ダイヤモンドより硬く輝いて

歌さぶろう

第17話 初依頼〜フライマンティスを追え!〜


 冒険者協会の協会員からこってりと説教を受けた僕達は最も被害の大きいとされている場所であるルコニという農村へと向かった。すると村の中心にある広場に2メートルはあろうかという大きさのカマキリ達の死骸が山のように積み上げられていた。

「あんなに…!僕達、遅かったかな…」

「いいや、そうでもないみたい。見てみな、ドンドン運ばれてくる…おそらくはまだいるし…それに原因は潰せていなさそうだな」

「なんで分かるの?」

「ん?ああ、ケントは初めて見るのか…フライマンティスは虫のカマキリとは違って寿命が長くて20年以上も生きやがるんだ。厄介なのは統率力でさ…コイツら、群で行動するんだ」

「え、カマキリなのに?」

「そう。カマキリなのにな…しかもアリやハチなんかみたいに女王がいて、そいつが巣の中で年中卵を生み出し続けてんのさ」

「…で、あそこに女王はいないと?」

「ああ、女王は馬鹿でかいからさ、すぐ分かるんだよ」

「ロゼ、詳しいんだね」

 ロゼは右手で頭を掻きながら「帝国兵時代に嫌という程相手したよ」と溜息をつく。僕達はルコニ村の村長に話を聞きに行くことにした。
 村の人から村長の家の場所を訪ね、向かう。だが村長の家、といっても大きかったり立派だったりするわけでなく、普通の木造の民家だった。ノックをし、中に入ると1人の人族のおじいさんがお茶を飲んでいた。

「…おんや、新たな冒険者さんかいの?」

「はい、えっと…貴方が村長さんですよね?」

「いかにも…ワシがこの村の村長のテムじゃ…あー、突っ立っておらんで、お茶を淹れたげるからこっちゃ来て座りんさい」

「あ…どうも…失礼します」

 僕達は村長のテムさんが淹れてくれたお茶を飲みながら話を聞くことにした。ロゼは猫舌らしくお茶をずっとフーフーしている。

「いやぁ、よう来なすったなぁ…今回はすまんねぇ…今年のフライマンティスは数が多くて多くて…」

「多いんですか?」

「ああ、なんか変でなぁ…まさか、この村の近くに巣でもあるんかと思うておってのぅ…そうなったらワシらではどうにも出来んて、協会へお願いしたんじゃよ…じゃが森を探してもらっても見つからんのじゃ」

「なるほど…フライマンティスの巣…どこにあるんだろう…」

「…なあ、じいさんこの辺りに岩山ってある?」

「うむ…あるにはあるが…」

「なら…その近くに水はある?」

「あぁ…確か、川があったか…」

「うん、ならそこだね…地図に印付けてくれる?」

「ああ、構わんよ…ほれ」

「うし、ケント、ほら行くよ」

「え?ちょ、ちょっと!?」

 ロゼは僕の右手を掴んで外に出ようとする。まだお茶も飲み切っていないのに…。
 僕は村長さんに「すいません、また来ます」と言ってロゼと共に外に出る。

「ロゼ…、ロゼ!どうしたのさ!」

「はぁ…ケント、こうしてる間にもフライマンティスは増えてるかもしれないんだよ?早く行かなきゃいけないの」

「で、でも、あんな切り上げ方は…」

「あのねぇ…人喰われるよ?てかもう喰われてるかもしれないね」

「え……家畜を喰べるんじゃ…ないの?」

 「はぁ…」と溜息をつきながらも、ロゼは僕の腕を引っ張り、地図に付けてもらった印の場所へ進んでいく。

「甘いのも大概にしなよ?人も家畜も同じ肉さ、喰うにきまってるじゃん。それに目の前で喰われてるの見たことあるし」

「そんな…」

 …そうか、ロゼはそんな事を見てきたから…

「ごめん…ロゼ…僕、何も知らなくて…」

「…分かれば…いいんだよ……その、アタシも悪かったよ、最初に言えばよかったな…」

「………」

「………」

 気不味い空気になってしまった。この手の空気はどうするのが正解なんだろう…

「あ〜…あのさケント!ちょっと気になってることなんだけどさ?」

 そんな僕の不安を察してかロゼが話を振ってくれた。しかし、気になっていること?なんだろう…

「…その、気を悪くしないでくれる?」

「いいよ、何?」

「…ケント、アンタ何処から来たの?」

ーーー。まさか…バレた…?

「ハハ…言ったじゃん…ケイニックから来たって…」

「そう、確かにアンタはケイニックから来たんだろうけど…アタシが気になってるのはケントがケイニックから生み出されたフライマンティスのことを知らなかったってこと」

 フライマンティスが?ケイニックで?どういうこと…?

「…フライマンティスを含めて、虫や植物系の魔物は昔ケイニックが魔族に統治されていた時に造られた魔物なんだよ…ケイニックに住んでる人達であればその地の脅威をアタシなんかよりずっと知っている筈なんだ…」

「そ、それは…」

「…やっぱり、知らないんだね…」

 どう返したらいいのだろう…異世界から来た。なんて、この状況で信じてもらえるだろうか…

「僕、は…」

「ねぇケント、本当のことを教えてよ…アタシ、驚いたり差別したりなんかしないからさ」

「……ッ…僕は…」

 …息を大きく吸って、大きく吐く。隠すものでもないが、変に思われるのが当然なことだ…だから言わなかった。でも…

「…僕は、ね…この世界とは違う世界から…来たみたいなんだ」

「…そう、それで?」

 ロゼからあっさりと返事をされて、戸惑う。

「それでって…ロゼ、信じてない…?」

「ううん、信じるよケントの言ってること、だって広い世界なんだからそんな事があっても不思議じゃないよ、アタシは信じる」

 意外だった。
 そこから僕は元いた自分の世界のことを語った。魔物や魔法なんてなく、僕達みたいな人族の人間しかいなくて、自動車や飛行機があることなどを話した。ロゼも時には「魔法もナシによくそんな事が出来るな」と驚いた様子を見せる時もあった。そして僕が話すのに夢中になっている途中で急にロゼが岩山の入り口付近で「止まれ」と制止する。

「話の最中で悪いけど…どうやら着いたみたいだね…」

「どうして分かるの?」

「…そうだね…アンタ、エグいの大丈夫?」

「エグいの…?どういう?」

「…死骸とか、肉塊とか…グロテスクなの」

 そう言われて背筋がヒヤッとした。グロテスクなのは…苦手だ。

「…苦手かも…」

「なら左上の岩肌とか見ない方がいいね、家畜の残骸が散らばってるからさ…それより、これから先は完全に奴らの縄張り。踏み込んだらいつどこから襲ってきてもおかしくないよ、行く?」

「…もちろん」

「なら…気を引き締めて行こうか…」

 と、ロゼはハルバードを構えて臨戦態勢となる。僕もいつでも戦えるように…武器を…いや、そういえば武器ないんだった…えっと…気を配っておく!

「そういえば、なんでフライマンティスは魔物とはいえカマキリなのに岩山にいるの?」

「ああ、カマキリの卵あるだろ?フライマンティスはその卵がとびきりデカい。普通の木なんかじゃ支えられずに卵が落ちちゃうから頑丈な一枚岩に産み付けるんだよ。それが多いのが岩山ってわけ」

「へぇ…じゃあ川は?」

「川が近いと川の水を飲みに来た野生動物や水分補給しに来た人間を喰らえるし、自身が飲む分にも困らない。だからこの場所はフライマンティスにとっては最高の場所なのさ」

「すごいねロゼ…詳しいんだね…」

「…まぁ、ね…こんなこと覚えるくらいなら………オシャレの仕方とか…覚えたかったな…」

「え?」

 なんだろう?最後ら辺の部分が聞き取れなかった…オ…なんだって?そう聞き返そうとした瞬間、ロゼが僕の頭を掴み「伏せろ!」と掴んだ手を地面に付こうかという勢いで下げる。
 頭を下げると同時に頭の上で風を切るような音がした。
 何が起こったのか、周りを見渡すと、5メートル程の大きさで背中に蜻蛉のような羽を生やしたカマキリがいた。

「ッ!?ロゼ!こいつもしかして!」

「ああ!フライマンティスだ!近くに仲間もいるかもしれない!早めにコイツを倒すよ!」

「わかった!なら…黒曜弾!」

 早めに勝負を決めるなら、出し惜しみなんてしていられない!最初から全力で!そう思い黒曜弾を撃ち出す。

「シギャアァァァァ!!」

 フライマンティスも自身のカマで黒曜弾をいくつか撃ち落とす。当たっても、虫ゆえに表情が分からず、効いているのかどうなのか…

「ケント!ちょっとそのまま引き付けてて!アタシが焼き斬る!」

  ロゼのハルバードに炎が逆巻く。

「でりゃあぁぁぁ!」

 炎を纏った斬撃がVの字を描き、フライマンティスの両手のカマを切り落とす。

「シ、ギャアァァ!ギギィ!」

 自慢の手を切り落とされたからか、それとも痛みからか暴れ回り、逃げて行く。

「あ、逃げる!」

「それでいいのさ、巣に逃げ帰るだろうからアイツを追えばいい」

「わかった、じゃあ他のフライマンティスに気をつけながら、追いかけよう!」




  そんな1匹の手負いのフライマンティスを、2人の冒険者が追い立てている様子を、崖の上から眺める4人がいた。

「…ほう…アイツの後をつけてて正解じゃねえか…」

「ええー、ホントに行くの?虫とかヤだよ〜」

「大丈夫だって、俺らにはいざという時のエサ・・があるじゃん!コイツを囮にして逃げればいいし」

 1人の若い冒険者が、「なあ?エサ?」と、ボロボロの姿の中年の半獣人族に声をかける。だが、その男性は何も答えない…。

「…ッ……」

(本当の、仲間……俺は…)



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