先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!

執筆用bot E-021番 

なぜ、勇者が来るとイベントが起こるのか?

 歩いた。



 やがてオレの耳にも、川のせせらぎが聞こえてきた。音を辿ってみると底まで見透かすことのできる川があった。



「うわぁ。キレイな川やなぁ」
「そう?」



「日本の水はたいていもっと濁ってるからな。人工的にキレイにする技術はあるけど」



 このサタンベルクには自然を汚すようなものが、まだ開発されていないのだろう。自動車だってないのだ。



「へー。ドメくんは日本ってところから来たんだ」
「知らへんかったんか?」



「うん。だって私は、この世界の住人だから」
「そうなんか」



 先生が生み出したものだから、先生の持ってる知識が反映されている――なんてことはないようだ。生み出したキャラクターは、もはや作者の手元を離れて生きているのだ。



 川の水に手をつけた。
 指の芯が痛くなるほど冷たかった。救いあげて口に運んだ。



「ふー。美味しい」
「ドメくん。どうやらエルフたちが来たみたいよ」



「え。どこや?」



 周囲の茂みの中から、いくつかの影が跳びだしてきた。5人。オレたちのことを囲むように下り立った。



 プラチナブロンドの髪はどことなく先生に似ている。けれど、耳がツンととがっている。着ているのは動物の皮のような服だ。エルフだとすぐにわかった。都市でも何度か見ているし、オレのイメージしてるエルフそのままの姿だった。



「ここは森だ。人間たちの立入りは禁止している」



 5人のうちの1人が、一歩前に出てきてそう言った。オレたちの顔を見ないで、紙のようなものを見ていた。



「そんなケチなこと言わんといてくださいよ。オレたちは魔王を倒しに行くために、この森を通過せんとあかんのです」



「ダメだ」



「何でですのん。魔王を倒しに行こうとしてるねんから、もうちょっと協力的になってくれてもええと思うんですけど」



「えっと……。ダメだ。この森を通りたければ、えっと……」



 言葉がつたない。



 いったいエルフの読んでいる紙には、何が書かれているのだろうか。覗いてみた。驚いた。そこにはエルフたちのセリフが、そのまま書かれていた。



「なに読んでますんッ。カンペですやんッ」



 オレが突っ込むと、読み上げていた女性のエルフはそれを丸めて、オレに投げつけてきた。ひたいに直撃する。



「いてー」
 紙は丸まって、オレの手元に落ちてきた。



「仕方がなかろうッ。つい先ほど、魔王を連れた先生が書き残して行ったのだ」



「ま、魔王を連れた先生?」
「そうだ」
 と、エルフの女はうなずく。



「逆とちゃいます? 先生を連れた魔王やと思うんですけど」



「いいや。先生が歩いていて、後ろから魔王がついていた。まるで魔王は頭が上がらない様子だった」



 先生は神様のような存在だから、魔王も頭が上がらないのかもしれない。オレが引き取りに行くまで、先生の相手をしてくれているのだろう。魔王に同情する。



「ってことは、先生からの伝言ってことですか?」



 どうやらエルフたちも、先生のことを知っているようだ。自分の生みの親のことぐらいは認知しているのだろう。



「そうだ。後から来る勇者にしかと伝えるようにと言われたのだ。この森を通りたければ、この国の王から通行手形をもらってくるのだ」



「え、この国の王って、最初におった、ヒノキの棒を押し付けてきたあのオッサンのこと?」



 愕然とした。



 セッカクここまで来たのに、道を引き返せと言うのか。しかも、先生からの伝言だと言う。



「そんな殺生な!」
 先生にたいして小さな憎しみを抱いた。



「それが厭なら、明日に行われる武芸大会に参加して、優勝せよ。もしも、優勝すれば通してやっても良い」



「それも先生からの伝言なんですか?」



「そうだ。ウソだと思うなら、その紙を広げてみるがいい」



 ボールになった紙を開けていく。



 エルフが言ったことが、そのまま記されていた。



 オマケに先生の似顔絵まで入っている。これは先生のサインみたいなものだ。オレも先生に憧れていた頃があって、描いてもらったことがある。悔しいけど、そのサイン入りのハードカバーは今でも大事に本棚にしまってある。



「王様から通行手形もらって来いって理屈はわかりますよ。許可がいるんでしょう」



「うむ」
「でも、なんで武芸大会なんですか」



「それはあれだ。魔王のもとへ行くなら、私たちを倒すぐらいの実力がなければいかん」



 ここを通りたくば、私のシカバネを越えて行け的なヤツか。



「なんですぐ戦いたがるんですかね。話し合いで解決したらよろしいですやんか」



「そういう決まりだ」



「しかも、なんでオレが来たら都合よく、武芸大会とかはじまるんですか」



「貴様は勇者なのであろう。勇者がやって来たら、そういうイベントが都合よくはじまるように出来ているのだ」



 先生みたいなことを言う。先生の物語はすでに途切れているはずだ。先生は筆が進まないと悩んでいたのだ。なのに、都合のいいことが起きる。ってことは、もしかすると先生は物語の続きを思いついたのだろうか。



 リリさんに尋ねてみた。



「先生が続きを思いついてたら、世界はその通りに動くんやろか?」



「でしょうね。最初から先生はこの世界を好きに書き変える能力があるし」



 じゃあこの武芸大会も、先生が考えた筋書きなんだろう。



「うへー」
 最悪だ。



 突っ込み役のオレがいないのを良いことに、この世界をトンデモナイことに変えてしまうかもしれない。



 この世界をメチャクチャにされるのはゴメンだ。オレにとっては、はじめての異世界なのだ。それなりに思い入れがある。違う意味で早く先生をと合流しなければいけない。ある意味、世界を救うってことになる。



 そうと決まれば、武芸大会なんかに参加してる場合ではない。



「すんませんけど、参加してる場合やないです」
「何故だ?」



 エルフの女が怒ったような顔をする。今気づいたのだが、このエルフの女性、服がかなりきわどい。袖は短いし、襟が大きく開いている。胸が見えそうだ。見ないように努力した。



「いや、先生がまた物語の続きを思いついたみたいなんです。オレがいない間に、勝手に物語を書きはじめたら、トンデモナイことになりますよ」



「そんなこと言われても、決まりは決まりだ」



「どうなっても知りませんよ。空から爆弾とか降ってくるような世界にされるかもしれへんのですよ」



「爆弾?」
「あぁ、いや、もういいですわ」



 説明するのがメンドウくさくなった。
 説得は難しいようだ。
 先生の筋書きに逆らうことは出来ないのだろう。



「いちおう貴様たちは勇者なのだろう。寝床ぐらいは都合してやる。ついて来い」



「はい」
 とりあえず、従うしかない。



 エルフの女の名前は「ケィケィ」と言うらしかった。この森のエルフたちをまとめている長の娘だということだ。

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