元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

027

 翌日、僕は仕事の為に早起きをしていた。
 現在は朝の3時、とてもではないが起きている時間ではない。僕は吸血鬼という種族上、睡眠を必要としていないが、ただの人間にはハードな時間だろう。ちなみに、僕が寝ているのは深夜帯にすることが無くて暇だからだ。危険が迫れば勝手に目は覚めるが、常に警戒をしておくような世の中でも無いのである。
 平和とは素晴らしい。さっさと日本人的な生活に戻りたい。
 今日の仕事は海外に集まっている魔術組織のところに赴き、その計画について情報を奪ってくることと、補足的な情報を調べてくる、ということだ。
 アサシンとは個人での活動が基本となる。死ぬときには人知れず死ぬことを義務付けられており、仲間がいると情が沸く可能性もあるからだ。その点、僕は傭兵の用な扱いなので誰かと組むことは咎められず、嫌な依頼だった場合は当然のように断れるのだ。
 --何が言いたいのかというと、僕は二人で行動するということである。
 本当ならば僕もソロで行動したいのだが……契約相手だから仕方が無い。かなりの変態だが、人間性と実力は確かなので特に困ることは無い。いや、変態という時点で人間性は疑わなければならないのかもしれない。僕はどうやら、変態の毛がある人に好かれるようだ。
 
 「これ着るのも二週間ぶりかぁ……なんだか懐かしいなぁ。」
 
 クローゼットから灰色のローブと仮面を取り出し、眼鏡を外してから着用する。その付近では自殺志願者少女がスヤスヤと眠っており、未だに目を覚ましていない。点滴を打つべきか考えたが、傷は治っているので放置ということになった。
 この服装が、僕の活動するときのスタイルだ。普段から行っているが、指紋を残さないように礼服用手袋をしてある。なかなか歪な服装だが、作業がしやすいので構わない。格好良さなんてものはドブに丁寧に鎮めてある。南無三。
 さて、依頼というだけあってこれはアサシン……つまりはフィリップからのものである。前々から予定されていたものであり、魔物の活性化の話とは別口だ。特に関係性があるとは思えない。あってもどうでもいいことだろう。
 
 「……どうしよ。置き手紙ぐらいはしとくべきかな?」
 
 普段ならば何も書かずに行くのだが……生憎今日はイレギュラーがいる。僕がいないとなると仕事と分かってくれるだろうが、少しの混乱はあるだろう。
 ということで、置き手紙をベットの横に一枚、リビングの机の上に一枚おいておくことにした。こうすれば分かってくれるよね? 混乱を防ぐために一個一個丁寧に書いておけば問題ないだろう。家族のほうには手短でいいか。
 ……準備は整った、それでは契約者……相棒の下へ向かうとしよう。
 彼女はとある場所に常駐している。
 --《影歩》
 僕が影を用いて移動した先は関係上の家族が沢山いる場所。
 何故血のつながりが無いのに家族なのかというと、それは糞親父のせいである。奴が節操なく手を出したせいで面倒なことになっているのだ。まぁ、見た目の若いおじやおばが出来るぐらいであまり被害は無いが、進んで来たくはない場所である。
 
 「……クロノ、開けてくれ」
 「はいはーい、ちょっと待っておくれー」
 
 ドアをノックして中にいる変態を呼び出す。呑気なものだ。これから魔術組織の会議を見に行くというのにあんなのでいいのだろうか。
 と、自分に特大のブーメランを刺してみる。
 ほどなくして扉は開き、その家の所有者は顔を出した。
 彼女の名はクロノス、時と空間を主に司る最高神の一柱である。祖父さんの孫だからと勝負を仕掛けられ、Mに目覚めた変態だ。見た目は悪くないのに性癖が全てを駄目にしている。だから好きではない。友としては大いに結構だが。
 愛称はクロノ、本名を知られても構わないから雑である。
 
 「相変わらず不気味だね。中身の雰囲気とは合わなすぎる」
 「遅い。余計なこと言わずに早く動けノロマ」
 「もっと罵ってくれていいんだよ? 最近欲求不満で大変なんだ。契約者として契約相手の欲望を解消することは大事だと--」
 「早く動けと言ってるんだよ余計な事言うなら朽ち果てろ。」
 「うーん。直接的な暴力が無いとなぁ……まぁいいよ。少しは興奮出来た」
 
 ここまで気持ちの悪い生物はあまり見かけない。僕が軽くどん引きすることをツラツラと述べるのだ。不気味に思わない者はいないだろう。
 少し上気した頬が真性の変態だということを示している。
 ギリシャ系の神々は変態が非常に多い。外面では神々しさを以て隠しているように見えるが、解放されたらかなりの変態集団的である。内に秘めた変態なのだ。クロノスも最初は変態でないただの神だったのに、変なスイッチが入ってしまったことが悲しい。
 あぁ、本当に悲しい頭である。
  
 「その蔑んだような視線、とってもいいね。最高だ」
 「……僕は今悲しい気分だよ……!」
 
 中に入ると性欲を満たすための道具が……等ということは流石に無く、生活感のある普通の部屋が広がっている。空気を満たすのはフローラルの香りであり、とても変態の部屋とは思えない。……これが内なる変態の隠蔽能力である。実に変態だ。
 こいつは丁寧に接そうが雑に接そうが喧しいことに変わりは無いので雑に扱う。部屋も自分の家のようにズケズケ入り、さも当然のようにソファーに座った。
 
 「お茶は飲むかい? いいのを貰ったんだ。」
 「あ? 直ぐに準備しておけよ役立たず」
 「ごめん……えへへ」
 
 なんでも奴隷のように扱われて悦ぶタイプの変態らしい。そんな変態の種類など知ったことではないが、これも僕の役目だ。まったく、もう少しまともな契約内容にならなかったのだろうか。ただ、割と僕もノっているのは否定しない。嫌々やっていても回数を重ねていけば慣れると言うものだ。
 --あれ? さり気なく調教されている……?
 い、いや、そんなことは無い筈だ。仮に僕がSだったとしても、それは元からでありクロノスに影響されてではない。
 
 「さて変態、今日の依頼内容、その復習をしておこうか。」
 「おや、何時になく真面目な様子だね。何かあったのかい?」
 「余計なことは喋るなカスが。」
 「罵倒内容が普通過ぎる。もう一回」
 「裸で縛り上げて放置でもしとこうか? その汚らわしい肉なら雄豚の餌にぐらいはなるだろう。精々肥えておけ」
 「それで用が無くなったら捨てられるんだね!? ……いいね、想像するだけでゾクゾクしてきた。ウヘヘ、荒縄プレイ……」
 
 ハァハァと息を荒げて僕を見てくるこいつは手遅れなのではなかろうか。何故放置するといったのに荒縄プレイに繋がるのか甚だ疑問である。
 こやつの思考回路はいつからこんなにイかれているのか……。
 
 「今回の仕事は中国に集まったアジア魔術協会の密会、その内容の調査。主催者は長である中国人のトウ・ミンシュェン、幹部の柏木、長峰、韓国人のピョン・グァンインの四名だ。総勢25名の予定で、その殆どが魔術士の家の現当主との話だから、かなり重大な話だろう。情報もとはアサシン、何時も通りだ。」
 「ふぅん。現在までの活動と歴史はどうなっているんだい?」
 「最低でも八百年は続く名家ばかりだ。ホムンクルス生成、幻獣との戦闘などなど、他の魔術士の家がやっていることはほぼ全てやっている。その特徴は武器、ユーラシア大陸諸国とは違い武器そのままを魔術に組み込むらしい。魔法と魔術の違いは分からないので明言は避けるが、一般的な魔法とは少し違うことは間違いない。こんなところかね。」
 「……で?」
 「……拷問方法は継続的且つじわじわした痛みが多い。うすめた塩酸に両手足を突っ込ませたり、ノコギリで臑を削ったり……長く苦しませることを重点的においてる。性的な拷問は相手の顔と体つきで決まる。一人ホモがいるけどそこはスルーで。」
 「ふむ、言葉責めは無いのかい。……駄目だね。長くってのは興奮するけど決定的なものが足りない。心を抉るものが無いと気持ちよくなりきれない。残念だよ……本当に」
 「真面目に話そうとしているのになんでそっちに持って行くかなぁ?」
 「私の性癖が原因としか言えないね。淫乱神と蔑んでください。」
 「エロースさんがいるから淫乱神の枠は潰れているよ。」
 
 間違えた。エロースさんはエロ関連の神ではなく愛の神である。とんだ誹謗中傷をするところだった。下手をすれば目をつけられてしまう。
 もう手遅れだって? バレなきゃいいんだよ。
 まぁ、仮にエロースさんが淫乱神だったとしても淫乱神の枠がなくなる訳ではない。社長クラスになると人数制だが、課長クラスなら割と何人でもいいのだ。
 僕は……専門会社から来た派遣のような立場だと思ってもらえればいい。
 
 「これ以上時間を無駄に使っても怒られるから手順を確認するよ。まず、これから僕の《影歩》を用いて中国にある地下会議室の付近のホテルに移動する。昨日から手配してくれているので部屋に移動しても問題ないね。」
 「そこでいやらしいことをしながら見る--そうだね?」
 「チェンジで。それから僕は音と文字で記録を取り、淫乱クソ神は時を止めてコピーの作成。使用後のクソの体力は考慮しないものとする。資料を手に入れた後は監視を付け、それをフィリップに送りつける。」
 「当然のようにクソ扱いされてて私は嬉しいよ。でも興奮されないのは悲しいね。気分でなぶられることに悦びがあるというのに……」
 「僕は嫁さんに媚薬盛られてようやく理性が無くなるぐらいの性欲だ。顔面以外僕の好みと全く合ってないクソに興奮するわけないだろ。……最後に、情報が正しいか再確認するために一人洗脳と脳の開示して終わり。理解したか?」
 「び、媚薬なんて……なんて恥ずかしい言葉を……!」
 「--いや、それはちょっときついんじゃないかな?」
 
 さっきまで淫乱だの悦びだのなぶられるだの言っていた奴が責めても無駄だろう。否定されて逆に責められるのがオチである。
 ……あ、なるほど、それを狙っているのか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「元勇者の吸血鬼、教師となる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く