S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜

英雄譚

第1話 『幸運なボクS級パーティから追放される』

 

「キミをここに呼んだのは他でもない。
 今日限りでキミはクビだ」

 ある日、酒場に呼ばれたボクは『漆黒の翼』という名前が非常にダサい実力派パーティ、そのリーダーであるトレスさんの追放宣言にあんぐりと口を開けていた。

「え、あの唐突に何なんですか……?  クビって、僕なにかしたのですか?」

 あまりの驚きと、トレスさんの迫力に言葉が詰まってしまった。
 一方のトレスさんは、僕に思考の整理の猶予も与えないかのようにテーブルを破壊する勢いで叩いた。
 彼はそこから身を乗り出し、恐ろしい視線でボクを睨みつける。
 周囲で食事を取る客達の注目がこっちの方に集まってきた。

「は?  お前とぼけているつもりなのか?」

 それでも構わずトレスさんは続けた。
 同時に彼から放たれる威圧が重々しくて、返す言葉が遮られてしまう。
 まるでボクを喋らせる気がないようだ。
 知っている、これが昔からの彼の得意の手口である。

「それはつまり、今まで俺らのお荷物になっていたことも?  俺らがどれだげお前のために世話を焼いていた事も?  お前が、役立たずのタダ飯喰いだってこともか?」

 自覚はあまりない。頑張ってきたつもりだったのに、何故だろう。
 トレスさんの発する言葉が、次々とボクの胸に深々と突き刺さっていった。
 睨みつけられる視線も精神的に苦痛だ。

 しかし、それは彼だけではないようだ。

 テーブルを囲む仲間《パーティ》。この場にいない1人は除いて、メンバーの全員がボクに非難の眼を注いでいた。

 そう、全員だ。
『漆黒の翼』のパーティは全員、ボク含めて6人。

 勇者としての候補を待つ最強の剣闘士であるパーティのリーダー『トレス』。 
 彼の腰の鞘に収められた聖剣はこの世で最も貴重とされている鉱石により作り上げられた代物だ。

 あらゆる物質を生み出せる錬金術師筆頭の『カレン』(トレスさんにゾッコン)。

 この世界の果てにいる幻獣ドラゴン、フェニックスをも従える幻獣テイマーの『サクマ』(カレンちゃんにゾッコン)。

 あらゆる属性魔法、精霊魔法を駆使する魔道士の『アリシア』(サクマさんにゾッコン)。

 いつかは壮大な修羅場が繰り広げられそうなパーティにちょこんと、影薄く兎のように投下されている超絶幸運値の高いボクこと『ネロ・ダンタ』である。

 仲間が全員とても心強い。
 けど脅威にしたりはしたくない恐ろしいパーティメンバーらに、鋭い眼光を向けられてしまい震えながらボクは縮こまっていた。

「サイクロプス戦で逃げ回りながら、たったのかすり傷程度の怪我で泣き叫んでいるヤツがどうして、そんな仲間ヅラが出来るのかしらねぇ〜? なーんだか不思議でたまらないわ」

 爪をいじりながら、まるで話題に眼中が全くないような仕草でカレンちゃん。
 だがその言葉が痛い。


『サイクロプス戦』
 ギルドの特級の依頼『サイクロプス討伐』。準備万端で挑んだ難易度高のクエストだ。

 問題はなかったはず。
 パーティの皆は無傷で順調に迷宮を進んでいた。
 それに、疲れをみせていたのはバックアップのボクだけで、周りは汗一滴もこぼしていない。

 数時間の探索で、異様な迫力を放つサイクロプスをなんとか発見したが、想像を絶する程に強力な魔物な為だった為か、戦闘は苦戦を強いられてしまった。

『ラック』ステータスの幸運値がMAXなだけのボクは、言われるまでもなく足手まといなので、後方のフォローとして配置された。
 役には立とうとしたものの、そう順調にはいかず、テンパったりの連続だった。

 けど、役割には専念したつもりである。

 主にアリシアさんやサクマさんに回復薬の受け渡し、背後から攻めてくる雑魚の処理をも(倒しきれない分、嫌々アリシアさんが殲滅)担当していた。

 確かにお荷物のような存在なのだが、彼らの荷物を運んでいるのは実際ボクの方だ。
 おかげさま毎日のように肩が凝って堪らない。

 だけど、トレスさんやサクマさんという男性陣に怒られたくないので仕方がない。
 無茶な頼みごとでも断ろうとせず、なるべく承諾してきた。
 それなのに、やはりその程度じゃダメだったというのか?

「……考え抜いて至った結論はよ、戦闘では役立てないザコは必要ないって……トレスが言ってた」

 呆れながらペットであるチビドラゴンに餌を与えているサクマさんが口を開いた。
 一見微笑ましい光景に見えるが、彼の口から吐き出される言葉が1つ1つにダメージを受けてしまう。

 そして気付かされた。
 ボクはこのパーティにとって完全な無能なんだと。
 自覚はしていない、しようとしなかっただけかもしれない。
 けど面と向かって言われると、とてもじゃないが否定できない。

「……ああ」

 打ちひしがれたボクは座っていた椅子から倒れて床に尻もちをついてしまった。

 テーブルに座る仲間達を見るが、ボクよ期待を反して誰しもが動こうとはしてくれなかった。
 手を差し伸べようとしてくれる仲間など1人としていない。
 そこにはただーー

「そ、それでもさ。ボクだって精一杯みなさんに迷惑が掛からないようにわきまえて……」

「精一杯だって? そんなもの、報われたことなんてないじゃないか!」

 苛つきながらトレスは地団駄を踏んだ。
 流石は勇者候補の一人か、地に足が着いた時の振動がここまで伝わって思わず立ってしまった。

「そうよそうよ!  1番努力して精一杯頑張っていたのはトレスよ?  せっかく報われてきた人のパーティを台無しにすることが、アンタには出来るのかしら?」

 後ずさるボクを面白おかしそうにジト目で見つめ、周りに同調しながらカレンちゃんはボクに言葉を突き刺してくる。
 同時に、そばにいたアリシアが無言で頷きカレンちゃんに同感。

 胸から腹元までが孕まれたかのような、そんな感覚が伝わってきた。
 涙を決して流してはいけない、鼻をすすりながらボクは言葉を探す。

「やっぱりボクは本当にもう……皆さんからは必要とされていない存在なんですか?」

「お前を必要としたことなど今まで一度もない。これまでも、これからもだ」

 枯れてきた声をグラスに注がれた水で潤わせ、口を拭ってからトレスさんは続けた。

「正直、他とは比べられぬ程の幸運を持ったキミに最初は期待していたさ。
 けど裏切られたのはお前ではない、俺達だ。 夜な夜な後悔したさ、お前をパーティに入れてしまった愚かな自分を。他の仲間たちに迷惑をかけてしまった行いを。そして………お前という存在にな!!」


 いつの間にか彼は、ボクのすぐそばまで距離を詰めていた。
 反応する前にトレスさんは拳を握りしめて、それをボクの顔面に叩きつける。

 一瞬、気が失いそうだったが意識は消えない。
 しかし、巨大な針に刺されたかのような激痛が口の中を襲い、同時にボクは酒場の外まで吹っ飛ばされてしまった。

 視界がボヤけて、口の中きら鉄の味がする。
 済ませた耳に聞こえるのは喜びの声を上げて「やれ! やれ!」と観戦するパーティメンバー達だ。

 気がつけば駆け寄ってきたトレスさんに襟を掴まれ強引に立たされる。
 トレスさんがサクマさんにアイコンタクトを取ると、サクマさんはボクの装備を一式を外し始めた。

 抵抗できるような状態ではないボクは重装備を外されていき、大通りにむかって無造作にトレスさんに放り投げられた。

「ぐはっ!」

 大通りなので通行人が多い。
 なのにどうしてだろうか?  どうして目を合わせてもこんなに、人が通り抜けて行く?

 ボクに気がついても声を掛けようとする者など、1人として居なかった。

「お前、いやネロ・ダンタ!
    お前とはもうこれっきりだ!! 2度と俺らの前に姿をみせたりするな!  もしまた、俺らの前に現れることがあったら殺してやる!!」


 トレスの言葉に、怒りと殺気が混じっていた。

 言い返せる言葉が思いつかない。
 握りしめた拳の隙間から血がポタポタと垂れ、噛んだ唇から熱く鉄臭い液体が流れる。
 笑う彼等を睨みつけようとしたが、ボクは彼等に背中を向けることに決めた。

 そしてそのまま、その場から逃げた。

 背後から、奴らの醜い笑い声が聞こえてくる。
 ボクはできるだけ彼等の声が届かないように、必死に耳を塞いでみせた。

「うぅ………」

 気づいたら、あまりの自分の無力さに泣いてしまっている自分自身がいた。

 人混みをかき分け、つまずいて倒れても、ボクはとにかく奴らから逃げるために走り続ける。

 目的は特にはない。
 ある運だけを頼りに、ボクは無我夢中で街の外へと出て行った。


 すると、復讐の業がどこからか胸の奥から発火し始める。
 そして、いつかヤツらに復讐してみせると夜空にむかってボクは嘆いたのだった。

「……ああああああああああああああ!!!!」

 はちきれそうな声が静寂な空間を歪んだ。

 自分を裏切った奴らへの憎しみ、無力な自分に対しての怒り、あの場に居なかったもう一人の仲間の前から去った悲しみ。
 様々な感情が心の中で1つへと収束していき、虚ろになりゆくボクは改めて実感した。



 ーーボクには仲間と呼べる存在が一人として居ないんだと。

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