元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

022

 「おとーさーん? もう直ぐ出発するよー!?」
 「はいはい、聞こえてるよ。ルディ達は準備整ったのかな?」
 「ちょっと待って、忘れ物無いかの確認大事だよ」
 「私まで行く意味あるのでしょうか? 食事さえおいておいてくれたら留守番しておくのですが……やれやれ、仕方ありませんね。準備は大丈夫ですよ」
 「少しぐらい落ち着いたらどうなんだい君たち……あ、準備オーケー」
 
 朝食中に話したのだが、買い物には結局全員で行くことになった。エマがどうせなら皆で行こうと言ったのだが、割と皆乗り気である。妹さんも主人公のようなことを言っているが、直ぐに準備出来ている当たり買い物は好きなのかもしれない。
 いや違う、あの顔は獲物を楽しみにする狩人のものだ。恐らく、買い物に行くのなら外食は当たり前とでも考えているのだろう。
 ぶっちゃけ一瞬で帰れるのだが……言わないが吉だろう。
 
 「準備出来たかな。よし、そんじゃあ集まって」
 
 エマが買い物に僕を誘う理由、それは移動手段の為に他ならない。中学生ごろの女の子は親とふれあいたいなんてあまり考えないだろうし、移動手段には僕が便利だからだ。
 不良君に言われた構ってあげたらどうこうは忘れている。そういや、不良君といえばなんでこの学園入ったのだろう。どうでもいいけど。
 さて、ご存知の通り僕の家には車がおいていない。バイクなら一台、自転車なら五台あるが、遠距離に団体様でというのは難しいのだ。街まで行くのは少々遠い。それに、教師となった今迂闊に生徒と顔を合わせないようにしなければならない。
 ということで、重宝するのが家の家系に伝わる藤原流の基本技能である。ベースが吸血鬼であれば一番力を発揮する力だ。つまり、僕に向く技である。精神的に少しだけ負荷があるが、魔力とは関係無い技なので使いやすい。
  
 「行き先はどこだったっけ?」
 「トーキョーだよトーキョー! シィブゥヤ!」
 「お、おう。なかなか個性的な名前の土地だね。」
 「嘘嘘、東京の渋谷、お願いします。」
 「あーい。必要無いけど何となく喋ろうと思います。--《影歩》」
 
 藤原流基本技能其の漆《影歩》、ありとあらゆる影と影の間を移動する術だ。祖父さん曰く、忍者とかに使えそうだから開発した技とのことだが、そんな気軽に使える技ではないと思う。ちなみに藤原流基本技能は其の壱から其の拾までの計十つだ。
 大字を使って表している理由は糞親父の趣味らしい。祖父さんも特に書いたりすることは無いから認めているとのことだ。
 けっ、さっさと糞親父死ねばいいのに
 
 「……ッ!? ……ゼクスか、家族連れとはどういう了見だ?」
 「あ、悪いけど場所使わせてもらったよ。すまんねフィリップ、買い物さ」
 「う~む……理解したが、先に連絡ぐらいはするべきではないか?」
 「さてエマ、お礼だけ言ってさっさと出ようか。」
 「……おい、質問をスルーするな。ドヤ顔で、腹立つであろう。」
 
 僕の目の前でイライラしているのは一回目の時から付いて来た元暗殺者兼情報屋のフィリップだ。今は渋谷のビルを使って万屋のようなことをしているらしい。尚、表向きは古びた食事どころのようで、なんとも古臭い場所である。実際に食事を出しているようだ。
 それでいて金はあるのだから酷い話だ。事情を知らないものは金持ちの道楽にしか見えないだろう。どうでもいいことだが、現在のアサシン当主がこの男である。
 
 「いやぁすまんね。空間魔法は魔力を三パーセントぐらい消費するからあまり使いたくないのさ。うん、魔力の節約は大事だよね。」
 「一応、私の話しているのは連絡という礼儀的な意味なのだが? 決して、どういう事情で此処へ飛んできたのか聞きたいのではなく、礼儀について聞いているのだが? そこのところどう思う?」
 「《影歩》は言葉通り歩いているんだよ。飛んではないよ。」
 「お前ぶっ殺されたいのか?」
 「やだなぁ、死ねるもんなら嫁さんと一緒に死んでるよ~」
 「……なんかすまん。」
 「ちょ、今のは笑うところだよ? 別にヘビーな話でもなんでもないんだからさ。」
 
 そういや、脳内自虐ネタを昔からしていたが実際にするのはそんなに多くなかった。マイファミリーもバツが悪そうな顔をしている。
 いやはや、悪いのは僕なのに……すみませんでした。
 言い訳をさせてもらうが、流石に妻が死んだから自分も死ぬなんて考え……直後は考えたが、今ではそんかことは考えていない。そうでなければ友人達とも出会えなかったのだ。
 
 「……じゃ、また後でね。エマ、お礼」
 「ありがとうフィリップさんっ、助かりましたっ」
 「うむ、そこの男には事前連絡をするようにきつく言っておいてくれ。……それとゼクス、ちょうどいい。話がある。帰り際に時間をもらってよいか?」
 「……了解。ちょいと深刻なことっぽいね。」
 
 フィリップが神妙な顔で話があると言ってきたからには大事な話なのだろう。どうにかなりそうなことでも聞いたおいたほうが良い。
 さてさて、どんな面倒なことが起こっているのだろうね。
 
 ◇
 
 「ねぇ先生、フィリップ君の話ってどれぐらい?」
 「どういう意味?」
 「あー、重要度?」
 「予想としたらかなり大事なことだね。最近何かあったとはニュースとかじゃあ無いけど、表向きには言えないようなことかもね。まぁ、そういうことは割とあるからそこまで気張らなくてもいいよ、うん。話があるのは僕に対して、あってもエレボスまでかな」
 「僕も……なるほど、そっち関連だね。」
 
 エマとシャルが仲良く歩いているのを見ながら後ろでエレボスと話す。先ほどのフィリップの様子から考えれば、エマ達にはあまり関係の無いことだろう。
 想像出来る範囲であればやはり--
 
 「おとーさん! エレボス! ルディ! 行こう!」
 「はいはい、仰せの通りに」
 
 何はともあれ話を聞いてからだ。今からは家族との買い物を楽しまなければならない。
 そして、何があろうともこの子たちに危害を加えてはならない。
 --エレボスはまぁ、構わんけどね。
 
 「それでエマちゃん。今日は何をお買い求めで?」
 「ん、本当なら刀の手当てとかもしたいんだけど……今日は化学兵器の補充かな。あとなんと言っても食べ歩きっ! せっかく東京に来たんだからっ!」
 「我が娘ながら物騒過ぎるんだよなぁ。」
 「何言ってるのお父さん、ちょっとひどいんじゃない? 化学兵器って言っても火薬の材料とかを買うだけだよ。」
 「……ごめん、物騒じゃない理由が分かんない」
 
 ということでやってきました東京渋谷にある大型ショッピングモール。既にフィリップの話があることも記憶の奥底に封じております。
 目の前にあるのはデデーン! という効果音が書かれていそうな巨大な建築物、連れて行かれたところであり、名前なんて物に興味は無い。建物から見たところ、服や武器、訓練施設なんてものもあるようだ。しかも新設に見える
 非常に危険なショッピングモールだこれ。
 
 「んで、最初はどこに向かう?」
 「やっぱり武器かなぁ。最近新しいモデルの銃が売られているらしいし……ん~、お父さんならどこの武器屋に行く? これパンフレット」
 「どれどれ……?」
 「うわ、なんでこんなに武器屋多いのここ……一階まるまる武器屋って……」
 「あー、此処は政府の人が若者に対しての武器を作るために作られたんだって。ネットで見たことがあるけど、なかなか力は入ってるようだよ。」 
 「へぇ。あの保守的な政府が、ね」
 
 ルディの情報なら九割ほどは信じられる。完全には信じ切らないが、恐らく本当なのだろう。……そうか、政府が動いているのか。今までアサシンや魔術師たちに頼りきりだったらしい政府が……。まぁ、糞ほどどうでもいい。
 にしても、昔の日本から考えれば有り得ない場所である。
 ここで雑談をしておくが、銃刀法などという法律は既に亡き者になっている。というか、日本国憲法自体が変わっているのだ。基本的な平和主義姿勢は変わっていないが、戦力を保持してもよい等、ぶっちゃけ名目上だけである。
 国の軍も再編成をしているらしいが、形になるのはまだまだ掛かるだろう。元自衛隊の者もいるだろうが、自衛隊の半数以上は魔物の討伐のために死んでいるのだ。早々公務員の枠組みに入る組織は作られないだろう。
 仮に作られるのが数年後だとしてもまだ問題はない。
 政府の人も嫌々……本当に嫌々だろうがリベリオンという頼れる組織が確かに存在するのだ。他にもアサシンだったり、魔術士だったりと、日本は個人の戦闘能力が異様に高いので滅びる心配は今のところ無い。
 邪神の王とかが本気で攻めてきたら勇者パーティーの残り3人を無理やり引きずり出し、火力と罠でハメ殺しにすればいいのだが、それまでに日本が無くなっても不思議ではない。
 だが、邪神王の立場は吸血鬼的に奪い取ってぶち壊したからもういない。かつての邪神王も無理やり味方につけてるしね。閑話休題
 
 「政府もそろそろリベリオンとは別に動きたいんでしょう。あの人に借りを作りすぎると何を請求されるのか分かったものではありませんからね」
 「目的としたら軍を作るための人員集めってところかな。まさか、政府が東京だけに作るなんてことはないよね」
 「都道府県のほとんどに作られているようだね。自衛手段を庶民に与えることと優秀な人材の発掘が両立しているんだ。運営するのも金出すのも政府じゃないのだから国民に怒りを買うことも無い。表向きはいいことだらけだね。」
 「そうだねぇ。……店の中ではあまり力を使わないようにね。面白い武器があっても試しすぎないほうがいいよ。下手すりゃスカウトが来る。」
 
 冗談抜きでこのメンバーならスカウトが来てもおかしくない。少なくとも国民五百位には入る実力だし、僕以外は非常に若い。将来性も見込まれるのだ。
 ……なるべく、目を光らせておかねばならないようである。
 
 「あ、これなんて面白そうじゃない? 銃の試し撃ち二千円だって!」
 
 --エマちゃん!?
 訂正、僕とエマはスカウトされることは無いだろう。纏っている雰囲気的なものが従軍向けではない。ノホホンとし過ぎである
 
 
 

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