LINE 弁護士

奥嶋光

奇襲

謝罪文を送り返して1ヶ月程経つ頃、鈴本の事務所から郵便が届いたようだ。
私は出先だったので嫁からのメールで知った。40万用意出来たから受け取ってくれという内容らしい。
嫁は考えてみるとメールしてきた、出先から私もしたいようにすると良いと返信した。
その日の夜帰宅してから書類を見ると二択の内容が書いてあった。
①40万受け取るのみ。②受け取って示談書を作成する。の二択だった。その書類にはどっちかに丸してサインと振込先の口座番号を書くよう指示してあった。
嫁は①40万受け取るのみの選択に心は傾いているようだった、しかし私はまだ返事を出すなと言った。
まだやりたい事があった、知りたい事がある。
それは加害少年の親がどんな気持ちでいるか知りたかった、親としてどんな風に思っているのか?それを知らずにはいられなかった。
一晩考えてみよう、寝て頭スッキリさせてから答えを出そう私はいつもそのスタイルだ。
その晩は風呂入ってさっさと寝た、よく眠れ雀の鳴き声で起きる。
決めた、今晩電話してみよう。民事訴訟する場合は直接やり取りするかもしれないから挨拶代わりにと。
夜ならいるだろうから夕飯食った後に電話してみよう、そう思った私はその日何を聞くのかリスト化して準備した。
帰宅し、夕飯を済ませてから嫁が見守る中iPhoneを手に取る、緊張のせいか手汗が出てきた。
調べ上げた固定電話の番号をプッシュし発信、iPhoneをスピーカーにしてテーブルの上に置く。
プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、ガチャッ!

相手「はいっ もしもし?」
女の声だった、きっとお母さんだ。そう思った私は謝罪文に書いてあった母の名を呼んでみた。

私「【母の名】さんですか?」

相手母「はい… そうですが、どちら様ですか?」

私「初めまして【私の姓】と申します。【加害少年】くんが起こした事件の被害者の旦那です。」
私は緊張を抑えながら名乗った、どんな母親なのか分からないのだ、少し胸がドキドキした。

「ガタンッ」んっ???何か音がした。
あれっ?もしかして受話器を落としたのでは?夫婦2人で顔を見合わせてしまった。

相手母「………ガチャガチャ、すみませんっ。突然のお電話で何をお話しすれば良いか……。」
母はかなり動揺しているようで、オドオドしているようにも思えた。
どうやら本当に受話器落としたらしい、映画とかドラマみたいだなと思った。

私「これからのお話ししたいと思って電話したんですけど、弁護士通すと遅いから直接電話しちゃいました。今ちょっとお話し出来ますか?」
私は淡々とそう伝えた。

相手母「はい、示談については弁護士に任せているんです…。なのに直接お電話してきたというのは何かお考えがあるのでしょうか?」
何かに怯えているようだった。

私「色々と思う事はあります、今回の件親として率直にどう思ってるんですか?」
私は聞いてみた。

相手母「そうですね…  もうすみませんとしか言えないです…  本当に…  申し訳ございませんでした…  ううぅっ…  ああぁぁ…。」
母は堰を切ったように泣き始めてしまった、はやっ。私達は驚いてしまい再び夫婦2人で顔を見合わせてしまった。
息子の不祥事に落ち込んでしまい、被害者に対しても申し訳なく思っているちゃんとした親御さんで良かったと私は安心した。

私「もしもし?お母さん、落ち着いてお話しできないようですからご主人に変わってもらえますか?【父の名】さんいます?」
泣かれて困った私はなだめるように父に変わるよう促した。
普通はこういう時、一家の主人が話をつけるものだと思ったからだ、激しく泣いてる人とはスムーズに話せないしね。

相手母「いいんです、私が聞きます…  うっうっ…。」
母は気丈にも自分が相手すると言う。

私「あれっ?もしかして【父の名】さんはまだお帰りじゃないんですか?」

相手母「おりますが、私で良いんです…  しくしく…。」

私「大丈夫ですか?えっと、弁護士から40万払うと書類届いたんですけど、40万じゃ示談書は書くつもりはないんです。私の家内も今回の事でかなり参ってますんで。」
私は情に流されず主張した。

相手母「そうですか…  私もかなり動揺していて、何と言ってしまうか分からないので…。示談の条件については弁護士を通して頂けますか…?すみません。」
「そうですよね…  奥様怖かったですよね…    本当に申し訳ございませんでした…  うちのバカ息子が…  ううぅっ…。」
相当滅入ってるようだ、泣きながら話す母の声を聞きながら私達夫婦は心を痛めた。

私「分かりました、示談の条件については鈴本さんとお話しするようにします。」
こんなシリアスな場面では、とても鈴本とはLINEでやり取りしているとは言えない。それを知ったらこの母もびっくりして腰を抜かすかもと思った。
「確かに【加害少年】くんのやった行為に関しては最低で許せない行為だと思っています。しかし今回の事で【加害少年】くんやそのご両親を全部否定するつもりはないんです。」
「罪を憎んで人を憎まずです、けどきっちり責任は取って欲しい。双方が良い形で終われるようにしたいと思っています。」
私は気を使いながら主張した、ちゃんと自分の仕出かした事に責任は取らせたかった。私だって嫁を守る為に納得いく条件を持ち帰らないといけないのだ。

相手母「ううぅっ…  ありがとうございます…。謝罪文が送り返された時、大変お怒りなんだと思っていました。直線謝罪する事が出来て優しい言葉をかけて頂けるとは思っていませんでした…。私だって同じ目にあったらどんなに怖いか。」
「本当は慰謝料だっていくらでも払いたいんです…。けどお金がないんです…。ううぅっ…  ひっく ひっく…。」
あの謝罪文ちゃんと届いてたんだ、私は安心した。

私「お金がない?夏のボーナスは使っちゃったんですか?」
気になっていた部分を聞いてみた。

相手母「うちの主人は職人なのでボーナスとかはないんです…。」

私「そうですか、何とか用意して下さい。当の本人は反省してるんですか?」
親なら鑑別所に面会に行ってるだろうと思い聞いてみた。

相手母「はい…  毎日反省してます…。ううぅっ…  ひっく ひっく…。」
息子の事に話が及ぶと母親はまた泣き出した、余程息子が可愛いのだろう。
自分の母親とは気が合わない私は羨ましく感じていた。
こんなに悲しんで心配してくれる親がいるというのに何て馬鹿で親不孝な奴なんだろう。
泣き崩れた様子の母にも気の毒だと思い始めた私はもう電話を切り上げる事にした。

私「分かりました、今日のところはもう切ります。また改めて弁護士に話しますから、お母さん気を確かに持って下さい。それでは失礼します。」
プッ。iPhoneの通話を切った、私達夫婦の間に重苦しい空気が流れた。
それにしても最後気を使い過ぎたな、被害者はウチなのに、それに聞く事リストの半分も話せなかった。
通話をスピーカーで聞いてた嫁も同情したのか、少し目が赤くなっていた。
あんなに号泣される事など日常生活では無い、感情を揺さぶられた私はクールダウンの為に飲む事にした、今日は冷酒にしよう。
熱くなったハートを冷ますにはキリッとした冷酒が良いと思った。
普段は飲まない嫁と2人で飲んだ、そして今回の件について色々と話し合った、母親も気の毒な位落ち込んでるからそろそろ折り合いつけてあげようとか、自分の嫁が電話しながら泣いてるのに親父は何で電話に出てこないんだとか。
こういう時は親父が先頭切って出てくるもんだと思っている私は不思議に思っていた。
そしてその夜私はなかなか寝れなかった、2つの感情の狭間で。

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