最強家族のまったりライフ

もちろう

12話 この家の正体2

魔王ってあれだよね。
「ふふはははははは!」とか「我が闇の力に屈するがよい」とか厨二くさいこと言って人間滅ぼすのが趣味の奴らだよね?で、俺の父さんはその魔王と……。父さんは魔王で魔王は厨二病……俺の父親は厨二病だったんだ。
俺はそんな厨二病な父親になんとなく冷たい視線を送っておいた。すると父さんは何を思ったのか、魔王について説明(弁明?)を始めた。

「い、いや、クルス。別に魔王は全員が悪い奴らではないぞ。俺だってフォルスティン王国の貴族なんだし。な?怖くないだろ?だからその目止めてくれ!俺の心が擦り減っていく音が聞こえるから!」

説明している間にメンタルが底をついたのか父さんは涙目で訴えかけてきた。
涙目はもうちょっと可愛くなってからしてください。
とはいえこれ以上やると本当に父さんが落ち込みそうなので冷たい視線はやめておいた。

「ふう……んんっ!それで先ほどの続きだが、魔王というのは魔物の王という意味で、本来は魔物を束ねて暴走や大量発生スタンピードを防ぐのが役割なのだ。だがそれを教会やフォルスティン王国の上の奴らなどの一部の者達が自分達の利益や信者を集めるために魔王を倒すべき悪だと吹聴しているせいで魔王は悪しき存在だと思われているが、我々魔王が自ら侵略することは殆どないんだよ」

この世界の魔王は悪い奴ではないんだ。じゃあ厨二病は発症しないのか……嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちだ。
ん?ねえティオ。一部の国の上層部や教会が魔王を悪に仕立て上げているだけなら、国民とか属国じゃない他の国とかは気づくんじゃないの?

『はい。マスターの言うとおり、フォルスティン王国のように上層部だけが利益に目が眩んでいる国では国民の中にも魔王の認識に疑問を持つ者も少数ですがいます。そうではない国では猶更です。ですが、そうだとしても結局のところ魔王の強大な力を恐れて排除しようという結論に至ってしまうのです。ちなみに教会の本拠地がある聖王国諸国は、幼い頃から間違った魔王の認識を聞かされるので魔王が悪だという認識が常識として身に付いてしまっているようです』

出る杭は打たれるじゃないけど迷惑な話だね。聖王国ってところはほぼ洗脳でしょ。あれ?フォルスティン王国にとって魔王は敵なら、なんでこの家はフォルスティン王国の貴族になってるんだろう?

「おとうさん!じゃあなんでおとうさんはふぉるすてぃんおうこくのきぞくなの?」

俺がそう聞くと、父さんは顔を顰めながら、質問に答えてくれた。

「レグサンド家は代々、この森の魔物を管理してきたんだ。この森から近いフォルスティン王国は結果的に魔物の脅威から守られていたこともあって、ずっと昔の良識のあった・・・・・・国王から感謝と友好の証として伯爵の地位をもらったってわけだ。その頃はフォルスティン王国とは良き隣人として暮らしていたんだがな……。その王の死後は代が代わるごとにだんだん欲深く、尊大になっていったんだ。最近になって即位した奴なんかはとんだ馬鹿者でな。俺の家の戦力を手駒にしたいのか軍門に下れなどと言い出したんだよ。もちろん断ったがそうしたら今度は俺達に敵対行動を見せるようになったんだ」

まあ、確かにこの家の戦力があれば世界征服もできそうだしね…。その気持ちは分かるけど国王も馬鹿だなぁ。
魔王のことが知れたから他に聞くことはあるかと考えていると、俺達が入ってきた扉が勢いよく開かれた。

ドガンッ!!!

……あり得ない音で。 
大きな音に驚いているとメイド服ではない女性が入ってきた。女性は父さんを見つけるや否や勢いよく詰め寄っていった。

「ちょっとカレイドっ!あなたまた国滅ぼしたでしょ!」

え?国を滅ぼした……?

「いや、レスティア。それは……あいつらがあまりにもしつこくてつい……」

詰め寄られた父さんは豪華な椅子から腰を浮かし、しどろもどろな言い訳を始めた。

「そんなこと言ってるんじゃないの!滅ぼすなら絶対に声を掛けてって言ってたでしょ!せっかく実験台と血が確保できたのに────」

物騒な会話を繰り広げているレスティアと呼ばれた女性を改めて見てみると、ストレートパーマのかかった夜色の髪に赤紫色の瞳をした勝ち気な印象の美女だった。身長も母さんと同じ位に高く身体も引き締まっているようだ。

「──ったく。次はないからね……ってあら?レレナとルーナもいたのね。ん?あなた達のそばにいる子は?」

会話が終わったところでやっと俺達に気がついたのか女性は少し驚いたような顔でこちらに顔を向けた。
でも誰だろう?レレナ姉さんとルーナ姉さんを呼び捨てで呼んでるからメイドではないだろうし…。

「この子はクルス。セーラお母さんの子よ!」

え!お母さん!?

「あら!そうなの!?セーラが子供が産まれたって言ってたから今度見に行こうと思っていたんだけど、ちょうど遠出の用事と重なっちゃって行けなかったのよね…………って何この子っ!チョーカワイイッ!!ああんっ!もっと早く行けばよかったわ!あなた達羨ましすぎる!」

女性は途中で言葉を止めるといきなり掻き消え、俺の目の前に現れたかと思うといきなりガバッと抱きついて大声で叫びだした。
ん!?抱きつかれてるの!?何も見えなかったんだけど!というか姉さん達助けてー!

「あっ!お母さんずるい!私も!」

「お姉ちゃんもずるい……。私も…」

俺の心の叫びは届かず姉さん達は左右から抱きついてきた。ってそうじゃないのぉぉ!
羞恥心に顔を赤く染める俺をよそに、そのまま10分程3人に抱きつかれていた。
………その光景を目の当たりにしたシェーラが地団駄を踏んでいたことは言うまでもないだろう。









抱きつきから解放されると女性が自己紹介を始めた。

「挨拶が遅れちゃったわね。私はレスティア。レレナとルーナと、あともう一人いるんだけど……その子達の母親よ。セーラ…クルス君のお母さんとは結婚仲間…っていうのかしら?カレイドの妻同士よ」

なるほど、どうりで姉さん達が母さんと似てないわけだ。ということは父さんは妻が二人いるってことね。この世界は一夫多妻が認められているから特に問題ないね。

「ちなみに私はヴァンパイアの真祖よ」

真祖?ヴァンパイアは姉さん達の母親ってことでなんとなく分かっていたけど。

『真祖とは最高位のヴァンパイアの一つです。一人いるだけで、大陸の生命が枯渇すると言われています』

ええ!ヤバいじゃん!真祖ヤバいじゃん!………ん?でもこの屋敷の人って全員大陸滅ぼせるくらい強いからあんまり驚くことじゃないか。

「え、ええと。れすてぃあさ『━━んんっ!』れ、れすてぃあおかあさん!ききたいことがあるの」

「いいわそれ!もう一回言って!」

普通にさん付けで呼ぼうと思ったら咳払いをされたので、なんとなく姉さん達が母さんを呼ぶように読んでみるととても喜ばれた。

「ええと、れすてぃあおかあさん」

「!!!うふふふ!やっぱりいいわ。っと、それで何が聞きたいの?」

「うん、れれなねえさんとるーなねえさんは『ヴァンパイア』なの?」

「そうね……。正確にはヴァンパイアじゃないわ。ハイエルフとヴァンパイアのハーフだから希少種族の『ヴァンピルフ』ってことになるわね」

希少種族のヴァンピルフか。ティオ、知ってる?

『ヴァンピルフはエルフとヴァンパイアの間にだけ出来る種族です。基本的に魔族と呼ばれているヴァンパイアは自然を愛するエルフ族にとって忌避される対象なので、子を成すことが殆どありません。そのため、エルフ族や大半の人間からはヴァンピルフは禁忌の存在とされています。実際はそんなことはなく、他種族間の軋轢がなかった創世の時代にはそれなりにいたと言われていますが、今の時代ではレレナとルーナだけでしょう。
また、ヴァンピルフはエルフという光の属性とヴァンパイアの闇の属性を併せ持つので、時空以外の全属性の魔法と精霊魔法に適性があり、血武器ブラッディーウエポンを使える他、ヴァンパイアの苦手な光属性への耐性があります。それに加え彼女達の両親は規格外のハイエルフとヴァンパイアの真祖なので能力はかなり高いでしょう』

俺はそれを聞いて愕然としてしまった。
姉さん達、強すぎない?

「クルス君、大丈夫?」

あ、ティオの話を聞いて固まってたからレスティアお母さんに心配されちゃった。

「うん、だいしょうぶ。ねえさんたちはやっぱりすごいんだね!」

「ほ、本当に?」

「こ、怖くないの………?」

俺が笑顔で姉さん達を褒めると、姉さん達は何故か不安そうな顔で尋ねてきた。
質問の意図がよくわからないけど素直に思ったことを伝えればいいよね。

「どうして?ねえさんたちはすごいきちょうなしゅぞくってだけでかぞくなのはかわらないでしょ?」

「「───!!」」

俺がそう聞くと姉さん達は目を瞠って驚き、何故か泣いてしまった。
あれ!?俺なんか不味いこと言っちゃったの?

「え、ええっと……なにかいやなこといっちゃったかな?」

「ぐすっ、ううん、違うの。クルスがそう言ってくれたのが嬉しくて、ううっ」

「─ひぐっ、私達みんなと違う種族だから………怖がられて嫌われるんじゃないかって、ぐすっ、不安だったの……」

ああ……。確かにそうだよね。ヴァンピルフはエルフ族のせいで禁忌って言われているような種族だから嫌われるかもって思っちゃうよね。それにヴァンピルフは今は姉さん達だけしかいないんだから、寂しかったんだろうな………。

「だいしょうぶ!ねえさんたちのことはずっとだいすきだよ!!」

「「──!!う、うわあああああぁぁぁぁぁぁん!!」」

あ、あれっ!?余計泣かせちゃった。どうしよう!?
姉さん達を泣き止ませる方法を必死に考えていると、姉さん達が泣きながら突っ込んできたので俺はそのまま押し倒されてしまった。姉さん達は倒れた俺の胸に顔を押し付け泣きじゃくっていた。俺は助けを求めようと周りを見回したがレスティアお母さんとシェーラはニコニコとずっと微笑んでいるだけで、父さんと側近の人はもらい泣きしていて、誰も動きはしなかった。
結局俺は姉さん達が泣き止むまで押し倒されたままだった。










そんな家族の微笑ましいやり取りを近くで誰にも気づかれずに見ている者が一人いた。


《………ボクって……空気っ!?》




言わずと知れたノイントちゃんである。

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