S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜

英雄譚

第28話 『勇者の帰還を決意する』

 
 港町ノワール。(かつてはユリネスと呼ばれていた船のない街だった)

 VIP宿屋の個室。

 対魔王、軍の最前線を率いる王国栄光騎士団副団長『バルト』。
 冒険者ギルド、ギルド長『グラン・トレータ・アズカルバン』。
 魔の大陸の亜人支援組織会長『エリス・ノワール』。
 勇者の代表として、『剣の勇者』の称号を授けられた最強の少女『エリーシャ・ダンタ』。

 魔王軍が引き起こしたあらゆる被害、その対策のための活動を中心とした議論が互いの意見によって繰り広げられていた。
 出席した代表らの中でも、最も饒舌なのが栄光騎士副団長バルトだった。

 比べて、この中で最も口数が少ないのが勇者エリーシャである。
 もう既に眠気によってギブアップして蹲っていたが、その代わり議論に加わるのは勇者パーティのカトレインだった。

 カトレインは王都の王立大学を首席で卒業するほどの実績を持っている。そのためか、主に勇者パーティの頭脳係を担いながらパーティを影からサポートしていた。

「ということで、今回の会議はお開きいたします。解散!」

 会長の合図とともに会議に出席していた代表者らは次々と席から立ち上がり、残した用事が終わらせた者以外、さっそうと帰っていってしまった。

 部屋に取り残されたのはエリーシャたちやバルトの率いる騎士団だけだった。

 テーブルでスヤスヤと眠っているエリーシャを揺らしながら、カトレインは彼女を起こそうと必死に試みていた。

 だけど中々目を覚まさないということなので、黙々とカトレインはそばに置いた鞄からワンドを取り出し、エリーシャに触れてから【雷魔法】を発動。
 エリーシャの体内に電流を流していく。

「!!!?   ぎにゃあああ!!?」

 エリーシャはカトレインの流した電流に敏感と反応しながら席から飛び上がる。
 そのまま天井に頭を打ち付けて倒れてしまった。

 勇者なので特にダメージはないが、さすがに電流は誰であろうと受けたくはないだろう。
 ビリビリと痙攣する感覚を堪えながら、エリーシャは眠そうな表情で周囲を見回した。

「あれ?  もう終わっちゃったの?」

「ええ。エリーシャ様が眠りに落ちてから30分後ぐらいに会議が終了し、皆さん帰っちゃいましたよ」

 今にでもまた眠りに落ちそうなエリーシャの頬をカトレインはペチペチと優しく叩く。
 しかしそれも不要、エリーシャは悲しそうな表情でガッカリと肩を落としながら俯いた。

 そのままエリーシャは子供のように嘆き始める。

「そんなぁー!  せっかくグランさんも居たのにぃ、お菓子を貰いそびれちゃったよ! もぉ!」

 グランと言えば冒険者ギルドのギルド長である。
 エリーシャが魔の大陸に訪れた初日から世話してくれた気さくな老人で、特にエリーシャを孫のように可愛がっていた。
 会うたびにエリーシャはグランが用意しておいたお菓子を飽きることなくせがんでは食べていたのだ。

「今回ばかり忙しくなるそうですよ。『魔王』がここ魔の大陸ではなく、フィンブル大陸にて出没しているかもしれないとの情報が入った以上、仕方がありませんよ」

「え? そうなの? そんな話もしていたような……」

「寝息をたてながら熟睡していたものなのでエリーシャ様が聞いていないのも仕方がないですね。部屋に戻り次第に説明します」

「ええ……」

 エリーシャは嫌そうな顔をみせた。
 カトレインの説明は会議より長い。
 つまらない話を長舌に語っては、それを聞くエリーシャらが寝てしまうのが決まりごとだ。

「あ、その前に皆さん!」

 解散しようとするパーティを呼び止め、カトレインは腕に何かの生物をを乗せながら、ソレを皆に見せる。

「うん、なんなのソレ? 白い鳥?」

 カトレインの腕の上に乗っている白い鳥に顔を近づけ、エリーシャは興味深そうに鳥を指で突いてみせた。
 白い鳥はエリーシャに触れられたのに反応して、慌てた様子で翼を広げてエリーシャを威嚇する。

「王国からの伝書鳩のようです」

「王国だって?  私たちなにかしたの?」

「そういう事ではないと思いますよ」

 カトレインは伝書鳩と呼ばれる鳥の足に付いている金色の通信文を手に取り、広げてすぐに目を通す。

 エリーシャとルークという知能不足の2人が興味津々に通信文を覗き込んでみたが、何が書いてあるのかがさっぱり理解出来ないとすぐ控えてしまった。

「………………っ」

「ん、なんて書いてあるのさ?」

「エリーシャ様。どうやら私たち、王都に帰還しなければならないかもです」

「ええ!!  急にどうして!?」

 と、そこで過剰に反応したのがエリーシャだった。
 彼女の発した大声がカトレインの腕に乗っていた鳩をまた驚かせてしまう。

 カトレインも困った様子で答えた。

「これは、国王陛下からの召集命令。急なのも分かりますが、どうやらもうじきアレが始まるらしいですよ? 王国側の手配した船ももうじき港に到着するらしいですし」

「ん、あれ? なんだって?  エリーシャ、分かるか?」

 勇者を呼び捨てをするのは脳筋男のルークだ。 
 だけどエリーシャは特にそれに関して触れることなく返事をする。

「ううん。全然分からないんけど、せっかくここまで来たっていうのに戻るだなんて……面倒だよね?」

 いくらフィンブル大陸で魔王が出没していようが、まだ定かではないため勇者を最前線から外すような事はしないはず。

 理由があるのかと聞かれても、エリーシャは特に何も思いつかないであろう。
 そんな中、パーティの一人であるアルベインは冷静に顎に手を当てながら、心当たりがあるのか口を開いた。

「ああ、もうそのような時期か。それなら仕方がないようだな。エリーシャ様、帰還の支度を」

「ええ!  2人だけ納得してズルイ!  私にも理由を言ってよー!」

「ハハハハ」
「ふふふ」

「からかわないでよ〜!」

 置いてけぼりにされて、普段のお茶目な姿をみせるエリーシャにカトレインらは苦笑いをする。

 本来なら彼女自身が気がつかなければいけない事である。
 重要な事だが、エリーシャなら忘れても仕方がないという甘い考えが皆の頭によぎった。

「そうですね………実は1ヶ月後にアルガルベ王国でエリーシャ様の出席も必須の『勇者の儀』が行われるのです。
 王の玉座の前に並べられた、『勇ましき加護』と呼ばれる勇者としての可能性を秘めた候補の方々の中から、数々の称号を持つ先代の勇者方によって『新たな勇者』が選考されるのです。
 覚えていますよね? 勇者の加護を発生させた幼いエリーシャ様も数十人もの勇者候補の中に混ざって、勇者になって」

「ここにエリーシャがいるって訳で、本当に良かったってことだな!」

「ちょっと、ルーク様! 私のセリフを取らないでくださいよー!」

 ニシシ、とルークはカトレインを見ながら笑う。
 まるで若々しい少年のようだ。
 今年でもう28歳になるが、なるべく年齢は伏せているらしい。

「んー?  つまり、私」

「エリーシャ様、どうかなさいました?」

「えーと………つまり私が選ぶってこと?  新たな勇者を?」

 自分に指を向けながら、エリーシャはカトレインに確認を取るように聞いた。
 心なしか、少し嬉しそうな表情だ。

「はい、そうですよ」

 ニコリと微笑みながらカトレインは答える。
 それを聞いた途端、エリーシャの表情がパァっと嬉しそうに明るくなった。

「そ、そ、そうなんだ。へー、全く知らなかったなぁ!  まあ、そういうことなら……」

 本当に隠しきれないぐらいに嬉しそうだ。
 特別扱いされてきた彼女だったが、普段からみせない珍しい表情だ。
 なんせ毎回のように決まりごとに対しては憂鬱そうな態度をみせるのだ。
 まるで堅苦しい家庭に生まれ、好き勝手出来ない箱入りのお嬢様のように。


 しかし、今回だけは違った。

 事情を知ったエリーシャは満面の笑みで腕を組み、両足を広げながらいつもの調子で大きな声で言う。


「よっし、みんな!!  これから早めに帰還の支度をするよ。どうやらこの私、勇者エリーシャが重要な役割を担っちゃったかもしれないみたい。 なので早急に帰る準備を済ませる!  集合場所は王国の手配した船で!  以上!」

「「了解!!」」

 勇者の意見に反対、反論する者は誰1人していない、そこにいた騎士団たちも同様だ。
 魔の大陸で数年間、彼らの紡がれた絆はエリーシャの存在があったからこそである。
 だからこそ彼女を信頼しているのだ。

 エリーシャの運命は自分らの運命だと、ここにいる誰しもがそう覚悟していた。

「あ、それから、それから兄ちゃんに会いに行くから!」

 エリーシャが先ほどより嬉しそうに頰に両手を当てながら、まるで女子のような照れる仕草をする。


 そんな彼女の兄、ネロは現在アルガルベ王都に居るのだ。
 長い航海になるかもしれないけどが『勇者の儀』には会えるだろう。

 そんな期待をエリーシャは膨らませながら、満面の笑みを浮かべるのだった。

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