旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

不自然な彼女

春翔が敷地内に迷い込んでから数日……
俺と月詠さんは特に変わらない日常を過ごしていた。
だがこの日だけは違った。
「ん〜〜ここに賭けるかこっちに賭けるか」
「じ……」
「こっちはハイリスクだけどハイリターンだし
こっちは安全だけど見返りが少ないか……」
「ちらっ」
「さてどっちに賭けるか……」
「ちらっちらっ」
「……なぁ月詠さん」
俺が呼び掛けると彼女は掃除をしていた手を止めて
こちらに駆け足でやってきた。
「はい、どうかいたしましたか?」
「いやいやどうしたじゃないよ?
さっきから俺の事をずっと見ているから
気になってさ」
俺がどっちに投資をしようかと悩んでいる間
月詠さんは部屋の掃除をしていたのだが、こっちを
かなりの頻度で見ていたのを気づいていた。
「……
……
……気のせいだと思われます」
「いや待って今の沈黙は何?」
今俺が聞いてから結構な沈黙があった。
というか前にはこんな会話した気がする。
「旦那様の気のせいだと思われます。
私がそんな事をするとお思いですか?」
「いやでもさっき……」
「気のせいです」
「いや」
「気のせいです」
「分かった。じゃあ俺の目を見て言える?
俺の目を見て言えたら俺の気のせいって事にするよ」
「かしこまりました。私の無実を証明するために
お受けいたしましょう」
と俺達は互いを見つめあった。
(うわぁ……改めて見ると月詠さんって本当に
綺麗な顔しているよな……顔のパーツがそれぞれ
絶妙ににバランスを取っていて……見ていて飽きない)
なんて俺が思っていると
「私が旦那様の事を見ていた……」
どうやら俺がさっき言った事を本当にしようと
しているみたいだ。
「私が旦那様を……旦那様を……」
「あ、あれ?」
「私が旦那様の事を……見ていて……いるとは」
徐々に月詠さんの顔が赤くなっていき、言葉も
途切れ途切れになっていき、そして……
「私が……旦那様の事を……
ーーむ、無理です!! 
こ、これ以上は耐えられません!!」
と顔を真っ赤にしてそう言うと
部屋から走って出て行った。
「あら……」
俺は近くにあったスマホの画面で自分の顔を確認した
のだが何もついていなかった。
「はっ……まさか口臭か?
ーーいや、でもさっき俺口開いてなかったよな……」
俺は月詠さんの謎の行動に首を傾げていた。



数分後には月詠さんは戻ってきた。
「先程はお見苦しいところを見せてしまい
申し訳ありません……」
と戻ってきて早々謝ってくる月詠さん。
「いや、俺もなんか試す様な事をしてごめんね。
次からはしないようにするよ」
こんな事をして月詠さんに嫌われたら俺は
最悪寝込むかもしれない。
「そうしてくださると嬉しいですね。
……私の心臓が持ちませんから……」
「ん? なんか言った?」
何故か最期の方はボソボソと言っていたため
上手く聞き取れなかった。
「いえ、何も申しておりません。
では私はもう一度掃除に取り掛からせていただきます」
と言うと彼女はさっきまで掃除をしていた箇所に
戻っていった。
「うん、じゃあお願いね。さて俺は再び悩むか」
さっきまで見ていた画面にもう一度目を向けた。




数分後……
「よし決めた。
今回はハイリスクハイリターンの方を選ぼうかな」
決めると俺は早々にそこに投資をした。
もし今回外してもそこまで大きくないし、念のために
いくつか安全な投資先にも投資をしたから大丈夫だろう。
「次はゆっくり本でも読むか。
確かどこかに読みかけの本があった気が……」
「ーーこちらをどうぞ」
スッっと出てきて俺の目の前に本を出してきた。
それこそ俺が昨日途中まで読んでいた本であり
探そうとしていた本であった。
「あ、ありがとうね月詠さん」
多少驚きながらも俺はその本を受け取った。
「いえ、私は旦那様の執事ですから旦那様の癖や習慣は
頭の中に全て入っております」
「凄いね……じゃあ読むかな」
と俺は彼女から受け取った本を読み始めた。
「……」
「じ……」
「……」
「じ……」
「はぁ……」
さて俺はもう一度言った方がいいのだろうか?
さっきから俺の方を見ているのは分かっている。
というか隠すつもり無いに近いのでは?
なんか途中から掃除の手元を見ないで俺ばっかり
見ているし……。
「……?」
試しに俺は月詠さんの方を振り向いてみた。
「……ッ!? 」
彼女は慌てて頭を動かし、自分の手元に目を向けた。
「……何をしているんだか」
俺は月詠さんの本人は隠しているつもりなんだろうけど
バレバレなその行為を見て呆れながらもいつものギャップ
に頬が緩んでいた。




「ふぅ……読み終わった。
ーーって事で月詠さん?」
俺は読み終えた本を机に置くと、月詠さんを呼んだ。
「は、はい!? ど、どうか致しましたか!?」
突然呼ばれた彼女はビクッと肩をあげて
驚いた様に返事をした。
「ちょっとこっち集合」
「は、はい……」
さっきは駆け足で来たのに、今度はしょぼしょぼと
こちらにむかって歩いてくる。
「さて、なんで呼んだか分かる?」
「い、いえ……申し訳ありませんが……存じ上げません」
「いや、別に怒ってないよ。
たださっきから気になっている事があるから
月詠さんに聞いてみたいだけ」
「気になっている事ですか……?」
「そう、気になっている事だね。ねぇ月詠さん」
「はい……?」
「本を読んでいる最中から言おうかなって思って
いたんだけどさ……
ーーさっきから俺の事、見ているけど何かあった?」
「見てはいません。凝視していただけです」
「……それって見るを更に強めているよね」
「し、知りません……そんな事……」
と俺から目を逸らしながら言う月詠さん。
……果たしてそれで俺から誤魔化せると思っているの
だろうかと聞いてみたい。
と思っていると俺の頭の中でとあるアイデアが
思いついた。
「まぁ人には言えない事もあるから仕方ないよね」
「旦那様……」
「でも寂しいな俺は」
「えっ……?」
「月詠さんは俺に隠し事するんだ〜へぇ〜そうなんだ〜
俺ってそんなに信頼無いかな〜」
月詠さんの良心を痛める様にわざと仕向けて
彼女が自分から話す様に仕向ける作戦を決行した。
前にも彼女の足を止める為にした事だ。
「い、いえそんな事はございません!!」
「でも月詠さんは俺に話してくれないんだよね〜?
俺寂しくて泣きそうだな」
「えっ……それは困ります……」
「月詠さんが話してくれたら俺は嬉しいんだけどな〜」
「……旦那様、わざとやられていますよね?
顔がかなりにやけていらっしゃいます」
「まぁバレるよね。でも隠し事をされるのは
悲しいのは本当だよ」
「旦那様……」
「ほら俺に改善する箇所があったら変えていくから
隠さずにいってもらいたいんだよ」
「いや……今回は旦那様に全く非はございません……
私に責任がありまして……」
「月詠さんに問題……?」
「はい……」
こんな完全超人の彼女に問題なんてあるのだろうか?
というか彼女に問題があったら他の人間なんて
問題が数えきれない程だろう。
「で、その問題って?」
「それがですね……大変申し上げにくいのですが……」
「良いよ、言ってみて」
「私こと橘月詠は現在進行系で旦那様とお付き合い
させていただいています」
「うん、そうだね」
「そ、それで……だ、旦那様とですね……旦那様と……」
「俺と?」
「旦那様と……すがいたいです」
「ん? ごめん聞こえなかった。
もう一度言ってもらえる?」
俺は本当に聞こえず、そう言うと彼女は顔を
また真っ赤にして
「……っっ!?
キスがしたいんですよ!! キスが!!
旦那様と接吻ですよ!! キスです!!」
と叫ぶ様に言った。
「俺と……キス……?」
「はっ……大変失礼致しました。
ですが旦那様とキスがしたいと思ったのは本心です」
「そ、そうなの……?」
「はい、そのため先程から旦那様を見ていました……」
と恥ずかしそうに目を逸らしながら言ってきた。
「そうなのか……」
正直、本音を言えば俺も月詠さんと
キスがしたいと思っていた。
というかいつその話を切り出そうかと考えていた。
……まさか彼女の方からその話を言われるとは
思わなかったが。
だから俺は……
「なぁ月詠さん」
「は、はい!?」
「ーーキスしようか?」
「ひゃぁ!?」
可愛らしい声を上げられて驚かれた。
「そ、そこまで驚くかい?」
「い、いえ!? 旦那様からまさか言われるとは
思わず、つい驚いてしまいました……
私でよければキスのお相手になります」
「うん、じゃあもう少しこっちに来てもらえる?」
「はい、かしこまりました」
と月詠さんは俺の前に立った。
そして俺も椅子から立ち上がり、彼女の前に立った。
「月詠さん」
「はい」
「好きだよ」
「私もお慕い申し上げています」
と俺達は徐々に顔を近づけていき。そして……
「「……んっ」」
キスをした。
「キスって気持ちいいな
ーーって月詠さん!?」
「きゅぅぅ……」
月詠さんは顔を真っ赤にして、力が抜けその場に
倒れそうになっていた。
それを抱きかかえる俺。
「だ、だ、だ、だ、旦那様が近い……!!
む、む、無理です……で、でも幸せです……」
「あらら、こりゃダメだな」
俺は月詠さんをお姫様抱っこの状態で
彼女の部屋まで持っていった。

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