フォビア・イン・ケージ〜籠の中の異能者達〜

ふじのきぃ

Chart6「追憶の学園生活」

【亜門 大智の追憶:ジセダイ学園】

「あー、だりー!
夏期補習とかやってられるか、ちくせうめ!」

 オレの身体は机にぐでんと脱力し、テーブル掛けと化してボヤいていた。
 期末テストという名の魔導書グリモワールの解読が出来なかったが故に、補習という拷問を受けてしまう事態に。
 夏休みを有意義に過ごす事も許されないとは。なんて不幸な男なんだ……っ!

「キミが真面目に試験に臨んでなかったからでしょ? 問題用紙の歴史上の人物にラクガキなんかしてるからだよ」

 項垂れていたオレの元へ顔馴染みの女子生徒がやって来るや否や、自業自得の矢を突き刺して来た。

「フッ。分かってねえなあ、イトシィは。
歴史上の人物をアレンジして設定を考えるのが醍醐味なンだろーが」

 その楽しみを理解出来ないとはな。だからアホ毛が2つ生えてンだろ。まあいい。ついでに此奴こやつを紹介しよう。

「コイツはイトシィこと"八重雲やえぐも 愛司いとし"。 オレのクラスメイトで厨二仲間だ。ボクっ娘でゲーム好きでコスプレが趣味。何かと通じるものがあったので、オレの所属している[厨二病研究同好会]に勧誘したのだ。
あ、部長はオレな。クハハハ!」

 右肘を左手で支え、顔の右半分を右手で覆い、クハハ笑いする。
 身体を窓側に向け、薄っすらと映り込んだ自分に話し掛ける様は、はたから見れば危ない奴だよな。

「わざわざボクの紹介をありがとう。誰に言ってるのか分からないけど。くすくす」

 イトシィもほぼ同じポーズをとりつつ、くすくすと右手で口を押さえ気味に笑う。ほんとノリの良い奴だよ。

「相変わらず仲が良いなあ。君達は」

 続けてやって来たのは、爽やか系男子。周囲のモブ女子共が金切り声で喚く。

「出たな! 爽快のケミストリィ!」

 ああ、折角だし紹介をば。

「コイツは同じクラスのケミストリィ。ケミスとも呼ばれている。本名は"加賀かが 駆識くしき"。
コイツも厨二仲間で部活も同じだが、クラス内ではトップクラスの成績を誇る天才児。理数系が得意にもかかわらず、スポーツ万能爽やか系男子なのだ。一体どんな化学反応が起きたらこうなるのだろうか?」

 再び窓に向かってポーズをキメる。

「爽やか系は余計だなあ。それに自分は理科が得意なだけだよ」

 ケミスは爽快な笑顔を見せた。対して、オレとイトシィは思わず声を漏らす。

「爽やかだ」

「爽やかだね」



【亜門 大智の記憶:厨二病研究同好会部室】

「ふう。やっと解放されたぜ」

 一日の補習を終え、オレは部室に帰還。
そう、補習は毎日続く。コレが拷問と言わずしてなんと言う?

(くっ……オレに全能なる知識があれば!)

「お疲れさん、アーモンド」

 既に控えていたケミスがオレをアダ名で呼ぶ。

「バカヤロウ。アーモンドはやめれ。オレにはちゃんとした真名があンだよ」

 隣りで卓上に腰掛けていたイトシィがケミスの味方をする。

「いいじゃん、アーモンド。ボク達だってアダ名が付いてるんだし。栄養が豊富で良い名前だと思うけどなあ」

 そう言って種類様々なナッツの菓子袋を片手に持ち、アーモンドを一粒取り出して口に放り込む。
 オレは思わず、固唾を呑んだ。

(栄養が豊富ってナニ? オレ、カリッと喰われちゃうのカナ?)

「ったく。なら交換条件といこうか」

「交換条件?」

 イトシィは頭上に疑問クエスチョンマークを浮かべているようだ。

「補習テストの問題、メールで教えてくれな。そのナッツ菓子、バラされたくないだろ?」

 弱みを握るかのような取引を持ち掛けつつ、制服の内側ポケットからスチャッと携帯機器"星4スタフォ"を取り出す。

「えー? 先生に怒られるよ?」

「アーモンド。ズルは良くないよ……」

 二人ともノリ気じゃないようだ。
 因みにスタフォというのは"スタイリッシュ・フォン"の略で、電話やメールは勿論、アプリゲームだって遊べちゃう便利な通信機器だ。
 何故"星4"と呼ぶかって? ほら、星はstarスター。4はfourフォーだろ? 掛け言葉にして馴染み良くしたんだろうな。
 ネットで皆んなよく使ってるし。ソシャゲじゃあ、星4といえば大抵レアキャラだし推すし。

「ふっ、だったら交渉決裂ダ!」

「えー……」

 オレは右手を刃の如く指先を伸ばし、空を切る動作をしながらポーズを決める。イトシィとケミスは呆れて部室の書類棚を整理し始めた。

 我ながら一体全体何様なオレ様主義。だがしかし、オレは厨二病を日々研究する組織のトップに立つ身である故に、多少の身勝手は仕方のない事なのだ。コレを怠れば、相手のペースに呑まれてしまうからな。
 要するに、厨二病とは主導権を握る事。其処そこに辿り着くまで思い付く限りのネタを片っ端から掘り起こし、足掻き続ける事に意味があるのだ。
 そう、この駆け引きこそが厨二病の真髄だとオレは睨んでいる!
 ま、結局アーモンドが定着してしまう訳なのだが。

 何気無い日常会話。青春を満喫する学園生活。だけど、いつまでも続く訳が無い。あと半年で皆んな卒業し、各々が違う道を歩む。
 だから悔いの無いよう、残り少ない日数を精一杯コイツらと一緒に過ごすんだ……と。

 そう、思っていたのに──

「二人とも聞いて。"チミドロさん"に関する最新情報だよ」

 真剣な眼差しのイトシィ。机同士を引っ付けて大きなテーブルを作り、棚から持って来た数枚の記事を広げるオレ達。
 その記事には、現在ちまたで話題になっている都市伝説"チミドロさん"について記されていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品