星屑世界

オンネ

0.始まりの前に

ぷらんと空中に投げ出された足。
その下には夜の街並みが広がっている。
電気のついたビル。
ライトをつけて走る車。
暗闇に包まれた街を照らす街灯。
本来ならば月明かりと星空の下、闇に
覆われるはずの街は人の科学の手によって
明るく照らされている。
あまりにも地上が明るく賑やかであるため
闇を照らすはずの月も星も
その光を潜めていた。

夜風が頬を、髪を、長い間外でさらされた
お陰で冷えきった体をさすっていく。
人の活動時間として暑すぎる夏が通りすぎ
秋に入ったこの頃はもう寒い。
好んで長い間外に居たいような涼しさは
もうなくなってしまっている。

――それでも明るい街並みに
      足を投げ出したその人は薄着で、
      しかし身震いひとつせず
      高いビルの屋上に腰かけていた。

街を、景色を、夜を、ぼんやりと見つめる
その瞳には感情も、思いも、生の光すら
宿っていない。
ただただそこに在るだけの、
空虚な瞳だった。

そして、腰かけるそれを見つめる
もうひとつの目。
その瞳は確かにその人を映していた。
感情も、思いも、生の光も感じさせない
空虚な瞳は確かにその人を映していた。

「                 」
「                 」

冷たい風にさらわれてしまうような声で
二人は会話をしていた。
いや、もしかするとどちらか一方の
独白だったのかもしれない。
ただ、確かなのは二人は言葉を
発していた。それだけ。

言葉を発する唇が動く。
乾燥した目を癒すために瞬きをする。
生を存続させるために呼吸をする。
言葉に反応して僅かに動く。
ただ、それだけだった。
その他には二人とも動かなかった。
まるで、
作り物のように
そう設定プログラムされたロボットのように。


世界はまわっている。
大勢の愚かな人間をのせて。
自分は誰にも侵されない確かな個であると
そう信じている大勢の愚かな人間をのせて

世界は回り続ける。
きっと、何があってもそれは覆らない。
天変地異が起きようとも
生き物がいくら死のうとも
それは覆らない。
人々がいくら感情をあらわにし争おうとも
それは覆らない。
暗闇を明るく保ち続ける力をもった
科学がどれほど進歩しようともそれは
覆らない。
自然に、世界に生かされているものたちが
どれほど抗おうとそれは覆らない。

――愚かな人間を守るほんの一握りの
       酷く憐れな人間たちを除いて。

彼らが用意された檻の中で抗い、
躍り、嘆き、壊し、守り、戦い、死に、
――狂ったとき、世界はその均衡を崩す。


けれども、それは今ではない。
今何が起きようとも決して世界は
覆らず、回り続ける。

――例え空虚な瞳をもつその人が
      明るい街並みに
      蟻の大群のような人々の間に
      何も知らない愚かな人々の間に
      下らない様子で回り続ける世界に
   
      憐れなその人が、


          そ   の  身         を  
                投        げ    た  とし    て      も

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