Crowd Die Game

織稚影願

ゲーム開始。そして、戦闘

その日は普通の朝だった。
あの地震……後に異変と呼ばれるようになる地震が起こるまでは。
そして……その後のたくさんの犠牲者を生み出したデスゲームが始まるまでは……。

俺は、普通に授業に明け暮れていた。
(暇だなー……なんか、起こんないかなー……)
そう考えていると、俺は先生に当てられた。
その授業は国語の授業だった。
「古川くん、君の意見はなんですか?」
黒板には、たくさんのことが書かれていたが、問題となることはなにか、すぐに分かった。
俺はその問題を難なく解くと、また、空を憂鬱そうに見た。先生はそんな俺を見て、呆れたような、かつ驚いたような表情を浮かべた。
その時間は、昼下がりの眠い授業。流石に、俺も眠くなっていた。何か、非日常なことが起こればいいのに。そう思った時だった。

──急に地震が起こったのだ。

生徒はもちろん、先生も慌てて机の下に潜り込んだ。
しばらくすると揺れがおさまったので、全校生徒で学校の敷地外に出た。
ただ……ひとりを除いて。
そう、俺は出なかった。校門の近くで亀裂が入るのを見つけ、更に出たくなくなった。
──なにか嫌な予感がする。そう感じたのだ。
俺はすぐに皆をこっちに呼ぼうとした。
と、同時に、学校が沈んだ。
少なくとも、ほとんどの人はそう錯覚していた。学校を見下ろすように、壁はそびえ立った。否、たっている途中である。
「古川!早く来い!」
俺はそう言われたが、嫌だった。行ってはいけないと思ったのだ。
「先生!私が言ってみます!」
そう言った声は七瀬だった。
別クラスだが、同じ部活のメンバーなのでよく知っていた。
「古川ー!早く来てー!」
七瀬はそう叫ぶが、俺はそれを無視した。
「……奈緒!お前がこっち来い!こっちが下がってるんじゃない!」
そう、俺は学校が沈んだ、と錯覚していなかった。下がっているのではない。
「そっちがどんどん上がっていってるんだ!」
そう、せり上がっているのである。
ただ少し上がっているだけならいい。
だが……最悪な事態も有り得る。
(もしこのまま上がり続けたら…………全員が大気圏を超えて……死ぬ)
「──えっ!?な、ならみんなを呼ばないと……」
「無理だ!全員は来れない!せめて……せめてお前だけでも、来い!」
そう言って俺は両手を広げた。
「でも……」
「いいから!来い!」
「皆を助けないと」
「早く!」
俺が何度も行ったのが効いたのか、七瀬は少し逡巡し、決心がついたのか、その場から飛んだ。
「な、七瀬!?何をして……!」
「ご、ごめんなさいみんな!私……みんなを助けられない……」
先生に止められたが、七瀬はもう落ちていた。もう遅い。
俺は七瀬を必死で受け止めた。
「ふ、古川……」
「みんなは助けられない……俺らもここでずっと生きるのは難しいが……少なくとも希望はある」
水は多分無理だろうが……食料なら少しはある。
「……うん……」
そう言っている時だった。
ズドン!そう音を鳴らして、振動が止まった。それと同時に、上がっていくのも止まった。
「なんだ……?なにが……」
「止まった……?」
「……良かった……のか?ひとまず今は大丈夫……なのかな?」
俺達は困惑していた。上がっていく限度がわからないため、死ぬ危険性があった。だから行かなくて正解だったのだろうが、止まった今、行くべきだったと思った。
「少なくとも向こうには……水も食料もあるじゃねぇか……しくったな……」
と、その時だった。
壁に突然穴が空いたのだ。
その穴は深く、奥へと繋がっていた。
「進んで……戦えってことか……?」
なにも魔物のようなものが見えた訳では無い。
ステータス画面が見えたわけでもない。
だが俺がそう言ったのにはわけがあった。
「……宝……箱?」
そこには宝箱があった。
「救済処置なのか……?でも、それじゃあ何のために陸をあげたんだ……?」
「とりあえず……開けてみようよ……」
「……そうだな。何事も怖がっていてはいけない……」
俺は少し警戒しながらも、宝箱を開けた。
そこに入っていたのは……。
二つの剣と黒い服、そして黒いマントだった。
それだけではない。杖と魔法使いの装束のようなものもあった。
「これは……やっぱ戦えってことなのか……?」
「そ、そんな…!私、運動神経もないし……」
「……お前は杖を持って魔法使いをしてくれ」
「えっ?」
「俺は剣士をする。二刀流……やって見るしかない」
「大丈夫……なの?」
俺が言うと、七瀬が不安そうに聞いてくる。
まぁその不安はわかるが……。
「やるしかねぇだろ……とりあえず……」
俺は穴の奥を見た。
「進んでみる……しかないか……」
「う、うん……」
俺らふたりは先に進むことにした。

「どぉぉぉおりやぁぁぁあ!」
俺は叫び声をあげながら、洞窟にいた。
ただ叫んでるわけではなかった。
洞窟の中にいた魔物を切り刻んでいた。
「はぁ……はぁ……かれこれ300体くらいか……すくねぇ数しか倒せてねぇな……」
「し、仕方ないよ……古川、私より身体能力低いし……なにより……初めてだし……」
「……あぁ……そうだな」
俺らが戦うのは初めてだ。そして身体能力は本来低い。
本来は……だが。
「なんだか……身体能力が上がってる気がするな……」
「え?そうなの?私変わんないけど……」
「……もしや……クラスとかが関係があんのか……?」
「……クラス?」
「あぁ。多分、俺は『クロスセイバー』ってクラス、つまり職業だと思う」
「職業……」
「そう。お前はメイジじゃないかな……とは思うが……」
あれからしばらく色んなことをしてみたが、あまりわかったことは無い。あるとすれば、メニュー画面を出すことができたことぐらいだろうか。
HPバーも見ることは出来る。というよりステータスが見れる。俺は1万と高めだが、七瀬は8千と低めだ。レベルは……俺は54、七瀬は48だ。
「しっかし、ゲームみたいだなー……わっけわかんねぇ」
「でも、ゲームなら古川の得意なんじゃ?」
「あのよー奈緒、ゲームが得意っつっても、それは2次元の話だ。リアルとなると話は別だよ」
「そうなんだ……」
そう、だからこそあまり倒せてない。
それに、これはゲームとは思えない。いや、ゲームなのだろうが、それには不自然なことが多すぎる。
まず、チュートリアルも、ガチャもない。それはまだいいが、まずこのゲームのエンドが見えない。何をすればゲームエンドなのか……
「──おやおや、まだこんな所に」
その時突然、聞きなれない声が聞こえた。
声のした方向を見るとそこには……バケモノがいた。
うさぎの顔をした……男だ。人間には見えない。
「な……にもの………だ、お前!」
「おや、どうしたのですかな?そんな怖い顔をして」
「てめぇは……これに関係あんのか……?」
俺は……震えていた。武者震いではなく、恐怖による震えだと、気づいていた。
「もちろん……ありますよ」
うさぎは、ニヤリと笑った。
その笑いは……怖かった。
「私はそれの説明に参ったのですよ」
「なんだと……?」
「このゲームの名前は『Crowd』と言います」
「くらうど……Crowd ってことは……群衆って意味か」
「えぇ。このゲームは……群衆……つまり、上の人たちが死ぬゲームです」
「……は?」
何をわけのわからんことを言っとるのだ?
「……つまり、プレイヤー、つまりあなたか他の誰かが死ぬと、その人の領地は上昇し、大気圏を超えます」
「……それで、群衆が死ぬゲーム……たくさんの人たちが死ぬゲームか……」
「はい。そして、上の皆様の命運を握るはあなた方プレイヤーです。」
「プレイヤー……ねぇ……」
「あなた方にはまず、『プレイヤーネーム』を決めていただきます」
「……なるほど……んじゃあ………」
それなら使う名前は一つだ。要はゲームで使う名前だろう?
「『Hardes』でどうだ?」
「ほうほう?読み方はハーデスですか……死神……?」
「んー、まぁな。冥府の王、ハデスから来てる」
「いい名前でございますね。それでは、七瀬様はどうしますか?」
七瀬は話を理解してないみたいだった。
「えっ、あっ……名前決めなきゃなんですよね」
だから、最初に戸惑いを見せた。聞けよ人の話。
「ええ。本名はダメですよ」
「あと、ローマ字表示になる仕様みたいだ。だから日本名もあまり良くない」
「えぇ~………じゃあ、古川が決めてよ」
「俺はHardesだ。んー、じゃあ、『Merlin』はどうだ?」
というか何故俺に振った。自分で考えろよ。
「マーリンですか。大魔法師の名前ですね」
「あぁ」
七瀬は魔法使いだ。なら、伝説の魔法使いの名前がぴったりだろう。
「それでは次のステップへ進みます。あなた方は、ある目的を達成して、ここを出られます」
「目的?」
「はい。この世界にいる、『魔神』と呼ばれるものを倒してもらいます」
「へぇ?そこは普通なんだな」
「まぁ、良くある設定でございますね」
「……ってことは、普通のRPGみたいに……」
「では次の場所へ、頑張って下さい」
「いやいや、ちょい待て!まず何をすればいいのか……!」
「次の層へ行ってください。そこのボスとして、『コボルトロード』がおります。そいつを倒してください」
「ほ、ほう?」
「そのコボルトロードを倒した後、先に進む道がありますのでそこを突き進んでください。そしたら分かります。迷った時は突破口を頑張って作ってください。」
「お、おーけー、わかった。多分わかった。と思いたい」
つまり進めってことだろ?
「んじゃあ行くか、奈緒」
「え、あ、うん!」
んじゃ単純な話だ。

「つったって……そう簡単にはいけねぇよなぁ……」
かれこれ1時間。ずっと一層を回っていたが、全く出口が見える気配がない。
「どんなところにあるってんだよ………」
「んー、分かんないよー……」
「まるっきりダンジョンだな……」
「迷っちゃいそうだよー……」
と言うより……、
「もう迷ってんじゃねぇか!」
今どこら辺かもわからないのだ。
そりゃ、マップとかもないから仕方ないのだろうが。
「どうしようかねー」
流石にふたりは途方に暮れていた。
「魔法でも分かんないし……どうする?えっと、ハーデス」
「ただ闇雲に動いても状況はさらに悪化するだけだし……方法を考えるか……」
松明でもあれば、ゲームみたいに右手の法則が使えるのだが……。
「なんのアイテムも無いに等しい……か……」
「うーん……魔法で埋めてしまうとか?」
なるほど、その発想はなかった。
「そうか……塞いでしまえば何度も同じところを行くことが無くなるし……そうするしかないか……」
「うん。やってみる?」
「そうだな、ものは試しだ、それでいく…か…」
ぐぎゅるるるる、とお腹が音を立てた。
仕方が無い、なぜなら食料がないからである。
「敵にうさぎとかいたけど食べれるかどうか分からんしなぁ……」
毒味をしようにも俺らは毒性などは分からない。
だから食べるわけにもいかない。
「じゃあ、早くコボルトロードを倒そう。そしたらきっとご飯があるよ」
「そうすっか……んじゃ、走るぞ!」
と言って俺は駆け出した。
─身体能力が上がっているのも忘れて。
「ま、待ってよー!置いてかないで!私走るの遅いんだから!」
七瀬は足が遅い。魔法使いだからそこら辺の身体能力は上がってないのだろう。
「あ、ごめん!わっけてた!」
俺は素直に謝った。 
「……これだと効率悪いよね?どうしよっか……」
七瀬は悔やんでいるようだ。気にする必要ないのに。
「んー、浮遊魔法……とか?」
まぁまず使えるのかすら知らないが。
「そ、それだっ!」
「え?使えるのか?」
「うん!多分!使えるよ!」
「そ、そうか……じゃあ、それが早いならそうしようか」
その方が早くコボルトロードまで行ける。
「わかった!んー……!」
突然七瀬が唸り出し、ふわりと浮かび始めた。本当に使えるんだ……。まぁ、俺も人のことを言えないが。
「よし、行こう。そのまま前に進もうって意識すれば進めるはずだ」
「うん!…………あれ?」
七瀬が首を傾げていたが、俺はそれを無視して進み続ける。
こっち……かな?あれ?こっち?訳が分からなくなってきた。
と、思ったら、道の先に光が見えた。
「お……?もしかして……」
「ついにきた?」
やっとこの地獄のようなものから解放されるのか。
俺達はその光に向かって進んだ。
すると目の前に見えるのは……怪物だった。
大鉈……いや、野太刀だろうか。アニメで見たことがある。
野太刀を持った、豚のような顔をしたでかい怪物で……その下にたくさんの魔物がいた。
「……これ全部倒さないと進めないのか……?」
お腹がすいている上に、疲労が出てきている今、コバルトロードを相手にするのは少し無理がある。
「……1回……戦うか?ゲームならコンテニュー機能あるかもだし……」
「で、でもだよ?異世界じゃなく、ここは日本だよ?しかも、生身のままで来てる。」
そう。その時までは気づいてなかった。今まで難なく魔物を倒したから。

このゲームでの死は現実の死……いや、このゲームは現実であるということを。気づいてなかった。否、忘れていたのだ。

──何たることだろうか。ここでは死んではいけない。周りの人も死ぬ上に俺らも死ぬ。
これは……大量虐殺ゲーム……つまりデスゲームなのだ。
おそらく参加者は俺らだけじゃないだろう。
ということは、少なくとも…………万は死ぬ。
「じゃあ……俺らはぜってぇに死ねねぇじゃねぇか!」
「うん……こいつに勝たないと……」
しかしお腹がすいて力がでないよ……という状態だ。
この状況で勝つことは……まず無理である。
「どう……する……?」
俺たちに残された選択はそれほど無かった。
「少し休憩して……戦おうよ……」
「でも、空腹は……!腹が減ってたら戦はできねぇよ!」
それは力が出ないだけではない。思考能力も落ち、まともな判断が難しくなるからだ。そうなると、敵に勝つことは……不可能。
「……今の状態の方がまだマシだ……ゴリ押しで……行くしかない!」
下手に休憩をすると空腹感が増し、逆に悪化する可能性がある。それよりは休憩しない方がいいだろう。
だが、七瀬の答えは……Merlinは違った。
「……うさぎ……食べれないかな……」
などとわけのわからないことを言い出した。
ちなみに、俺達はコボルトロードの目の前である。
いつ襲われてもおかしくないのである。
今この状況は食べる側ではなく食べられる側だろう。
「はぁ!?バカかお前は!毒があるかもしれねぇんだぞ!?」
「で、でも!火を入れたら毒気は飛ぶんじゃ……」
しかしそれは一部の毒である。
しかし食べないよりはマシだろうか……。
少なくとも、外見や、肉を切った切れ目からは毒性は感じられなかった。
「……っ仕方ねぇな!……食うぞ。そんで、戦う」
そう言うと、メニュー画面を開き、アイテム欄を開いた。
アイテムから肉を取り出し棒に刺した。
七瀬が火の魔法を使い、木を燃やした。
どうやら木はたきぎのようだ。沢山手に入れておいてよかった。
「……食べれる……よな?」
数分待ち、香ばしく焼けるのを確認した。
「よし……食うぞ!」
がぶ!俺は勇気を振り絞って肉を食べた。
「んむんむ……んむっ!?」
なっ……まさか……これは……
「だ、大丈夫!?まさか毒気抜けてなかった!?」
まじかよ……
「うんめぇ!塩とかかけなくてもこの美味さかよ!」
そう、ものすごく美味しかったのだ。
「これ、食えるんだな!……あっ、でも毒がないとは限らないか。うーん……」
その時、アイテムの説明欄が開いたままなことに気づいた。
そこにはこう書かれていた。
『ベイクラビットの肉:ベイクラビットから取れる肉。調理用アイテム。食べるとものすごく美味い。』
………えぇ………。
「食べれるんかよ!」
毒がなくてよかった……。
俺らはしばらく肉を食い続けた。
だって腹減ってたんだもん。
七瀬もおそるおそる食べていた。一口食べると顔が綻び、笑顔になった。
「おいしいー!もう!ほんとに!美味しい!」
あまりの美味しさに叫んでいたほどだ。
しかし無理はない。生で食べたら甘そうだが──後で食べたら甘かった──、焼くと鉄分により、程よい塩気が出てくる。調味料要らずの素材とも言える美味しさだ。また、大変柔らかく、それなのに噛みごたえがあった。これほど美味しい肉を俺は食べたことがない。
「試してみてよかったなー!うんめぇーーー!メェメェ!」
思わず羊になるほどだ。いや、実際はならないが、流れで言ってしまった。
それから暫く俺達は肉を食べ続けた。

「っはぁー……腹いっぱい」
「たくさん食べたねー」
「それでもまだ余ってっからな。めっちゃ狩ったし。」
「これなら食料に困らなさそうだね」
「そうだな。よし、腹も膨れたことだし……」
俺達は道の先の光を見て
「コボルトロードを倒しに行きますか!」
勝ちを確信した顔で
「うん!」
立ち上がり、進んだ。

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