最強家族のまったりライフ

もちろう

50話 ダンコーツ入国

「これ、普段使いはできないね……」

「創世の時代の人は何を考えてこんな危険なものを作ったんですかね~……」

「これが失われし古代魔法ロストマジック……」

俺達は地面にぽっかりと開いた底の見えない黒い穴を覗き込みながら口々に呆れた声を出した。

「神聖魔法は良かったんだけどなあ……」

時は少し遡る。
俺とノイントはまず危険の少なそうな神聖魔法から試すことにした。一応危険な魔法だった場合の安全措置として素早く対処できそうなアマリエにも傍にいてもらった。神聖魔法のイメージは光魔法と同じで良かったようで難なく発動することができた。発動した魔法は"聖吹セイントブレス"という魔法で、ティオの説明によると毒や病気などの状態異常を治すことができる回復魔法のようだった。
ここまでは何の問題もなかったのだ。問題は深淵魔法の方だった。





「こ、このくらいの魔力で大丈夫?」

『はい。そのくらいの魔力であれば深淵魔法も最小限の威力で発動できます』

「発動したらすぐに私が安全な場所まで坊っちゃまを運びますので安心して発動してください」

深淵魔法は名前からして危険そうだったので、ティオとアマリエからアドバイスをもらいながら細心の注意を払って発動しようとしていた。
神聖魔法が光魔法と同じイメージで発動できたんだから深淵魔法は闇魔法をイメージすればいいのかな?……あっ、詠唱が浮かんできた。

「じゃあいくよ。深き闇よ、永久の牢獄へと誘うあぎとを開け"デプス"」

俺が詠唱を終え、魔法名を口にすると目の前の地面に1メートルほどの幅がある真っ黒い穴が出現した。それと同時にアマリエが俺とノイントを抱えると、瞬きのうちに先ほどいた場所が小さく見えるくらい遠くまで移動した。

「………」

「………」

「………」

俺達はそこから"デプス"で生み出した黒い穴をしばらく観察していたが、特にこれといった変化は起こらなかった。恐る恐る近づいて確認してみたが、やはりただただ黒い穴が存在しているだけだった。

「…穴だね」

「…穴ですね」

危険そうな魔法ということで身構えていたぶん、少々肩透かしを食らった気分になってしまった。
だが"デプス"の本当の力をティオから聞いた瞬間、俺達は背筋が凍るような思いをすることになったのだった。






「まさか"デプス"の中に入ったら二度と出ることができないだなんて……」

ティオ曰く"デプス"の中はずっと下へと続く牢獄だそうで、入った者は死ぬまで何も見えない闇の中を落ち続けるのだとか……。

「こんな魔法が今の時代にあったらと思うとぞっとしますね。しかも、これでレベル1の魔法なんですよね……」

アマリエから見ても深淵魔法は恐ろしいらしく、少し青い顔になっていた。

「でもずっと落ち続けるってどんな感覚か気になりますよね~」

「やめてよ!?」

「あはは~冗談ですよ~」

ノイントは俺の必死な様子を見ておかしそうに笑った。
またからかわれた……。

「……とりあえず、危険だから"デプス"は解除しちゃうね」

こんなものうっかり踏んだらシャレにならないからね。
俺が"デプス"に魔力を送るのをやめると、出現した黒い穴はみるみる小さくなっていきやがて跡形もなく消滅した。

「これで良しと」

この魔法は本当に危険な場合にだけ使おう……。

「日が沈んできましたね」

西の空を見てみれば、アマリエの言った通り既に日が沈みかけていた。
魔法を試すのに結構時間がかかってたんだ。

「あっ、ご主人様~。カリスが帰ってきましたよ~」

そのまま西の空を見つめていると、夕日を背にしたカリスがこちらに近づいてくるのが見えてきた。カリスは俺たちのところまで近づくとふわりと着地し、身体を縮小させていった。

「おかえり、カリス」

『うむ』

「なにか狩れた~?」

『狩れたには狩れたが……ここの魔物はランクが低すぎるな』

カリスはノイントの質問に不満そうに答えた。
まあここは人の手が入ってそうだし魔物もあまり寄り付かないんじゃないかな?

「カリスも帰ってきましたし、夕食にしましょうか」

「うん!」

「賛成です~」






クルス達がテントの前のテーブルで夕食をとる中、1キロ以上離れた森の中からその様子を覗く……レレナ達がいた。

「……奥様、先ほど坊っちゃまが発動した魔法は何なのでしょうか?光魔法や闇魔法に近い魔力でしたが、あんな異質なもの初めて見ました」

「私に聞かないでよ。でも、クルス君達の会話が本当なら失われし古代魔法ロストマジックってことになるわね……」

レレナ達は先ほどクルスが発動した神聖魔法と深淵魔法について話し合っていた。

失われし古代魔法ロストマジックって私やルーナみたいな種族がたくさんいた時代の魔法?」

「ええそうよ。今は完全に失伝して使えるものはいないはずだけど……」

レスティアとメイド達はこの時代の者が使えるはずのない失われし古代魔法ロストマジックをクルスが使えることに困惑しているようだ。

「それをクルスは使えるの!?クルスすごい!」

レレナはよく分かっていないのか純粋にクルスのことを褒めちぎっていた。

「……まあ今考えても仕方ないわよね。やめましょう」

「そうですね。それにしても坊っちゃまは本当に自然が好きなのですね」

レスティア達は純粋にクルスを褒めるレレナを見て、答えの出ない問答をする気力が失せたのか別の話題に切り替えることにした。

「本当よねー。ああいうところはセーラに似たのかしら」

「セーラ様も自然が好きですからね」

「あの子、自分の部屋を植物と一体化させるくらいだものね……」

「やっぱり親子なのですね」

「そうねえ……」

レスティアはセーラの顔とクルスの顔を思い浮かべながら感慨深げに呟いた。

「わ、私も自然大好きだもん!」

「レレナ、クルス君との共通点が欲しいからって嘘ついちゃだめよ」

「嘘じゃないわよ!ほ、ほら、あそこの赤いお花とか、とっても綺麗で……血が飲みたくなってきちゃうわあ……」

「お嬢様、それはただ血を連想しただけだと思います」

「うっ……」

レレナはクルスとの共通点を作り出そうと必死に取り繕ったが執事の的確な一言に敢え無く撃沈した。

「はあ、全く……レレナにはもう少し私みたいにお淑やかに育って欲しかったわ……」

「「ぶふっ」」

レスティアの呟きを聞いた途端メイド達が揃って吹き出した。

「あはは、奥様がお淑やかって……」

「奥様がお淑やかでしたら世の中の女性は全員お淑やかになりますね」

メイド達はレスティアの発言がツボだったようで、レスティアの周りに黒いオーラが立ち上ってきているのにも気づかずに盛大に笑い合っていた。

「……よくわかったわ。そんなに私に殴られたいのね……」

「「あ……」」

「なら、お望み通りにしてあげるわっ!」

翌日、その場には局所的な天変地異が起こったかのような惨劇の跡が広がっていたとかいないとか……。ちなみに、レレナは終始ずっと撃沈していたという。









「ここが、ダンコーツ?」

「はい、ここで間違いありませんよ」

あれから一週間森の中を歩き続け、俺達はようやくダンコーツへとたどり着いた。アマリエの予想では2週間ほどかかるようだったが、街を経由せずに森を突っ切っていったのと俺の歩くペースが予想よりも早かったことが大幅な短縮に繋がったらしい。

「この前の街より全然大きいね」

「ここは軍事国家として知れ渡っているほどですからね」

ダンコーツは周囲を20メートル以上ある石の壁で覆っており、その上にはいくつもの大砲や見張りの兵士が配置されていて軍事国家の名に恥じぬ様相をしていた。ダンコーツの外壁をじっくりと眺めているとアマリエが立ち止まってこちらに振り向いてきた。

「坊っちゃま、私達はこれからダンコーツへと入るわけですが、一応偵察の任務も担っています。そのため、坊っちゃまさえよければ明日は城内へと侵入することになりますが、よろしいでしょうか?」

「うん、いいよ。でも、侵入なんて俺にできるかな?」

そんな高度なことやったことないよ。

「坊っちゃま用の隠密に特化した服があるので大丈夫ですよ。それに、坊っちゃまは隠密のスキルを所持しているようですし、そうそう見つかることはありませんよ。もし見つかっても私がお守りいたしますのでご安心ください」

「分かった。ありがとうアマリエ」

メイド達が作った服があるなら大丈夫そうだね。なんせ今着てる白のローブだって汚れ一つ付いてないんだもん。

「では向かいましょうか」

アマリエと一緒にダンコーツへと入る門へと向かう。幸いにも列が短かったためすぐに自分たちの番が回ってきた。

「次の者!」

検問の兵士に呼ばれたので兵士のもとへと近づく。

「お前達二人と…従魔か。身分証はあるか?」

「こちらです」

「うむ、問題ないな。そこの子供、フードをとってみろ」

俺は兵士に言われたとおりにフードをとった。

「よし、通っていいぞ」

兵士は俺の顔を一瞥しただけで入国の許可を出した。
あれ?そんな適当に見るだけでいいの?……まあ入れるならいいか。
俺は兵士の対応を少し疑問に思いながらもダンコーツへと入国を果たした。

《なんか変な感じでしたね~》

ノイントもそう思った?

《はい!ご主人様のお顔を見て反応を示さないなんて異常ですよ~》

それは違くない……?

『いえ、ノイントの言っていることはあながち間違いではありませんよ』

ええ?そうなの?

『はい、今のマスターには認識阻害のスキルが発動していますから』

え?でもそんなスキル持ってないし、使った覚えもないよ。

『おそらくアマリエの所持しているスキルの効果ですね。今のマスターは他人からは凡庸な顔に見えていることでしょう』

いつの間に……。

『余計なトラブルにならないようアマリエが配慮してくれたのだと思います』

うん、アマリエに感謝しないとね。

「アマリエ、ありがとう」

「へっ?何がですか?」

「俺に認識阻害のスキルを付与してくれたでしょ?」

「気づいていましたか……」

俺が理由を伝えるとアマリエはバツの悪そうな顔になった。

「ティオが教えてくれたよ。ありがとね。おかげですんなりダンコーツに入れたよ」

「っ!お、お役に立てたのでしたら、良かったです……」

改めて笑顔でお礼を言うとアマリエは俯いて顔を伏せてしまった。

「アマリエ?」

「さ、さあ坊っちゃま!今日宿泊する宿にご案内しますね!」

かと思うとアマリエはいきなり顔を上げ、俺の手を握るとズンズンと街道を進みだした。

《あらら~またご主人様の笑顔が炸裂しましたね~》

また俺のせいなの?

『他に誰がいるというのだ』

むぅ……。
結局アマリエは宿に着いてしばらくしてもその態度のままで、俺は少し納得のいかない気分のまま夜を過ごした。

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