魔法少女達は守りたいもののために血を被る

二回道

1.プロローグ

私は今、世界の終わりを具現化させたような、それほどの力のある魔獣と対峙していた。
魔獣、数年前から世界で観測されだした生物で未だに生態など詳しいことがわかっていないのだが、それでもわかっている最大の特徴は、この生物は人を捕食する。魔獣は沢山の種類が観測されている中、駆除する対策がとられてきてはいるがどれもうまくはいっていないようで私達人間は魔獣に対し、手も足も出なかった………魔法少女以外は…
花とリボンで彩られている煌びやかな魔獣は笑顔のまま無慈悲に世界を破壊する。
幾多もの魔法少女がこの魔獣に挑み死んでいった…
そして私は覚悟を決め魔獣のもとへ、飛び込んだ。
その時私はこんなことを思い出していた。魔法少女になった日のことを、私の人生が大きく変わってしまったあの日のことを―

キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り終わると同時に、ガタガタっと皆んなが一斉に行動し始める。いつも通りの下校風景。
私も帰りの支度をし始める。
私の名前は花咲 香織はなさき かおり、ピンク髪をショートボブにしており、身長の低さと少し抜けている性格からみんなからは少し子ども扱いをされてる。ちょっとは大人っぽく見られたいという密かな願いがあったりもするのだ。

「香織かおり!一緒に帰ろ!」

各々が自由に行動をし始める中1人の少女が私に声をかけた。少女は煌びやかな銀髪をなびかせ、サファイアでもはめ込んだのではないかといほど透き通った青い目で私を見ていた。身長はそこそこ高くスラっとしているモデル体型で正直羨ましくなる。彼女の名は黒羽根 蝶香くろばね ちょうか、勉強もスポーツもそつなくこなす彼女とは幼稚園からの付き合いで自慢の幼馴染だ。
彼女とはいつも一緒に登下校しているのだが、

「ごめんね、今日はおつかい頼まれてるから一緒に帰れないんだよぉ…」
「そうなんだ、そのおつかい私もついて行ってもいい?」
「わ、悪いよ、蝶香ちゃんの帰りが遅くなっちゃうし」
「大丈夫だから、ね?お願い!一緒に行こ?」
「ありがとう!2人で行ったほうが楽しいしね」

そして私たちはさっさと帰りの支度を済ませ、商店街に向かった。
この時はまだ知らないのだ、これから起きる悲劇を。
私が蝶香ちゃんを連れて来てしまったことを後悔することを。



「おつかいの品はそれで全部?」
「うん!全部買えたよ!」

私たちはおつかいの品を全て買い揃え商店街を出た。
辺りはすっかり夕日に染まっていた。

「ごめんね、やっぱ遅くなっちゃったよ」
「大丈夫だって、気にしないで」
「ありがとう、蝶香ちゃん」

その時だった、私たちは出会ってしまったんだ。

「か、香織。あ、、あれ」

蝶香ちゃんが急に顔を真っ青にして、まっすぐ前を指差す。その指も震えており、声は怯えきっていた。
何事かと思った私は指を刺された方を見る。私は目を見開いた。そこには魔獣がいたのだ。身体はゴリラのようだけど継ぎ接ぎだらけで、まるでゾンビのような姿。初めて目の当たりにしたがすぐにこれが魔獣なのだとわかる。
私は足がすくみ動かなくなってしまった。だが確実に魔獣はこちらに気づいていた。

「か、香織!逃げなきゃ!」

蝶香ちゃんは私の手をとり魔獣とは反対の方向へ走り出した。私は引きずられるようになりながら蝶香ちゃんについて行く。だが、あのがたいからは想像もできないようなスピードで魔獣は追って来たのだ。どんどんと距離が縮んでいき、もうすぐで魔獣が追いついてしまう距離まで来た時、魔獣はいきよいよく拳を地面に振り下ろした。地面を砕き、揺れ、衝撃で私たちはこけてしまった。体勢を立て直そうとした時にはもう遅かった。魔獣が目の前にいた

「だめ!香織は殺させないから!」

そう言って蝶香ちゃんは私を庇うようにして立ち上がる。その姿は震えていて、涙を滲ませているのに、私は守られるばかりだった。

「蝶香ちゃん!逃げてよ!お願いだよ!」
「嫌だ!私は香織を置いてなんて逃げないから!」

お互いがかすれきった声で思いをぶつけ合う。そんなことをしている暇なんてない事はわかっている、だが1人を置いて逃げることはできなかった。もう魔獣は地を砕いたその拳を私たちに振り下ろそうとしていた。
その時だ、私が不思議な感覚に襲われたのは。まるで時が止まったかのような。

「力が欲しいかい?この危機的状況を打開するための力が」

その時、ぬいぐるみが私に喋りかけていた。私は訳が分からなくなりきっと自分はもう死んだんだと思ったが、明らかに魔獣も蝶香ちゃんも動きを止めていて、自分には傷ひとつ付いていない。

「混乱しているところ悪いけど、僕は実在しているよ。」
「あ、あなたは、何者?あなたも魔獣なの?」
「僕は魔獣なんかじゃないよ。僕は観察者さ。まぁ、今は自己紹介をしている場合じゃない、もうすぐ時は動き出す。今、僕が聞きたいのはこの状況を打開するための力を欲しいかどうか、それだけさ。」
「力って、なんのこと?」
「ざっくり言ってしまえば、魔獣を殺せる力さ。もうすぐ時が動き出す。時間がない!力がいるかいらないか。さぁ、はやく決断するんだ!」

何がなんだかさっぱりわからなかった。急によくわからない喋るぬいぐるみが現れて、力がほしいか?なんて答えられるはずがなかった。この状況でなければ。
私はこの状況を打開するためになんでもいいからすがりたかった。だからこそ私はぬいぐるみにこう応えた。

「力を頂戴。」
「そうこなくっちゃ!まぁ、それしか君達の助かる道は無いんだけどね!小難しい説明は後だ、まずは君にその力ってのを与えるよ!」
「う、うん」

すると私の手のが光だし、私は子供のおもちゃのような先端に大きなハートのついたピンク色のステッキを握っていた。

「それが、力だよ。ステッキ型のガジェットさ」
「が、ガジェット?」
「ああ、それは君の力を底上げしてくれる。素敵なガジェットさ!」
「は、はぁ」
「君は子供の時、テレビ番組にでてくる魔法少女に憧れたことはないかい?」
「まぁ、子供の時はある、かな」
「そのガジェットは君を魔法少女にしてくれる!さっきも言ったけど魔法少女になった君の力は底上げされ、なんと元の10倍にもなるんだ!」
「ま、魔法少女になるって、」
「まぁ、物は試しさ。ガジェットを掲げて変身と叫んで!今までの話が全部嘘ではないとわかるから!」
「………………」
「ほら!何してるんだ!言っただろ?時間がないって!」
「わ、わかった、、へ、ひぇんちん!」

半信半疑で私は叫んだ。噛んだことに関しては触れないでほしい。
すると、私の体は光だしピンク系統でまとめ上げられたフリフリの衣装に身を包まれていた。

「ほ、ほんとに変身しちゃった」
「だから言ったじゃないか、その姿であれば君はあの魔獣にも勝てる!」
「う、うん」
「さぁ、もう時が動き出すぞ!ガジェットを構えて!」

私は手に持ったガジェットを構える。するとステッキ型だったものがみるみるうちに剣型に変わっていった。
そして、時は動き出す。
魔獣の拳はすでに目の前にきていた。私は蝶香ちゃんを抱えて後方に飛ぶ。
ほんとに私の身体能力は10倍になっているようだ。

「な、何がおきたの?って、香織?何、その格好…」
「蝶香ちゃんごめんね、説明は後で!大丈夫、私が助けるよ!」

そしてこの日、私は魔法少女になった。
そして、魔法少女としての地獄の扉を開けたのだ。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品