先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!
異世界の風呂やトイレはどうなってるのか?
「さて」
と、先生が急に立ち上がった。
もしやまだ、他の部屋のツボを割ることを諦めていないのではないかと心配になった。
「私は風呂に行く」
「風呂なんてあるんですか?」
ふふん、と先生は艶めかしく笑う。
わざと色気を振りまいてるわけじゃないんだろう。スタイルが良くて顔が整ってるから、ひとつ笑うだけで色気であふれるのだ。
「ドメくんも、まだまだ甘いな。中世ヨーロッパの文化と似ていると言ったであろう。当時の人は風呂好きだったのだよ」
「へぇぇ」
「風呂も入らない主人公なんて読者も厭だろう」
その気遣いのおかげで、お風呂が存在してるわけだ。
「じゃあ、オレも行きます。お風呂」
中世の人たちはパンを焼くカマドの蒸気を利用して蒸し風呂にしたり、ちゃんと浴槽に浸かるタイプのものもあったそうだ。――先生が教えてくれた。
小説を描くだけあって、そういう無駄な知識はたっぷりと保有しているのだろう。
じゃあ、この世界の風呂はどうなのか……。
日本の銭湯のようなお風呂が、宿についていた。シャンプーやボディソープはなかった。石鹸はあった。髪の毛はガシガシになるけれど、贅沢は言ってられない。
部屋に戻ると、先生はもう上がっていた。
いい匂いがする。
しかもバスタオル1枚だった。たっぷりとふくらんだ乳房の肉がはみだしている。下のほうからは白く艶のあるふくらはぎが、お目見えになっている。
「せ、先生ッ。服はどうしたんですかッ」
「いや。暑いであろう」
「暑くても服は着てくださいよ。オレは男なんですよ」
「おおっ。そうであったな」
ははははっ、と先生は照れる気配すらない。
考えてみれば、女性と同じ部屋なのだ。しかも、今晩は同じ部屋で寝ることになるのだ。意識すると急に緊張してきた。
先生はそこのところを、どう考えているのだろうか。オレに襲われてもいいと思ってるのか。それとも、オレにたいして警戒心がないのか。
ゼッタイ後者だろう。先生にふつうの女性の感性が備わっているとは考えにくい。
オレが目を閉じているあいだに、先生には魔術師めいたローブを着なおしてもらった。
緊張したら、急にお腹が痛くなってきた。
お風呂に入ったところなのに、最悪だ。
「先生。非常に尋ねづらいんですけど」
「なんだね。ドメくん」
「この世界のトイレはどうなってるんですかね?」
「ああ。これだよ」
先生は、部屋の隅に置かれていたツボを持ってきた。
「え。なんです。これ?」
「オマルだ」
オマル?
それってよく赤ちゃんがやってるヤツか?
「変な冗談はやめてくださいよ。先生のギャグはハイセンスすぎて、オレには付いて行けません」
「冗談なものか。中世の人たちは、こうしてオマルに糞尿を出していたのだ。しかもその後は、ポイ捨てだ。パリにはセーヌ河という有名なのがあるじゃないか。糞とか流れてたらしい。しかもその水を飲み水として売る輩もいたらしい。町の中はウンチまみれだったとも聞くな」
不潔であるなぁ、と感慨深そうに言う。
「え! じゃあ、この世界にトイレあらへんのですかッ!」
「その通りだ」
冗談でも何でもなく、本気でオマルなのだ。
「なんでそんなところをリアルにするんですかッ。ゲームテイストにしてると思ったら、急になんで現実主義になってますんッ。ボットン便所でもええですやん。よりにもよって、オマルなんて厭ですよ!」
先生は眉をしかめた。
「厭なら、外でしてきても良いが」
先生は窓辺を指差した。
「もっと厭ですよ。ホンマにオマルしかあらへんのですか?」
「安心したまえ。パリみたく都市が汚れないように、ちゃんと糞尿を集める職業の人を、私は創作している。だから、安心してオマルに糞尿を垂れ流すが良い」
神々しいものでも扱うかのように、オマルを押し付けてくる。いちおう受け取る。自分のプライドと相談してみる。
オマルいけるか? しかも普通のオマルじゃない。ツボだ。なんの変哲もないツボだ。ムリや。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
「魔法とかで何とかなりませんか。ホンマにお腹痛いんですけど」
「ドメくんは妙なことに拘るのだなぁ。やり方がわからないのであれば、私がやって見せようか?」
「いや。それはそれで厭です」
こんな美しい人が、ツボに糞をしてるところなんて、見たくない。見てしまったらオレの人生観が崩壊するような気がする。
そろそろ本気でお腹が痛くなってきた。
「さあ。何も恥ずかしがることはない。この私が見守っていてあげようではないか。さっさと糞尿を垂れ流したまえ」
「いや。見られてたら余計にやりにくいですってッ」
あかん。
ここは勇者として――男として――いや、人間として大切なものを捨ててでも、為すべきことは成さねばならない。
異世界小説の麗しいお姫様や、花も恥じらうヒロインたちも、こうしてツボに糞してるはずなのだ。何も、恥じることはない。
「先生。すんません。ちょっとだけ1人にしてください」
「うむ。良かろう。私は少し外を散歩してくる」
「はい」
為せば成る、為さねば成らぬ。何事も成らぬは人の為さぬなりけり。――上杉鷹山。
と、先生が急に立ち上がった。
もしやまだ、他の部屋のツボを割ることを諦めていないのではないかと心配になった。
「私は風呂に行く」
「風呂なんてあるんですか?」
ふふん、と先生は艶めかしく笑う。
わざと色気を振りまいてるわけじゃないんだろう。スタイルが良くて顔が整ってるから、ひとつ笑うだけで色気であふれるのだ。
「ドメくんも、まだまだ甘いな。中世ヨーロッパの文化と似ていると言ったであろう。当時の人は風呂好きだったのだよ」
「へぇぇ」
「風呂も入らない主人公なんて読者も厭だろう」
その気遣いのおかげで、お風呂が存在してるわけだ。
「じゃあ、オレも行きます。お風呂」
中世の人たちはパンを焼くカマドの蒸気を利用して蒸し風呂にしたり、ちゃんと浴槽に浸かるタイプのものもあったそうだ。――先生が教えてくれた。
小説を描くだけあって、そういう無駄な知識はたっぷりと保有しているのだろう。
じゃあ、この世界の風呂はどうなのか……。
日本の銭湯のようなお風呂が、宿についていた。シャンプーやボディソープはなかった。石鹸はあった。髪の毛はガシガシになるけれど、贅沢は言ってられない。
部屋に戻ると、先生はもう上がっていた。
いい匂いがする。
しかもバスタオル1枚だった。たっぷりとふくらんだ乳房の肉がはみだしている。下のほうからは白く艶のあるふくらはぎが、お目見えになっている。
「せ、先生ッ。服はどうしたんですかッ」
「いや。暑いであろう」
「暑くても服は着てくださいよ。オレは男なんですよ」
「おおっ。そうであったな」
ははははっ、と先生は照れる気配すらない。
考えてみれば、女性と同じ部屋なのだ。しかも、今晩は同じ部屋で寝ることになるのだ。意識すると急に緊張してきた。
先生はそこのところを、どう考えているのだろうか。オレに襲われてもいいと思ってるのか。それとも、オレにたいして警戒心がないのか。
ゼッタイ後者だろう。先生にふつうの女性の感性が備わっているとは考えにくい。
オレが目を閉じているあいだに、先生には魔術師めいたローブを着なおしてもらった。
緊張したら、急にお腹が痛くなってきた。
お風呂に入ったところなのに、最悪だ。
「先生。非常に尋ねづらいんですけど」
「なんだね。ドメくん」
「この世界のトイレはどうなってるんですかね?」
「ああ。これだよ」
先生は、部屋の隅に置かれていたツボを持ってきた。
「え。なんです。これ?」
「オマルだ」
オマル?
それってよく赤ちゃんがやってるヤツか?
「変な冗談はやめてくださいよ。先生のギャグはハイセンスすぎて、オレには付いて行けません」
「冗談なものか。中世の人たちは、こうしてオマルに糞尿を出していたのだ。しかもその後は、ポイ捨てだ。パリにはセーヌ河という有名なのがあるじゃないか。糞とか流れてたらしい。しかもその水を飲み水として売る輩もいたらしい。町の中はウンチまみれだったとも聞くな」
不潔であるなぁ、と感慨深そうに言う。
「え! じゃあ、この世界にトイレあらへんのですかッ!」
「その通りだ」
冗談でも何でもなく、本気でオマルなのだ。
「なんでそんなところをリアルにするんですかッ。ゲームテイストにしてると思ったら、急になんで現実主義になってますんッ。ボットン便所でもええですやん。よりにもよって、オマルなんて厭ですよ!」
先生は眉をしかめた。
「厭なら、外でしてきても良いが」
先生は窓辺を指差した。
「もっと厭ですよ。ホンマにオマルしかあらへんのですか?」
「安心したまえ。パリみたく都市が汚れないように、ちゃんと糞尿を集める職業の人を、私は創作している。だから、安心してオマルに糞尿を垂れ流すが良い」
神々しいものでも扱うかのように、オマルを押し付けてくる。いちおう受け取る。自分のプライドと相談してみる。
オマルいけるか? しかも普通のオマルじゃない。ツボだ。なんの変哲もないツボだ。ムリや。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
「魔法とかで何とかなりませんか。ホンマにお腹痛いんですけど」
「ドメくんは妙なことに拘るのだなぁ。やり方がわからないのであれば、私がやって見せようか?」
「いや。それはそれで厭です」
こんな美しい人が、ツボに糞をしてるところなんて、見たくない。見てしまったらオレの人生観が崩壊するような気がする。
そろそろ本気でお腹が痛くなってきた。
「さあ。何も恥ずかしがることはない。この私が見守っていてあげようではないか。さっさと糞尿を垂れ流したまえ」
「いや。見られてたら余計にやりにくいですってッ」
あかん。
ここは勇者として――男として――いや、人間として大切なものを捨ててでも、為すべきことは成さねばならない。
異世界小説の麗しいお姫様や、花も恥じらうヒロインたちも、こうしてツボに糞してるはずなのだ。何も、恥じることはない。
「先生。すんません。ちょっとだけ1人にしてください」
「うむ。良かろう。私は少し外を散歩してくる」
「はい」
為せば成る、為さねば成らぬ。何事も成らぬは人の為さぬなりけり。――上杉鷹山。
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