旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

変わった事

俺が社長を辞任してから数ヶ月
「旦那様、今日のご予定はいかがされますか?」
「そうだな……今日も適度な運動に読書かな」
「かしこまりました」
前までの月詠さんとの2人だけの生活に戻った。
あの慌ただしい日々が懐かしい様なもう戻りたくない様な
思いを感じながら日々を過ごしていた。
ただいくつか変わった事もあり……
「旦那様、本日も例の物が届いていらっしゃいます」
「うへ……まじか……ちなみに今日はどれぐらい?」
「本日も……察してください」
「……うん、月詠さんの今のトーンで察した。
とりあえず取りに行こうか」
「はっ、かしこまりました」
と俺達は玄関の方に向かった。
そして目の前に広がっていた光景は……
「これまた今日も沢山だな……」
「そうですね。どう致しますか?
ーーこの沢山の贈り物の数々を」
目の前に広がっている光景、それは玄関に山盛りに
盛られた大小様々な種類の贈り物だった。
俺が社長になり、会社を復活させからメディアに
出る機会が増えた。
そして巷では“若手のやり手経営者”なんて呼ばれている。
更に俺個人が持っている潤沢な資産、経営の手腕
何よりも御堂の家柄というのにすがりたい連中共が
毎日の様に贈り物を送ってくる。
……そしてあの御堂の分家の奴らからも贈り物と共に
謝罪文が送られてくる。
「やっぱり霧を晴らしたのがダメだったか」
俺が社長を辞任してから俺の屋敷を覆っていた月詠さん
お手製の霧を晴らした。
もう御堂の分家にもう俺を狙う力も残っていないだろうと
思い、月詠さんに頼んで霧を晴らしてもらった。
……まぁその結果、住んでいる場所がバレて
この様に毎日膨大な贈り物が届く様になった。
「私がもう少し考えるべきでした……
申し訳ありません……」
「いや月詠さんは悪くないって
悪いけど、片付けるの手伝ってもらえる?」
「かしこまりました……ではなくてですね。
執事である私がやりますので旦那様はどうか
お部屋でお休みください」
「いいって俺もやるって」
どうせやる事もあまり無いし。
「ですが……」
「まぁ彼女を手伝いたいとって言う俺の意見を
汲んでくれると嬉しいな」
「か、彼女……!? そ、そ、そ、それをこ、ここ、こ
ここで言いますか!?」
「うん、言うよ。ほらそこで立っていると俺が全部
持っていくからね」
と俺は近くにあった箱を1つ持った。
「お、お待ちください!? 執事である私が持ちますから
旦那様はお休みください!!」
「まぁまぁいいじゃん」
「……もし私の言うことを聞かないのあれば
椅子にひもで固定しますよ?」
「月詠さん!?」
たまに怖い彼女兼執事であった。


そして他にも変わった事があり
「ーーというのがありまして」
と目の前で男性が熱心に話している。
「はいはい、それで」
俺はそれを適当に聞いている。
「ですので是非兼続様のお力をお借りしたいと
思いまして、本日ご訪問させていただきました」
贈り物と同時期に俺の家を訪れる連中が増えた。
理由としては贈り物と同じ理由だろう。
「はぁ……今日ってあとこれが何件だよ……」
「あと5人程いらっしゃるはずです。
そしてアポイントメントを取らないでくる不躾な方々が
何人かいらっしゃる予定です」
「……せめてアポイントメントはとっておけよ」
なんて思いながら俺は今まで訪れてきた連中を
思い出していた。


ーー兼続様!! どうか!! どうかお話しだけでも!!
とある大企業の役員だったり

ーー同じ御堂ですよね!! なら是非私どもに
お力をお貸しください!!
“元”御堂本家の人間だったり
なおこの時は俺が何かをする前に月詠さんが
対処していた。
……物理的に。

ーー御堂様、貴方は神を信じますか?
多分宗教の勧誘だったり

なんていう個性豊かな連中が訪れていた。
……というか最期の奴は何を聞いているんだろうか。
その時の月詠さんの顔が何とも言えない表情だったのが
記憶に残っている。







「はぁ……疲れた……もう嫌だ……何もしたくない……」
やっと訪問者から解放されてソファーにだらしなく
寝っ転がる俺。
そして寝っ転がると後ろに立っていた月詠さんを下から
見上げる形になった。
「旦那様、何か入りますか?」
「カフェオレ、砂糖多め」
俺は単語だけ並べて言った。
そしてしばらくすると月詠さんが出来立ての
カフェオレを持ってきた。
「ありがとう……」
と俺は持ってきたカフェオレを一気に飲んだ。
疲れた身体に暖かいカフェオレがよく染みた。
「あぁ……生きかえる……流石月詠さん」
「喜んでいただけ様で幸いです」
「月詠さん」
「はい、なんでしょうか?」
「あいつらって手のひら返しして恥ずかしくって
思わないのかな?」
「旦那様……」
彼女は悲しそうな顔をしながら言った。

ーー贈り物をしてくる連中

ーー直接訪れてくる連中

ーー“元”御堂の連中

殆どの奴らが俺の両親が亡くなった際に流れた悪い噂で
俺に対して絶縁状を出してきた奴らだ。
それが今では手のひらを返すが如く
こちらに擦り寄ってきた。
あんなに俺の事を散々非難していた口から出てくるのは
俺を賞賛し、ごますりの言葉ばかり。
そんな奴らを見ていて俺は軽く人間不信になっていた。
「彼らは日々の生活を生きるのに必死なんですよ。
ーーまぁ彼らが心に思っていない事を言う度に
心の奥から怒りがこみ上げてきますが」
という月詠さんの声のトーン的にマジなんだと
聞いていてそう思った。
「ハハッ、怖いね」
「いえ私なんかよりも旦那様の方がお辛いでしょう。
何故なら旦那様は直接感じてらっしゃいますからね」
「俺は不思議と怒りは無いんだよ。
ただ虚しいというのか悲しいだけ、かな」
「旦那様は……いえ、やめておきましょう。ですが」
「ですが?」
「私は旦那様をどんな事があろうとも絶対に
裏切りません。例え何があろうとも世界を敵に
回したとしても私は旦那様の味方でいます」
と俺を真っ直ぐ見てそう言った。
そうだ。
俺には彼女がいる。
それで充分では無いだろうか。
他の連中なんてどうでもいい。
他の全員が敵でいてもこの彼女さえいれば俺は
これからも大丈夫だろう。
「……ありがとうね月詠さん」
「いえ、私は執事としてか、彼女として当たり前の事を
言ったまでです」
「あっ、月詠さん。頼み事があるんだけど」
「はい、如何しますか?」
「膝枕してもらえない?」
「……
……
……は、はい?」
「だから膝枕」
「わ、わ、わ、私が、だ、だ、旦那様に?」
「イエス」
「えぇ!?」
「反応遅っ!?」
「私でいいんですか?」
「うん、月詠さんがいい」
「ですが……」
「ーーもし俺が別の女性に膝枕されていた」
「その女性を消します。
そしてその膝の感触を忘れるまで私が旦那様に
膝枕をして差し上げます」
「なんか色々と怖いよ!?」

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