旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

彼女のために

そして次の日
珍しくその日は月詠さんは俺を起こしに来なかった。
「と言っても同じ時間に起きるんだよな……」
なんてぼやきながらリビングに向かった。
多分そこに行けば月詠さんはいるだろうと思いながら
リビングのドアを開けた。
「おはよう……月詠さん」
「「……ッ!! お、おはようございます旦那様……」
俺が入ってくると同時に慌てた様に何かを後ろに隠した。
「うん? どうしたの?」
「どうしたのと言われましても……」
と言いながら目があっちこっちに泳いでいる。
「いやいやその態度が何かあるって物語って
いるからね? あと、今何か隠したよね?
多分サイズ的に新聞だと思うけど……」
「確かにこちらは新聞でございますが旦那様が
見る必要が無いと思いました」
……隠したのは認めるんだ。
「別に俺の文句であっても怒らないから見せて?」
「旦那様に対して文句などございません!!」
「ーーっともらい〜」
と月詠さんが俺の事に対して熱くなった瞬間に
月詠さんの後ろに手を伸ばして隠した新聞を取る。
「あっ……!!」
「どれどれどんな悪口が載っているのやら……
って何だよこれ!!」
と俺は新聞の内容を見て驚愕した。
そこには俺と月詠さんの事が書いてあった。
別にそれに関しては対して問題は無い。
問題はその記事の内容だ。

“御堂の主人を籠絡した女執事”

“主人だけではなくその父親にまで手を出した女狐”

“御堂没落の張本人”

“許嫁から婚約者を奪った泥棒猫”

と明らかに月詠さんを貶める様な事が書いてあった。
そして深く読んでみると月詠さんは俺の両親が亡くなった
際に傷心のスキに上手く入り込んでいるやら
そもそも親父の愛人であり、親父が死んだ事で
自分の立場が危うくなり息子の俺に取り入ったとまで
事実無根の事が所狭しと書いてあった。
「だ、旦那様……?」
俺の怒りの形相を心配してか声をかけてくる月詠さん。
「月詠さん、少し待っててね。
このバカな記事を書いた出版社と記者を訴えるから。
あいつら絶対許さないからな……!!」
とスマホを取り出して知り合いの弁護士に電話を
かけようとするが
「いいですって、何も旦那様がそこまでお怒りになる
事ではありませんし……私が我慢すれば……」
「良くない!! だってこんな君を貶める様な
しかも事実無根の事を書いてくる輩を
俺は許す事が出来ない!!」
なんならこんな記事を書いた出版社を潰してもいい
ぐらいだ、だってそれぐらいの事をしたのだから。
「そんな事をやられたら旦那様の評判が
落ちてしまいます!! それでしたら私が我慢すれば
大丈夫なのです……大丈夫ですから……」
「月詠さん……? 泣いているの?」
彼女の顔から一筋の涙が流れている。
よく見ると彼女は泣いていた。
月詠さんが泣くなんて事は滅多に無い。
「旦那様はせっかくここまで頑張ってこれたのに……
私なんかのためにご自身の評判を下げる事は……
絶対してはなりません……絶対……」
と泣き声交じりにそう言ってきた。
「俺の評判なんてどうでもいいんだ!!
何よりも月詠さんが貶められるのが嫌なんだよ!!」
俺の一番辛かった頃、俺の隣で常に支えてくれた彼女を
何も知らない奴らが好き勝手に言いたい放題に
言っているのが俺をイラつかせる。
でもそんな俺を必死に宥めようとしているのか
月詠さんは俺に抱きついてきて
「お願い致します……どうかお気をお休めください。
……私なんかのために……今までの……ここまで
頑張ってきた……努力を……無下にすることだけは……
どうか……お願い致しますから……」
「月詠さん……」
「私は……貴方様のお近くにいる事が出来たらいくらでも
我慢出来ますから……どうか……どうか……!!」
「……分かった。今日のところは我慢する」
訴える事はいつでも出来るが今は何よりも
月詠さんの事が大切だ。
俺はそう思い、月詠さんが泣き止むまでずっと
彼女を抱き締めていた。


一悶着あった後、俺は月詠さんと俺の部屋で
ソファで隣同士ぴったりとくっつき座っていた。
「……先程は申し訳ありませんでした」
「良いよ、俺は大丈夫だからさ」
と言いながら俺は彼女の頭を撫でる。
月詠さんの綺麗に整っている髪の毛は触っていて
サラサラしていて気持ちが良い。
「旦那様にそうしていただけるととても嬉しいです。
なんというか心が落ち着きます」
「そう? ならもう少ししててもいいかな?」
「はい、旦那様のお気が済むまでそうしていただいて
大丈夫です。私も嫌ではありませんから」
と俺は彼女の頭を撫で続けた。
頭を撫でる度に月詠さんが気持ち良さそうな顔を
しているのが何よりも見ていて幸せだった。
だからこそ月詠さんを泣かした記事を書いた奴らは
絶対許せなかった。
……多分、今回も裏で麗華が糸を引いているのだろう。
あいつは昔から自分が手に入れたいと思った物は
どんな手を使ってでも手に入れてきた。
だから今回はその対象が俺であり、そのための障害物が
月詠さんという事なのだろう。
「あの……旦那様?」
「ん? どうしたの?」
「執事が主人に恋をして……付き合うって
おかしい事なのでしょうか?」
「へっ?」
「い、いえ!? 決して旦那様とお付き合いするのが
嫌なわけではありませんよ!? ですが世間では
私達の関係は……」
「月詠さん」
「世間的には私達の関係はあまり歓迎される様な
訳では無いみたいですし……今回の件では旦那様にも
ご迷惑をかけてしまいましたし……」
「ちょっとこっち向いて」
「はい?」
「てぃ」
と俺は月詠さんの頭めがけて優しくチョップをした。
「あいたっ……だ、旦那様? 一体何を……?」
「世間なんてどうでもいいでしょ?
俺達は俺達でいこうよ」
「ですが旦那様は世間ではかなり社会的身分が高いお方
旦那様のちょっとした行動を皆様は面白おかしく
勝手に取り上げますよ?」
「いや別に俺は構わないけど」
「ですが……」
「俺は俺個人が後ろ指たてられようとも構わないけど
月詠さんと一緒に入れないのは辛いな……」
「でも旦那様はあの一番お辛かった頃から
這い上がって現在の社会的ご身分になられたのですよ?
私なんかのために……」
「さてここで問題です」
「旦那様……?」
「ではなんで俺がここまで頑張れたのでしょうか?
制限時間は10秒です」
「だ、旦那様……? これは一体?」
「10、9、8……」
と俺は勝手にカウントダウンを始める。
すると月詠さんはあたふたし始めた。
「え、えっと……
あっ、大旦那様と大奥様の名誉を挽回
したかったからでしょうか?」
「残念ハズレ。 5、4、3……」
「申し訳ありません、降参です……」
「正解は簡単だよ。
ーー月詠さん、君のためだよ」
「私のため……?」
「そうだよ。
俺は俺の一番辛かった時を支えてくれた君のために
社長とか色々な事を頑張れたんだ。
だから世間なんかよりも俺は君を選ぶよ」
「旦那様……?」
「まぁ世間って言ってもさ俺何年か死んでいた事に
なっていたから正直そこまで世間とか興味に
無いんだよね」
あの月詠さんが屋敷近辺に人避けの霧を散布していたから
世間では俺が死んだ事になっていたらしい。
「ふふっ、旦那様らしいですね」
と彼女は優しい笑顔を浮かべた。
「まぁね。俺はこういう事しか出来ないけどさ」
「いえ、ますます旦那様の事を好きになりました。
私は貴方様の彼女である事を誇りに思います」
「そう、なら良かった」
「はい、それはもう今すぐ押し倒したいぐらいです」
「へぇ〜そうなんだ……
……
……
……ん? 今なんて言った?」
なんか凄く月詠さんらしくない言葉が聞こえた。
「あっ……あっ、あっ……こ、これはですね……
えっと……その……」
月詠さんも自分が言った発言のマズさに気がついたのか
慌て始めた。
「月詠さん、今“押し倒したい”って……」
「言っていません」
「いやでも顔が真っ赤になっ」
「なっておりません。
ーーさぁ私は家事をしてまいりますね」
と何事も無かったかの様には部屋から
出ようとする月詠さん。
……さりげなく右手と右足が一緒に出ている。
「いやいや話を逸らしたつもりなんだろけどさ
全然話を変えれてないから……」
「……ッ!!
だ、旦那様なんて知りませんーー!!」
顔を真っ赤にして走って逃げていく月詠さん。
「……」
そしてそれを1人部屋で見送る俺。
「と、とりあえず出版社に抗議の電話でも
入れておこうかな……」
と俺はさっきしまったスマホを取り出して記事を書いた
出版社に電話をかけるのであった。



そしてその日の夜
俺はとある人物に電話をした。
“おう、どうした兼続!!”
電話越しでも暑苦しい感じがわかる声で返答がきた。
「やっぱり切るか」
“いやいやまだ通話時間1桁だぞ!?”
「ったくうるせぇな春翔は」
俺が電話をかけているのは親友の春翔であった。
“まぁ声がデカイのは生まれつきだからな!!
で、今日はどうした?
俺の声が聞きたくなったか?”
「さて寝るか、お休み……」
“分かった真面目に話は聞くから切らないでくれ”
「なぁ春翔、力を貸してくれ」
“おう任せろ”
「待て待てせめて要件ぐらいは聞いたら?」
“だってお前が力を貸してくれなんて言うなんて
珍しいからな、親友を助けるのは当たり前だ
……でどんな計画なんだ?”
「実はな……」
と俺は電話越しで春翔に計画を話すのであった。

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