ダイヤモンドより硬く輝いて

歌さぶろう

第16話 本当の仲間


 朝、ギルドハウスのベッドで目覚めた僕は昨日のシラヌイさんの事を思いながら、自分とロゼの分の朝御飯を作っていた。

「…はぁ…」

 …シラヌイさんはアレでいいのだろうか…何か出来ないのだろうか…

「おはよ〜…ケントォ…」

 ロゼが起きてきたが、この時の僕は気づいていなかった。

(何か…出来ないのかな…何か僕にでも…)

「ケント?卵、コゲてるよ?」

「うぇっ!?ああぁ!!やっちゃった!」

 僕がボーっとしていたせいで、フライパンには卵の黒くコゲた跡がこびり付いてしまった…洗うのが大変そうだ…。

「全く…シラヌイとかいうオッサンのこと考えてたでしょ?」

「…ん、まあ…ね、何とかならないのかなって…」

「んー、そればっかりはあのオッサン自身がどうするのか決めないとね……よっと!ベーコンいただきっ!」

 シュバッとロゼの右手が盛り付け途中の皿の上にあるベーコンを素早く奪取し、口へ運ぶ。

「あ、コラ!」

「ん〜…美味しい!……でもさケント、そのオッサンのことばっかり考えていても仕方ないと思うよ?そりゃ確かに可哀想にだと思うけど…アタシ達にはどうにも出来ないしさ」

「でも……」

「…はぁ…第一にオッサンは別のギルドに所属してんだから、アタシらじゃ手出し出来ないよ。それに困っている人なんかを助けたいって思うんなら守るための力を付けなきゃ、土台無理な話だよ」

 …分かっているのだが…だが…

「…ほら!項垂れるな、朝御飯食べて、今日こそは協会に依頼探しに行くよ!」

「…分かったよ…」

 …コガしてしまったから卵無しでテーブルに朝御飯を並べてロゼ一緒に食べる。食べ終わったあとは身支度をする。ロゼがハルバードの点検をしている間、僕は鉱石の辞典をパラパラとめくって、魔法のアイデアを探る。

「助けるため…守るため…防御?うーん…硬度が高い石なら…」

 硬度が高いということであればダイヤモンドを作り出せればと思うのだが、以前に師匠から「ダイヤモンドを作り出すなど、それこそ最上級の魔法じゃろう」と言われていた…多分今の僕じゃあダイヤモンドには到底届かない…だとしたら…

「…ん…?コランダム…?」

 ふと開いたページを見るとコランダムのページだった…たしかコランダムも硬かったよな…?


〔コランダム:鋼玉とも。コランダムは、六方晶系の好物で、川や浜辺などにおいて細かい岩屑(川や氷河によって分解・運搬された岩石)として発見されることがある一方、 超巨大な結晶として発見されたという記録もある。色は無、灰、青、緑、赤、茶などが存在する。コランダムの赤いものをルビー、青いものをサファイアと呼ばれ宝石として価値が高い。硬度は9で、ダイヤモンドに次ぐ硬さとなっている〕


「ダイヤモンドに次ぐ…か…やってみようかな…」

 ダイヤモンドに次ぐのならば防御の魔法として使えるかもしれない…!

「すぅー…はぁー…盾をイメージして…形は…六方晶だから六方形で…こうだッ!」

 ブォン、と目の前に縦横2メートル程の大きさの六方形で灰色の壁が現れる!やった!成功だ!

「お待たせケント、ってなにそれ?」

 ロゼがハルバードの点検を終えて玄関にやってきた。

「新しい魔法だよ!コランダムの盾…うーん……コランダム・シールド?」

「へぇ……よっと!」

 ロゼが手に持っていたハルバードでシールドを軽く突く。するとシールドは簡単にバキッと割れてしまう。

「あ、あれ?」

「…ケント、これじゃあシールドになんないよ」

「うーん…まだ上手く発動出来ていないのかな…」

「慣れてないんなら仕方ないんじゃないの?練習するしかないよ…さ、冒険者協会行くよ!」

「う、うん」
(コランダム・シールド…着眼点は悪くないと思うんだけれどな…)


 僕とロゼが街の冒険者協会に向かうと、掲示板に4枚程依頼が張り出されてあった。

「うーん…どの依頼にしようかな…」

「ま、依頼って言っても色々あるからね、アタシなら討伐を受けるかな」

「どうして?」

「そりゃあ戦えるからだよ、己の力を高められるしね」

「そっか…なら、討伐の依頼を受けようかな…えっと…この、[フライマンティスの討伐]…ってのにしようかな」

 僕は手前にあった討伐依頼書を手にしてロゼに見せる

「どれどれ…?」


[フライマンティスの討伐:肉食の虫の魔物、フライマンティスが数匹確認されました。近隣の農村などでは既に家畜の被害が多発していて、王国の経済に支障が出てしまう勢いで協会側としても見過ごすことは出来ません。王国にいる全冒険者各位はこれを撃破、根源を絶って下さい。  報酬200マト]


「へぇ…この依頼を受けてるのアタシらだけじゃなさそうだね…うん、協会からの依頼だから報酬もいいし」

「じゃあ受けようか、確か受付カウンターに依頼書を持っていくんだよね」

 カウンターへ依頼書を持っていき、正式に依頼を受ける。この時、受付の人からも「この依頼には30名くらいの冒険者が参加しているからもしかしたら途中で誰かが依頼を達成してしまうかもしれない」と説明を受けた。
 依頼を受け、冒険者協会を出ようとした時、他の人と肩がぶつかってしまった。僕はとっさに「ごめんなさい!」と言って相手を見ると、昨日の3人組とシラヌイさんだった。

「ってーな!あ、テメェ昨日の…!」

「…ッ!」

 昨日の事が頭をよぎり、身構えてしまう。が、その中の1人がこちらの持っている依頼書を見て、

「…あ?テメェもその依頼書持ってるってことはアレ受けるのか…テメェが?」

「そ、そうだ!悪いか!」

「ハッ、テメェみたいなガキには無理だよ、報酬はオレらのもんだ!せいぜい泣き叫ぶんだな!」

「ぐっ…!」

 殴りたい、そう思った瞬間に後ろから「やめときなケント」とロゼに肩を掴まれる。

「あんなバカ共相手にする必要ないよ」

「ロゼ…」

「ねーちゃんよぉ、オレらと一緒に行かねぇか?その方が楽だと思うぜ?」

 相手からの勧誘に対し、ロゼは「ハァ?」と可哀想なものを見る目をし、断る。そしてシラヌイさんの方を見ながら、

「アタシがアンタらと?バカじゃないの?自分の仲間くらい自分で決める・・・・・・・・・・・・・・さ」

 その言葉に黙っていたシラヌイさんがビクッとする。今の言葉は、明らかにシラヌイさんへ向けた言葉だ…!

「本当の仲間ってのは誰か1人をイジメたり痛ぶったりするようなアンタらみたいな汚い奴なんかじゃないさ」

「言わせておけば!ーーッ!?」

 相手がロゼに敵意を向け剣を抜こうとするより速く、ロゼのハルバードが相手の腹部に突き当てられていた。

「どうする?これ以上やるんならアタシに焼き殺されるか腹にデッカい穴開けられるか…どっちかだ」

「…チッ…な、なんだよ…こんな事で熱くなりやがって、ば、馬鹿じゃねーの?行くぞお前ら!」

 さっさと引き上げて行く3人に対して、シラヌイさんは僕達とのすれ違い様に「すまねぇ…」とだけ言葉を吐き、去っていった。

「…なんだい、一戦交えられると思ったのに…」

「すごい…ロゼ、カッコいい…!」

「カッコいいって…ケント…はぁ…」

 僕が自然に出た言葉にロゼは少しガックリとしている様子であった…。僕が何故かと聞こうとしたら…協会員の人が怒りながらやってきて、

「君達!協会内で喧嘩は困るよ!それも武器なんか出して!」

 と、そこから協会員の方に20分程軽くお説教を喰らってしまった…。

 …果たして、ロゼの言葉はシラヌイさんに届いたのであろうか……この依頼の最中にまた、会えるだろうか…その時は…

「コラ!聞いているのかね!」

「あ、は、はい!すいません!」

「全く…第一だね!人に武器を向けてはいかんと習わなかったのかね!それにここはみんなの冒険者協会だ!そこのところハッキリと分かっておくように!」

 …あ、ロゼ…寝てる。


 この後、寝ていたことも含めて更にお説教が伸びたのは言うまでもあるまい…。


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