ダイヤモンドより硬く輝いて

歌さぶろう

第3話 ノールドという男

 
 ノールド…いや、師匠の弟子になった次の日の朝、

「ケントや、ちと街まで買い物へ行こう。いつまでもその学生服ではいられんだろう?」

「え…でも僕、お金なんて…」
(…あれ、まただ。また違和感が…)

「フホホ!ジジイを甘くみてはいかんぞ、ほれ!」

 と、師匠は自慢気に金貨を両手一杯に抱えて僕に見せた。

「うわ…すごい…一体どうしたんですか、これ」

 そう聴くと更に師匠は自慢気になって

「これはのぅ、ワシが若い頃に貯めた財産の一部じゃ!倉庫にまだまだあるぞい!」

「へぇ…すごいんですね、師匠…どうやって稼いだんです?」

「あー、ワシはな…昔は冒険者だったんじゃよ、そう…昔はな」

 どうやらこの世界にはRPGみたいに冒険者という人達が存在するらしい。
 師匠は少し哀しみの目をしながらそう言ったが、すぐに、

「ワシの話はええんじゃよ!さあて!1週間分の食料も買わんといかんからのぅ、荷物持ちは頼むぞ、ケントや」

「は、はい!ですが師匠、その…」

「なんじゃ?」

僕には疑問があった、何故なら…

「師匠…山から降りれます?」

 そう、師匠の家は山のだいたい8合目。そして師匠が「見えるか?あの街に行くぞ」と指差した街は豆粒ほどに見えるくらい遠くにある。老人の体ではとても辛いはずだ。だが…

「大丈夫じゃよ、真っ直ぐ行けばすぐに着く」

「あ、あんなに遠いんですよ?日が暮れるどころか2日くらいかかるんじゃないですか?」

「大丈夫じゃて、心配性よな。ほれ、行くぞ」

 そう言って家から出ると師匠は、

「ケントよ、しっかりワシのどこかに掴まっておれよ?」

 師匠はガシッと僕を掴むと杖を振りかざし、叫んだ。

「フライト!ほいで、ライト・スピードォ!!」

 するとどうだろう、フワフワと師匠と僕が宙に浮いたと思った次の瞬間…

 ビュオゥッ!!

 ありえない速さで飛んでいた。

「う、うわ!うわあぁぁぁ!」

「ハッハッハァ!どうじゃあ!真っ直ぐ行けば早いじゃろぉ!」

 だが、不思議と風は感じない。

「ん?ああ、お前さんは風を切って走りたいタイプか?そうだとしたらすまんのう、ワシは大丈夫なんじゃが、お前さんが風圧で潰れん用にシールドを張っておるでな、すまんのう」

 そうだったのか、師匠は大丈夫だけど僕は…え?

「どうして師匠は大丈夫なんです?」

「んん?あー、いやなんていうかのぅ…お!もう着くぞ、喋っておったら舌を噛むぞ」

 露骨に話を逸らされた。きっとあんまり答えたくない部分を聞いてしまったのかもしれない。

「着いたぞ。ブルーメじゃ」

 街の名はブルーメ。あちこちに露店が並んでおり、見たこともない野菜やフルーツ、あちらの木の雑貨は特産品だろうか?実に様々な物が売られている。
 だが、僕が驚いたのは、そこじゃない。

「え…あ、あれ、あの人達…」

 そこにいた人達の中には、獣の耳や尻尾が生えた人や、小さな角が生えた筋骨隆々な人、金色の綺麗な長髪に尖った耳がある人など、様々な人達がいた。

「あー、そうじゃった…まだ説明しとらんかったなぁ…忘れておった」

 と、師匠が「まいったまいった」と頭を掻き、歩きながら説明するには、このプロディジアの人種は大きく分けて4つ。
 1つは『人族』、基本的な人種で僕や師匠みたいな、普通の人達。どこにでも順応出来て暮らしていける人種らしい。
 2つ目は『半獣人族』、動物の耳や尻尾が生えていて、それぞれ違った特性を持つらしい。例えば犬耳の人は鼻が良かったり、猫耳の人は夜目が効いたりと様々。
 3つ目は『エルナ族』多分僕の元いた世界ではエルフって呼ばれるのではないだろうか、綺麗な髪に尖った耳、そして他の3つの人種と違って長命で、師匠によると1000年以上生きる場合もあるらしい。
 最後4つ目は『オーガン』、肌の色が褐色で男女ともに背が高くて筋肉質。でも、オーガンの人種の9割以上は魔法が使えないらしく、使えても小規模なモノで限界らしい。

「とまぁ、こんな感じに人種が分かれておる」

「へえぇ…そうなんだ…」

「さて、着いたぞ、ここじゃ」

 師匠が歩みを止めたのは『鍛冶屋ヴァント』と書かれた古ぼけた看板がかかったレンガ造りの大きな鍛冶屋だった。中に入ると…

「やあ、ユ……ノールド。久しぶりだね」

 店内は外見と比べると狭く、様々な武器や防具、鍋、フライパン、金槌にジョウロなどゴチャゴチャと物が散乱している。
 そして奥のカウンターには1人のメガネをかけ、年老いたオーガン族の男がいた。

「久しいなぁヴァント、年とったなぁおい」

「はは、君だってシワだらけじゃあないか、お互い様だよ。それで?そちらの少年は?」

「ああ、ワシの弟子のケントじゃよ、ケント、コイツはヴァント、世界一の鍛冶屋じゃ」

「あっはは、それは言い過ぎだよ。どうも、ケント君」

「あ、ど、どうも…」

師匠はヴァントと呼ばれる男とは旧知の仲らしい。

「おお、そうじゃケント」

師匠がポケットからメモと金貨の入った小さな袋を取り出し、僕に渡す。

「すまんな、ちとヴァントと話があってなおつかいを頼む。メモに買うものと店の場所が書いてある。頼めるか?」

 誰かから頼まれるなんて…今までなかった!よし!

「はいっ!頑張ります!」

と、僕は意気揚々に鍛冶屋を出た。






研人が鍛冶屋を出てから…

「しかし…君が弟子をとるなんてね、どうしたんだい?ボケが始まったかい?」

「ほざけ、あの子は異世界から来た子だぞ」

「ほ、本当かい!?…これで2人目かぁ」

「…で?帝国の動きは?」

「…よくないね、魔物を洗脳して軍の一部に組み込んでる」

「ふぅむ、例の奴・・・についてはどうじゃ?」

「ダメだ。さっっっぱりだよ、急に現れただけでなく、その恐ろしいほどの強さで帝国の騎士団長に1日もかけずに就任してって…常識破りにも程がある」

「しかも剣術はピカイチで右に出る者はおらず、魔法は全属性持ちでこの世界に存在する中で1番最強の魔法全てを使いこなすんじゃろう?正直、ワシもお手上げじゃよ、そんなチート野郎に勝てるわきゃあないわい」

「チー…?何だい?」

「あー…常識外れ?」

「なるほど。でも、君がそんなこと言っていいのかい?昔、君は…」

「へっ…昔は昔じゃよ、今は老いぼれたジジイさ」

「ふぅん、どうだか…で?君のことだ、まだ何かあるんだろう?」

「うむ、このリストの物を全て集めて『ある時』が来るまでお前んとこで預かっててもらいたい」

「どれ、拝見…うん、この程度なら1週間あれば揃うよ。で、いつまで預かればいいのかな?」

「それはな…」

……………
………


「…そんな事が起こるというのかい?」

「ああ、起こる。間違いない」

「そんなっ!ならどうして!き、君は!」

「怒るなよ、老体に響くぜ?それにだからこそあの子を、ケントを鍛えてやらねばならんのじゃ」

「…何故だい?」

「あの子は未知数じゃ、可能性の原石じゃよ。それにこのタイミングで異世界から来よった。きっと理由があるに違いない」

「…それも神から聞いたのかい?」

「いんや、ワシの直感じゃ、まぁもしハズレでもしたら多分世界は終わるじゃろうの」

「はぁ…相変わらずだねぇ……本当に直感だけかい?」

「む?」

「君、もしかしてあの子と自分をどこか重ねて見てたりしない?」

「…目敏い奴め……だが、そうかもしれんな」

「全く…君という男…『ノールド・トラヴィス』は困り者だねぇ」

(あぁ…困り者だよ…あの男・・・は…)

……………
………


(…師匠…)




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