クラス転移で俺だけずば抜けチート!?コミカライズ!

白狼

315話 資格

 俺は、いつも考えてきた。
 こんな俺が一児の親になれるのかと。
 人を殺した俺が……誰かを育てることなんて出来るのか。
 元々俺に幸せになる資格なんてあるのだろうか。そもそもの疑問だった。
 みんなが幸せそうに暮らしている中、俺だけ浮いている感じがいつもしていた。みんなで幸せな時や悔しい時、辛い時などを分かちあった時もあった。だが、それでも俺の存在は浮いてしまう。
 みんなは、手が汚れていない綺麗な人たち。俺だけ、人を殺したことのある二度と綺麗にすることが出来ない汚い手。
 普通ならこうやって笑っていられること自体ありえなかったのだ。
 でも、俺は分かってしまった。人を愛することの大切さを。
 君と一緒にいたい。君と結ばれたい。幸せになりたい。心の底から笑いたい。
 そんな願望が強く出てしまうのだ。
 でも、そんなものが叶えられるはずがない。
 俺が少し前、ずっと寝込んでいた時に俺は聞こえていたんだ。
「君は、罪人だ。人を殺した、罪人だ。そんなやつがなに平然と生きているんだい?なんで、こうやって笑えていられるんだい?君は、どうして幸せになりたいと願っているんだい?そんな資格、君にあるのかい?」
 そんな問が俺の耳から離れなかった。ずっと鳴り響いていたんだ。
 シェレールが来てくれたと知った時、その声は唐突に止んだ。それで俺は、あの声自体なかったものにしていた。
 だが、現世に目を覚まして数週間した時にまた聞こえ始めたんだ。あの声が。
 だから、俺はシェレールとエッチな行為をすることを避けたんだ。
 結婚することはもう決めていたからするしかない。ジゼルさんたちがわざわざ用意してくれたんだ。
 でも、その後は別にどうしたいかは決めていないんだ。シェレールを幸せにすることは心の中で決心はついているのだが……具体的にどういうことをすればいいのかなど全く決めていない。
 恐らく今の俺にシェレールから子どもを作りたいと言われてもいいよとは言えない。
「……………俺に…………父親になる資格なんてあるのだろうか………」
 それが分からないからだ。
 シェレールを幸せにしたい。それは本心だ。でも、子どもを作ることは……出来ない。
 血で染まった手に子どもを抱っこする資格なんてない。
 そもそも自分の親が人を殺したことがあるってことを子どもが知ったらどう思うだろうか。決してプラスの感情には動かないだろう。
「…………旦那様、もしかして斎藤さんを殺したことを気にしているんですか?」
 シェレールには、全てお見通しなのだろう。俺の考えてること全て当てられる。
「…………確かに人殺しは罪に取られることです。」
 シェレールもそう言ってるんだ。なおさら子どもなんて持てない。シェレールも分かってくれたのかな?
「…………ですが、私は旦那様に罪はないと思いますよ?」
「っ!そ、そんなわけない!人を殺して……罪が消えるわけがない!」
「…………旦那様は、前の世界で十分に苦しんできました。それが恐らく罰になるでしょう。………旦那様がその罪を背負って生きていくというのなら私も背負います。もちろん子どもも作りません。………ですが、私は旦那様にはもう十分に幸せになる資格があると思いますよ。」
「…………シェレールが俺の罪をわざわざ背負う必要は無い。大丈夫、安心して。シェレールのことは幸せにするって決めたから。」
「ふふっ、私も決めていますから。旦那様を幸せにするって。だから、私にも旦那様の苦しみを分けてください。ほんの少しでもいいんです。」
「………そもそも俺に幸せになる資格なんてない。」
「それこそ間違いです。……旦那様が殺した人の数より旦那様が助けた人の数の方が多いんです。その人たち、みんな、旦那様のことを心の底から感謝していますよ。私が実際に聞きましたからこれは本当です。ふふっ、その時は本当に誇らしかったです。」
 シェレールは、嬉しそうな笑顔で語る。
 何だかその笑顔で俺の曇っていた心模様が晴れていく気がした。
 不思議だ。本当に不思議だ。シェレールの笑顔を見るだけでこんなにも心が温まる。こんなにも優しくなれる。
 俺が寝込んでいた時に救ってくれたのもシェレールだ。どんな時だってシェレールは、俺を救ってくれた。
「………俺、シェレールをお嫁さんにできること自体が最大の幸運なのかもな。」
 俺は、つい思ったことを口に出してしまった。
「っ!も、もう、旦那様ったら。……わ、私こそ旦那様がお婿さんに来てくれるんですからすごい幸運ですよ。」
 シェレールも恥ずかしそうに手を頬に置いて呟く。
「………シェレール、子どものことはまだ心の整理が出来てないからどうなるか分からないけど……シェレールとの結婚生活、存分に楽しみたいって思うよ。」
「はいっ!私もいっぱい楽しみます!」
 俺たちは、昼間の公園のベンチでキスを交わした。
 そして、その日の夜からあの声が聞こえることがなくなった。
 結婚式まで残り、5日。

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