S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜

英雄譚

第40話 『賢者ミア・ブランシュ・アヴニール』

 
『マエガキ』
おかげさま40話に辿りつく事ができました。
確か執筆し始めたのが1ヶ月ぐらい前で、本当に色々な事がありました。
何度もデットエンドにたどり着いたり、投稿頻度が低下したり、試験のせいで熱を出したりと。え、初耳?  
ここで告白しますが、自分は高校生です。高校三年に進級します。
こんな青二才野郎ですが、どうぞよろしくお願いします!


※※※※※※



 屋敷の外へ出ると、そこにはエルフ領に住まう領民らが手料理や贈り物のようなもの、何かしらを手に持ちながらジュリエットを待っていた。

 てっきり自分は人族なので侮蔑な目で見られるかと思いきや、そうでもない、歓迎するような穏やかな視線だ。

 ジュリエットは困惑する。
 昔、聖国の国立図書館で、歴史を綴った本を手に取ったことがある。
 辞書のように分厚い、いやそれ以上かも。

 最初のページには精霊樹の事についてやら、そこに住まう魔族の血を引いた種族の特徴やら、生息するモンスターの種類やらやら細かく書かれた難しい本に、ジュリエットは興味をそそられてしまう。

 確か、まだ8歳だった頃だ。

 自分がワガママな子供だった事は、今でも鮮明に覚えている。
 なにか欲しい物を目にしたらすぐ両親にねだったりしていた、嫌いな食べ物は必ず残していた、弟にはよく泣かされていた。
 街の子供たちに自分の桃色の髪を馬鹿にされていたのに、気づかず一緒に笑っていた。
 ボロボロになって家に帰れば、うす汚いと罵られて叩かれていた。

 思い返せば、両親に捨てられるまでロクな記憶が圧倒的に少なかった。
 その後は孤児院送られ、なんの前触れなのか聖職者になりたいと急に言い出したジュリエットは経験を得るため修道院に引き取られ、故郷である聖国に戻った後は僧侶になる為の勉学を数年間励んでいた。

 いや、本題はそこではない。

 図書館の本には確か、長耳族は凶暴で冷酷な種族だって書かれていたのを覚えている。
 全員が美形な顔立ちをしているのが特徴。
 都合いいソレを利用しながら、男や女を誘惑しては部屋に連れ込むらしい。
 そのまま殺されて喰われてしまうと書かれていた。

 特に黒い肌をした長耳、ダークエルフが危険らしい。
 なんせ共喰いをするからだ、そういった悪い印象しか本に書かれていなかった。
 なのにいざ対面すれば、人を襲いそうな素ぶりをみせてこないじゃないか!  と警戒をつい緩めるジュリエット。

 ノンフィクションの本に刻まれた物語、内容が事実だとは限らない。
 何故なら、本当の真実は作者にしか分からないのだから。

「よくぞ我々の国までお越しくださいました!」

 活気よく歓迎した様子で言うエルフ達を呆然と見つめるジュリエット。
 無理もない、展開が思っていた倍も予想外ななのだから。

 こんなに嬉しそうに自分を迎え入れてくれた場所が、今まで無かったのが1つの理由だ。
 何より、住人らの背後に倒れこむ血まみれの動物が気になる。
 死んでいないよね?  と不安になるジュリエット。



 どうやらアレも、訪れてきたジュリエットへの贈物らしい。



 ※※※※※※



 歓迎会は昼間から、深夜まで続いた。
 まるで年が明けるような盛り上がりで人が踊るわ騒ぐわ、最後に族長のエルロンドが長耳族の代々から伝わる伝統的な歌で歓迎会をお開きにさせた。

 その後ジュリエットは、歓迎会用に使用された木材を焚き火で燃やして片付ける作業をする大人達を、延々と眺めて屋敷に招かれる。
 お腹が満腹だ、主に肉料理だったので仕方がない。
 お酒も出ていたが、年齢的に飲めないのでジュースをひたすら飲んでいた。


「お疲れ様です、エルロンドさん」

「うむ、部屋は好きに使いな。疲れただろうしゆっくり休め」


 酔いで真っ赤な顔のエルロンドに自室を案内され、ジュリエットは一礼してから使用人に鍵を受け取る。


「………あ、あのっ!」


 去ろうとするエルロンドをジュリエットが呼び止めた。


「なんじゃ?  部屋に何か不満があったか?  虫が出たり、なんだったり。そんな事を気にするぐらいなら……」

「いえいえ、その事ではなくて。実は聞きたい事があって」


 むしろ虫は普段、依頼を受けた先で野宿する時に何度も見ているし、ある程度の耐性はあるので平気だ。
 虫が苦手なのはリンカぐらいだ。遭遇すると必ず顔を青ざめながら、ネロの背中に回っては震えて縮こまってしまう。
 まるで幽霊にでも会ったかのような驚きっぷりで、彼女のその行動が逆にネロ達への恐怖になっていた。

「その、私がこの時代に来ることを事前に予言したのがミアさんでしたら、帰る方法も知っているのかなぁ……?  と思って。明日、会うことは出来るでしょうか?」
  
「……は?  それ無理」


 即答された、平然のような顔であっさりと。
 エルロンドと会って、今までで一番の澄ました彼の答え方だ。


「もしミア様とお会いしたいのならば、もうじき精霊大陸全土に開催される年中行事に参加しろ。それ以上の事は言わん、知りたくば自分で調べてくれたまえ。それじゃおやすみ……」

「え」

「儂はもう眠い、詳しい事は他の奴に聞け。戦士長のトレース辺りにでもな」


 それだけを言うと、エルロンドはあくびをしながら立ち去っていく。
 勿体ぶって肝心な事は言わないのね、こういう人は。

 同じく、遠ざかっていく使用人にジュリエットは何故か睨まれてしまう。

 何か悪い事をしてしまったのでは?  と一瞬だけ思い込んでいると、そこにはもう誰の姿も無かった。



 忘れ物をしてエルロンドが応接室に戻ると、そこにはソファーに座り込むトレースがいた。
 素通りして、例の物を取ってから気にする事なくエルロンドは彼をスルー。
 まだジュリエットが未来から来た事に驚いているらしく、頭の中で未だ状況を把握している最中なのだ。

「………やれやれ」

 反応を示さないトレースをそのまま残し、エルロンドは応接室の扉を閉めたのだった。




 ※※※※※※




 部屋は広くて二十畳ぐらいはあるが、やはり家具が圧倒的に少ない。
 街の上位クラスの宿屋よりかは落ち着いた雰囲気で、使用されていない割にはホコリも舞っていないし溜まってもいない清潔な部屋だ。
 珍しい事に天井の角にも蜘蛛の巣がないのを見ると、どれだけこの屋敷の使用人が優秀なのかが伺える。

 木質の素材で覆われたフローリングの艶々さにも関心、窓ガラスに汚れやくもりもない。

 ジュリエットは窓に近づき、掛かった鍵を解除した。
 暑いわけではない、宿屋等に泊まった時に決まってジュリエットが癖でおこなってしまう行動だ。

 窓を開けて外を眺めると、そこには噴水や広い池、木や草が植えられた自然溢れる広い庭園があった。

 なんとも美しい眺めにジュリエットは魅了されてしまい、庭園をボーッと見つめてしまう。


「わぁ………なんて綺麗なのかしら」


 ジュリエットは感動していた。
 なんせ自分のいた未来を比べたらここまで綺麗な眺めなんて数えれば指の数にしか収まらない程少ない、なかなか巡り会えない光景なのだ。

 そう思いがら風景を堪能したジュリエットは満足し、窓を閉めようとした…………その時。

「……失礼するよ」

 窓の外から中へと、人影が侵入してきた。


 あまりの速さと、ここは2階なんだという思考に一瞬ジュリエットは気のせいなんだと思い込みながら部屋の方へと恐る恐る振り返ってみたが、確かにそこには………居たのだ。

 ーーー白い薄いワンピースのような服装を着た小柄な女の子が。
 暗闇の中でニコリと薄気味悪い笑みを浮かべながら。


「え…………ぇぇ………!  きゃああああああああああああ!!!!!!??  お化け!!   いや!  いやぁぁぁあっ!!」


 無論、その笑う少女を目撃した瞬間にジュリエットは驚きのあまりに奇声にも似た大声を上げてしまった。
 虫には耐性を持っている彼女だが、幽霊となると話しは大いに変わる。

「お化け!  お化け!  お化け!  お化け!  お化け嫌だぁあああああ!!  きゃああ!!」

「え、ええとお化け?  流石に初っ端からそんな事を言われると……あたしだって傷付くなぁ。  まあ勝手に入ってきたのは私が悪いんだけどさぁ、ハハハ」


 少女はジュリエットの反応に困った顔をみせ、苦笑いする。

  「へ……喋った?」

「そりゃ喋るよ、だってあたし人間だしね」

「に、に、人間。つまり……貴女はお化けじゃない……?  ってことでいいのかしら」


 頭を抱えながら、おそるおそると彼女の白い瞳を覗き込む。
 窓から吹き込む風に、少女の紫交じりの長い髪がゆらりと揺れる。


「うーん、正確に言うと人族の血を引いた亜人?  いや、やっぱり人族かな?  …………分かんないや!  エヘヘ!」


 亜人?  そういえば、よく見れば少女の耳は人より尖っている。
 ならば長耳エルフ?  かと思ったが、肌は他のエルフ達と比べるても、そんなには白くはないし黒くもない。
 普通だ。

 少女は混乱した自分の頭を軽くコツンと叩いた。
 そしてムフフと可愛らしく笑いかけながら、膝をつけてしまったジュリエットへと手を伸ばす。


「あたしはミアね、『ミア・ブランシュ・アヴニール』。他の人には『管理者』だったり『賢者』って呼ばれているんだよ。あ、そうそう。ジュリエットちゃんの事はもちろん知っているよ、だってあたしが予言したんだもん!」

「ミ、ミア………様?  あの伝説の?」


 窓から侵入してきたのは、かつて数百年も前に精霊種を植えて人族に魔力を与えたという、賢者のミア様!
 こんな幸運な事はない、とジュリエットは目を大きく見開きながらそう思ったのだった。


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