旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

嫌な再会







俺が春翔から久し振りに麗華の話を聞いてから
しばらくして俺は何故かパーティにいた。
理由としては社長の頃にに付き合いのあった人に
頼まれて渋々といった感じなのだが……
「旦那様」
と笑顔なのだが顔に青筋が立っている我が彼女。
このさりげなく怒っているのは一見すると分からないが
長い付き合いになるとなんとなく分かる。
「……うん、言いたい事色々とあるだろうけど
もう少し我慢してもらえませんか月詠さん」
とりあえず低姿勢で謝る俺。
これだとどちらが主人なのか分からない。
「いえ私は何も申しておりませんよ?
ただ旦那様は私という彼女がいながら綺麗で可愛い
女性を見るためにわざわざパーティに行かれるのだと
感心しておりました
ーー執事としてですがね」
「なぁ月詠さんや」
「はい、どうかしたしましたか?」
「何か付き合った頃と比べて性格変わってない?
前はもっとお淑やかだった気がするな……」
付き合い始めた当時は照れてばっかりだったのが
最近ではヤキモチを焼く様になっていた。
……まぁまだ色々と照れ屋なのは変わらないが。
「いえ私の性格は変わっておりません」
キッパリとそう言う月詠さん。
「いやでも……」
「変わっておりません」
「ちょーー」
「変わっていませんからね」
「……分かった、変わってない。
月詠さんは変わっていないって」
とりあえず俺が折れた。
こういう場合の月詠さんは絶対に自分の意見を曲げない。
ある意味、天岩戸並みに動かない。
「分かっていただけたようで嬉しいです。
ところで旦那様は何かご所望ですか?
ご所望の物がございましたら私が取ってきますが」
「いや……今は良いや。アルコールも足りているし
料理もそれなりに食べているからね」
と俺は持っているグラスを見せながらそう言った。
そもそも俺自身があまりアルコールに強くない。
だから飲めたとしてもワインをグラスで2杯程度だ。
「かしこまりました」
「月詠さんは何か飲んだ?」
「いえ、今は旦那様の執事としてですので
何も飲んでおりません。流石に旦那様の前で
失態を晒すわけにはいきませんので」
「オッケー」
そういえば月詠さんがお酒を飲んでいる場面を今まで
見た事無いと思った。
だから彼女がお酒に強いのか弱いのかそれすら知らない。
個人的な考えだといくら飲んでもいつも通りの
ポーカーフェイスでいそうな気がする。
今度機会があったら聞いて見ようと思っていると……
「貴方、ここにいたのね」
「……マジかよ」
後ろで聞こえた声はかなり久しぶりに聞いたのだが
この声は忘れる事は無い。
それぐらい記憶に印象に残っている人物だからだ。
「お久しぶりですわ、兼続様」
「あぁ久しぶりだな
ーー麗華」
そこには赤いドレスに身を包んだスタイルの良い女性
そして俺の“元”許嫁である白河麗華がいた。





「お久しぶりですわ兼続様」
とうやうやしく頭を下げる麗華。
「やめろ、お前がそれをやると鳥肌が立つ」
「久しぶりにあった学友に随分酷い対応ですこと」
「俺はお前を学友であったと思った事は一度もない」
「お久しぶりです白河様」
「……フン、まだいたのね貴方は」
さっきまでのうやうやらしい言葉はどこにいったのやら
随分上から目線の言い方に変わっていた。
それが白河麗華という人間だ。
どうやらこの数年で彼女の性格は殆ど変化が
無かったというのはこの数回の会話で分かった。
「おい、麗華」
「何かしら兼続」
「俺達に何の用だ?」
「何の用って用が無きゃ話しかけちゃいけないのかしら?
だって私達許嫁なのだから」
「“元”だろうが、第一俺は用があってもお前には
話しかけられたくないな」
俺の両親が死んでから数日後にいきなり麗華から
電話がかかってきて一方的に許嫁破棄を言い渡された。
「あらやだ、私達ってまだ許嫁なのよ?」
「はっ? お前は何を言っているんだ?
だってあの日電話で……」
「あれは両親に相談せず私の独断だったのよ。
ーーだから家の総意で無いの。
だから許嫁の関係はまだ続いているのよ」
「どういう意味だ」
「あの時の決断は私の独断なのよ。
だから家同士で決めた許嫁の関係はまだ
存続しているのよ」
「貴方様はご自身が何を仰っているのか
お分りなのでしょうか……!!」
月詠さんは既に怒っていた。
「あらやだ。随分血の気が多い執事ね〜」
「貴方様は旦那様が一番お辛い時に何をご自身が
していたのか、それすれお覚えではないのか……!!」
「月詠さん、落ち着いてって」
「……旦那様の前でみっともない態度を見せてしまい
大変失礼致しました。
ーー
あえて俺の前でというところを強調する月詠さん。
「貴方……!! 私に喧嘩を売っているのかしら?」
「いえ、貴方程度に喧嘩を売る程御堂家の執事は
暇では無いので決してそんな事はしておりません」
「貴方みたいな男まさりの女をを雇うなんて兼続の
目はおかしいのかしら」
「いえいえ旦那様の目は確かでございます。
あの方の素晴らしさは白河様程度の人間には
到底理解出来ないのですよ」
……うん、これって完全に月詠さんキレてる。
表情こそ変わらないが、口調、言葉の選び方などが
月詠さんが今現在どれだけキレているのかを
手に取る様に分かる。
そんな中、先にしびれを切らしたのは麗華だった。
「貴方、執事のくせに生意気よ!!
だれかこの無礼者を追い出して!!」
と麗華が言うと数人の屈強な男達が出てきた。
見るからにこういう荒事に慣れている感じだ。
「いいでしょう……貴方方程度では私を止められない事を
身を以て味合わせてあげましょうか」
と月詠さんも戦闘の構えを取った。
「ーー2人ともやめろ!!」
「「……ッ!!」
「月詠さんも落ち着いて。いつもの月詠さんらしく
無いって、どうしちゃったのさ」
「はっ、大変失礼致しました」
「ほら見なさいよ!! 兼続もわたーー」
「黙れ麗華!!」
俺は思わず怒鳴り声を出していた。
「な、何よ……」
「さっきから聞いていればお前は何様なんだ?
調子に乗るものいい加減にしろ」
「か、兼続……?」
「この際だから改めて言っておくが
ーー俺は麗華、お前が大嫌いだ。
お前との許嫁なんて死んでもお断りだ。
話は以上、俺は帰る」
「はぁ!? と、ちょっと待ちなさいよ!!」
「帰るよ月詠さん」
「かしこまりました」
と後ろで麗華が騒いでいるのを無視して
俺はパーティ会場を出た。


帰りの車内で
「あぁ……クソッ!! 次から参加する時は事前に
参加者名簿見せてもらう様にしよう」
まさかあの場に麗華がいるとは思わなかった。
もし事前に知っていたら絶対行かなかった。
「とりあえず帰ったら、今回のパーティの主催者の人に
詫びの品を送っておくか……」
「旦那様……本日は大変失礼致しました」
申し訳無さそうに言う月詠さん。
「月詠さん、別に良いって」
「ですがあの時、私がもっと自分の感情をコントロール
上手く出来ていたらこうはならなかったと思っていて
……只今、申し訳無さで頭が上がりません」
「別に良いって。俺が月詠さんの立場だったら同じ事
していただろうし」
「ですが……」
「なぁ月詠さん、1つ言っていいかな」
「どの様な罰でしょうか?」
「怒鳴ったら腹が減った」
「はい?」
「だから腹が減った。何か屋敷に帰ったら食べたい」
「……かしこまりました。では屋敷に着き次第
何かお食事をご用意させていただきますね」
「あぁ頼む……出来れば肉で」
「ご要望承りました。
旦那様、ありがとうございますね」
「俺は特に何もしてないよ」
「ただ私が旦那様にお礼を言いたくなっただけです。
なので勝手に言わさせていただきますね
ーー本当にありがとうございました」
「じゃあ勝手に俺も言わせてもらうよ。
こちらこそどう致しまして」


なんて言う会話をしながら屋敷までの帰路を
過ごしていたのであった。
……ちなみに屋敷に帰って月詠さんが作ったのは
ローストビーフだった。







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