旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

和解

前回の続きとなっています。



月詠さんが春翔を見つけて数分後
「……よぉ、久しぶりだな」
「あぁ、久しぶりだ春翔」
俺達は客間にて面会していた。
春翔はいつもの堂々さはどこにいったのやら
申し訳無さそうに座っていた。
そういう俺も春翔を目にしてどういう風に対応すれば
いいのか分からなかった。
「旦那様、春翔様、お茶となります」
月詠さんが2人分入れて持ってきてくれた。
「橘さんか、ありがとうな……」
「ありがとうね月詠さん」
「……」
「……」
俺達は再び黙り始める。
言いたい事や聞きたい事は沢山あるのだが
どの様に聞いたらいいのか分からなかった。
ほんの数週間前までは普通に話していたのに
あんな事があった後ではお互いがお互いに遠慮していた。
それもそうだろう絶縁を宣言した家の人間である春翔と
絶縁された側の人間である俺なのであるから今まで
通りとは中々難しいだろう。
重苦しい沈黙が続いた後しばらくして
「……兼続」
春翔が口を開いた。
「なんだ?」
「すまなかった」
そう言うと彼は頭を下げた。
「お前が一番辛い時に助けてやれなくてすまんかった」
「……今更良いって。お前はその期間海外旅行
行ってたんだから側にいなくて当たり前だろ」
「お前のご両親が死んだって聞いた後、俺はすぐに
こっちに戻ってきたんだよ」
「はっ?」
こっちに戻ってきていただと……?
そんな話聞いた事ないぞ?
「こっちのニュースを見ていたら、その事件が放送されて
いてもたってもいられずにこっちに戻ってきたんだ」
「……それで?」
「こっちに帰国してきてからすぐにお前の家に
向かおうとしたのだが俺の両親に部屋に幽閉された」
「幽閉だと? お前のご両親がお前を?」
「そうだ。敷地内にある離れに幽閉されてな。
俺が出てこれた頃には兼続が前に住んでいた屋敷には
分家の連中が我が物顔で住んでいた」
「なるほど、お前の両親は俺と仲良かった春翔が
俺に接触する前に閉じ込めて、その隙に俺との
絶縁状を書いた、ってところか?」
「あぁ……理解が早くて助かる。
まぁ信じてもらえるか分からないが……」
と自嘲するように呟いた。
「それでどうしてここが分かった?
人に見つかりにくい場所に引っ越してきたはずだが」
「それはだな……前にお前の親父さんがここの話を
お前のお袋さんと話していたのを廊下で聞いていて
たまたま覚えていたからな」
「……春翔って変なところで記憶力が良いよな」
こいつは不思議と変な出来事を忘れない。
まぁそれはこれから政治家として活躍していく中で
必要なスキルなのだろうと思う。
「それで今回、兼続と橘さんがいなくなって色々な場所を
家の力使って探したんだが全く手がかりが無い。
ただ夜まではいた事は判明しているんだがそれ以降の
足取りが何も手がかりが無い。
まるで神隠しにでもあったのかと」
「そ、そうか……」
悪い、春翔。
ある意味神隠しにあっていたんだよ。
何せ後ろに元神様いるし……。
その事を知らない春翔にやや申し訳なくなった俺だった。



「で、今回この場所を思い出して家の連中には
秘密でここまで来た訳だ」
「お一人で、ですか?」
月詠さんが驚いた様子で呟いた。
まぁ確かに俺が前に住んでいた場所からは数百キロ以上の
距離があり、しかも山奥のため1人で来るのは至難の技
だろうけど俺はそうだとは思わなかった。
「月詠さん、春翔はこういう事を平気でやってのける
人間なんだよ。昔からそれを間近で見ているからな」
「そうなのですか……?」
「そう。こいつに巻き込まれ率ダントツの俺が言うからな
ーーあぁ、嫌な思い出が蘇ってきた……
大学1年のキャンプは地獄だった……」
今でも思い出せるあの地獄のキャンプ。
春翔の思いつきで始めたのだが何故か目的地に着くと
大雨で川が氾濫して帰れなくなった。
「あれもいい思い出だろ?」
「んなわけあるか!! こっちは死にかけたんだぞ!?
あれ以降、山奥でのキャンプとか考えるだけで
震えがとまらねぇっつの!!」
「ハハ、許せって!!」
「ーー月詠さん、こいつやっぱり消そう。
今決めた、消す。燃やせば証拠隠滅できるだろ」
「おいおい兼続!? 親友に何しようとしているんだ!?」
「旦那様、燃やすよりも森の動物の皆さんの生きる糧に
なってもらった方が証拠は消せます」
「そうだな、せめて死ぬ時ぐらいは地球の為に
役に立ってから死んでくれ春翔」
「橘さんまで悪ノリしている!?」
「うるせぇ!! こっちはあの時の記憶を思い出して
鳥肌が止まらないんだよ!!」
「久しぶりに再会していきなり消されんのか俺!?」
「あの旦那様と春翔様……」
「何、月詠さん!!」
「どうしたんだ橘さん!!」
「ーーお二人とも前の様に普通に話されていますね?」
「「あっ」」
月詠さんに言われて気づく。
ほんの数分前まではどんな風に会話を切り出せばいいか
分からなかったのに、今では前の様に話せている。
「ちくしょう……すげぇ癪に触る」
「そこまで嫌がるか普通!?」
「お前だからな」
「理由が理不尽の極みだな!?
なぁ……兼続」
「なんだ春翔」
「身勝手な願いだと分かっているし、お前は絶縁状を
出した俺の家を憎んでいると思うが……」
「なんだよ早く言えって。もったいぶるのはお前らしく
ないだろうが」
「ああ、そうかもな。なら端的に言わせてもらう
ーーこれからも俺と今まで通り親友でいてくれないか?」
「……」
「さっきも言った通りに俺の家はお前自体に絶縁状を
出したし、お前が一番苦しい時に助けてやれなかったが
また俺と親友でいてくれないか?
この場所も秘密にしておくし、もしもお前が何か復讐でも
するならこっそり手伝ってやるから……」
「バカかお前は」
「はっ?」
「勝手に絶縁状を出してきた家と誰が付き合いたい
と思うか普通? しかもこっちに不幸で落ち込んでいる
最中に出してくる家とか尚更だろ」
「だよな……普通そうだよな……」
「第一、復讐なんて考えてないし。
俺は月詠さんと生活を守れたらいい。
その他は正直どうでもいい」
「……悪いな、変な事聞いて。
俺は帰るな。大丈夫だ、この場所はいわーー」
「おいおい話を最後まで聞けって」
「い、いやだな……これは……」
「うるせぇ春翔はたまには人の話を最後まで聞く様に
しろって。確かに三条家に多少の恨みはあるが……
春翔、お前自身に恨みは無い」
「兼続……」
「だから春翔さえ良ければ俺はお前と親友でいてやる。
ま、まぁお前は人が落ち込んでいる最中に更に
悲しませようとする人間じゃないからな……」
「兼続……お前は……」
「あぁ〜〜!! らしくないな……!! 
おい、春翔!! お前はどうする!!
親友でいるのかいないのか!!」
「俺は決まっているな!! 
お前と親友でいるに決まっているだろ!!」
「おい、春翔」
「なんだ我が親友!!」
と俺は春翔の方に片手を出して
「ま、まぁ仲直りというか改めて握手でもするか……」
「ハハッ……!! まったくお前らしいな!!
こちらこそこれからも頼むな!!」
と春翔は俺の手をしっかりと握ると強く振った。
「おい力加減考えろっての!! 痛いって!!」 
「悪い悪い!! つい嬉しくてな!! 力が余分に
入ってしまうんだよな!! 許せ!!」
「やっぱ親友撤回してやる……!!」
「撤回早いな!?」
「あの……旦那様?」
「何かな月詠さん?」
「春翔様を疑う訳では無いのですが……
そんなに簡単に信じていいのでしょうか?」
「あぁ、それは大丈夫。だってこいつ親が政治家にくせに
駆け引きとか人を騙すの苦手だからね」
「まぁ苦手だな!! 
昔からその類いが出来ないんだよな!!」
「少しは駆け引きを覚えろよ春翔は……
ってな感じでこいつをある意味良く知っている俺が
言うから大丈夫だと思うよ」
「フフッ……かしこまりました。
春翔様を間近で見ている旦那様がおっしゃるのでしたら
そうなのでしょうね」
「流石俺の親友だな!!」
「黙れ、脳筋」
「名前で呼べって!!」


「なぁ兼続」
「どうした?」
「さっきから言おうと思っていたんだが……
ーー兼続と橘さんって付き合い始めたのか?」
「はっ!?」
俺が驚き、後ろにいる彼女を見ると
「な、な、な、何をおっしゃいますか!?」
月詠さんはいつものポーカーフェイスが崩れていた。
……多分、月詠さんは春翔以上に嘘が苦手なんだろう。
「ほほぉ……遂にか〜遂に付き合い始めたか……!!
俺は自分の事の様に嬉しいぞ!!」
「ニヤニヤすんな」
「なんだよなんだよ〜照れんなって!!
それでどっちから告白したんだ?」
「そんなの言うはずがーー」
「私からです」
「月詠さんーー!?」
「あっ……!! 失礼しました旦那様!!」
「ほうほうまさか橘さんの方からか……
まぁでも良かったな兼続。お前の思いが通じて」
「……うるせぇ」
「おいおい照れんなって〜嬉しいくせに〜!!
なぁ知っているか橘さん、こいつさ昔からーー」
「よし決めた、やっぱりこいつ消そう。
月詠さん、今日のこいつのメニューは?」
「はっ、本日の春翔様のご夕食ですが
トリカブトのサラダ、フグの内臓のソテー
国産牛を使ったハンバーグの毒キノコソース
アーモンド風味となっています」
「それ死ぬぞ普通!! てか最後のアーモンド風味って
絶対青酸カリ混ぜているよな!?」
「よし!! そのメニュー採用!!
月詠さん、今すぐ作ってもらえる?」
「御意」
「それは賛成してはダメなやつだぜ橘さん……
ってもういない!? ちょっとーー!?
俺死ぬってそれ!!」





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