先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!

執筆用bot E-021番 

文句を言われると、作者は傷つくようです

 ボススライムの後ろには、小さな洞穴があった。誰が造ったのか知らないが、トビラがついている。



 開けて中に入ると、部屋があった。ツルツル頭でちょび髭の生やしたオジサンがいた。



「おー。あなたは夢に出てきた勇者ですね。この頭を授けましょう」



 虹色に輝く玉を渡してきた。人間の顔ほどの大きさがある。けっこう重い。



「やったな。ドメくん。これで魔法玉を手に入れたではないか」



「これが、土砂を何とかするアイテムですか?」



「魔法玉だ。大爆発を起こして土砂を吹き飛ばしてくれるはずだ」



「いやいやいや。いろいろとオカシイですやん」
「何が?」
 と、先生は口先をとがらせた。



「なんでダンジョンの最奥にオジサンが住んでますん。このオジサン、どうやって生活してるんですか」



 いちおうオジサンに気を遣って聞こえないように、小声で詰問した。



「だってほら、大事なアイテムを渡してくれるキーマンってことで」



「しかも、夢に出てきたから渡すとか言ってましたよ。そんなことあります? オレが夢に出てくるってのも変ですし、夢に出てきた人にアイテム渡すって、どんな考え方してるんですか」



「ドメくんはオジサンがよっぽど嫌いなようだ」
 先生はいかにも残念そうな顔をして言う。



「そんなこと言ってませんやん! 理屈に合わないって言うてるんですやん」



 そもそもですよ――とオレは続けた。



「こんな玉を持ってるなんて、オカシイですやん。しかも爆弾みたいなもんなんでしょ。魔法か知りませんけど爆弾みたいなん作れるんでしょ。もっと大量に作って、魔王に投げつけたらよろしいですやんかッ!」



「ドメくん」
 先生はマジメな顔をして、オレの名前を呼んだ。



「なんですの」
「ちょっと来たまえ」
「はい」



 先生はオレの腕をとると、部屋の外に連れ出してきた。オジサンがいる部屋を一歩出ると、スライムの洞窟だ。



 先生は不意にオレの頬をつかんできた。左右にビヨンビヨンと引っ張ってくる。



「さっきから屁理屈ばっかり並べるのはこの口かッ。ん? 君はゲームというものをやったことがないのか! アイテムというのは主人公の都合のいい場所に置いてあるもんだろう。ドラクエにだって、壁を爆発する魔法の爆弾が登場したではないかッ」



「い、いひゃいです」



「納得がいかないなら適当に理由をつけておいてやる。このスライムたちは物を作る技術を持ったスライムだった、ということにしておけば良いであろう。カンテラもスライムが作った。魔法玉もスライムが作った。これで満足か? ん?」



「いひゃいでふってッ」
 ようやく先生の手が、オレの頬から離れた。



 頬が熱い。
 腫れてないか心配だ。



「マッタク。他人の作品だと思って揚足ばっかり取る。だいたい筋が通ってる作品が面白いなんて、どこの誰が言いはじめたのだ。文学はアポリアが大事なのだ。俗な君には理解できないのであろう」



 けっこうガチで怒らせてしまったらしい。



 誰だって自分の作ったものを非難されると、気分を害するだろう。チョット言い過ぎたかと思って、オレも反省した。



「すんません」



「君は現代文学というものを読んだことはないのか」



「ええ。まぁ、読んだことありますよ」



 オレは読書家だという自負がある。先生の本屋で、売れなくなった本を安くて譲ってもらったりもしている。おかげでオレの部屋の底が、書籍で抜けたぐらいだ。



「現代文学というのはだいたい意味がわからん。そうであろう。ワニを飼ってる少女が、何の脈絡もない気の狂ったタクシー運転手と出会ったりするんだぞ。意味がわからんじゃないか。アポリアだ。意味がわからんから面白いのではないか」


 これぞ文学だァーーなんて、先生はわめいていた。



「いや、でも異世界ものって、現代文学じゃないって言うか……」



「ンッ!」



 先生がまたオレの頬めがけて手を伸ばしてきた。あわてて「何でもないです」と言っておいた。



 先生は「ふーっ」と長く呼吸を落としていた。
それで少し冷静になってくれたようだ。



「少し大人げないことを言った」
「いえ。オレも言い過ぎました」
「よしよし」



 先生は、ついさきほど引っ張ったオレの頬を撫でてくれた。照れ臭かったけれど、その手を払いのけようとは思わなかった。先生のプラチナブロンドの長いモミアゲが、オレの鼻先で揺れていた。いい匂いがする。



 怒ったり、慰めてきたり、忙しい人だ。でも、こういう人なのだ。先生は美しき奇人なのだ。



 先生とマトモに付き合えるのはオレぐらいだろう。オレぐらいだと思うのが、チョットした誇りでもある。



「さて、こんなスライムだらけの洞窟で、おしゃべりしている場合ではない。さっさと土砂を片付けようではないか」



「あのオジサン、どないしますん?」
 放って行ってもええんやろうか。



「原稿を書きなおして、あんなオジサンはいなかったことにしておこう」



「何でもありですね」



 さすがは作者だ。
 あのオジサンもご愁傷さまだ。



 こうしてスライムのダンジョンをクリアした。



 正直、魔法玉の存在はいまだに釈然としなかった。



 でも、ここは先生の世界なのだ。先生が右だと書いていれば右なのだ。左だと書いていれば左なのだ。あんまり深く考えないほうがいいのかもしれない。



 これでよく小説家を名乗っていられると思う。だが、考えてみれば先生は普段、異世界ものの小説なんてあまり書かない。



 短編の怪談とか、猟奇的なグロ小説とかを手がけている。もしかして異世界ものの小説を描くのは、はじめてなのかもしれない。



 少しは大目に見てあげようと、オレは大らかな気持で先生の背中を見つめた。この時ばかりは、大らかであろうと思ったのだ。しかし、魔法玉の威力を見てからは、そうも言ってられなくなった。



「ドーンッ!」だったのだ。「どーん」でも、「どんっ」でもなくて、「ドーンッ!」だったのだ。



 道をふさいでいた土砂が吹っ飛んだ。それだけじゃない。山の一部を崩していた。新しい土砂崩れを起こしてしまうんじゃないかと心配になるぐらいだった。



「なんなんですかこの威力。これだったら、スライム味方にしてしもうたら、ええですやん。爆弾つくってもらって武器にしましょうよ」



 少なくともヒノキの棒より、ぜんぜん使える。



「よし。これで次の都市への道が開通した。出発だ」


 無視ですかー。

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