LINE 弁護士

奥嶋光

停滞期を破る一撃

蝉が鳴く夏真っ盛り、最後のLINEからもう1ヶ月が経っていた。
しばらく放置された私は少し寂しさを感じつつあった。なぜか鈴本は公式アカウントでちょくちょくタイムラインをアップしており、時事ネタに関して弁護士としての見解を述べたりしていた。
そんなタイムラインを観ながら私はヤキモキしていたのだ。
嫁は少しずつ日常を取り戻しつつあった、しかし包丁を向けられた事から包丁が怖くなり料理が出来ないなど日常生活に支障をきたしている。
1人では外出もしていない、私はそんな嫁を見る度に加害少年に対する怒りを思い出し、きっちり責任を取らそうと決意した。
自分が置かれている環境が大変だからと自暴自棄になって人に危害を加えるなど、そんな事をやっていい理由にはならないのだ。
そんな夏の日に家庭裁判所から書類が届く、事件調査官から事件の内容、今の心境、加害少年に対して色々記入するよう調査書という名の書類が入っていた。
警察にも検事にも長々と調書を取られたのにまた?とウンザリする嫁に書いとくよう私は促した。
嫁は事件の事を思い出すのが苦痛だと言っていた、可哀想に。
結局調査書には厳しく処分して少年院に入れて下さいみたいな内容を書いたらしい。
これ出してきてと言われ返信用封筒を渡された、これを出すついでに出したいものがあった、謝罪文だ。
謝罪文を加害者の家に送り返してやる、最後の交渉から1ヶ月経ちその後は何の音沙汰もない。
もう向こうは交渉を諦めたのだろうと私達夫婦は思っていた、そうなれば少年審判という裁判が終わってから民事訴訟をするまでだ、全面戦争してやる。
となれば謝罪文はもういらなかった。ただ捨てるのもつまらないから、頑なに身元を明かさない加害者の家に送り返して、いつでもおまえの家に行けるんだと意思表示してやろうと思った。
嫁は怖がっているが私にとっては憎き敵だ、ぶっ飛ばしたい気持ちはあるがそうはいかないので違法にならない程度に敵討ちをしたかったのだ。
実はこの1ヶ月の間で加害者の住所と自宅電話番号の調べはついていた、ここではその方法に触れないけど。
私は用意した封筒に加害少年と両親の謝罪文を入れた。家庭裁判所に送る封筒と2つ持って郵便局に行って出してきた。
その日の晩酌中、ある日突然あれが自宅に郵送されてきたら加害者の両親も腰抜かしてたまげるんじゃないかと期待した。
なんだこのワクワク感は、子供の時昼間、木に蜂蜜を塗って夜にカブトムシやクワガタが来ていないか待つ位の懐かしいワクワク感を抱きながら泡盛の水割りを傾けた。
嫁にもそれを話すと驚いていた、嫁はおっとりとした性格だから謝罪文を送り返すなんていう発想はなかったようだ。
さて、相手の出方を待つとしよう。

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