ダイヤモンドより硬く輝いて
第18話 巣の内部へ
 僕達は重症のフライマンティスを追いながら、次々と襲いかかってくる別個体のフライマンティスを倒しながら先に進んでいた。僕が相手の目を潰し、ロゼが目の見えなくなったフライマンティスの懐に潜り、焼き尽くすか、斬りふせる。連携と言っていいのなら、うまくいっている。
 それから30分くらい手負いのフライマンティスを追いかけていると、岩山の中腹で岩が大きく割れて谷のようになっている場所に着いた。そして、その谷を橋渡しするかのように80メートル程の巨大な縦に長い楕円型の茶色い球体があった。
「ケント、あれがフライマンティスの巣だよ……あそこまででかいのは、見たことないけどね」
「そうなの?」
「ああ、でも…やるしかないよ?」
「うん!大丈夫!」
「よし!そうと決まればあの手負いのを潰して潜入するとこからだね!構えなケント!」
 駆け出した僕達は今まで追ってきた手負いのフライマンティスを倒し、巣の中へと潜入した。
 巣の中は広く、風通しも良い。これで日当たりも良い感じならまさに優良物件だ。内部の構造はアリの巣に近くてそれぞれの部屋にそれぞれの役割がある。僕達はまず卵が保管される部屋を探し、増殖を一時的に遅らせる作戦を取ることにした。だが、巣の中はフライマンティスが数多く徘徊しており、一瞬も気を抜けない。
「…やっぱり、巣の中だけあって、多いね…」
「…当たり前だよ、あっほら、あのフライマンティス、卵抱えてる!」
 見つからないようにコソコソと、巣材の影に隠れながら進む。
 卵を抱えたフライマンティスが卵を保管する部屋に入って行き、粘性の液体を吹きかけ、巣の壁である岩に卵を貼り付けている。僕達はその出待ちを襲うことにした。
 しばらくして出てきたフライマンティスをロゼが斬り伏せ、部屋の中に入る。すると中には大量の卵が保管されていた。
「うわ…こんなに…」
「さて、さっさと潰しちまうよ、ケントはそっち側をお願い」
「…うん」
 卵を潰すのは罪悪感があった。これから生まれてくる命を潰さなければならないからだ。だが、潰さねば他の命が、生態系が乱れる…なるほど、外来生物を潰したりするのはこういう事か…
「でもさ?ロゼ、多分火属性…だよね?なんで燃やさないの?」
「え?いやいや、これからまだ女王と戦わなきゃいけないから燃やしたら巣がもたないって」
「いや、女王も燃えない?巣が燃えるんだよ?」
「…んー、やったことあるんだけど…女王は何でか燃えないんだよね…多分他のフライマンティスとは甲殻の質が違うんだと思う」
 どうやら耐火の甲殻らしく、炎を通すには甲殻を剥がさなければならないらしく、1番柔らかい部位は頭部の丁度てっぺん。だからなんとかして頭に登る必要がある。
 僕達は女王を探すべく奥へ奥へと進んで行った。途中運悪く出くわした場合などは増援を呼ばれる前に各個撃破し、数の暴力を防ぐ。
 しばらく進んでいると、光の射し込む広場のような場所が見えてきた。だが、そこにはフライマンティスが20匹以上もいてとても通れそうにない。
「…チッ…多分あの大きい通路の先にフライマンティスの女王がいると思うんだけどね…アタシやケントだけじゃあの数は…」
「石とか投げて気を反らせないかな…」
「いやぁ石くらいじゃあね…人が行けば確実に皆そっちに行くだろうけど…」
 仕方ない、そう思った時だった。
「じゃあ、別ルート…を…?」
「ん?……え!?」
  1人の中年男性が僕達の後ろから走り、フライマンティス達の前に躍り出る。その男性は…シラヌイさんだった。
「なっ!?バカか!?」
 そのままシラヌイは別の通路へと走って行く。僕達が驚嘆していると後ろから「よぉ」と声をかけられる。
「お前、達は…!」
 そこにいたのはシラヌイさんの所属しているギルドの3人組であった。
「…なんで、ここに?」
「お前達の後を付いてきたんだよ、あの奥にフライマンティスの女王がいるってのも聞いた…どうだ?前の争いをなかったことにしてここはひとつ女王を倒す為に手を組まないか?」
「それよりも!なんでシラヌイさんが!」
「え?ああ、目の前の奴らが邪魔だったんだろ?だから追い払う為に囮になってもらったのさ」
「なんて、ことを…!」
「…アンタ、あのオッサンが死ぬとか考えなかったの?」
「あー、多分ありゃあダメだろうなぁ流石に数多いし?」
 歯痒い、殴ってやりたい…でも、そんなことより…!
「…ロゼ、助けに行こう」
 僕はシラヌイさんの走っていった通路に向かって歩きながらロゼに声をかける。
「ああ、なら早く行かなきゃね…走るよ!」
 「はあ?俺達で女王倒しても報酬分けてやらねえぞ?」
「いらないよ!お前なんかから分けてもらう報酬なんていらない!」
「…物好きな奴…どうせ助からないだろうけどな」
 そんな言葉を無視して、僕達はシラヌイさんの元へと走った。
 走る、走る、走る。
 とにかく俺は走らなければ、今はロクな装備なんて無い。一撃でも食らえばそこで終わりだ…
「ぐっ……!足が…!」
 右足が痛む、多分今日リーダーに蹴られた所だ…クソ、こんな時に…!
「シャギァッ!」
 足の痛みにスピードを緩めてしまい、フライマンティス達に追いつかれる。
「…しゃーねーな…こっからは、アボイドで…」
 とにかく、時間を稼ぐんだ…あいつらが、背後から刺されない為に…!
………
…
シラヌイが飛び出す少し前…
「なあシラヌイ、お前、あの中飛び込んでこいよ」
「は…?いや、でも…」
「俺達とあの2人で女王倒すまで引きつけてりゃいいんだよ…やれるよなぁ?」
「ここで役に立たないと…そうねぇ、あの2人、背後から襲っちゃおうかな」
「そんな!ま、待ってくれ!」
「なら行ってこいよ……骨くらいは拾ってやるよ」
「ぐっ…」
「俺達が女王倒すまでに雑魚が加勢に来たとしてもあいつら盾にして逃げっから、せいぜい長く時間稼ぎしな?」
「…わかり…まし、た…」
…
………
「俺が、時間を稼ぐんだ!ケント達の、為に!」
 周りにはフライマンティス達が囲むようにして俺を睨む、1匹のフライマンティスが飛びかかり、カマで切り裂こうとする。
「ッ!アボイドッ!」
 回避しても次から次へと四方八方から斬撃が飛んでくる。アボイドの原理は風のように受け流しての回避、斬撃や銃撃には確かに回避出来るが…こうも回数が多いと限度がある。
「…クッ…」
 カマが頬を掠める。クソ…さすがに…
 その時だった。
「火炎ッ!一閃!」
 俺を囲っていたフライマンティスの一角が炎の斬撃によって斬り伏せられる。
「黒曜弾!」
 それに、聞き覚えのある声もする…まさか…
「シラヌイさん!大丈夫!?」
「馬鹿、野郎…」
 年甲斐もなく涙が溢れる。助けられてばかりだが…嬉しかった。
「なんとか、間にあった!」
 シラヌイさんの無事を確認し、フライマンティス達の前に立つ。
 幸いにも後ろからの攻撃に動揺してか、バラバラに動き、仲間同士でぶつかり合ったりしていた。その隙を逃さずにロゼが斬り込んでいく。僕はその場でシラヌイさんを守りながら黒曜弾で牽制する。
 すると1匹が羽を使って飛び上がり、僕を目掛けてカマを振り下ろそうとしていた。
「ッ!ケント!」
「駄目だ!逃げろ!」
 だが、ここで逃げたら…後ろのシラヌイさんに当たる…ここは、一か八かの勝負だ!
 両手を飛びかかるフライマンティスへ向け、集中する…守る、守ってみせる!
「今だッ!コランダムシールド!」
 3メートル程の六方形で透き通った灰色の石の盾が目の前に現れる。
 カマがシールドに当たり、ガリガリと音を立てる。
「うっ…魔力、が…」
 攻撃を防ぐとなると魔力がどんどん削られていく、それに従ってシールドが薄く、脆くなっていく。
「シールド、が…!ううぅ!」
 そして遂にシールドが破られ、カマが迫る。
「う、あぁぁぁ!!」
「ケント!」
  もうダメかと目を瞑ろうとしたその時、視界がグラリと傾く。
「間に合えぇ!!アボイドォ!」
 シラヌイさんに抱えられていた、彼はそのままアボイドを唱え、攻撃を紙一重で回避する。
「シラヌイ、さん…」
「へっ、言ったろ?倍以上にして、借りを返すぜ!」
  シラヌイさんはそのままアボイドを繰り返し、ロゼの元に合流する。
「姉ちゃん!この巣の下は丁度谷底だ!床を崩しちまえ!」
「分かった!どおぉりゃあ!!」
 ロゼがハルバードを地面に突き刺し、切り裂く。
「ケント!お前さんはあそこと向こうに黒曜弾だ!それで落ちる!」
「了解!黒曜弾!」
 シラヌイさんに指示された場所を黒曜弾で撃ち抜く、するとフライマンティス達が乗っていた部分の床が壊れ、谷底へと飲み込まれていった。
「…やった…?」
「……ああ、キチンと全部落ちたみたいだぜ」
「ふぅ…全く…一時はどうなるかって思ったじゃない…」
「へへへ…ごめんごめん……っと…」
 僕はシラヌイに向き合う。
「…シラヌイさん」
「ん?お、おう」
「僕達と一緒に、行きましょう」
「………」
「ケント…アンタ…」
「ロゼ、分かってる。これはシラヌイさんが決めることだけど、それでも僕は…」
「すまねぇ、それ以上は、今はナシだ」
  シラヌイさんが掌を前に突き出して止める
「…今はとにかく女王を倒さなきゃならねぇだろ?」
「…はい」
「なら、その話は倒した後だ…さ、倒しに行こうぜ」
 そのまま真剣な顔で歩いて行くシラヌイさん、しかしその後ろ姿は以前と違い、心なしか嬉しそうにも見えた。
「…よかったじゃん、ケント」
「え?」
 ロゼが僕の肩に手を置きながらニヤニヤする。
「かっこよかったよ、やるじゃん」
「……うん!」
 僕達は笑ってシラヌイさんの後を追いかけた。
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