元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

028

 あ、どうも。一人勝手にシリアスになった挙げ句、泣きながら落ちていると救出された者です。少し冷静になってみればいくらでもやり方があったことに気付きました。当然のことながら私、物凄く恥ずかしいです。
 目が覚めたらフカフカのベットで寝ていました。こんなに良質なベットで目を覚ますのは久しぶりです。兄のおかげで痛みを感じたのはかれこれ数年前ですが、心地よいという感覚は数年ぶりです。
 まぁ、そんなこと感じても直ぐ兄のことが思い出されて泣き出したんですけどね。いや、監禁生活していたらメンタルブレイクぐらいしますよ。三十分ぐらい泣いてようやく冷静になった次第です。見事なまでの情緒不安定ですね。
 少々落ち着いてきたら、枕の横に紙が落ちてあることに気付きました。どうやら、私みたいなカスを助け、このベットを提供してくれたあの青年の置き手紙のようです。恐らく目をさめたら出ていけというような内容でしょう。仕方ありませんよね。多分このベットを綺麗にするにもお金がかかるでしょうし、これ以上いても迷惑なだけでしょう。とはいえ他にあても無いので、卑しい希望に縋ってその置き手紙を見ます。
 
 『これを君が読んでいるということは目を覚ましたということなのだろう。私はこの家の所持者であり、君を君の意思を無視して保護した者だ。勝手に保護しておいて身勝手だが、君が死ぬのは気に入らない。その理由は私が帰ってからにするので了承してくれ。この段階でまず自分の体を試してほしい。治療はしたが完全に治っているかは不明だ。』
 
 そう書かれていたのに目を通してから自分の体を確認します。
 ……全ての傷が治っていました。火で焼かれた火傷も、打撃で感覚の無くなった腕も、腹いせで斬られた時に出来た切り傷も……全てです。
 ここでまたまた泣きそうになりましたが、ひとまずはこの置き手紙を全て読まねばなりません。喜ぶのもおこがましいでしょう。
 
 『治っていなかったら後に訪れる私の家族が治療してくれるだろう。さて、君を保護したときの様子は酷いものであった。髪は長く痛み、一部が白くなっている。ストレス性のものだ。無数の傷は恐らく虐待を受けたのだろう。更に、言い方は悪いが汚れている。今頃はベットのシーツが汚くなっているだろうが、それは替えのものだから気にしなくていい』
 
 今度は飛び上がるように置き手紙から目を離します。フカフカのベットから飛び降りて、私が眠っていたところを見てみます。
 凄く汚くなっています。私の心をそのまま写したように汚いです。いえ、私の心はもっと汚いですね。汚物とかいう域は越えているでしょう。
 どうしましょうか。私には手持ちが一切ありません。これを洗うためにいくら掛かるのかは分かりませんが、私がどうにかできるものではないでしょう。
 臓器でも売り飛ばせば許してもらえるでしょうか。それで許してもらえるのならそうしましょう。残ったお金は兄に渡してもらえれば……。
 
 『もう一度書いておこう。気 に す る な。君が卑屈な人間なのは状態を見ればなんとなく分かった。金銭的な要求も性的な要求もしない。まったくもって必要無い。……これで私の見解が外れていたら恥ずかしいな。続いて、これから君にどうしてもらうのかを簡潔に伝える。……私の家族にどうにかしてもらえ。私は仕事で此処にいない。以上だ。』
 
 と、綺麗な字で手紙は終わりました。最後はまさかの丸投げでしたが、この人はきっと家族の方を信頼しているのでしょう。文からなんとなく伝わります。
 そう感じると同時に私は兄を一人残そうとしていたことを思い出しました。やはり最低な人間ですね。兄妹としてあり得ません。
 自己嫌悪に陥りましたが、今度こそ落ち着きました。多分。
 ひとまず、私がすることはこの人の家族を探すことでしょう。今が何時か分かりませんが、日が出ているという事は少なくとも朝である証拠です。
 わざわざ部屋に入ってくるのを待つのも失礼ですから、早く動きましょう。
 
 「……好きに動かせる」
 
 右腕より動かしにくいですが、左腕が確かに動きました。ドアノブを握り回して引くことが出来ました。それだけでも大変でしたが疲れ以上に感動を覚えます。
 体を自由に動かせるというのは素晴らしいことですね。最近は他の部位も動かなくなり始めていましたから、快調というのが逆に恐怖を覚えます。
 ドアを開け廊下に出ると、凄く綺麗な床が目に入りました。ピカピカです。もしかして豪邸の主人に保護されたのかと思い急に怖くなります。あの家にいたときと比べればマシな扱いを受けるとは思いますが、粗相をすれば殺されるのでは無いかと思ってしまいます。
 殺すのならば兄に痛みが無いように即死させてもらいたいです。
 即死といえば私、屋上から飛び降りて死のうとしていましたね。心に少し余裕が出来て考えてみれば、頭痛があるのかもしれません。その痛みで兄まで死ぬ可能性を考えていませんでしたね。本当に考え無しの屑で申し訳ないです。
 
 「……ぇ?」
 
 置き手紙の人の家族を探して廊下を歩いていると、様々なものを見かけました。よく分からない部屋や置物、刀に銃器、非常に怖いです。
 そしてある時、花瓶を見ながら歩いていると足がふらつきました。
 体の中の血が足りてないのでしょう。意識も落ちそうになり、倒れました。その先にはきれいな花瓶と枯れかけた花……あ、これ終わりましたね。私に骨董品の価値は分かりませんが、目の前の花瓶が凄そうなのはなんとなく分かりました。
 昔、それで死ぬ子供の話を見たことがあります。
 私も同じように死ぬでしょう。少なくとも、頭をぶつけて出血です。兄にだけではなく、この家の人にも迷惑をかけて終わりですか。
 ……まぁ、私の人生そんな価値も無いでしょうね。
 
 「--まったく、鉄分が足りてない体でそういうことするから倒れるんだよ。大人しく待っていれば良かったのに。」
 
 花瓶と私の頭が砕け散るその一瞬前、私は抱えられました。
 後ろを振り返ると灰色の髪をした私より大きな美少年が……置き手紙の人の家族さんですね。置き手紙の人の顔は分かりませんが家族の人が優しそうなので怖い顔では無いでしょう。
 私はそんな場違いなことを考えていました。美少年だからと少し喜ぶような心は今はありませんし、まずは礼を言うべきなのに、口が動きません。
 人と話すのが久しぶりすぎて、口が動かないようです。
 
 「んー? 何か言いたいことでもある?」
 「……ぁ……ぅ」
 「……あぁ、なるほど。辛い目に遭ったみたいだね。うん、とりあえずご飯にしようか。ちょっと運ぶけど勘弁してね。」
 
 そういうと少年は私を抱え、頭を撫でながら進みます。
 なんでしょう。この少年からは母性を感じます。なんだか分かりませんが、もういないお母さんを思い出させるのです。そう思うと無性に寂しくなってきました。顔は覚えていなくても母の温もりは体が覚えているようです。
 まだ御礼も出来ていないのに……。
 
 「少し此処で座っていてね。苦しいだろうけど栄養は採らなきゃならないから食事をとってもらうよ。なるべく軽いものにするからさ。」
 「……ぃ」
 
 少年は私をいすに座らせるとどこかに歩いていきました。
 少しすると匂ってきたのはあたたかい何かの匂い。少年はそれを持ってくると、私の前で蓋を開けました。とてもいい香りがします。
 丼の中身は粥でした。温かい食べ物を見るのは久しぶりです。食べたいとは思いますが、熱すぎるので多分まだ食べられません。
 なんでしょうか。これだけで泣きそうになってきました。
 
 「食べないの? ……あ、ごめん。熱かったね。少し冷ましてから食べようか。」
 
 少年はスプーンでお粥を掬うと、おもむろに息を吹きかけます。私が見ていると歯磨きは丁寧にしていると慌てて言ってきたが、私が言いたいのはそうではありません。
 だって、少し冷ましたお粥を私の口に近づけてこういうのです。
 
 「はい、あ~ん。まだちょっと熱いから気をつけてね」
 「……ぁむ」
 
 この少年はこれを素でやっているのでしょうか。今の客観的に考えられる私ではなく、まともな考え方をする少女達ならコロリと好きになるでしょう。
 いえ、落ちるとまではいかなくても、勘違いはしますね。
 ……と、愚考をしてみましたが実はこれ、泣きそうなのを我慢しているからだったりします。余計なことでも考えていないと泣きそうになるんですよね。
 温かい食事なんて本当に久しぶりなのです。近くには安心してしまう母性の塊のような少年、穏やかな表情で私にお粥を食べさせます。
 これで心が揺らがない人はなかなかいない筈です。たぶん、まともな状態だった私でも安心で泣くでしょうね。でも、それではいけません。助けてもらったからしっかり食事をとり、話せる状態にならねばなりません。
 こんなところで泣いていては、またまた迷惑をかけてしまいます。
 
 「大丈夫、大丈夫だよ。ゆっくりでいいからね。ここは君に攻撃する人はいないし、来たとしても僕らが全力で潰す。まずは心を落ち着かせて、うん。安心していいんだよ。」
 「……ぁむ……ぁむ」
 
 私がお粥を食べていると背中をさすりながらそう言ってくれました。
 まずいです。もう涙腺が崩壊寸前です。もうウルウルしてます。これはあれですね。もう一声何かあったら完全に泣きわめきますね。
 その前に準備しておきましょう。泣いても叫びません。
 
 「此処では……我慢しなくていいんだよ。ちょっと家主は怒ってるけど、君を心配している。他の人たちも優しいから何時でも胸を貸してくれるよ。話だっていくらでも聞いてくれるさ。……勿論僕も、ね。」
 「……ぅぅぅぅ……!」
 
 あ、ダメです。涙腺なんてものは吹き飛びました。嘘でもこんなとこ言われたら泣くに決まってます。もう洪水じゃないですか。
 少年は、泣き続ける私にずっと寄り添ってくれました。
 まともな状態になった暁にはこの少年に恋をするでしょうね。もしくは、年上なのにぴったりとくっつこうとするでしょうね。
 ……なんで、私がこんな良い出会いをしてしまったのでしょうか。
 
 
 
 
 
 
 
 

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