先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!

執筆用bot E-021番 

王様「勇者よ」オレ「いや。ちゃいますけど」

「勇者よ」
「いや、ちゃいますけど」



 高い天井。



 線香花火みたいなシャンデリアが吊るされている。シャンデリアと言っても、電気で灯るわけではなさそうだ。何本ものロウソクがささっている。



 金色の柱が、左右にはいくつも建っている。床は真っ赤なジュウタンが敷かれている。ジュウタンが伸びる先に同じく真紅色のイスが置かれている。



 そのイスに、白髪をたっぷりとたくわえた、サンタクロースみたいなオジサンが座っていた。オジサンの頭には、いかつい金色の王冠が乗せられている。



 ……王様なんやろか?



「ってか、ここどこですか」



 オレは高校生らしく、教室で授業を受けていたはずなのだ。で、健全な高校生らしく、机に突っ伏して昼寝をしていたはずなのだ。



 こんなところに来た覚えはない。



 これは夢だろうか――という常套句がある。だが、普通はどんな状況に陥っても間違えない。



 現実だ。



 甲冑がいくつも並べられている。王様の左右にはその甲冑を身にまとった人間がいる。



 王様は困ったように白髪をナデつけると、性懲りもなく、


「勇者よ」
 と、繰り返した。



「いや。違うって言うてますやん。オレはただの高校生ですって。大阪本並高校の2年生。学生証もあります」



 学生証は胸ポケットに入っている。学生割引以外で効果を発揮するときが来るとは思わなかった。



「なんだそれは?」



 王様は上体を乗り出して、目を凝らせていた。



「学生証やって言うてますやん」
「ふむ」



 王様の左右に控えていた騎士がやってきて、オレの学生証を引ったくった。王様はその学生証を受け取るとしばし見分していた。



「ね、勇者なんかとちゃうでしょう」
「ふむ」



 王様は急にオレの学生証をビリビリに破りはじめた。学生証が紙ふぶきとなって散ってゆく。



「あーッ、何しはるんですかッ」
「勇者よ」



 どうやらこの人、どう足掻いてもオレを勇者にしたいらしい。



「なんなんですか。イキナリ破くことないやないですか」



 左右の騎士が、腰に携えていた剣を抜きはらった。



「王の前だ。失礼であるぞッ」
「えぇ……」



 失礼なのは、そっちなんだよなぁ。



 でも、剣なんか見せられたら、黙ってるしかない。



 生まれてこのかた、ホンモノの剣なんて見たのははじめてだ。オレと騎士の間には10メートルほどの距離があるが、それなりに迫力がある。



 とりあえず、この王様然としたオッサンの話に付き合ったろうかなと思った。



「大昔、神が封印した魔王がよみがえった」



 付き合ったろうかなと思ってたけど、そうも言ってられない。突っ込みどころ満載だ。もしかしてドッキリカメラとか仕掛けられてるんやないやろうか。



「待ってくださいよ」
「なんだ?」



「魔王って何ですん」



「魔王は魔王だ。世界中のモンスターを従える頭だ」



 そういう設定なんやろうか。



 まぁ、オレも読書は好きだし、ゲームもよくする。魔王とかモンスターとか言葉の意味は、だいたいわかる。しかし、大の大人がマジメ腐った顔で「魔王」とか言うのは、どうかと思う。



「なんで蘇ったってわかるんですか」



「魔王の手によって、都市が一つ潰滅させられたのだ。その知らせが今さっき、入ったところだ」



 王様は嘆くような表情で、首を左右に振った。
 とりあえず話の筋は通ってるように聞こえる。



 だが、オレが突っ込みたいのは、話の後半のほうだ。



「神が封印したとか言ってましたけど」
「うむ」



「仮に神様がいるとしてもですよ。なんで、魔王を封印なんかしたんですか。そんなもん神様やったら魔王を殺してしもうたら、ええですやん」



「それは何か神に深い考えがあったのであろう」
「で、その神様はなにしてるんですか」



「は?」
 と、王様は虚を突かれたような顔をした。



「いや、神様が封印したんやったら、もう一回神さまに頼んだらよろしいですやん」



「神は死んだ」



 ニーチェですか。
 そんな無責任な。



「復活するかもしれへんのに、神さまは死んだんですか? それ封印されてる魔王のほうが長生きしてますやん」



「ゴチャゴチャとウルサイ」
 王様はそう言うと小さく舌打ちした。



「すんません」



 王様の左右にいる騎士が剣をちらつかせてくる。ほとんど脅迫だ。とりあえずオレは、話に付き合うしかなかった。



「そこで勇者であるお前が呼ばれたのだ。お前は異世界人であろう」



「ここは地球とちゃいますん?」
「ここはサタンベルクだ」



 ピンと来た。



 なるほど。世にも都合のいい異世界転移という現象が、オレの身に起きてるわけか。見ず知らずのこの絢爛きれいな部屋にも納得がいく。



「なるほど、なるほど。そう言うことやったら、オレは異世界人やと思います」



「そうであろう」
 と、王様は満足気にうなずいた。



「ですけど、異世界人やからって勇者にしてしまうのは、あんまりにも横暴というか、何と言うか」



 異世界人やから勇者にするというのは、筋が通っていない。



 普通、一国の命運を他国の人に任せたりなんかしないだろう。



 日本の防衛大臣がインド人だったら変だ。異世界人を勇者にするってのは、それぐらい変な話だと思う。ましてや異世界人なのだ。インド人どころか、宇宙人みたいなもんだ。



「異世界人を勇者にせよという預言書が残されているのだ」



「えー」
 ずいぶん都合のいい預言書だ。



「最初の装備として、ヒノキの棒と布の服を授ける」



 王様の横に控えていた騎士が、台座に乗せたヒノキの棒と布の服を運んできた。オレはいちおうヒノキの棒とやらを握ってみる。ただの木の棒だ。



「ちょっと待ってくださいよ」
「まだ、何かあるのか?」



 王様はヘキエキした表情を見せたが、そんな顔をしたいのはこっちのほうだ。



「百歩譲って異世界人やから勇者にするってのは、ええですけど」



 いや、それもぜんぜんフに落ちないのだが。



「うむ」



「なんで最初の装備がヒノキの棒なんですか。これから魔王を倒しに行かせる相手に、ヒノキの棒で戦えって、あんまりやないですか。こんなんただの木の枝ですやん」



 どこか適当な木を折った程度のものだ。大きさも人間の二の腕ぐらいの大きさしかない。固い物を思いきり叩けば、根本から折れてしまうかもしれない。ちょっと曲線を描いているところが、いかにも木の枝っぽい。



「不服か?」



「いや、不服やから言うてるんですやん。しかも布の服って何ですん。今着てる、この学生服と変わりませんやん」



 むしろ、学生服のほうが丈夫そうだ。



「勇者にはヒノキの棒と布の服と決められているのだ。これも預言書だ」



「そんな殺生な」



 RPGの主人公も今までよく、黙って冒険に出ていたものだ。



 魔王だとかモンスターがいる――と聞かされてるのだ。ヒノキの棒で行って来いと言われて、わかりましたと言うほど、オレは度胸はない。



 どうせ異世界人だから捨て駒にしてもいいか――とか思ってるに違いない。



「旅のお金として50ゴールドを渡しておこう」



 王様の後ろに控えていた女性が布袋を渡してきた。この中に50ゴールドが入ってるのだろうか。



「50ゴールドって、どんなもんなんですかね?」



「薬草が1つ5ゴールドで買えるぞ」



「いやいや。明らかにショボいですよね。こんなもんすぐなくなりますって。オレ、勇者なんでしょ。せやったら、ここの国費の半分ぐらいは、もろうても、ええんとちゃうかと思うんですけど」



 必死に訴えたのだが、王様の不機嫌な色が濃くなるだけだった。



「つまみ出せ」
 王様はそう吐き捨てた。



 騎士はオレの脇をガッチリと固めて、問答無用で城から引きずり出そうとしてくる。



 凄まじい筋力だった。



 特にこれといった運動をしていないオレでは、抵抗もできない。こんないかめしい連中にはさまれたら、抵抗する気も失われる。



「失礼な異世界人だな」
 と、騎士が呆れたように言う。



「失礼って言うたかって、こっちは命がかかってるんですよ。木の枝で魔王を倒せ、言われても困りますって。異世界人に期待しすぎですって」



「酒場に行けば、仲間を雇えるから、そこで仲間を見つければいい」



「ちょっと待ってくださいよ。あなたたちは付いて来てくれないんですか? 兵隊いっぱいいますやん。軍隊を編成すればいいですやん。勇者に丸投げされても困りますって」



「魔王を倒すのは勇者の役目だと、決められているのだ」



「ンなアホなッ」



 だいたい布の服より、オレのことを引きずってる騎士のほうが、いい装備なのはどういうことなんだろうか。



 オレはまだ未成年だ。16歳の少年に魔王を倒して来いというのは、理不尽にもほどがある。



 せめて、こういうのは歴戦の猛者が行くものじゃないかと思う。



 異世界に来たことに不服はない。だが、何となく作り物めいている感じがする。異世界に来たというよりも、ゲームの世界に入ってるような感覚が強い。物事に矛盾が多すぎるように思う。「お約束」とでも言うのだろうか。

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