのか、なんとも単純。 


 そんな事を考えている僕はいま、ちょうど魔物との交戦の最中である。

 狼のような姿をした、赤い毛並みを持つ四足歩行の魔物が相手だ。
 名前は『魔レッドウルフ』

 自分の居た未来では魔の大陸でしか生息できない魔物だったが、ファンブル大陸に発生した魔力が一気に拡大したせいで『魔レッドウルフ』が生きていけるような環境が増えてしまった。
 つまり、ファンブル大陸にも『魔レッドウルフ』は生息している。

 攻撃力は低く重装備で防御を固めなくても余裕だが、『魔レッドウルフ』の素早さ、移動スピードは魔物の上位に食い込む。

 よって、しっかり目を凝らして用心せねばーーー

「熱っ!?」

 注意をしようとしたその矢先、『魔レッドウルフ』の攻撃を食らってしまった。
 奴らの口から大きく吐かれる、赤くチリヂリとした高熱の炎『ファイヤーブレス』だ。

 小規模で物理的な技ではないのだが、食らってしまえばとにかく熱い。
 身を守ってくている装備が全部鉄製なので尚更だ。

 炎の高い温度を鉄製の装備が吸収したせいで、皮膚を焦がしてしまいそうな熱さに顔をしかめてしまった。
 だが、『魔レッドウルフ』らの追撃に備えることを忘れたりはしない。

 予想通り、音もなく速い速度で『魔レッドウルフ』に距離を接近される。

「はぁああ!!」

 鋭い爪で引っ掻かきにくる動作を勘で先読みして『魔レッドウルフ』の攻撃を回避。
 そこからの急所に狙いを定めて、武器屋でレンタルした軽々しい鎌(サイズ)でカウンターをした。

 僕の攻撃が『魔レッドウルフ』の頭上を捉えることに成功。
 けど、鎌の恐ろしい程までの切れ味に『魔レッドウルフ』の顔面を真っ二つに両断してしまった。

 返り血は飛んでこない。
 そのまま敵である『魔レッドウルフ』の胴体が地面に倒れて、痙攣した後にすぐ絶命した。

「……この武器、恐ろしく切れ味が良すぎて、刃の部分を見つめているだけで真っ二つにされそうだ……」

 顔を青ざめながら僕は、鎌の刃を自分から遠ざけた。
 あの武器屋の店主(確か名前は『ジーク』)の言う通り、この鎌は非常に危険だ。
 肉だけではなく、命の灯火である魂までもが切り落とされそうで恐ろしい。

 けど思った以上に重量はなく、まるで短剣を手に持っているかのように軽々しい。
 だからこそ武器屋のジークは、僕の非力さを配慮してこれを渡したのか。

『ふん、どうってことはないぜ!』
 天からジークと似た声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
 ジーク死んでいないし。



 ※※※※※※




 古来、人類という種はあらゆる厄災から身を守る為に長年から現に至るまで確実な生存の道を模索してきた。

 金を得る為だけに生きる道。
 生きている種を殺し生きる為に強奪する道。
 自分の未来と人生を左右する賭け(ギャンブル)をだけおこなっていく道。
 進んでいく道が違えど、必ず共通するものが2つ存在している。

 それは『勝者』と『敗者』だ。
 人生の敗者は地を這い、未来を手にした勝者は敗者を蹂躙し土台にする。

 何通りもの生存方法を与えられた人類……ならびに種族は『とある』行為を続けているのにも関わらず、それを決して自覚していかなかった。
 いや、出来なかった。

 ーー『自分が生きる』という事は、『他人を死なせる』という事を。

 人が幸せになるには、他人の人生を食らわなければならない。

 これも一種の食物連鎖であり、世界の摂理。
 残酷な行動こそ、この世界を成り立たせている。

 生存する為の根源は他人から剥奪すること。
 すなわち自分が生きる為には、相手から奪い取らなければならない。
 それが無意識に呪文のように何度も脳に植え付けられれば、自覚なんて到底できる筈がないのだ。
『他人の人生を、自らの幸福で狂わせてしまっている事を』


 だかそれは、魔力も例外でない。
 相手から魔力を奪い取り我が物にすれば、奪いとった本人は同時に魔力だけではなく優勢な立場をも手にする事ができてしまう。
 それは、技術を駆使して知識で想定するよりもずっと、確実な逆転方法である。


「ーーであるからして、筋力が皆無当然のアンタにはこれがピッタリの特徴だと思ってな」

 長い話をやっとのことで終わらせたジーク。
 鉱石から採取した金属の精製、加工した金色の短剣をジークは丁寧に布で拭いてから僕に差し出してきた。

 躊躇いもなく手に取り、翠色の剣格を優しく撫でながら、全身の部位を舐め回すように眺めてみる。
 よく見れば剣の腹部分も翠色で、切っ先まで色が伸びている。 
 『金』と『翠』まるで僕自身をイメージしたかのような色の組み合わせだ。

「………ん?」

 うっすら感じる異様な力に、撫でる指が止まった。
 金色の剣身に触れると、身体的に気持ち悪くなるようだ。

「ああ、周りくどい話をばかりして具体的にその短剣の性能を説明していなかったな」

「性能?  そんなのがあるんですか?」

「へへ、まあな」

 自信満々にジークは胸を張り、指の人差し指を天井へと向ける。
 そこに集中するように魔力を溜めて、普通の肉眼でも捉えられる緑色の光球をジークは指先に出現させた。

 魔力の塊だ。
 属性ごとに色が変化していくので、ジークの出現させた光球は風属性である。

「そんじゃアンタ」

「僕の名前はアンタやお前じゃなく、ネロですよ」

 自分がジークの名前をだけ知るのは不公平だ。
 ここは一応、自分も名乗った方が良いだろう。

「おう、ネロか。そんじゃネロ、渡した短剣を離さず構えてくれよ」

「は、はい」

 笑いながら告げるジークの言う通りに、僕は剣柄をしっかり握りしめた。
 それを確認したジークは険しい顔で頷くと、魔力の塊を僕の手にしている短剣の剣身へと恐る恐る近づけた。

「ちっとな、ふわりと浮くような感覚を一瞬だけ感じてしまうがな、絶対離したりするなよ?」

 忠告を耳にしたその直後、心の準備を待たずにジークは魔力の塊を僕の構える短剣へと押しつけた。

 ーーな、なにしてんの!?   そんな事をしたらっ………。

 折角、採取してきた鉱石で加工した短剣が折れるじゃないか!  と口に発してジークに忠告を試みようとしたが、時は既に遅し。

 いま自分が握っている短剣が、ジークの押しつけた魔力の塊によって大きく震えていた。

「!?」

 だが、予想外にも短剣は折れたりはしなかった。
 むしろ、ジークの出現させた魔力の塊を剣身がみるみると吸い込んでいる。

「な、武器が魔力をっ?」

「相手の魔力を吸収しちまう刃、そんな武器をお前は聞いた事があるか?」

 自慢気に口にするジーク。
 この人の出現させた魔力の塊が消えると同時に、剣を握る手の内部に何かが侵入するような感覚に襲われた。
 さらに胸の温かみが一瞬だけ失われる感覚と、自分の周囲の重力がまるで消滅したかのような錯覚。

 自分の手元から魔力が流れて、次第に増幅していくのがハッキリと伝わってくる。
 気持ちの良い、ふわりと浮いて消えてしまいそうな感覚だ。

「おいおい、ヨダレなんか垂らして……汚ねぇぞネロ」

「ハッ!」

 ジークの声で我にかえった。
 あまりの快感で気がつかなかったけど、自分の唇に手を当ててみると確かにヨダレで濡れていた。
 うん、人は一つの事に集中するとヨダレが出てしまうような生き物だ。
 仕方がないだろう。

「どうだ?」

 腕を組みながら聞いてくるジークに僕は、尊敬の眼差しを向けた。

 呪いの武器ばかりを提供してくるだけの男かと思ったが、まさかこんな便利な代物を作ってくれるだなんて思いもしなかった。

「この短剣の売りはな『魔力吸引』。すなわち、相手の流したり放出する魔力を吸収して自分の物に変える性能だ。相手の魔法や魔術を短剣に吸収させるのも良し、斬りつけた際に相手の体内に流れる魔力を奪ってみせるのも良しだ。そこで奪いとった魔力は短剣から自動的に剣柄を握り締める人物の体内へと流れ込むんだ。一方、奪い取られた相手は奪われた分の魔力を消費してしまう」

 先ほどジークが話していた『相手から奪い取る』話を思い出す。
 相手から自分が活動するための力を奪って、その力で優位に立つ。
 いっけん汚い方法のように聞こえるが、この世界での勝利は殆ど魔力の量によって決まる。
 剣術も同様、身体能力を上昇させる為の魔力は必須だ。

「足りない分を自分へと補給できる最高の代物だ」

「これは、言うまでも無くすごいですね。通常魔力の適正が低い僕にとっては、まさに打ってつけの武器ですよ」

「ガハハハ!  そうだろう、そうだろう!  長年の俺の研究がまさか、ここまで役に立つとは思いもしなかったぜ!  ガハハハ!」

「そういえば、どういう原理なんですか、コレ?」

「なーに、ただ単に生物の魔力を奪い取ってしまう、恐ろしい金属をお前に持ってこさせただけだの事だ」

 ああ、ちょっぴり本で読んだ事がある。
 魔の大陸には、魔力を秘めるあらゆる生物の魔力を吸収してしまう金属。
 入手場所が不明で、非常に貴重な物らしい。

 そんな事を考えていると、ジークはメモ帳を手に何かを書き出す。
 そして一枚、書き込んだ紙をビリっと破いて渡してきた。

 請求書だ。
 値段はーー50万ガルドだ。あれ、ゴルドじゃないんだ?

 相場が分からない。しかも、これが高いのか安いのか……。

 とりあえずローラに渡された布袋の中身を見てみると、そこには金色の貨幣が大量に詰まっていた。

「お、かなり持ってんじゃねぇの?」

「ちょっと、勝手に見ないでくださいよ!」

 勝手に覗き込んでくるジークから遠ざけなが、中身を漁ってみる。

(全部、金だ)

 ごまかされるかもしれないけど、カウンターで膝をつけてニヤニヤしている大男に一応聞いてみた。

「あの、この金色の貨幣ってちなみに値段はいくらぐらいですか?」

「……は?  知らねぇのか?」

「なにぶん貧乏生活を送ってきたので、あまり金の扱いが不得意なんです」

「嘘つけい、んな大量の金を持ってる奴が言っても説得力ねぇぞ」

 呆れながらジークは、貨幣が詰まった布袋に指を差す。
 確かに僕が持っている。
 だけど実質、これは自分の物ではない。

「いえ、ローラさんに渡された金なんです。
 これで武器を自分の買ってこいと言われて………

「30万ガルドにまけてやる」

 ローラの名前を聞いた途端に顔を青ざめながら値段を削るジーク。
 そうとう怖い思いをしたのだろう可哀想に。

「……金色の貨幣は一枚で10万ガルドもするから、3枚で丁度……だぜ」

「あ、分かりました」

 考える前にジークは震えた声で教えてくれた。
 もしここでお釣りとかを誤魔化したらヤバイ、と彼自身も悟ったのだろう。

 ジークの手に金を預けてから、カウンターに置かれている自分の新しい短剣を手に取った。

「ありがとうございますね」

 武器屋の出入り口へと歩み、手を振りながらジークに感謝を告げる。

「………お、おう。また来なよ」

 若干まだ震えているようだが、ジークもどこか満足したように笑って僕を出迎えてくれた。




「ーーー遅いぞ!!!   一体、何をやっていたんだ!!」

「きゃうぃっ!?」

 激怒したローラに渾身のゲンコツを食らってしまった。

 どうやら約束の集合時間がとっく過ぎていて、それでもなおローラは集合場所の広場にずっと僕を待ってくれていたらしい。

コメント

  • ペンギン

    お〜優しいですね〜wローラさん

    1
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