選ばれしSのアビリティ

如月ゆかり

ようこそ...選ばれし者よ

3年に一度、学院の中でも特に優れた者しか入れないという選ばれしSクラス。先輩達が卒業した次の年、色んな事情を抱える生徒達が今年もリーリエ学院、Sクラスに集まった。

「ここに集まれと言われたけど....まだ誰もいないよな?」

彼の名は、ロキ・スタイン。一人目のSクラスの生徒だ。

「間違ってはいないはず....」

ロキは誰も来ていないこともあって、不安げに辺りを見渡していた。

「ここだよね?」

そんなとき、一人の少女から不安そうにドアから顔を覗かせていた。

「あっ、良かった!私の他にも居て」

少女はロキに気付くと、さっきまでの不安そうな表情を消して笑顔でロキの方に近付いてきた。それはロキの方も同じで、少女の方をみると胸をゆっくりと撫で下ろしていた。

「初めまして!私、ユズ・レモーア」

「ロキ・スタインだ。よろしくな」

そう言って二人は軽く握手を交わした。

「(この子も同じクラス....だよな?ここにいるんだし...一見、ただの女の子に見えるが、どうなんだ?)」

そう思いながらロキは、腰に備えてある愛用の剣を撫でた。

「とても渋い剣だね」

ユズはロキの剣をジッとみて言った。

「し、ぶい?」

初めて聞くその言葉に、ロキは瞬きをしてぽかんと口を開けていた。

「あれ、ロキ君?ごめん、私へんなこと言ったかな?」

「え、いや...初めて言われた言葉だからさ」

ロキが固まってしまい、少し慌てる彼女に首を振って言うとユズは不思議そうに、だが嬉しそうに笑顔で口を開いた。

「それじゃあ、今日は初めて記念日だね!」

「.....フッ、ハハハ!」

彼女のその言葉と太陽の様な優しい笑顔にロキは柄にもなく思いっきり笑った。

「えぇ?!なんで笑って...」

「ごめん...君、面白いな」

何故か笑われて、また何か可笑しな事を言ったのか不安げにしていると、今度は可笑しな事を言われて不思議そうにユズは首をかしげた。

「えっと、改めて宜しく、ロキ君!」

「ああ、此方こそユズ」

「こんな場所で手を繋ぐとはなかなかお熱いですな~。」

「「っ、?!」」

声がして勢いよく振り返ると、帽子を深く被っている少女が棒つきキャンディーを口にくわえながら此方を見ていた。

「手を繋いでるって、別にそんなんじゃ.....」

「えっと、君は?」

「フッフッフ、お初に御目にかかるよ~!ボクの名はテレサ・アモンド。ただのか弱い女の子だよ」

少女のその自己紹介に二人が思うのはただひとつ、

「「(へ、変な人来た...)」」

二人は表情を引きずらせながらテレサを見つめていた。

「よ、宜しくテレサ...俺は、ロキ・スタイン」

「ユズ・レモーアです」

「ヨロシク~、ロキンクン、レモンチャン」

「........」

「ユズです...」

人の名を何の悪気も無しに口にするテレサに対して、ロキは言い返す気力もないのか無言でテレサを見つめていたが、ユズは直ぐに名前を訂正した。だが聞く気もないのか、テレサは知らない顔をしてキャンディーをひたすら舐めていた。

「お話し中のとこすみません」

ドアのところには、ゆるふわの黒髪を腰辺りまで伸ばしており、後ろにはリボンを着けている少女が申し訳なさそうに立っていた。

「貴女もここに呼ばれたの?」

「はいそうなのですが、学校に行くのは初めてなので緊張しちゃって...」

ユズが少女の方に近付き話し掛けると、少女は眉を八の字にして頷いた。

「初めてって、家でなんかしてたのか?」

「え、いえ...してたっていうか...」

「こら、ロキ君!女の子には色々とあるんだよ?」

「......なんか、わりぃ」

「え?!い、いえ...気にしないでください」

少女が困ってると思ったユズは、直ぐに助け船を出した。軽くだが注意されたロキが謝ると少女は首を振って苦笑いを溢した。

「あっ、自己紹介がまだでしたよね?私《わたくし》メルリ・サフィアと申します」

「おぉ、礼儀正しい!ザ・お嬢様って感じだね。」

「い、いえそんな.....」

彼女は彼処で未だにキャンディーを舐めている少女《テレサ》みたいに少し堂々としてればいいんだが...でもそれが彼女の良さでもあるのだろう。


「いい加減どいて」

「今の声.....」

「ドアの向こう側から聞こえたな」

ふと聞こえた声にその場にいる者達は顔を見合わせた。ロキがゆっくりとその方向に向かってドアを思い切り開けると、いきなり開いたドアの音に驚いて此方を見て固まる一人の青年と、そんな彼に苛立ちを隠せない少女が居た。

「えっと...何やってんだ?」

ロキはそんな二人を交互に見た後、一番最初に出たのがその言葉だった。

「君は、女性に出会ったら一番最初にすることはなんだ?」

「.....は?」

「残念、違うな。それは挨拶だ!」

―まだ何も言ってませんが―そんな言葉を言おうとしても目の前の青年は口を閉じることなく喋り続ける。この調子では他の人の言葉なんて聞こえないだろう。

「まず、相手がどんな相手か知る必要があるだろ?だから彼氏は居るのか、名前は何か聞いてたわけさ。」

「そうか.....」

「しかし、そこに思いもよらぬ邪魔が入ったんだ!」

人を指で指す男に少なからず苛ついたロキは、青年を無視して少し怒りが収まったのか、自身の髪をクルクル弄ってる少女に話し掛けた。

「朝から大変だったな。」

「.....別に。」

「うわぁ~、すごく綺麗!」

「はい、お人形さんみたいです!」

何時の間に来てたのか、少女を初めて見た二人は目を輝かせていた。だが二人に誉められても、表情をひとつも変えることなくそっぽを向いていたが。

だが確かに.....銀髪をメルリ位の長さまで伸ばした髪。だけどメルリがゆるふわなのに対し、少女は癖ひとつもない超ストレートだ。それにモデルにも勝るスタイルの良さがあった。

「......なに。」

「ろ、ロキ君。」

「女性をあんまり見るのは失礼じゃ....」

女子二人に 窘められハッと我に返ると同時に少女から思いっきり顔を背けた。

「(.....これは、反省だな)」

「ごめんね?えっと.....」

「...なに?」

「その、名前」

ユズは戸惑い気味に尋ねたが、少女は意味が解らないかの様に首をかしげた。

「な、名前!名前を教えてくれないかな?」

「......レミア・ミシュアール」

今度ははっきりそう伝えると、やっと理解したようでゆっくりと名前を告げた。

「ありがとう!私は、ユズ・レモーア!こっちはロキ君だよ?」

「宜しく」

レミアにジッと見つめられたままロキは一言そう告げた。

「メルリ・サフィアです」

「えっとそれから...あっ、テレサさーん!」

「ん~?なに、レモンチャン」

「ユズです...って今はそれは置いとくとして、新しいお友達が来ましたので自己紹介してください」

「え~?めんどくさいな...コホンッ、ナイスバディのお姉さん初めまして、テレサ・アモンドです」

「なんか、普通?」

レミアに対してした、テレサの自己紹介があまりにも自分達と違って少し真面目なことで、ユズは効果音が付きそうなくらいショックを受けた。

「君達全員美人揃いで俺はつくづく運がいいな」

「(こいつの存在忘れてたな)」

何時の間にか青年は、ユズとメルリの間を陣取っていてキザっぽい笑みを浮かべていた。

「(てか、こいつ話聞いてたのかよ)」

普通に話に混ざり始めた青年をロキは少し遠くで呆れながら見ていた。

「女の子に自己紹介されては、俺も答えないとな!」

「別にキミに聞かせた訳じゃないし」

テレサのその言葉に大きく同意する。

「俺は、ヘルク・セーバー。以後お見知り置きを子猫ちゃん達」

身体はユズ達の方を向いていたが、何故か最後だけレミアの方を見てウインクをしていた。熱い視線を向けられた本人はそれを気にも止めていなかったが。

「おい、邪魔だ」

「いって!」

声がしたと同時に、ヘルクが前に倒れ込んだ。皆が目を瞬かせながら、ヘルクを押した犯人を見て息を呑んだ。

「お、王子様だ。」

ユズが率直な意見を述べるとその王子様は鼻で笑っていた。

「お前ー!何処の誰だか知らねぇけどな、人を押すだなんて礼儀がなってないんじゃねぇの?」

「そこに居るお前が悪い」

「んなっ?!」

「あんた.....」

半分険悪ムードになりかけてる二人をどうするものか、困ったように顔を見合わせていると何かに気付いたレミアが口を開いた。

「シルバルト公爵の御曹司、ユリス・シルバルトよね」

「そういうお前は、ミシュアール家の御令嬢か」

「シル、バルト?御曹司?」

「御令嬢.....」

―御曹司って偉いんだよね―

―なんとなくそんな気はしてましたが、まさか本当にレミアさんが御令嬢だったなんて―

ユズはあまり聞きなれない言葉に頭を抱え、メルリは口に手を当てて驚いていた。

「ユリス、宜しくな」

「......何か勘違いしてないか?」

「勘違い?」

「俺はここに、仲良くじゃれあいに来たわけではない...仲良くしたいのであればそちらで勝手にやっとけばいいだけだ」

ユリスの見た目に反して冷たい言葉が妙に胸に突き刺さる。ロキはこれ以上言葉が出てこなくなってしまった。

「自己紹介済んだみたいだな」

「え?」

シンと静まり返った部屋に声が響いた。一斉に振り返ってみると、女性がドアにもたれ掛かったまま此方を見つめていた。

「(全然気付かなかった)」

「私は君達、Sクラスの担当になったキキョウ・バルテールだ」

―女性が担当だと?―

ユリスは眉間に皺を寄せてポツリと不満を呟いた。

「ん?まだ一人来てないみたいだな」

―遅刻か...やはりあいつをこのクラスに入れたのは不味かったな―

「あの、先生?」

ボソボソと何か呟いてるキキョウにメルリが声を掛けると、キキョウは振り向いて真っ直ぐに生徒であるロキ達を真っ正面から見つめた。

「いや、すまない...コホンッ、気を取り直して、ようこそ選ばれしSクラスの者よ。これから三年間、このクラス、寮で共に暮らしてもらう。だが問題は起こすなよ?出掛けるときは許可を出せ...私からは以上だ」

「(なんて迫力だ...この人は油断出来ない。)」

「あぁ後、仲良くしても構わないが仲良くしすぎるなよ?」

「それってどういう....」

キキョウは誰一人も口ずさむ隙を与えずに言いたいことを言い終わったら直ぐに出て行ってしまった。最後の意味不な言葉に対して質問をしようとしたユズにだってちゃんと答えてはくれなかったのだ。

「ねぇ、この後皆暇?」

直ぐに切り替えたユズが女子達に話を切り出した。

「私は、別に大丈夫ですが...」

「だったらさ、一緒にカフェにでも行かない?朝に此処の一階で見つけちゃって」

「そういえば此処、お洒落なお洋服もたくさんありますよね?ユズさんさえ良ければ御一緒させてください」

「本当?!超大歓迎!」

ユズはメルリの手を両手で包みながら軽く跳び跳ねた。

「テレサさんやレミアちゃんも行きませんか?」

「やめとく」

「ん~、ボクも止めとこうかな」

本を読みながら即答で断ったレミアとそんなレミアに続けて断ったテレサに残念そうな表情をしたユズはメルリを連れ去って行ってしまった。

「(仲良くしすぎるな、か.....」

―別に俺だって仲良くしたいわけではない―

何時の間にか一人になった教室でロキはボソリと呟いて席を立った。


「(やっぱり一人は落ち着くな。気を遣わなくていいし....)」

言っておくが、ロキは別に人付き合いが苦手な訳ではない。コミュニケーションは普通に取れる。だが、相手に気を遣いがちになってしまうのだ。だからロキは、一人を好む。

「お前、Sクラスの奴だな?」

「......え、」

冷たい感触の物を首筋に 当てられて、ロキは目を見開いて振り向いた。

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