最強家族のまったりライフ

もちろう

54話 お散歩

「あ、勇者たちが出ていくね」

勇者たちの方に目を向けるとちょうど朝食を食べ終わったようでぞろぞろと食堂から退室していくのが見えた。

「会話を聞くに、勇者たちは訓練場でウォーミングアップをして近場にあるダンジョンでレベル上げをする予定のようです」

前にティオが話してくれたけどダンジョンがあるんだったね。ちょっと行ってみたいかも。

「俺達もついていくの?」

「はい、そのつもりですが……ウォーミングアップを見ても意味はなさそうですね。ダンジョンに向かうときについていけばいいでしょう」

確かにダンジョンで戦うところを観察するんだったら運動しているところなんて見ても意味ないね。

「少し時間が空きますね。坊っちゃまは何かしたいことはありますか?」

したいことか……別に城内に興味はないし特にないかなぁ。ノイントは何かある?

《ボクはちょっと魔力を使いすぎて疲れちゃったから風にでも当たりたいですね~》

そういえばスキル改造エディト使った時にギリギリ足りたって言ってたね。それならお城の屋上にでも連れてってもらおうか。カリスは?

『そうだな、今日はまだ狩りをしていないから少しばかり身体を動かしたいな』

ふむふむ、カリスは出かけたいと。勇者たちがウォーミングアップを終えてダンジョンに行くまで少なくても1時間はかかるだろうから問題はないでしょ。

「ノイントが外の空気を吸いたいみたいだからお城の屋上に連れていってもらえないかな?」

「屋上ですか?わかりました。では私に掴まってください」

言われた通りにアマリエの手を握ると一瞬にして景色が変わり、眼下に兵舎などの石造りの建物を見ることができた。高所にいるため風がよく吹き、朝の少し冷たい風を頬に感じることができる。

「お~気持ちいいですね~」

ノイントも実体化して伸びをしながら朝の空気を堪能していた。

『ではクルス、私は少し飛んでくるからな』

「あ、うん。いってらっしゃい」

俺は何をしようかな?ここで暇を潰してもいいけど……あ!

「カリス、ちょっと待って」

『む?どうしたのだ?』

「俺達も乗せて飛んでくれないかな?」

カリスが乗せてくれればノイントの風に当たりたいって希望も満たせるし、俺もカリスの羽毛を楽しめて一石二鳥だ。でも狩りもしそうだから断られたら素直にここで暇を潰そう。

『うむ、構わないぞ』

カリスは了承すると白く光りだし、俺達が余裕で乗れるほどの大きさになってくれた。

「ありがとうカリス!」

「カリスに乗れるなら気持ちいい風に当たれそうですね~」

良かった、ノイントも嬉しそうだ。
カリスが身を屈めてこちらに羽を差し出してくれたので、その羽を伝ってカリスの背中まで登っていき、翼と翼の間辺りに座った。
ふわあ~埋もれる~。
続いてノイントも登ってきて俺の隣に腰を下ろした。

「アマリエもはやくー」

「え!?は、はい」

アマリエは自分も乗るとは思わなかったのか、俺が声をかけると少し驚いてからカリスの背まで登ってきた。

「わ……ふわふわ……」

彼女は俺達の後ろに腰を下ろすとカリスの羽毛の心地よさに驚いて、何度も羽毛の中に手を入れたり、羽を押して反発具合を楽しんだりとすっかりカリスの羽毛に夢中になってしまった。

「「……」」

「ふふ…………あっ……」

手から伝わる感触に満足したようで、次は寝転がってみようと体勢を崩したところで俺達の温かい視線に気づきピシッと体を硬直させた。

「……アマリエ……かわいいね」

「うふふ~かわいいですね~」

「あうぅ……」

俺達が温かい視線のままそう言うと恥ずかしさから真っ赤になった顔を手で覆い隠してしまった。
……最近気づいたけどアマリエって夢中になると周りが見えなくなるよね。かわいいし面白いからそのままでいて欲しい。

『……クルス、もう飛び立つぞ』

「うん、いいよ~」

カリスもアマリエの様子に少し居たたまれなくなったのか、出発を急かしてきたので何事もなかったかのように返事を返した。
カリスは羽を広げて一度上下に羽ばたくと、それだけでカリスの身体は空へと舞い上がり遠くに見える森に向けて羽ばたいていった。下を見るとダンコーツの街が瞬く間に後ろへと流れていくのが分かった。そんな速度で飛んでいるにも関わらず気持ちのいい風を感じるだけで揺れることもない。それに加えいくら耳を澄ませても羽ばたく音が聞こえないのだ。
そういえば前はフクロウみたいな羽の構造なのかと思ったけど、この大きさで、しかもこんな近くでも聞こえないのはさすがにおかしいよね。

『どうやらユニークスキルの神霊魔法で神霊の力を借りて音だけを別の位相に転送しているようです』

位相?

『簡単に言うと亜空間のことですね』

龍種が暮らしているところみたいな?

『はい、そことはまた違う空間ですがその認識で間違いありません』

そんなすごいことしていて魔力は大丈夫なの?

『カリスの魔力を見る限りほとんど消費してる様子はありませんね。だいたい5秒に1程度です。おそらく日常的に使っているからこの程度の消費量なのでしょう』

5秒に1って……カリスの魔力はたしか100万を超えていたから本当に微々たる消費量だし、自然回復する魔力のことも考えれば消費なんてないようなものか。こういうちょっとしたところからも本当にカリスが高位の魔物なんだって分かるよね。

「おお~ご主人様~、あっちに小さな鳥の群れがいますよ~」

カリスについてティオから説明を聞いている間、ノイントはカリスの背中の上をあちこち歩きまわって周りの景色を楽しそうに眺めていた。

「あんまり立っていると危ないよ」

『心配するな。私が風魔法で風圧を軽減しているから強風に煽られることはない。もし落ちても地面に落ちる前には回収できるぞ』

気持ちいい程度の風しか吹かないから変だと思ったけどカリスのおかげだったんだ。

「そんなことまでしてくれてたんだ。ありがとうねカリス」

『気にするな。この程度、呼吸をするのと同じことだ。それにしても、誰かと同じ景色を共有するというのはなかなか良いものだな』

「そうだね。一緒の景色を見て同じものについて語り合うことって楽しいよね」

俺も転生してからこんなに楽しいんだって気づいたよ。

「も~ご主人様~!見てくださいよ~!」

カリスとほのぼのと話していたらノイントに怒られてしまった。

「ごめんね。小さい鳥の群れだったよね」

ノイントの見ていた方向には白色と茶色の羽を持った鳥が群れを成して飛んでいた。数は50以上はいるだろうか。比較対象がないのでよく分からないが、ノイントの言った通り確かに小さい気がする。

『カリスがマスターの肩に乗っているときのサイズより一回り小さいくらいですね』

てことは地球にいたハトくらいの大きさなのかな?この世界の基準だと十分小鳥だね。

「どうやって戦うんでしょうね~?」

「魔法でも使うのかな?」

「あの数で撃たれたらステータスに開きがないとひとたまりもなさそうですね~」

鳥達の戦い方をノイントと予想していると、地上から件の鳥の群れに目掛けて火球が放たれるのが見えた。火球は鳥達が散開して避けたことで通り過ぎていくだけに終わったが、攻撃の意志を持って放たれたことは明確だった。

「あっ!鳥達の真下に何かいますよ~」

「本当だ。ん?あれは……人間?」

ノイントの指差す方向を見てみると武器を手に持って複数人で陣形を組んでいる冒険者らしき人間の姿があった。

「う~ん、ここからじゃよくわからないですね~」

「身体強化すれば見えそうじゃない?」

「お~その手がありましたね~。それじゃあさっそく~」

俺も使ってみよう。あ、そういえば上位スキルの超越化っていうのがあったような……まあとりあえずは普通の身体強化でいいかな。
身体強化を発動させると周りの景色が目に見えて鮮明になり、1キロ以上も離れたところにいる冒険者達の恰好がはっきりと分かった。皮の鎧を身に纏って片手剣を構える戦士らしき人や暗い色のローブに青い宝石が付いた長い杖を持つ、いかにも魔法使いといった人など最初の街のギルドで見た冒険者のような恰好をしていた。
おお……なんかすごい異世界って感じがする!最初の街のときは人の視線とか怒れるアマリエとかに気を取られてよく見れてなかったけど形が同じ鎧でも結構違うんだね。あっ、カリスが俺達が見やすいように飛ぶ速度を落としてくれてる……そこまでしなくてもいいのに、優しいなあ。

「やっぱり冒険者みたいだね」

「さっき火球を放ったのはあの真ん中の長い杖を持ってる人でしょうか~」

「他に魔法を使いそうな冒険者はいないからそうかもね。でもさっきの火球は避けられてたしここからどうするんだろう?あれっきり動きがないけど……」

「う~ん……あっ!鳥達が冒険者達を囲み始めましたよ~!」

冒険者達が武器を構えたまま鳥達の出方を窺っていると、それまで彼らの頭上で一糸乱れずに旋回していた鳥達が一気に高度を下げていき、一瞬で彼らを取り囲んだ。

「すごい連携ですね~。冒険者達が慌ててますよ~」

「集中砲火で魔法を使うのかな?逃げ場もないしどこか崩さないと突破は無理そう……」

退路を一瞬にして断たれた冒険者達は必死に辺りを見回して突破口を見つけようとしていた。そして一点突破しかないと考え着いたのか、鎧を着た戦士職の冒険者達が正面で取り囲んでいる鳥達に切りかかり、魔法使いの恰好をした冒険者が杖に魔力を集中させ始めた。しかし、戦士職の剣が取り囲む鳥の一匹に当たる寸前、目の前に半透明な障壁が現れ、剣はあっけなくはじかれた。見れば、障壁は彼らの周りにドームのような形で張り巡らされており、彼らを完全に閉じ込めてしまっていた。それでも彼らは諦めずに魔法や剣で攻撃を繰り返しているが先ほどと同じように容易くはじかれるだけで障壁が破れる様子はなかった。

「魔法は使ったけど予想外な魔法だったね」

「冒険者達もとっておきっぽい魔法とか使ってますけど全然破れませんね~」

『ちなみに、彼らはBランク冒険者ほどの実力があります。冒険者の基準だと上位の冒険者に入りますね』

Bランク冒険者が歯が立たないってことはあの鳥達はAランクかそれ以上の魔物なんだ……。

「あれ~?なんだかあのドーム、小さくなってませんか~?」

ノイントの言う通り、彼らを取り囲む障壁は攻撃が少し途切れると、遠くからでも分かるほどの速さで小さくなっていった。

「あ……これってまさか……」

「ご主人様~?」

障壁は死力を尽くした冒険者達の攻撃をものともせずに縮小していき、ついには冒険者達をお互いの体が触れ合うほどにまで追い詰めた。

「うわ~、ああなったら何もできないですね~……ってあれ、止まらない……?」

ノイントの呑気な感想の間も障壁は止まることはなく縮小し続け、必死に押し返す冒険者達の体がおかしな形になっても止まらず、やがて…………真っ赤な球体が出来上がった。

「……ぉ~ぉぉ……」

ノイントは規制待ったなしの光景を目の当たりにして、口を半開きのまま虚ろな瞳で空を見上げてしまった。

「ノイント、大丈夫?」

「……ご主人様、身体強化は使いました……?」

あまりの衝撃にノイントの語尾が消え去っているが、それよりもノイントの話を聞こう。

「うん、スキルの身体強化だけでも十分見えたよ。本当は超越化とか魔力の身体強化とかも使うつもりだったけど」

「そうですか……」

「え?それがどうしたの?」

「……ボク、ちゃんと見えるようにって超越化と魔力の身体強化を使ったんですよ……。ええ、よく見えましたよ……体が折れ曲がって肉がちぎれていく様子とか脳漿が飛び出す様子とか……ふふふ……」

「そ、そうだったんだ……」

スキルの身体強化だけだと体が折れ曲がって赤くなったってくらいしか分からなかったけど、上位スキルと魔力の併用だとそんな詳しく分かっちゃうんだ……。

「あれ?でもうちによく来る黒ずくめさん達も同じような目に遭ってなかった?」

「……たしかにそうですね~。思い出したらなんか平気になりました~」

良かった、ノイントの目にハイライトが戻った。いや良いのかな……?
月に一度は必ずやってくる律儀な黒ずくめさん達だが、毎回メイドや執事、たまに母さん達に実験台の如く色々な殺し方をされているのだ。そんな光景を生まれてから何度も目にしている俺は並大抵のゴア表現ではほとんど動じなくなったのだ。ただし寄生梅パラサイトプラム、あいつだけは耐性を貫通してくる……本当にやめてほしい。

「鳥達は~……もうあんな遠くに行っちゃってますね~。冒険者達の死骸も赤い球体のまま運んでいますよ~」

「本当だ。普段からああやって狩りをするのかもね」

「そうかもしれませんね~。ところであの鳥はなんて名前なんでしょうね~?」

『あの鳥はガーデ────』

「ガーディアンウィングですね。常に群れで行動し守りに特化した魔法を使いますが、先ほどのように相手を圧殺することもできます」

ティオが答えようとしたがいつの間にか後ろにいたアマリエに先を越されてしまった。

「ガーディアンウィングっていうんだ。あ、そういえばもう落ち着いたんだね」

「うっ、大丈夫です。もう誘惑に負けたりしません!」

アマリエは俺の言葉に若干赤くなったが、持ち直してそう宣言した。

「無理しなくてもいいんだよ?」

「別に無理してないです。大丈夫です」

動揺からか若干いつもの敬語が乱れているが指摘しないでおこう。

「ふう~、見ていただけですけどちょっと疲れましたね~」

「確かに刺激が少し強かったね……」

「というわけでボクは少し寝ますね~」

「え?」

それだけ言うとノイントはすぐさまカリスの背中の上で寝転がり、羽毛に顔をうずめながら眠ってしまった。
寝つき早っ!?

「……うぅ」

目の前でカリスの羽毛を堪能している様子を見せられたアマリエはというと羽毛にちらちらと視線をやりながら震えていた。
頑張れ!負けないって宣言したんだから!

「……坊っちゃま」

「どうしたの?」

「先ほどの宣言なのですが……明日からにします」

「そ、そう……」

ノイントの行動はアマリエの最後の自制心にとどめを刺してしまったようだ。宣言を一瞬で取り消したアマリエは吹っ切れた様子でノイントの近くに寝転がると、蕩けるような笑みを浮かべて羽毛に頬ずりをしだした。
……なんだかアマリエのキャラが壊れてきてるような……いやこっちが本来の性格なのかな?まあ、かわいいからいいや。

『ガーディアンウィング……ガーディアンウィング……』

ティオは先ほどアマリエに先に説明されてしまったのがショックなのか小さな声で鳥の名前を延々と呟いていた。
ツッコミが追い付かないよっ!ていうかティオ!そんな性格じゃなかったでしょ!

『あ、バレましたか?』

もう……。

『ふふふっ、なんだか賑やかだな』

うわあ~ん!癒しはカリスだけだよ~!









そんな賑やかに空の散歩を楽しむクルス達を気配を消してカリスのさらに上から追跡する4つの影があった。もちろんレレナ達別動隊である。

「アマリエ……」

「まったく……」

メイドと執事の二人はカリスの背中で羽毛に頬ずりをするアマリエを見て呆れた声を出した。

「いいじゃない、特に問題は起きてないんだし。それにかわいいじゃない」

「奥様、かわいいかどうかではなくメイドとしての責務というものが……」

「まあまあ、今回の偵察は息抜きという側面もあるんだし、あまり堅くなってもクルス君が楽しくないでしょ」

「う、それはそうですが……」

「それに、私達が食堂にいないときにクルス君と一緒に食事をしてるのを考えれば今更じゃない」

納得のいっていない二人だったが、レスティアが何気なく言った指摘にそろって気まずそうな表情を浮かべた。

「き、気づいていたのですか……」

「あれだけの人数が食堂に集まっているんだもの。気づかない方がおかしいでしょ」

「申し訳ございません……」

「あ、別に怒っているわけじゃないわよ。私は知っての通り形式なんてこだわらないし、クルス君に寂しい思いをさせずに済んでむしろありがたく思っているくらいだから。まあそういうわけで、アマリエのことも大目に見てあげなさいね」

「「か、かしこまりました」」

クルスと朝食を摂ることがレスティアに認められていたことに驚きやら喜びやらで二人が混乱している隙に言質を取る辺り、レスティアは策士なのかもしれない。

「……で、レレナはさっきから何やってるのよ」

「全然ふわふわしてないわっ!」

「お嬢様、私は竜人族ドラゴニアンですから坊っちゃまの従魔のように羽毛はありませんよ」

レレナ達は今、竜化した執事に乗ってクルス達を追跡しており、先ほどの会話も竜化した執事とその背に乗ったレスティアとメイドがしていたのだ。レレナは大人達が話している間、執事の背中に頬をくっつけたり鱗の隙間をじっと見つめたりととても奇怪な行動をとっていた。

「何で!?フェザードラゴンとかは生えてるじゃない!」

「私は黒竜の竜人ですから鱗しかありません」

「むう!」

「レレナ、あまり困らせないの」

「……わかったわ。じゃあその代わりに……お母さん、翼出して」

「つ、翼?まあいいわ」

急に物分かりの良くなった娘に疑問を覚えながらも、レスティアは要望通りに背中から2対の艶やかな至極色の蝙蝠のような翼を出現させた。

「で、何がしたい……やっ、ちょっと!」

レレナはレスティアの翼が出現すると目にもとまらぬ速さでレスティアの背後に回り、翼を撫で始めた。

「お母さんの翼ってスベスベしてて気持ちいのよね~」

「こらレレナっ!くすぐったいからやめなさい!」

レスティアも口では怒っているが自分の翼を褒められるのは嬉しいらしくされるがままになっていた。

「一家団欒ですね……」

「そうですね……」

そんな親子の仲の良い様子を使用人の二人は穏やかに見守っていた。

「「あっ、坊っちゃまを見ていませんと」」

今回は珍しくクルスが忘れられていたのだった。










遅筆ですみません……。

ちなみに至極色とは黒に近い赤紫色のことだそうです。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品