フォビア・イン・ケージ〜籠の中の異能者達〜

ふじのきぃ

Chart5「血液恐怖症の少年」

《血液恐怖症》

 血液や赤い液体を見る、触る事を嫌悪する症状。
 主な事例として、自分や他人が怪我で大量の血液を目視した際に発症する事が多い。
 出血による命の危機に晒され、死の恐怖を体感しているからだ。
 最早、本能で忌み嫌うのだろう。

 もし、血液恐怖症患者ヘモフォビックと接触を試みるならば、赤いモノは避けた方が良い。
 血身泥ちみどろな血祭り衝動を味わいたくなければの話だが。

【Side:ダスト/
 PIC:カウンセリング・ルーム】

(えっ、何コレどういうコト? イベント発生中?)

 どうやら、まだ寝ぼけているらしい。子供ガキの頃からゲームばっかしてたもんな。夢とうつつがごった煮になってら。

(ねぎとろふぉあぐら? しぼうねんしょう?)

 なるほど、つまりは太らない体質だと言う訳か。

(プラマイゼロですかあ。自己満足ですかあ。ほお、そうですか──)


《 かっけえええぇぇ……! 》


 オレは思わず声を大にして、この白き箱庭の中で木霊こだまさせる。瞳は既に金銀財宝の如く輝いていたであろう。
 カウンセラーも恐怖症患者である事。故に能力が使える事。他にも能力者が収容されているという事に。

(ヤバい……テンションMAXなんだけど!)

 ガタガタと武者震いが来る。血湧き、肉躍り、心が昂っているのだ。

「ふっ、少しは楽しめそうだな」

「……そろそろ君の紹介をしてくれないか?」

 カンセラさんの振りを待ってましたと言わんばかりに、勢いよく椅子から立ち上がる。
 装備中の時刻む黒眼鏡クロノグラス(つまりサングラス)が妖しく輝き、オレは持前の厨二臭い台詞を紡ぐ。

「我は……遥かいにしえたる大悪魔と血の契約を交わせし大いなる孤高の大魔導士──」

 足首までの長さを誇る漆黒の羽衣黒コートを左手でパタパタとなびかせる。封印されし(包帯を巻いた)右腕でクロノグラスをそっと、静かに取り外す。

「──大悪紋ダイアモン堕澄人ダストダ!」

 オレは紅蓮の瞳を見せ、真の名を叫ぶ……! あ、勿論全て設定な。

「──名前:亜門あもん 大智だいち。年齢:19。
恐怖症名は、血液恐怖症ヘモフォビア……」

 何事も無かったかのようにタブレット端末を扱い、相席に座り出す。

(えぇー……無視ですかー、スルーですかー、そっちから言っておいてそりゃねっすわー)

 そう嫌味ったらしく念じながら視線を飛ばし続ける。

「……血液が怖いのか?」

「っ……?!」

 えも言えぬ程に核心を突かれ、オレは一歩後ずさった。

「怖いのか。きっかけや経緯を教えてくれたら──」

「くっ! 我の弱点を的確に言い当てられてしまうとは……!
ハッ?! まさか、あの組織の一員か!」

「どの組織だ。これも大事な仕事でな。君の能力を制御する手伝いだって出来るし」

 成程、既に手中に収められているという事だろう。ならば、この場は一旦、組織に従うのが定石か?

「まあ、無理にとは言わないが」

 次の質問に移ろうとするカウンセラーに「待った」を持ち掛ける。

「カンセラさんよ。やっぱ、話を聞いてくれい」

「"カウンセラー"だ。それに、トバリノでいい。話せるのか?」

「ああ。是が非でも聞いて欲しい。
オレがフォビックになってしまった経緯いきさつを」

 一間置き、右の人差し指でクロノグラスをくるりと回し……そっと装着する。

「オレの武勇伝を──聞かせよう」

 キリッと、オレはキメ顔で物言った。

「はあ……(苦手だな、こいつ)」

 トバリノの旦那は呆れた顔でオレの話を渋々聞く事にしたようだ。ノリ悪いぜダンナ。

(さて──何処から話そうか)

 椅子に座り直し、脚を組む。腕も組みつつ右肘を立て、右手で顔半分を覆い隠す。
 その態度に旦那は俄然不満そうだが、オレは無視して語り出す。
 今現在の主導権は──このオレだ。



【亜門 大智の記憶】

 これは──オレがまだ[亜門 大智]だった時の記憶。
 幼少時、親の顔も知らない孤児院育ちだったオレは、ある雨の日に事故に遭った。
 流れ出る大量の血をどうする事も出来ず、早急に孤児院へと搬送された。
 幸いにも医療環境が充実していて、尚且つ優秀なAIロボットも居た為、オレは一命を取り留めた。
 その頃からか、オレは血が怖くなってしまい、見る度に恐怖し……怯えるようになってしまった。

 そして、夢の中で聴こえてくる声──


                                 

                         

                         

 オレは毎晩、その声にうなされていたのだ。

 月日が経ち、オレは"ジセダイ学園"という学校に通っていた。
 高等部の3学年になり、あと半年程で卒業を迎える時期の夏休み──事件は起きた。

 そう、此処からオレの運命が変えられてしまったと言っても過言じゃないだろう。

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