星屑世界

オンネ

5.観察眼が見る景色

蛍はいつも以上に重い気分と体を
ひきずって登校した。
遅刻しない時間に起きれたことは
まぁ及第点にしよう、と考える。
教室に入れば、やはりまた
うるさい雑音しか聞こえず眉をよせる。
自分の席につき、教科書を引っ張り出す。
そして、案の定というか、
寄ってくる一つの影。

「おっはよ。今日は随分遅い登校だな?
    なに、寝坊でもした?」

飾空。
雑音の中に少しだけ違うものが
混じったことに少々安堵の溜め息をつく。
今日はいつも以上になにもかもが
優れないので、それだけでも
多少の救いになった。
が、応答のない蛍を不思議に思ったのか
飾空がこちらの顔を覗き込んで……
――ぎょっとした。

「……蛍、?どうしたの、それ、
    
                           ……――酷い顔色してる」

何処か青ざめたような表情の飾空に
不機嫌を返した蛍。

「うっさいなぁ、こちとら朝っぱらから
    気分最悪なんだよ。
    わかったらさっさとどっか行け。
    このノーテンキ」 

「え、ちょ、不機嫌だからって
    俺に当たるの酷くない?
    というか能天気ってなにさ、
    俺そんなかな!?」

「うっせぇ」

いつものやり取りになったが
それでも飾空はこちらの顔色が
気になるようで気遣いの色が
浮かんでいる。

「……なぁ、また、夢、みたのか?」

んなこと気にしてどうすんの、と適当に
返すと蛍は鞄を片付け終える。
今日は登校時間が遅かったこともあって
もうそろそろ始業の時間になるのたが、
なんというか、違和感を覚えた。
時間が時間なので、クラスメートの大半が
自分の机か友人の机で喋り、
携帯を触り、
課題を写し………

……足りない。
確かに顔も名前も正確な人数も
ろくに覚えていないクラスメートたちだが
明らかに足りない。
雑音も、だいぶ少ない。
机の数とクラスメートの数が
明らかにつりあっていない。
今日は委員会の仕事も
どの部活も朝の活動がない日だから
もうそろそろ始業であるこの時間に
クラスから離れる奴なんて滅多にいない。
居たとしてもトイレか、サボり。
でも、足りない。
そうだったとしても、足りない。
その証拠に机の中に教科書たちが 
仕舞われていない机が多い。

「…………」

「蛍?どうしたの」

何もせず突然黙り込んだ蛍に
飾空が首を傾げる。

「なぁ、飾空。この教室ってさ、
    こんな人少なかったっけ?」

「あれ、気付いてなかったの。
    周囲に興味ないにも程があんだろ。
    まぁ、居ない奴は全員、
     ―― また・・今日も・・・休み・・だろうな」  

最近休むやつ増えすぎ、学級閉鎖に
なるかもな、なんて溢す飾空を横目に
クラスメートたちをながめる。
3分の1弱ほど居ない。
雑音たちも、よくよく聞き取ってみれば
元気はなく、どこか怯えているような……
そこで蛍は首を振る。
雑音たちの気分を感じ取ったところで
何になるというんだろう。
雑音なんてうざったいだけで
何の得にもならないし、接点を持つだけ
無駄だ。寧ろ不利益。

昔からの、要らない癖。
興味も無いくせに、その気になれば
周りを観察し、意図を読み取ることに
やたら長けていた。
本当に、要らない癖。
社会で生きていくには役立つだろうが
今のところ厄介事を最低限避ける程度の
使い道以外は皆無。たまに今のように
無意識でやってしまうこともあるが、
役に立ったことはやはりない。

隣から、学級閉鎖になったら 困るなぁ、
なんて、弱々しい声が聞こえて
思わず視線を移す。
とっさに見えたその表情は、何処か、
達観していて何かを考え込むような、
いつもの飄々とした笑顔とは
かけ離れていて、それでいて――

「うん?なに、蛍。
    俺の顔になんか付いてた?」  

が、それが何かを読み取りきる前に
飾空がこちらに気づき、
また明るい顔に戻る。
まぁ、読み取る必要もないけれど。
それでも、なにかいつもと違った
雰囲気を纏ったそれは、昨日の
屋上で感じたものと似ていたような…

「けーいー?なあに考え込んでんの~?」

「うわ、うざっ」

「えー、急だなぁ?
    ところで俺の顔ほんとになんか
    ついてたの?」   

「いや?いつものようにへらへらした
    顔ならついてるけど」

「……何、俺の顔色伺ってたの?」  

「なわけねぇだろこの自意識過剰。
    学級閉鎖は困るって聞こえたから
    意外だなっておもって」

「……嘘。そんなこといってた?まじ?
    ていうか意外ってなに、意外って」

「お前典型的な学生みたいな性格してるし
    屋上でも授業面倒くさいみたいなこと
    ばっか言ってるから学級閉鎖になったら
    喜ぶと思ってた」

飾空は蛍の意見に対して、うぅん、まぁ、
なんて、煮え切らない返事を返すが、
やがてまた口を開いた。

「ほら、最近さ。人が起きなくなる事件と
    人が精神病む事件がすっごい
    増えてるじゃん?
    ……、いや、蛍知らないか。
    お前ニュース天気予報しか見ないって
    言ってたもんな」

「昨日課題の奴でそれ丁度調べた。
    あとお前とクラスの奴らが
    うるさかったからちょっとだけ
    覚えてた」

「あ、まじ?俺の話覚えてたんだ?
    いつもいつも俺の話聞き流して
    何回言っても聞いてくれない蛍が?」

「うぜぇ、その口永遠に閉じてろよ。
    ……そうだな、あんまりにもうるさくて
    覚えてたのかもな?なぁ優等生?」

あははまじかぁ、なんて何がおかしいのか
よく分からないが笑った飾空は蛍が
嫌味で言った優等生発言を無視して
続ける。

「うん、まぁそれでさ。
    学級閉鎖になったらみんな人と
    会う機会減るだろ?
    そしたら今こんななのに余計に
    気が滅入るんじゃないかなって」

「へぇ、下らね」

「わぁ凄い感想!流石一年のときの
    人権作文で学年主任に呼び出された
    だけある!!」

正直、クラスメートがどうなろうが
蛍にとっては知ったこっちゃないので、
そんなことはどうでもよかった。
むしろうざったい雑音から離れられるなら
蛍にとっては好都合だった。


騒がしいのも、うるさいのも、
鬱陶しいのも、嫌いだから。

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