旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

そこには

「あっ、でも……」
「どうか致しましたか?」
「明日からどうしようか?
一応屋敷は後3日ぐらいはいられるけど……」
今、俺らが住んでいる屋敷は3日後には出ていかなければ
ならない。正直俺1人なら野宿でも構わないが
女性である月詠さんがいるので野宿は厳しいだろう。
「旦那様、その事ですが。明日お屋敷を出ましょう。
実は私に行くあてがあります。旦那様さえよければ
明日にでも行きますが……」
「分かった、明日出ようか」
「……いいのですか旦那様?」
「まぁ名残惜しいって言ったら名残惜しいけど
もう俺は御堂本家の当主でも無いから
あの屋敷にいる必要も無い。それにあの屋敷は
ーー2人に住むには寂しいかな」
前は両親を始めとする沢山の人がいて賑やかだったが
今は俺と月詠さんの2人のみでとても寂しい。
「旦那様……」
と月詠さんはやや悲しそうな顔をしたがすぐに表情を変え
「では、明日このお屋敷を出ましょう。
その場所までの道中の安全はこの私が責任を持って
お守り致します」
「……本来その発言って男性が女性に言うものだと
思うのだと俺は思うが」
「……? 女性や男性以前に私は旦那様の執事ですから
旦那様をお守りするのが当たり前ですから」
「あっ、多分意味分かって無いぞ、これ」



そして次の日
俺達はは荷物をまとめ、屋敷を出た。
「ここを見るのも今日で最後か……」
荷物を持ち、外から屋敷を見るとなんか込み上げてくる
気持ちがある。
自分が今まで住んできた家から出るのだから
そうなるのも当たり前かと1人で思っていると
「ーーご準備はよろしいでしょうか旦那様」
後ろから声が聞こえたので後ろを振り向くと
ボストンバック1つを持ち立っている月詠さんがいた。
「あぁ俺はいつでも行けるよ。
にしても月詠さんの荷物ってそれだけ?」
「はい、私は執事ですから私物は最低限しか無いです。
そういう旦那様もお荷物はお少ない様ですが……」
「俺もあまり私物を持っていないんだよ。
服も最低限だけだし、いらない服は置いてきた」
昨日、自分の荷物を整理している中で自分はあまり
物に執着しない性格なんだと分かった。
「かしこまりました。では出発致しましょう
さぁこちらへ」
と月詠さんに案内されて暫く歩くと
そこには一台の軽自動車があった。
「あれこれって」
「はい、この車は私の私物です。
これに乗って目的地まで向かいましょう」
「こんなものいつの間に……」
「大旦那様から頂いた給料で中古車を買っておりました。
今から1年前ぐらいからこの場所に保管しておりました」
「よく見つからなかったね」
「まぁ……見つからなかった理由としましては
私の数少ない神の力で隠しておきました」
「おぉ……すげぇな神様って」
「お褒めいただき光栄です。そして今回の場所に
向かうのにもこの隠す力を使っていきます。
その道中でいつ刺客が来るか分かりませんので」
「わざわざありがとうね」
「いえ、執事として当たり前の事です。
旦那様を危険からお守りする為なら道中の敵を
血祭りにして、生首を標識代わりに設置するのも
やぶさかでも無いのですが……」
「いや、それはやめておこうか。
いくら刺客であっても可愛そうだ」
「かしこまりました。
やはり旦那様はお優しいのですね」
「アハハ……それほどでも」
(……だって彼女なら本当に血祭りにしかねない。
というかやりそうだ)


そして月詠さんが運転する車に乗る事2時間
俺達は都会から離れた山奥に来ていた。
「ここは……」
目の前にあったのは前に住んでいた屋敷には敵わないが
それでもかなり大きめな和風の屋敷があった。
「ここは御堂家の別荘です。
と言ってもこの場所を覚えていらっしゃったのは
大旦那様だけでした」
「ここが別荘……? 」
「はい。ここは多分分家の方々も知らないと思われます。
この場所は代々本家の当主のみが先代の当主から
教えられる場所ですから」
「親父の先代ってなるとじいちゃんから親父か。
というかここってそんなに重要なのか?」
当主のみしかこの場所が知られないっていうのは
余程この場所に重要な意味があるはずだ。
「はい、こちらは御堂家が始まった場所でございます。
ここが今の御堂家の起源の場所となっています。
時代が進むにつれ、先程まで住まれていたお屋敷が
重要視されていきますが、実際はこちらのお屋敷の方が
御堂本家としては重要です。
ーー何故なら本家当主のみ知る事が出来ますから」
「えっ? ここってそんな重要な場所なのか?
というかなんで月詠さんが知っているの?」
「私は特例として大旦那様から場所を教えてもらい
旦那様の為に隠しておりました」
「親父が……?」
「はい、大旦那様は常に旦那様の事を気にかけて
いらっしゃいました。そして時々大旦那様は
こう言っておられました、旦那様は能力はお高いのですが
旦那様はのお優しすぎる性格はこの御堂の血筋の争い
には向いていないと。
だからもしも何か問題が起きて当主争いから脱落したら
ここに連れて来て欲しいと」
「親父が、そんな事を……」
自分でも分かっていた。
正直俺は血筋争いはかなり苦手だと、だから多分
本家の当主には向いていないと。
だが父は俺が向いていないのを分かっていて
先に先手を打っておいたのだろう。
ーー自分に何かあった時の為に。
今回は皮肉な事に父が予想していた通りになった。
「そして大旦那様が本来の貯金とは別に貯めていたものを
私が差し押さえをされる前に私名義に変更したものが
こちらとなります」
と月詠さんから一冊の通帳を渡された。
「これは……こんな金額をいつの間に!?」
通帳に記載してあった金額は俺と月詠さんの2人なら
一生働かなくても暮らしていけるだけの金額だった。
「大旦那様がコツコツと貯めていらっしゃいました。
ーー旦那様、貴方の為にです」
「親父……!!」
「旦那様」
「何だ……」
「これから如何致しますか?
本家を名乗っている方々に復讐でもしますか?
それとも新しい会社でも起こしますか?」
「いや……復讐はやめておこう。
とりあえずゆっくり考えてみるよ。
悲しい事に時間は沢山出来てしまったみたいだし」
「そうですね。お時間は沢山ございます」
「自分がやりたい事をゆっくり考えてみるよ。
ーー悪いけど月詠さん、付き合ってもらっていいかな?」
「はっ、旦那様のお仰せにままに。
私は旦那様の執事であると同時に……」
と言うと急にモゴモゴし始める月詠さん。
「どうしたのいきなり……?」
「わ、私は旦那様の執事ですし、そして……」
「そして?」
「旦那様のか、彼女ですから……」
と顔をかなり赤らめて言ってきた月詠さん。
「お、おう……そ、そうだったな」
「え、えぇ……そのはずです」
「……」
「……」
とお互い黙ってしまう。
「と、とりあえず中に入ろうか!?」
「え、えぇ!! そう致しましょう……!!
私は何をしているんだぁ……」
何か後ろで月詠さんがボソボソと言っていたが
聞こえなかったので俺は中に入っていった。

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