クラス転移で俺だけずば抜けチート!?コミカライズ!

白狼

241話 運命

 日も落ちてもう真っ暗だ。何とか家や店から出る明かりのおかげで街を散歩できている。
 ここは、少し高いところで人もいない。
 ここからは街の全てが見える。街の灯りもまだ街を歩いている人の姿も。
 だが、そろそろ時間だ。
「もうそろそろ帰るか?」
 俺がそう聞くとシェレールは、少し寂しそうな顔をした。
「もう……こんな時間なんですね……」
「名残惜しいか?」
「………はい……」
 別にこのデートが終わったら会えなくなるわけではない。それどころか帰るところは一緒で寝る部屋だって一緒だ。
 だが、いや、だからこそ、このデートの時間というのは大切な時間なんだろう。
 こうやって外で一緒に散歩することなんて沢山ある。だけど、今のこのデートの時間はいつもとは違う。
 大切な人と二人っきりで手を繋ぎ食事もして街を歩く。
 何が言いたいかと言うと……
「俺も名残惜しいよ。こんなかけがえのない時間はすぐに終わってしまう。」
「………はい……そうですね……時間なんてあっという間ですね。」
「俺がもっと早くプレゼントを決めれていたら良かったんだけど……」
「もうっ!それは言わない約束です!」
「あはは、ごめん。でも、もっとこうやってしていたいな。」
「そうですが……そろそろ帰らないとみんな心配しちゃいますよ?」
「ああ、分かってる。」
 俺は、一旦シェレールの手を離す。
「旦那様?」
 シェレールは、そんな俺を不思議そうに見る。
 俺は、シェレールの前に立ち向き合う。
「シェレール、今日一日楽しかった。ありがとう。」
「い、いえ!こちらこそすごい楽しかったです!」
「ははっ、まぁ、返事は後でいいから最後まで聞いてくれないか?」
「は、はい……」
「ありがとう。それじゃ、改めて……シェレール、今日一日楽しかった。ありがとう。」
 俺は、今さっき言った言葉を再び言う。
「シェレール、俺と付き合ってくれてありがとう。俺の彼女になってくれてありがとう。」
 俺は、シェレールにお礼を言う。しっかりと言葉の重みを乗せて。気持ちが伝わるように。
「俺がこの世界に来てから一年。ってことはシェレールと出会ってもう一年が経つ。」
 そう。もう一年も経ったのだ。
「この一年間、俺はシェレールに助けられた。ものすごく助けられた。最初は、友人として。仲間として。そして、恋人として。本当に助けられた。心の底からどんどん感謝の気持ちが溢れてくる。」
 この気持ちを上手く言葉にすることができるかどうかはわからない。だけど……伝えたいことはいっぱいある。
「本当にシェレールといて楽しかった。嬉しかった。心地よかった。………喧嘩もしたことがあるよな。その度に俺は、何度もシェレールに酷いことを言ったような気がする。でも、シェレールは、そんな俺を見捨てなかった。本当に感謝しても仕切らない。」
 言葉を口に出していくうちに目が熱くなり一滴一滴の涙が零れてくる。
 そのせいでシェレールが今、どんな顔をしているのかわからない。
 俺の気持ちを聞いて喜んでくれているのだろうか。それとも急にこんなこと言われて困っているのだろうか。
 だけど、最後にまだ言いたいことがある。
「………シェレール……最後にね……言いたいことがあるんだ……この一年間、本当にありがとう!まだまだ苦労をかけたり心配させたりするかもしれないがこれからもよろしくお願いします!………あと、シェレール、本当は当日に言いたかったけど誕生日、おめでとう!」
 シェレールが今、どんな顔をしているのかわからない。だけど、俺は、精一杯の笑顔でそう言った。
 これからもずっと一緒にいてもらう大切な人だから。
「う……うぅ……旦那様は、ずるいです……」
 シェレールは、俺が言い終わると口を開けそう言った。
「私だっていっぱいいっぱいお礼を言いたいのに……それなのにずっと旦那様一人で喋って。本当にずるいです。だから、次は私の番です。」
 シェレールは、そこまで言うと深呼吸をして心を落ちつける。俺も涙を拭ってシェレールの顔をしっかりと見る。シェレールの顔は、真剣な表情だった。
「旦那様は、私が旦那様を何度も助けたって言ってましたよね。そんなの私も同じですよ。私だってもう数え切れないほど助けてもらいました。私の方はもうずっと言ってるから聞き飽きてるかもしれませんが……旦那様が私を助けてくれたから今の私があるんです。」
 シェレールは、俺に1歩近づき軽くキスをした。
「旦那様が私にキスの味を教えてくれました。体を重ねることの気持ちよさも。まぁ、旦那様以外には絶対にそんなことしたくありませんが。」
 その後、シェレールは、俺の胸に頭をぽつんと置いて再び話し出した。
「旦那様、最初の頃は私のことを友人って言ってくれましたよね?」
「ああ、確かに言ったな。」
「私は、違いますよ。私、旦那様と少しだけ話しただけで心がキュンってしちゃったんです。……今思えば一目惚れだったんだと思います。」
「一目惚れ……かぁ…俺、なんもしてないけど?」
「私も最初は不思議に思ったんです。でも、人を好きになる理由なんてみんな、分からないものですよ。話してて楽しかったからとか、一緒にいて心地がいいとか人それぞれなんです。でも、私が旦那様を好きになった理由って……言葉にするのは恥ずかしいですけど……恐らく私は、運命なんじゃないかって思ってるんです。」
「運命……」
「はい……だって今、こうやって恋人同士として繋がっているんですから!」
 シェレールのその言葉は他人が聞いたら恐らくすごい笑われているのだと思う。だけど、俺にはその言葉は胸に突き刺さった。
 シェレールが俺に一目惚れしたのは今、こうやって恋人同士として繋がるための運命。
「ははっ、そうか。運命か。なら、俺はこの世界に来たこと……いや、ずっと一人だったことがシェレールと恋人同士として繋がるための運命ってことかな。」
「っ!はい!そうです!そうに違いありません!」
 運命、今までそんなものを信じたことなど1度もない。そんなものがあるとしたら昔の俺なら神を恨んでいただろう。だけど、今の俺なら今までの地獄みたいな人生はシェレールと恋人同士になるための運命なのだとしたらまぁ、別にどうでもよく思えてしまう。それほどシェレールと恋人同士になれてすごい嬉しい。
「旦那様、これからもずっとずーっと一緒ですからね!浮気なんかしたら許しませんから!」
「ははっ、するわけが無いだろ。」
 俺たちは、その後、軽くキスを数回して魔王城に帰って行った。
 寝る時は……まぁ、パーティをしたと言っておこう。

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